アニメ「文豪ストレイドッグス」の元になった作家の小説を改めて読む

アニメ「文豪ストレイドッグス」(以降、文スト)に出てくる文豪の名を冠した登場人物たち。各自の能力が、文豪の作品名として出てきます。今回は、その名作小説を改めて紹介します。昔学校で習って読んだだけの作品も、今読み返してみると新しい発見があるのではないでしょうか。

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アイキャッチ画像出典:www.bs11.jp

文ストに出てくる文豪たちの小説を読んでみよう

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アニメ「文豪ストレイドッグス」は、2016年の4~6月に1期、同年10月~12月に2期が放映され、密かに話題を集めています。国語の授業で学んだ明治期から昭和にかけての文豪たちの名前をそのまま登場人物が名乗り、各自の作品名または有名なフレーズが異能(超能力みたいなもの)としてセットで扱われる点が斬新です。泉鏡花や尾崎紅葉が男性から女性キャラに変わっていたりして必ずしも史実と合致しているわけではありませんが、史実を知っているからこそ「ここは同じ」「これは違う」と楽しめる一面もあります。

今回は、彼らの中から主人公とそのライバル、そして過去編に描かれる親友3人の原作小説を改めて紹介します。そのほとんどがあまりにも有名で何を今さら、と思われる向きもあるかもしれません。しかし、学生の頃以来読み返していないのでしたらなおさら、ぜひもう一度読んでみてください。そこには新たな発見があり、成長した自分を確認できるでしょう。

名作の名作たるゆえんは、その時々の自分で幾重にも解釈できる奥深さなのではないでしょうか。

1.中島 敦「李陵・山月記」

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文ストでは主人公の少年となっている「中島敦」。彼は文ストの中で「人虎」に変身する異能を持っています。これは、作家の中島敦処女作「山月記」の主人公である李徴から着想を得たものでしょう。中島敦の「山月記」と言えば、国語の教科書で読んだことがある方も少なからずいるのではないでしょうか?山月記はベースとなった中国の怪奇譚「人虎伝」があり、怪奇譚を近代小説に昇華させた傑作として世に知られています。

中国の役人として出世コースに乗っていた李徴は、詩人を志して職を辞めて修行したのですが詩人としては成功できず、生活も苦しくなり苦悩の果てに虎に変身してしまいます。そしてある日友人の袁傪と出会い会話をする、というあらすじなのですが、李徴の苦悩はどこにあるのか考えながら読むと味わい深いです。社会人になり様々な経験を積んだ後に再読すると、当時は見えなかった「職業選択の自由があるゆえの苦悩」に気づくのではないでしょうか。

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2.芥川 龍之介「羅生門」

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「羅生門」も、国語の教科書に掲載されることの多い作品です。文ストでは、芥川龍之介は主人公のライバルとして描かれています。彼の異能は「羅生門」と名付けられていますが、名前だけ拝借したようで、小説の内容とはあまり関係がありません。ただし、芥川の性格には「羅生門」のテーマであるエゴイズムが反映されているように見えます。

「羅生門」はすぐに読めますので、あえてあらすじは語りません。「羅生門」の主題は、人間の持つ弱さやエゴイズム。薄っぺらな正義感では生きていけない、しかしエゴイズムだけでは反社会的な行為で身を亡ぼしてしまう、そのあわいに人は生きています。主人公の下人が正義感とエゴイズムの間で揺れ動くさまに注目しながら読んでみてください。短編なので何と言ってもすぐ読めるのも魅力。

黒澤明監督の映画「羅生門」は、同じく芥川龍之介の小説「藪の中」をベースにしていますが、小説「羅生門」の内容も一部反映していますので、セットで鑑賞しても面白いでしょう。

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3.太宰 治「人間失格」

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文ストに登場する太宰治は、生きる目的を求めて悪の組織にいましたが、親友の言葉がきっかけで現代の必殺仕事人みたいな組織へと転身しました。何度も自殺未遂をする設定は、まさに文豪太宰治の行動をそのまま持ってきています。太宰治の異能は「人間失格」。これは他人の異能を無効化する能力です。実際の小説「人間失格」の持つ空虚感、廃人=異能無効化として考えられたのかもしれませんね。

