シューベルトの瑞々しい感性あふれる有名歌曲3選
シューベルトは、120曲の歌曲を残しています。この膨大な歌曲の中でも特に有名な3曲を選びました。短い生涯ゆえに、熟成しきらない若々しい感性がほとばしるような透明な曲「菩提樹」「鱒」「セレナード」です。
- 5,554views
- B!
シューベルトの残した曲
シューベルトは、1797年オーストリアのウィーンに生まれ、1828年その才能を惜しまれながら短い生涯を終えました。120曲もの歌曲、交響曲、室内楽曲、ピアノ曲なども手がけました。初期ロマン派の開拓者であり自由な転調を駆使し「歌曲の王」と言われています。ビュアな感性の歌曲は、若さがほとばしり私達を感動させます。
今回は短い生涯ゆえに、熟成しきらない若々しい感性がほとばしるような透明な曲「菩提樹」「鱒」「セレナード」の3曲をご紹介します。
冬の旅のなかで母なる大樹に抱かれる「菩提樹」
シューベルトは若干31才の生涯のなかで7年も体調を崩し入院を繰り返しています。この暗く苦しい時期のなかで、1827年に作曲されたのが、歌曲集「冬の旅」です。
これは亡くなる一年前の作品です。この作品を作りながら、ある意味深い人生の本質的な意味をとらえたのかもしれません。体調を崩したシューベルトは、ウィーン市中心部から南西へ約20km先の小さな町で静養していました。その庭先に菩提樹があり、その常緑の生命力に心惹かれたシューベルトが、この曲を残したのだろうと想像ができます。何百年もの命を生きてきた大樹には、誰でも霊的なインスピレーションを感じるものですが、まして体調を悪くしているシューベルトが、その野生を称えたい気持ちが感じられる作品です。
歌曲集『冬の旅』は、詩人ヴィルヘルム・ミュラーの詩集からインスピレーションを得て、シューベルトは曲を書きました。第1部、2部と合わせて24曲からなっており、「菩提樹」は第1部の5曲目です。
転調激しいピアノ曲・鱒(ます)
鱒は、1817年にシューベルトが作曲したピアノ伴奏独唱曲です。シューベルトの歌詞に曲付けされていますが、歌詞は漁師が罠を使って魚を釣り上げる情景を歌っています。最初は、ゆったりした川の流れと、穏やかな日の穏やかな午後が、ゆったりしたメロデーに描かれます。
しかし、軽やかなピアノがだんだんと変調していく様子は、まるで漁師と鱒の戦いを表現しているように聞こえます。音は太く、透明な情景が濁りを含んで拡がっていき、川は濁り、そこには生きるために様々な戦があることを表現しているのかもしれません。詩は4番まであり、こう書いてあります。「いつまでも続く青春の黄金の泉のもとにいるあなたがた、鱒のことを考えなさい。娘たちよ、見なさい。 釣り針を持って誘惑する男達を!さもないと後悔するぞ!」と。こうした暗喩が、この曲には含まれています。ドイツでは、日本のように余り鱒などは食べないようです。シューベルトにとっても、鱒は食べ物ではないので、鱒が釣られてしまったことへの怒りを持って作曲していると言えるでしょう。
甘美で透明な旋律・セレナード
「セレナード」はシューベルト歌曲集「白鳥の歌」の第4曲にあたります。恋人に対する切々たる思いを歌いあげ、レルシュタープの詩による歌曲です。この美しい歌曲集 「白鳥の歌」 は、シューベルト最後の年に作曲された14曲の歌をまとめた遺作集で、彼の死後、弟子のシントラーによってまとめあげられ、出版者のハスリンガーによって「白鳥の歌」という題名をつけられました。セレナーデというのは、恋人に向かって窓の下から愛を訴え歌うもので、昔からイタリアオペラなどの場面などで見かける光景ですが、シューベルトのセレナードも甘く切なく甘美な旋律は、永遠の時間に訴えているようです。これが死が近づいているシューベルトが綴ったメロデーだと思うと、より感慨深いものがあります。繰り返すように響く伴奏は、詩にあるような明るさと違って、少し暗さを含んだ暗雲の中に引き込まれるようなニュアンスもあって、どこか不安の予兆のようなものがあるようです。そうした意味でも、一般的な恋歌にくくられない心臓の鼓動のようなものが聞えてくるような真実を含んだ美しい名曲となっています。
曲から感じるシューベルトの人生
いかがでしたでしょうか。透き通った瑞々しい歌曲は、疲れた時に心に染みこんできます。紹介した歌曲は、さまざまな歌手が歌っていますから聞き比べの楽しみもあるでしょう。夜のくつろぎのひと時にもいいかもしれません。
この記事のキーワード
この記事のライター
もっとオシャレでカッコイイ毎日をすごしたい人のためのウェブメディア、VOKKA(ヴォッカ)の公式アカウントです。