チャイコフスキーコンクールは永遠に・コンクール第十四回と第十五回
1958年にチャイコフスキー国際コンクールの第一回が開催されてから50年が過ぎました。半世紀の間に旧ソ連はロシアへと変わり新コンクールにも気合が入り、ますますロシア勢のピアニストは世界へと輸出(輩出)されロシアのピアノ教育のすごさを知らしめています。第十四回と第十五回の入賞者の4人をご紹介いたします。
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ロシアの音楽教育
ロシアという国は、ロシア音楽の父と呼ばれるグリンカに対しての恩を忘れず、チャイコフスキーやラフマニノフ、スクリャービン、プロコフィエフといった音楽家が現れ、次々に音楽という財産を継承してきました。それは国をあげて200年もかけて築いてきた歴史があるのです。
ロシア国内の数々の小さな音楽学校から、モスクワ音楽院の付属音楽学校のエリート集団へと序列化し、選りすぐりの子供に幼少時から徹底した音楽教育を施し、力を注いできたことからもわかります。チャイコフスキーコンクールは、その中でも更に優秀な人材を送り込んでいるのですから、そのレベルの差は資本主義国と比べかなり大きいといってよいでしょう。
今回は、2011年の第十四回と2015年の第十五回の素晴らしいピアニストをご紹介します。
第十四回 1位 ダニール・トリフォノフ
第十四回は2011年に開催されました。栄えある1位はダニール・トリフォノフです。彼は1991年ロシア出身で、10代から世界のいろいろなコンクールで受賞した後、三大ピアノコンクールのひとつである2010年ショパンコンクールに出場し第3位を取得しています。
一年後にチャイコフスキーコンクール出場となりましたが、チャイコフスキーのピアノ協奏曲を直前の数週間の練習だけで臨んだというエピソードには驚きます。近年でもっとも注目すべき若手の期待の星といえます。演奏は、ヴィルトオーソ(名人級)であり難曲を次々に自分のものにしており、並でない才能を感じさせるピアニストです。
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第十四回 3位 チョ・ソンジン
3位入賞のチョ・ソンジンは1994年韓国出身です。チャイコフスキーコンクールの前には日本国内のコンクールなどに出場した経験を生かし、2015年ショパンコンクールでみごと第1位を獲得しています。ショパンコンクールでは、最後まで誰が優勝するかわからない接戦の末の1位だけに聴衆の感動もひとしおだったようです。
チャイコフスキーコンクールは2011年なので、大きなコンクールで場に慣れたこともショパンコンクール優勝の原因かもしれません。音が大変美しいという審査員や聴衆からの定評があります。
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第十五回 1位 ドミトリ・マスレエフ
第十五回は2015年に開催されました。1位のドミトリ・マスレエフは1988年ロシアで生まれています。モスクワ音楽院を卒業後、コンクール歴は多く現在イタリアで研鑽を積んでいる途中のようです。1990年に1位を受賞したベレゾフスキーからの絶賛と、今後の輝かしい活躍を期待されている若手のホープですが、まだ録音はなくCDの発売を待ち望んでいる人も多いでしょう。
第十五回 2位 ルーカス・ゲニューシャス
2位のルーカス・ゲーニューシャスは1990年ロシア出身です。2002年第1位の上原彩子が師事したモスクワ音楽院の教授であるヴェラ・ゴルノスターエヴァは祖母にあたるということです。2010年のショパンコンクールでも2位という好成績をあげています。
受賞後は、自国やポーランドなどのフェスティバルやプレトニョフ指揮でチャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番を演奏するなど、すでにピアニストとして活動の幅を広めている途中です。彼の音楽はキラキラと輝く美しい音色と重厚感たっぷりの音量が特徴で、今後が期待されます。
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チャイコフスキーコンクールはモスクワ音楽院と共に永遠に
いかがでしたでしょうか。チャイコフスキーコンクールは、開催国のロシアのピアニストが毎回ほとんど上位を占めることが多いのですが、それにはモスクワ音楽院のエリート教育が不可欠なようです。世界最高のピアニストを大量に輩出する音楽院の存在は大きいといえます。
優秀なピアニストで教師であるゴルノスタエーヴァは「旧ソ連からロシアに変わり、音楽院出身の人たちは海外へ出たり、音楽を捨てたりしなければならない人もいる」と言っています。優秀な音楽家の流出と政治は深い関わりがあり、この先も歴史は変化していくでしょう。ただ、音楽という最高の芸術をロシアは見放さないことを信じる他ありません。チャイコフスキーコンクールもモスクワ音楽院も永遠でいて欲しいと願ってやみません。
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この記事のライター
検査技師をしておりました。現在は家庭に入り、ライター、アンティークドールのディーラー、人形関連の制作と売買、ピアノ講師などをしています。趣味の薔薇や犬、鳥の世話と夫と子供の世話に忙しい毎日です。