独特の世界観に浸ろう。必ず読んでほしい今話題の漫画家3選
日常のちょっとその先を行く異世界で静かに語られるどこか寂しい物語。読者の心を惹きつけてやまない独特の世界観。そんな名作を描く漫画家「市川春子」、「宮崎夏次系」、「町田洋」の3人を紹介します。すぐに置いてかれてしまうので、大切に1ページ1ページをめくってください。今後の日本を担う、そんなおすすめの漫画家たちです。
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アイキャッチ画像出典:www.flickr.com
市川春子(虫と歌/25時のバカンス/宝石の国)
淡白で柔らかな絵柄で描かれる彼女の物語は、淡々と進んでいきます。ただその世界は現実とは似ても似つかない場所にあるのです。とても静かで、とても残酷です。その魅力に誰もが虜になることでしょう。
2006年「虫と歌」にてアフタヌーン四季賞2006年夏の四季大賞を受賞しデビュー。翌年から『月刊アフタヌーン』(講談社)において読み切り作品が数度に渡り掲載される。2009年11月20日にそれらの読み切り作品を収めた短編集である初の単行本『虫と歌』が刊行、同書で第14回手塚治虫文化賞新生賞受賞。
虫と歌
市川春子のデビュー短編集。表題でもある虫、それは人ならざるものの例えです。彼らの命がとても軽んじられている世界で、彼らと人との別れが残酷かつとても美しく描かれています。是非1ページ目から読んでください。私たちがいる日常を舞台に物語は進み、まるで魔法のようにある時突然、日常は終わるのです。気づけば現実と空想のほんのちょっとした隙間に置き去りにされています。
とても残酷な物語が続きますが、読み終わったあとに残るのは悲しさではなく、なんとも言えない満足感。とにかく読んでもらいたい。傑作です。
自分の指から生まれた妹への感情を綴る『星の恋人』。肩を壊した高校球児と成長を 続ける”ヒナ”との交流が胸を打つ『日下兄妹』。飛行機事故で遭難した二人の交流を描く『ヴァイオライト』。そして、衝撃の四季大賞受賞作『虫と歌』の計4編を収録。
いびつでもどこか優しい兄弟愛が描かれた「日下兄妹」
25時のバカンス
前作に続きこちらも短編集。前作と異なり、表題作品「25時のバカンス」が中編規模の量を占めています。初めは、短編だからこそ市川春子の良さがあり、尺が長くなることによって少し冗長になるのでは、と案じました。しかし、その予想は見事に裏切られます。時間があるからこそ人物描写が丁寧に描かれており、出てくるキャラがとても愛おしいのです。そして彼女の魅力であるリニアで連れてかれるような自然な世界の移り変わりは今作でも健在です。気づいたら到着しているその異世界は現実のその先=25時なのでしょう。
深海生物圏研究室に勤務する西 乙女は、休暇を取って久しぶりに弟の甲太郎と再会する。深夜25時の海辺にて乙女が甲太郎に見せたの は、貝に侵食された自分の姿だった。(『25時のバカンス』)土星の衛星に立地する「パンドラ女学院」の不良学生・ナナと奇妙な新入生との交流 を描く。(『パンドラにて』)天才高校生が雪深い北の果てで、ひとりの男と共同生活を始める。(『月の葬式』)。
「25時のバカンス」にもみられる家族愛
宝石の国
市川春子初の連載作です。現在アフタヌーンにて月刊連載中。宝石の体を持つ生物たちが、彼らの体を狙う月人(つきじん)に立ち向かうという物語。宝石ということもあり、とても綺麗。また主人公であり、硬度が低い(壊れやすい)フォスフォフィライトが自分たちと彼らを取り囲む世界の始まりを徐々に解き明かしていくところにサスペンス的面白さも感じます。「このマンガがすごい!2014」のオトコ編第10位にランクインしており、現在とても注目されている作品です。
出典:konomanga.jp
性別のない宝石たちは綺麗で脆い
宮崎夏次系(変身のニュース/僕は問題ありません/夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない)
出典:twitter.com
作画、登場人物、舞台設定、構成、どれもが奇抜です。決して万人受けはしません。しかし宮崎夏次系の作品に出てくる何かが足りない男の子と女の子のふれあい。彼らの精一杯の足掻きに心が揺さぶられるのです。
これまでにないマンガ表現を模索する絵柄や描写で、評論家や目利きの書店員から2010年代を牽引する逸材として注目を集める。作者の初単行本『変身のニュース』が文化庁メディア芸術祭マンガ部門「審査委員会推薦作品」に選出されるなど、今、もっとも今後が期待される若手作家の一人である。
