伝説のピアノの詩人サンソン・フランソワを聴く!個性豊かな天才
フランスのピアニスト、サンソン・フランソワはロン・ティボーコンクールの第一回の優勝者です。フランスのみならず世界的に注目された伝説のピアニストの代表とされる演奏を7曲ご紹介します。
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サンソン・フランソワというピアノの詩人
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サンソン・フランソワは1924年にドイツで生まれています。両親はフランス人ですが、父親の仕事の都合であちこちに転居をしています。フランソワは4歳からピアノを始め、早くから才能があったようです。巨匠ピアニストであるアルフレッド・コルトーに見出され、フランスのエコール・ノルマル・ド・ミュージックで学ぶようになりました。一家でフランスに引越するほど彼の才能は飛び抜けていたと伝えられます。
その後、パリ音楽院でマルグリット・ロン女史に師事しましたが、レッスンはとても厳しいものだったようです。しかし、彼女が1943年に創った第一回ロン・ティボー国際音楽コンクールでみごと優勝しています。フランソワは自由で、かなり個性的な少年だったようで、それは生涯続いたようです。1945年終戦のパリ開放から本格的にピアニストとして活動を始めています。
世界中から「ファンタスティックで素晴しいテクニックの持ち主」という評価を得ています。彼はナイトクラブの常連であり、こよなくジャズ、酒、たばこを愛して止まなかったといいます。演奏は興に乗ったときとそうでない時との差がかなりあったと伝えられるのですが、それは、仕事の忙しさから空虚感を埋めるために通うナイトクラブのせいであるだったようです。酒やたばこは、結局彼の命を縮めることになりました。
協奏曲や室内楽は人との衝突が多々あるため避けていたこと、気に入った作曲家中心のレパートリーなど強い個性があったと伝えられます。根っからの自由人で家庭を持っている自覚に欠けていたことから離婚、など私生活でも波乱があったようですが、そういったことを含めて音楽表現となっていたのではないかと感じます。1970年に46歳の若さで、心臓病のため急逝しました。没後50年近くになっても慕う声がなくならない伝説のピアニストです。
ショパン作曲 「24の前奏曲」
ショパンの24の前奏曲は、サンソン・フランソワの演奏の中でもっとも定評があるもののひとつです。ショパンの曲はフランソワにとっては特別なものであったといえます。ショパンは甘い旋律ではありますが、軟弱な音楽ではありません。フランソワは「旋律の美しいことこそ音楽だ」と言っていますが、ベル・カント奏法(旋律を美しく歌わせる)によりショパンが理想とした音楽が奏でられています。
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ラヴェル作曲 「左手のための協奏曲」
サンソン・フランソワにとってラヴェルはショパン同様に特別だったのかもしれません。ラヴェルはフランスの作曲家で、早くからジャズを取り入れたクラシックの音楽家です。有名な作品に「ボレロ」があります。ラヴェル自身ピアニストでもありますので、ハープのように奏でられる曲は技巧的な難曲が多いことでも知られています。
フランソワは、文学も造詣がありエドガー・アラン・ポーを愛読していたようです。作品の中に不穏で不気味な面があることと、ラヴェルの魅力を重ねていたのではないでしょうか。「夜のガスパール」の中の「スカルボ」を好んで演奏会のプログラムに入れています。今回は、「左手のための協奏曲」をお聴きください。フランソワは、この曲を「劇的で、終始苦悩の表現である」と評しています。終盤のソロ部分はたいへん美しくこの曲の聴き所です。
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ドビュッシー作曲 「映像 第一集」
サンソン・フランソワは好きな作曲家の1人としてドビュッシーを挙げています。「偉大なメロディストで偉大な和声家」とビュッシーを評して、生涯をかけて全曲録音にとりかかっていたのですが惜しくも望みはかないませんでした。ドビュッシーは印象派の作曲家として知られますが、アンチロマン派でありながら「ショパンの見事な継承者」とフランソワは言います。「旋律の美しさこそ音楽」という通り、ドビュッシーも美しいメロディをつくった作曲家なのです。
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フォーレ作曲 「夜想曲 第六番」
ガブリエル・フォーレはパリ音楽院の学院長をつとめ、人柄や膨大な作曲と才能から尊敬されていた人です。代表作は、「レクイエム」ですが壮大な音楽の中に「孤独な中で静かに宿命を待つかのような悲劇性」を感じる曲です。この夜想曲第六番は、淡々と過ごす暖かい日差しの中の日常風景が、いつのまにか気がつくと不幸の中にいるというような哀しみを感じます。それは、フランソワが少年時代に経験した父親の死を連想させます。彼が特に愛し、プログラムにもよくとりあげている曲です。
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スクリャービン作曲 「ソナタ 第三番」
アレクサンドル・スクリャービンはロシアの作曲家ですが、1970年代になってから西側諸国で紹介された「忘れられた作曲家」のひとりでした。神秘主義ということから誤解を受けやすいこともあり、その評価は当のロシア国内でさえ良くなかった時期があったようです。「コサックのショパン」といわれるほど、初期の作品は後期ロマン派の甘い情熱的な作品が多くあります。
フランソワは、スクリャービンの曲では「ソナタ第3番」のみをレパートリーとしています。ソナタ全10曲の中で最もピアニストに人気の高いソナタで、後期ロマン派から無調の時代に移る境に位置する作品です。劇的で掻き立てられるような情熱と平和や不安といった物語性があり、演奏効果が高いことが人気の理由といえます。フランソワによる情熱的な演奏をどうぞお聴きください。
スクリャービン:Pソナタ第3番
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音のひとつひとつが美を放つ
いかがでしたでしょうか。サンソン・フランソワは没後半世紀近くになっても根強い人気のある「伝説のピアニスト」です。その音楽は素晴しく、演奏スタイルはエキセントリックといわれることもありましたが、「音の粒がはっきり」と際立って美しさを放っています。「右手と左手が演奏するのではなく10本の指が演奏するのです」と彼は自伝の中で言っているように、それぞれの指が奏する音が美しいのです。ラヴェルやドビュッシーを愛した巨匠であったことは間違いありません。
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この記事のライター
検査技師をしておりました。現在は家庭に入り、ライター、アンティークドールのディーラー、人形関連の制作と売買、ピアノ講師などをしています。趣味の薔薇や犬、鳥の世話と夫と子供の世話に忙しい毎日です。