ピアノ講師が教えるピアノの中級程度で弾ける名曲とおすすめ練習曲
ピアノを始めて、初級といわれる「バイエル」を終え、「ソナチネ」という「小さなソナタ」をかなり習熟すると有名なピアノ曲のいくつかが演奏可能になります。また、中級程度のおすすめ練習曲や楽譜の読み方のことなど、独学でピアノの技術をあげるために気をつけたいことも合わせてご紹介します。
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アイキャッチ画像出典:www.flickr.com
ピアノの初級・中級とは
ピアノの中級とはどのようなものでしょうか。実は、初級、中級、上級など「定義」というものはありません。「全音楽譜出版社」による「難易度別教本・曲集一覧」によりますと、それぞれ初級・中級・上級について更にふたつの段階ずつに分けています。
難易度の分類は正直に言って難しいものがあることがわかります。分類された曲集をじっくり見ていくと、初級にも中級にも名前がある教本・曲集もあることから「これは中級」とはっきり分類することは無理といってよいでしょう。
それで、今回「中級程度」ということでわかりやすくご説明するため、一応初級は「バイエル」や「ブルグミュラー25の練習曲」「ソナチネ」「ツェルニー30番」「ハノン」「バッハインヴェンション(二声)」を基本とします。そして、中級はそれらを全てではなくとも「弾ける程度」で、次にご紹介する教本の練習に取り掛かることができる程度とします。
中級程度の教本・練習曲
上記でご紹介しました初級の教本ですが、しばらく練習していくとピアノの楽譜を読むことにかなり慣れたと感じると思います。これらの大部分を制覇することができれば、「教本」「練習曲」以外の美しい曲をいろいろと弾くことができます。
少し説明を付け足したいのですが、この教本の中でツェルニーは学習者にかなり不人気です。その理由は「音楽的にはあまり楽しいとはいえない」というもので、練習意欲を失う人もいます。自分でピアノを独学する人の中には、この教本は選択せず名曲の数々を練習して習得していくことで、技術力を上げていくという人もいるようです。
実際にピアノ教室で使用されることの多い中級程度の教本・練習曲の一般的なものをまずご紹介します。
伝統的で今も信頼のある教本ですが、もちろんそれ以外を使用しているところも多いので参考までにご覧下さい。
中級で使われる教本
・ツェルニー40番
ツェルニー30番に引き続き、40番は名前の通り40の練習曲が入っています。技術的に難しくなっていますが、やはり30番同様に音楽として楽しむものではなく「技術習得」のための教本です。
ツェルニーは、ベートーベンの弟子であり、リストの先生であったことから各人のピアノ音楽作品の流れとして類似性を言われることもあります。リストの「音楽の内容の希薄性についてツェルニーが原因ではないか」というものですが、どうでしょうか。
・バッハインヴェンション(三声)
インヴェンションは、二部に分かれていますが一冊で出品されているものが多いので、初級から引き続き使用していきます。二声とは、右手、左手共に「和音はなし」で、両手とも「一音」ずつということです。初めての時は「簡単」という気もしますが、すぐに「とんでもない勘違い」であることに気がつきます。両手共にメロディを担当させるという難しさは、ひとりで「かえるの合唱」を輪唱するのと同様です(もちろん現実的には不可能ですが)。
この三声(シンフォニア)は、和音が出現します。つまり音が三つ(三声)重なる部分が出てきますから、更に難しいのですがバッハらしい美しい音楽を楽しむことができます。
・ソナタ
ソナタとは「ソナタ形式」のことで、古典派によく用いられた形式です。ソナタ形式の曲を集めた曲集「ソナタアルバム」が出版されています。ロマン派や近代でもソナタは多く書かれており、作曲家にとっての位置付けは大きいものがあります。同時にピアニストにとってもソナタ全曲演奏は「集大成」といった価値があり、重要な存在です。
ここでいう中級のソナタはモーツァルト、ベートーベン、ハイドンによるものを指します。この三人のソナタのうち、比較的易しいものから抜粋して練習していきます。有名な「トルコ行進曲付き」や「悲愴ソナタ」「月光ソナタ」などもソナタ曲集に含まれていますので練習が楽しくなるでしょう。
・その他
ツェルニーなどに匹敵する教本として「モシュコフスキー」、バッハでは「フランス組曲」なども同等レベルになります。
バッハインヴェンションからシンフォニア
バッハは、ピアノを学習する人にとって特別な存在であるかもしれません。好き嫌いは分かれますが、それは演奏が難しいからというのが本音ではないでしょうか。ショパンはバッハを学ぶ重要性を説いています。
