ロシアピアニストの低迷期?チャイコフスキーコンクール第七回から第九回
チャイコフスキーコンクールは第七回が1982年に開催されました。前六回までのロシア陣の全盛期を過ぎ、勢いをなくしたかのように外国勢が活躍します。ロシアを抑え、イギリスのピアニストが高位に付くという驚きの結果となったのです。第七回から第九回までの入賞者5人をご紹介いたします。
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モスクワ音楽院の質の低下?
出典:pixabay.com
チャイコフスキーコンクールは、1978年の第六回までの1位はほとんどロシア勢で占められ、素晴らしいピアニストを輩出することに成功してきました。ところが、第七回から第九回まではなぜかロシアピアニストの成績はパッとしません。
その理由のひとつには、モスクワ音楽院の教授たちの質の低下がいわれています。また、一部のうわさでは同音楽院の教授であり審査員である者の「内部抗争が絡んでいる」などという話も出ていたそうです。それなら外国勢に1位をとらせた方がまし、ということなのでしょうか。コンクールの結果は公明正大であって欲しいものです。
第七回 1位なし2位 ピーター・ドノホー
第七回は1982年に開催されました。1位なしの2位はチャイコフスキーコンクール始まって以来のことで、コンクールの低迷とカリスマ的な群を抜いたピアニストが集まらなかったといえます。ピーター・ドノホーは1953年イギリス出身です。
彼は2位受賞後に大いに活躍。あらゆるピアノ曲をこなすという「レパートリーの広さ」で知られ、ラフマニノフ、プロコフィエフといった自国の作曲家やベートーベンなどの古典、そしてガーシュインなども手がけています。大きな手の持ち主で虚栄のない真面目な指運びには好感がわきます。
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第七回 1位なし2位 ウラディーミル・オフチニコフ
オフチニコフは1958年ロシア生まれです。ドノホーと1位なしの2位を分かち合いました。大きな身体に大きな手でどのような難曲も簡単そうに弾きこなすヴィルトオーソ(名人級)であり、コンクール後もあらゆる作曲家の協奏曲の数々を弾いてしまうという徹底ぶりには驚くばかりです。録音もピアノ独奏曲よりは協奏曲が多くあります。1位でなかったということに不思議さを感じるピアニストといえるでしょう。
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第八回 1位 バリー・ダクラス
第八回は1986年に開催されました。1位のバリー・ダグラスは1960年イギリス生まれです。前回1位なしの2位にピーター・ドノホーが受賞しましたが、続いてイギリスのピアニストが最高位を受賞したことになります。第六回あたりからイギリス人が立て続けに入賞するという好成績は、イギリスがピアノ教育に力を入れてきたことを意味するのでしょうか。
ダグラスは、1位受賞後はあまり派手に活躍したということはなく、録音もわずかにシューベルト全集やブラームスなどで、あまり幅広くレバートリーを広げてはいません。チャイコフスキーコンクールでは、コンチェルトが素晴らしかったようです。
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第九回 1位 ボリス・ベレゾフスキー
第九回は1990年に開催されました。1位は1969年ロシア生まれのボリス・ベレゾフスキーです。彼はモスクワ音楽院でヴィルサラーゼという優秀な教授に師事しています。いわゆるヴィルトオーソ であり、難曲を軽々とこなすタイプです。体格も良く、全身の体重で鍵盤の底から音を出すロシアのピアニスト特有の情熱的な弾き方が特徴といえます。
演奏はロシアの作曲家ラフマニノフなどを問いとし、超絶技巧曲のリストも得意のようです。安定した演奏をする素晴らしいピアニストですが、1位に関しては、審査員であるモスクワ音楽院の教授たちの内部闘争が絡んでいる、と「うわさ」もあったと伝えられます。しかしコンクール後の活躍や実力をみると、やはり1位にふさわしかったと証明していると感じます。
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第九回 3位 ケヴィン・ケナー
ケヴィン・ケナーは1963年アメリカ生まれです。第九回では3位入賞しましたが、何と同年開催のショパンコンクールでも2位を受賞しています。彼の演奏は、音がたいへんきれいであると審査員が評価していますが、どちらのコンクールでも体調が悪いことが重なったということです。もし体調がよければどのような結果となったのか、それは演奏を聴いて判断してみてください。受賞後はイギリスの母校で教鞭をとるなど、後進の指導にも力を注いでいるようです。
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チャイコフスキーコンクールの行方
チャイコフスキーコンクールは、ショパンコンクールと比較されることもあります。華やかさにかけては国民的行事といえるショパンコンクールに断然軍配があがるでしょう。最初にチャイコフスキーコンクールが開催されたのは1958年です。コンクールに送り込まれるのはほとんどがモスクワ音楽院の精鋭のピアニストたちですし、開催会場も音楽院のホールです。
音楽院が不調であれば、ロシアのピアニストは入賞が危うくなることは考えられます。ロシアきっての大ピアニストたちはすでにこの世を次々に去ってしまい、優秀な教師も減ってしまったのでしょう。コンクールの行方が心配です。
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この記事のライター
検査技師をしておりました。現在は家庭に入り、ライター、アンティークドールのディーラー、人形関連の制作と売買、ピアノ講師などをしています。趣味の薔薇や犬、鳥の世話と夫と子供の世話に忙しい毎日です。