ロシアピアニズムの芸術「クラシック通」が好むメトネルの音楽

ロシアピアニズムの芸術「クラシック通」が好むメトネルの音楽

ロシアはピアノ芸術では特に最高の芸術家を数多く生み出しています。あまり一般的には知名度が低いのですがピアニストには人気のある巨匠、メトネルをご紹介します。ロシアの土の香りを強く感じる作品は、実に魅力に溢れた「音の宝箱」なのです。

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アイキャッチ画像出典:c3.staticflickr.com

ニコライ・メトネルという作曲家

出典:pixabay.com

メトネルは1880年にロシアで生まれています。7歳ほど年上にラフマニノフやスクリャービンといった巨匠がいますが、その先輩たちの個性的で圧倒的な芸術性にやや押され気味といった印象が拭えません。ただ、それは「ロシア以外」の西側諸国のイメージであり、自国ではホロヴィッツなどロシアで勉強をしたピアニストは当たり前のこととしてメトネルを学習したようです。
楽譜はほんの15年ほど前までは一部を除き、輸入して手に入れる他はない状態でしたが近年ピアニスト人気が高まるにつれ、すべての楽譜は現在日本でも入手できるまでになりました。

作風は、後期ロマン派の流れを汲み叙情的で、ロシアを強く感じさせるものといえます。「時に例えようもない美しいメロディーは、1度聴くと頭から離れなくなりその魅力の虜となる」と、メトネルの演奏家の1人であるピアニストの「アムラン」が述べています。

メトネルは「おとぎ話」(skazka)という短い曲をたくさん書いていることが特徴的で、日本人の耳には哀愁に満ち憂いある響きに懐かしさを感じるのではないでしょうか。また、ラフマニノフがロシア革命後に亡命を余儀なくされたように、メトネルも母国から離れイギリスを拠点に音楽活動をした後、ロンドンで亡くなっています。そのような似た境遇は、「望郷の想い」という共通点から作風にも「同じ臭い」を感じ取れるのです。

1. 「おとぎ話」作品26の3

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ピアニストがよく演奏している人気曲です。技巧的にも難しくないことや、メトネルらしい哀愁に満ちたメロディーは心に染みてきます。メトネルのファンになる人は、この曲を初めて聴いてということが多いのではないでしょうか。スクリャービンやラフマニノフに続き、どんどんと前衛的で近代的な音楽に移行しつつある時代にメトネルのような「古典的な生真面目さ」を感じるような音楽は、むしろ古い音楽へ逆行していると思われるかもしれません。しかし、一旦その味を知ってしまうと忘れられなくなってしまうのです。それがメトネルの良さということでしょうか。

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2. 「おとぎ話」作品34の2 

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激しい嵐を予感するように左手が鍵盤上を駆け巡ります。曲の最後まで突風が走り抜け、短いながらも演奏効果の高い作品で感動的でもありますが、ロシアではピアノの学習者によく課題として与えられる曲ということです。「かつて私たちのもとにあったものは永遠に去った」というチェッチェフの詩が付けられています。

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3. 「忘れられた調べ」作品38の4 川の歌

川の歌という名前がつけられているように、どことなく淀みなく流れる川の流れを想像させる雰囲気を持った曲です。曲集は7つの曲からなり、それぞれが単独でよく演奏されていますが、中でもこの4番は技術的には一番易しいものではないかと思います。「舟歌」のような、少し小さな波に揺れる様子がよく表れており、ちょっと悲しい感じの作品です。

4. 「忘れられた調べ」作品39の2 ロマンツァ

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メトネルの作品の中で「忘れられた調べ」という曲集のうち、作品38と39は彼の円熟期にあたり、傑作が集まっています。その中で、このロマンツァは短い曲ですが後期ロマン派をしっかり感じさせるような、甘く誘惑するかのようなメロディーがとても美しく作品です。曲集の中では演奏される機会が多くはないものの、メトネルの魅力が凝縮された感動的な音楽となっています。

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5. ソナタ エレジー 作品11の2

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ソナタといっても各楽章が分かれずに、休まず最後まで一気に演奏するようになっています。「エレジー」とは「悲歌」と邦訳しますが、その名前の通り短調であり悲しみを感じさせる曲です。ただ、静かに悲しみに暮れるというよりは激しい感情をぶつけているように思います。中間部に、美しい印象的なメロディーが二度に渡り繰り返され、最後は激昂するかのように一気になだれ込んでいく見せ場があります。

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底知れない芸術性の高さとロシアのピアノ教育

いかがでしたでしょうか。メトネルは1800年代の世紀末の人です。この頃の音楽界は、巨匠がたくさん生まれていますが、それぞれ高い芸術性と個性を持ち音楽界は歴史的にも最良の時代でした。メトネルは、その中で知名度は高いといえませんが現在たくさんのピアニストが作品の演奏をしており、徐々に巨匠として知られるようになっていくでしょう。その音楽の魅力をぜひ知っていただきたいと思います。

ロシアという国はロシアからソビエト連邦に変わり更にロシアへとめまぐるしく変化していますが、芸術とりわけ音楽については底知れない実力の音楽家を次々に排出してきたのです。特にモスクワ音楽院においてのピアノ教育は徹底しており、早熟な天才児が「うようよ」と世界へのデビュー待機をしていると言われています。ただ、世界的なコンクールなどに出ることができず国内に限って活動しているということですから、底知れない恐ろしさを感じるばかりです。将来のメトネルもその中にいるかもしれませんね。

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この記事のライター

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検査技師をしておりました。現在は家庭に入り、ライター、アンティークドールのディーラー、人形関連の制作と売買、ピアノ講師などをしています。趣味の薔薇や犬、鳥の世話と夫と子供の世話に忙しい毎日です。

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