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ベートーヴェン作曲 月光ソナタ
ベートーヴェンのソナタの中で、「月光」「悲愴」「熱情」は3大ソナタといわれ、そのうちの「月光ソナタ」はピアノの学習者の憧れの曲のひとつです。演奏は容易ではありませんが、中級の上として挑戦することは意義深いと思います。
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楽譜の読みについて
初級に比べて楽譜の読みも難しくなります。具体的には、バッハでは装飾音が増え速い指の動きが必要となるでしょう。また、ソナタでは「芸術音楽」として価値表現が質の高さとなり、感情を込めて演奏することが不可欠です。そのための楽譜表記は、単純にフォルテッシモやピアニッシモなどだけでは飽き足らないので若干新しく記号も出てきます。そういった中級以上の楽譜について、注意すべきことが下記のようにいくつかありますので、ご覧下さい。
注意すべきこと
・音楽記号、用語など
難しくなると記号や用語が増えてきます。あまり多くはありませんが、調べて覚えておかなければいけません。強弱や速さなどに関連したものがほとんどです。
・音楽理論
調号は多くなることが多く、臨時記号も多用されますので調の音楽理論(シャープ、フラットの個数によりト長調やヘ長調などがある)を完全に頭に入れておく必要があるでしょう。5度ずつずらしていく「5度圏」という音階の理論は大人の頭脳ではそんなに難しいものではありません。
しかし、いざピアノの前に座り楽譜を見ながら瞬時に指を正しい鍵盤に動かすのはそんなに簡単ではありません。時間をかけて訓練していく他には方法はないのです。
・ペダル
ソナタではペダルの使用について明記していないことが多いのですが、ピアニストの演奏を「見る」と、あきらかに使う場面があります。ピアノは誕生と共に進化してきた楽器で、ペダルも当初はありませんでしたし、構造も音も現在とはかなり違っていました。ペダル表記がないのも当然です。
基本的にペダル使用は、弾く人に「おまかせ」的になっているので、ペダルについての楽譜記載は少な目です。また、ペダルの教本というのは少なく、これといって決定的なものはないといってよいでしょう。
・楽譜に書かれていないこと
楽譜を見ずにCDなどで音楽だけ聴くと、ピアニストは流れるように弾いており、旋律線ははっきりと印象深く耳に入ってきます。しかし、その他の音は控え目に、それでいて美しく小さな音で演奏されていることに気がつくでしょう。また複線となる音の流れも聴こえる、というような3D感覚の音を表現することもあります。
そのような表現方法は全く楽譜には表記されていません。そのような演奏を可能にするには楽譜を丹念に読み込み、他のピアニストの演奏も聴くことなど「譜読み」をていねいにすることが必要です。感情表現についても同様で、美しい音楽を演奏するためには楽譜に書かれていないことを読み解かなければならないと気がつくと思います。
練習曲・その他の美しい曲
練習曲でも美しい曲があります。エチュードという名前がついているものや、練習用の課題として与えられるものや、その他の中級程度の美しい曲をご紹介します。そういったものは練習曲ではなくとも、技術的に優れていると同時に音楽的にも美しく、練習そのものが楽しくなり効果的です。
スクリャービン作曲 エチュード 作品2の1
スクリャービンは、ロシアの作曲家です。若い頃の作品は後期ロマン派の甘い雰囲気が漂い、「コサックのショパン」と呼ばれることもありました。この作品は14歳の頃に書かれた曲で、完成度の高さから早くも天才を予感させます。ホロヴィッツの演奏が有名です。技巧的には中級の上といったところでしょうか。
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グリーグ作曲 ショパンへのオマージュ 作品73
ピアノの曲には、「弾く技術より聴いた方が難しい」という曲があります。つまり「かっこよく聴こえるけれど意外に易しい」というお得な曲という意味で、このグリーグの曲はお勧めです。日本では馴染みがあまりありませんが、海外では練習用としてよく使われています。初めから終わりまで一貫した同じリズムで、ショパンの「幻想即興曲」に似た雰囲気です。
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グリーグ作曲 ノクターン 作品54の4
