まるで哲学?漫画家、幸村誠の魅力【プラネテス】【ヴィンランド・サガ】
漫画家、幸村誠。彼の描く人間は、現実のそれよりも人間臭いんです。「プラネテス」や「ヴィンランド・サガ」といった圧倒的画力で描かれる彼の作品。そして登場人物から発せられる名言の数々。そこから滲み出る幸村誠の魅力。彼は天才です。
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大学中退を経て漫画家を目指した幸村誠
幸村誠は幼いころからSF漫画を愛読していました。そして彼が本格的に漫画家を目指すきっかけは高校生のころに出会った立花隆著の「青春漂流」でした。その後彼は多摩美術大学に入り絵の勉強を始めます。そして漫画家守村大のもとでアシスタントを経て「プラネテス」でデビューしました。その間に大学は中退しています。
デビュー作は宇宙のゴミ拾い:「プラネテス」
幸村誠のデビュー作「プラネテス」は、”宇宙のゴミ”と揶揄されるスペースデブリをテーマに扱ったSF作品です。主人公ハチマキは、自分の宇宙船を持つという夢のために、地味だけれども高給取りである宇宙のゴミ拾いを生業にするサラリーマンです。
講談社「モーニング」で1999年から2004年まで不定期連載。2003年にはNHK BS2でアニメ化され、2002年度星雲賞コミック部門受賞、2005年度にはアニメ作品が星雲賞メディア部門を受賞しました。全4巻完結済みです。
スペースデブリは、不要になった人工衛星や、ロケットの切り離しによって生まれた破片を指します。ほんの数センチのものでも、宇宙空間では秒速数キロメートルで移動しているため、衝突速度によっては宇宙船に致命的な損傷を与えることもある非常に危険な物です。
本作の舞台となる近未来では、まさにこの問題が表面化しており、こうした問題と向き合いながら宇宙を開発していく人々が描かれています。
近未来、世界はほんの少しだけ広くなっています。
iTunes Store で 幸村誠「プラネテス(01)」の無料サンプルを入手、もしくはブックを購入できます。このブックは iPhone、iPad、または iPod touch 上で iBooks を使って読むことができます。
暴力的なヴァイキングの世界:「ヴィンランド・サガ」
連載2作目「ヴィンランド・サガ」は、11世紀初頭の北ヨーロッパ及びその周辺を舞台に繰り広げられる、当時世界を席巻していたヴァイキングたちの生き様を描いた歴史漫画です。主人公はアイスランド出身の少年トルフィン。父の仇であるアシェラッドの傭兵団で、アシェラッドを倒すことのみ考え日々を生き抜いていきます。
こちらは講談社「アフタヌーン」で現在も連載中です。2008年の時点で累計120万部を突破し、2009年に平成21年度(第13回)文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞、その後2012年に平成24年度講談社漫画賞「一般部門」を受賞しています。
時は11世紀、暴力と死がとても身近にある世界。
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新撰組沖田総司の晩年を描いた短編:「さようならが近いので」
「誠の道が見つからない」
新撰組、1番隊組長である沖田総司の晩年が描かれた「さようならが近いので」の沖田のセリフ。誠のために多くの人を斬った彼は最後に気づくのです。病気を患った沖田の心情がとても丁寧に描かれた短編です。あまり世に知られてはいませんが、まぎれもない名作です。
出典:natalie.mu
死期が近づく沖田総士の描写は、私たちが普段想像するそれとは全く異なります。
抉り出される人間の内面
幸村誠の特徴は、登場人物の心情を言葉、表情などを通して非常に繊細に描写することにあります。そして彼らに、哲学的な問いを解かせようとします。彼の描く人間が、とても人間臭い理由はここにあります。
「プラネテス」において、人類は宇宙へと活動の場を広げていますが、その本質的な感情は今と何も変わっていません。今の私たちと同じように悩み、そして生きること、愛することの意味を見出していく主人公の姿がとても魅力的です。
「ヴィンランド・サガ」では、愛することと殺戮という相反する行動を内包する人間の矛盾を捉え、2人の登場人物がそれぞれ愛とは何かについて、異なる道を模索する姿が興味深いです。この作品ではキリスト教の要素が至る所に盛り込まれているため、ここでの愛とはキリスト教的な愛、慈悲、救済のようなものが意味としては近いように思えます。
ちなみに同じく舞台が宇宙の漫画、「宇宙兄弟」の作者、小山宙哉は「モーニングには『プラネテス』という傑作があって、それに対抗できないから、描きたくない」と当初「宇宙兄弟」の執筆に反対したそうです。それだけ多くの漫画家に影響を与えた作品といえます。
どんなに世界が自分に無慈悲だとしても、人は生きることを、愛することを止めません。
もしも、アメリカのドラマのプロデューサーが、僕の元にやってきて、 「1回だけチャンスをあげる。日本のマンガをアメリカで実写ドラマ化するとしたら、何を選ぶ?」と言われたら、僕は何を挙げるだろう?
圧倒的な画力で描かれる名シーンの数々
こうした魅力的な登場人物は、幸村誠の圧倒的な画力を通して究極の人へと昇華されます。喜怒哀楽だけでは表せられない表情、その心理を表す背景描写。まるで1つの舞台を見ているような感覚に陥ります。また「ヴィンランド・サガ」ではヴァイキングが出てくるということもあり、当時の時代を語る上で暴力的表現は欠かせません。数々の戦闘シーンは、そのあまりの迫力に誰もが思わず息を飲んでしまうでしょう。
力の無力さを知った者にはより多くの暴力が襲ってきます。
人生の参考書
答えのない問いに向き合うことは、生きることそのものです。幸村誠の作品には、生き方のエッセンスが詰まっています。何度も何度も彼の作品を読み直して、自分なりの生き方を探してみませんか。
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この記事のライター
新しい物好きなうざかわ系アラサー男子。男子校で男に囲まれてきた反動から、大学以降は女性にモテることのみを考えてます。でも基本シャイなんでうまくアプローチできません。外資系メーカー→MBA→国内インフラ企業と経験。英語も話せる真面目な人間。