小説「人間失格」は太宰治の代表作の1つです。冒頭の「恥の多い人生を送ってきました」はあまりにも有名なフレーズで、聞き覚えのある方も多いのではないでしょうか。ひたすら堕落していく自分を止められずに狂人にまで追い込まれていく、そんな主人公を追っていくと息苦しさを感じるほどです。しかしどこかにひりひりした「生」の生々しさを突き付けてくる名作ですので、気になった方はぜひ一度読んでみてください。

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4.織田 作之助「天衣無縫」

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織田作之助は、文ストの中では太宰治の親友として登場し、彼の生き方を変えた人として描かれています。実際に太宰治と織田作之助、そして後ほど説明する坂口安吾は、戦後「無頼派」として知られている文豪たちで、文ストでは友人として描かれていました。織田作之助の異能は「天衣無縫」。数秒先を読める未来予知の能力で、小説の内容とはあまり関係ありませんね。孤児たちに優しかったり小説家を目指したいと思っていたり、という性格の設定は、作風からそれとなく納得するところです。

文豪の織田作之助は大阪の作家で、処女作である「夫婦善哉」が有名です。大阪道頓堀の法善寺横丁には今も夫婦善哉を提供する店があり、織田作之助が愛した混ぜカレーを出す「せんば自由軒」も健在。話が脇道にそれましたが、「天衣無縫」に戻りましょう。

この小説は短編小説です。ものすごく簡単に説明すると、だめんずに惹かれてしまう奥さんの可愛さを読者が愛でる、そんな小説。独特のテンポで当時の空気感、生活感が出ていていい味を出していますが、はっきりとした起承転結のある物語が好きな人にとっては良さが分かりにくいでしょう。しかし、収録されている他の作品を読み進めていくと、一貫して織田作之助が市井の人たちに暖かい眼差しを注いでいるのが感じられます。織田作之助の作品は、人生や恋愛でそれなりに山あり谷ありの苦労をした後に読むと「じんわり来る」という方もいるので、肌に合わなくてもまた何年後かに読み返してみると印象がまったく変わるかもしれませんね。

商品名:天衣無縫 アニメカバー版<「文豪ストレイドッグス」×角川文庫コラボアニメカバー> Kindle版
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5.坂口 安吾「堕落論」

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文ストの中では、様々な顔を見せる坂口安吾。非常に優秀な雰囲気はあるのですが、異能「堕落論」がどういう能力なのかも作中ではまだ明らかになっておらず、謎の多い人物です。昔は友人だったはずの太宰治と対立してしまい、関係が修復する気配は今のところありません。坂口安吾の性格は、実際の「堕落論」を読んだ時、少し理解できるのではないでしょうか。

さて、異能名になっている「堕落論」は、小説ではなく随筆・評論に分類される作品で、坂口安吾の代表作と言っていいでしょう。非常に簡単にまとめると、「人間が堕ちるのは社会の制度のせいではなく、人間だから堕ちるのだ」「堕ち切った後に、自分自身の法を発見して自分自身を救わなければならない」と論が展開されています。どこか孤独な求道者を思わせる評論は、自分自身の内面を強くする一助となり得る説得力がありますよ。

坂口安吾と言えば、他に有名なのは幻想的な「桜の森の満開の下」。こちらも傑作ですので機会があればぜひ読んでみてください。

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参考価格:440円(税込)

名作は読めば読むだけ良さがある

文ストにかこつけて、日本の文豪たちの小説を紹介しましたがいかがでしたか?あらすじも覚えているし今さら読み返しても、と思われるかもしれませんが、読んでみると以前の自分では引っかからなかった部分に強く心を揺さぶられたり、新たな発見があったりするのが名作の良さ。初めての方はぜひ、初めてでない方もぜひもう一度、これらの作品を読んでみてくださいね。

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植田正治のように、本当に好きなものしか紹介しない、そんなライターに私はなりたい。目下の興味は、旅、写真、おいしいものとにゃんず。

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