グリーグは「北欧のショパン」と呼ばれることもあります。ノクターンは叙情小曲集の中の一曲で管弦楽編曲の方が人気があるようです。グリーグはピアノの名手で協奏曲は難度の高い曲としてピアニストを泣かせています。叙情小曲集は生涯を通して66曲あり比較的易しいのでおすすめです。
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プロコフィエフ作曲 プレリュード 作品12の7
プロコフィエフのピアノ曲は難曲が多く安易に弾けるものは少ないのですが、このプレリュードは珍しく難易度は高くはありません。かわいらしく、はずんだような楽しい曲で、ロシアのクリスマスを祝う古いメロディを元にしたという話も伝わっています。左右の役割が反対になり、右手が分散和音の速い動きをします。左手が主なメロディ担当で、一拍目のバラライカ(ロシアの弦楽器)のような「かき鳴らし」が印象的です。
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シベリウス作曲 樅の木 作品75の5
シベリウスはフィンランドの作曲家です。ピアノ曲の数は少ないですが、「樹の組曲」の中に入っています。北欧らしい空気の澄んだ美しさと、日本人好みの哀愁を感じる曲です。
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リャードフ作曲 音楽の玉手箱(オルゴール) 作品32
リャードフはロシアの作曲家です。あまりピアノ曲は知られているとはいえませんが、多くの曲を残しています。この音楽の玉手箱は彼の作品の中で比較的知られている曲です。オルゴールの音を模倣していて、ぜんまい仕掛けの動きを想像しながら演奏すると子供時代に戻った気分になるでしょう。かわいらしい雰囲気とは違い、演奏は侮れません。
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メトネル作曲 フェアリーテイル 作品26の3
メトネルはロシアの作曲家です。ロシアの郷土の香りが強く感じられる作曲家で、ピアニストのアムランは「1度聴くと忘れられず虜になる」と言っています。メトネルの作品の中で特に有名な曲です。
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モーツァルト作曲 アダージョ KV540
モーツァルトはピアノ曲では「トルコ行進曲付き」など、ソナタ集が有名ですが中級程度では、このアダージョが人気です。モーツァルトの曲は技術的には難しくはありませんが、演奏は難しいといわれます。矛盾するようですが、少ない音を粒をそろえて美しく響かせることの難しさは、心を映し出すことと同様に感じます。
Mozart: Piano Sonatas Nos. 17 & 18
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ドビュッシー作曲 月の光
ドビュッシーは日本人が好む作曲家のひとりですが、この月の光は彼の代表作といえるでしょう。ベルガマスク組曲の中の1曲ですが、単独で演奏されることが多い曲です。ピアノをハープのように響かせることは非常に難しいのですが、ピアノ学習者にとって憧れ、人気の曲となっています。
ドビュッシー:ピアノ作品集
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グラナドス作曲 アンダルーザ
グラナドスはスペインの作曲家です。スペインというと、ギターのかき鳴らしをイメージしますが、実は原曲はピアノ曲であることが多いのです。このアンダルーザは特に人気があります。スペインの情熱的なギターと踊りを思いながら、情感いっぱいに演奏する醍醐味をどうぞ。
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中級程度のピアノ曲は夢いっぱい
いかがでしたでしょうか。中級程度と一口にいっても、「境目」も「垣根」もありません。上でご紹介しました教本は一般的なものに過ぎませんし、それ以外にも「技術的に可能な小品」をどんどん練習していくことが上達の早道であると思います。中級程度に代表されるソナタを弾きこなすことができれば、美しいピアノ曲はご紹介した他にも「星の数ほど」もありますので、ぜひ挑戦してみてください。夢はいっぱいに広がり、ピアノの世界は永遠です。
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この記事のライター
検査技師をしておりました。現在は家庭に入り、ライター、アンティークドールのディーラー、人形関連の制作と売買、ピアノ講師などをしています。趣味の薔薇や犬、鳥の世話と夫と子供の世話に忙しい毎日です。