出典:www.moae.jp
変身のニュース
宮崎夏次系のデビュー短編集。予想できない物語、突然崩壊する作画。それらが与えてくれるのはまずは驚きと感動です。この感動という感情がどうして生まれるか説明できません。戸惑いや怒りや喜びといった様々な感情が生まれ、複雑に絡み合っているのです。まるで中学校時代の理科の実験のような、純粋な実験のようです。しかしこれらは全て綿密に意図されているのです。なぜならどの物語も読者の胸を締め付けるのですから。
妄想癖が悪化し、兄弟の手に負えなくなってしまった妹。大切に思っているはずなのに、煩わしいと感じてしまう人間の矛盾に迫った『水平線JPG』。ある日、死んだ恋人からとんでもないプレゼントが届く『ダンくんの心配』や、爆弾魔の孤独を描いた『成人ボム 夏の日』等、煌めく九編を収録。
キュートな絵柄に不似合いな毒のあるセリフ
僕は問題ありません
前作よりも、非常にわかりやすくなっています。それゆえに心揺さぶられます。今作で特徴的なのは前後編に別れた作品「肉飯屋であの子と握手」が収録されていること。トラウマを克服したその先にいる彼女はもう自分を見てはいない、その寂しさ、しかしそれがはっきりとわかるからこそ何もできないもどかしさ。個性が尖った登場人物だからこそ、感情が前面に溢れ出ています。
少し不思議で、鮮やかな感性。大人が読んでもグッとくる物語を描く宮崎夏次系の最新作。生きていく淋しさを抱えた、すべての人の心に虹をかける短編八編を収録。
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少しずれた日常にいつの間にか吸い込まれる
夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない
うちに抱える寂しさがテーマの作品です。個性的な宮崎夏次系の登場人物たちはその感情を様々に表現していきます。その突飛な状況に初めは困惑するかもしれません。しかし何度も読み返すことによって彼らの気持ちが痛いほど胸に刺さります。
好きなものは世の中にいっこでいい。大切なものに代えがあるのは、さみしいから。…第一話「明日も触らないね」よりこれまでにないマンガ表現を模索する絵柄や描写で、評論家や目利きの書店員から2010年代を牽引する逸材として注目を集める宮崎夏次系の最新作。
出典:natalie.mu
さりげなく潜む違和感
町田洋(惑星9の休日/夜とコンクリート)
とても静で、複雑な設定は一切ありません。じっくりと作品に向き合わせてくれる真面目な漫画家、それが町田洋です。
惑星9の休日
全体を通して爽やかな夏を感じる作品。登場人物の直球なセリフは読者の心に素直にしみ込みます。また描写が上手い。静的な描写の中に突然くる見開きはとても印象的です。まっすぐな愛や、ノスタルジックな感傷も、惑星9の爽やかな気候のもとでは気持ちの良い風となって体を駆け抜けます。読み終わったあとにとても清々しい気持ちになれる名作です。
辺境の小さな星、“惑星9”に暮らす人々のささやかな日常と少しのドラマ。凍り付いた美少女に思いを馳せる男、幻の映画フィルムにまつわる小さな事件、月が惑星9を離れる日、愚直な天才科学者の恋……。風にのって遠くからやってきた、涼しげな8つの物語。
無言のコマ割りが演出するゆるやかな時間が心地よい
夜とコンクリート
短編集ですが、比較的長い中長編が主に3作収録された作品。全体を通してとても静かな作品です。ノスタルジアを常に抱え、それでも前を向かなければいけない、と私たちの背中をそっと押してくれます。前作「惑星9の休日」と異なり、今作では舞台がどれも現代ということもあり、より作品のメッセージが胸に届くのかもしれません。
第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作「夏休みの町」を収録した、新しくて懐かしい魅惑の作家、町田洋の初期作品集! 眠れない建築士と建物の声を聴く男。丘の上の戦闘機とありふれた夏休み。君に会えない僕と屋上で見上げた空。夜とコンクリート。 平坦な日常にある、もう一つの地平に見たことのない景色がある。
無音の世界に引き込まれる
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この記事のライター
新しい物好きなうざかわ系アラサー男子。男子校で男に囲まれてきた反動から、大学以降は女性にモテることのみを考えてます。でも基本シャイなんでうまくアプローチできません。外資系メーカー→MBA→国内インフラ企業と経験。英語も話せる真面目な人間。