アントンとニコライ・ルビンシュタインのロシアピアニズムの始まり・師と弟子は永遠に
数多くのピアニストを生み出すモスクワ音楽院は、1866年にアントン・ルビンシュタインによって創設されました。それは現代に続く、ロシア随一の高い技術力を誇るピアニスト養成校です。ピアノの世界を高い芸術性で極めてきたのは、優れた師から弟子へとつなぎ続けたことがあります。
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ロシアピアノ音楽の夜明け
出典:pixabay.com
ロシアのピアノ音楽の歴史は古く、グリンカに始まりアントンとニコライ・ルビンシュタインのたゆまぬ努力と情熱により現代のロシアのピアノ教育に受け継がれました。現在、ピアノの国際コンクールは世界各地で行われていますが、上位入賞者の多くはロシア(旧ソ連を含む)出身やロシアでピアノを勉強したピアニストです。
ロシアピアニズムの始まりを創り、優秀な指導者が次の後継者を作り、そして次のピアニストがまた次の弟子へと延々と続くという伝承を脈々と繰り返しています。その技法や曲の解釈などを「師の遺産」として引継ぎ、それに自分の個性を加えていくということは大変なことです。今回は、ロシアのピアニストの始まりを創った「師」と弟子たちをご紹介いたします。
アントンとニコライ・ルビンシュタイン
アントン・ルビンシュタインは1829年ユダヤ系ロシア人とドイツ人の母親との間に生まれています。母親にピアノの手ほどきを受けたあと頭角を現し、後に「サンクトペテルブルク音楽院」を創設しています。ベートーベンのような風貌で、大きな体格と男らしい大きな手で現在のロシアスタイルのピアノの奏法である、「ピアノの音を鍵盤の底からたたき出すような」弾き方をしていたようです。
弟のニコライは1835年に生まれ、同様にピアノを始めましたが才能は兄以上で、1866年にロシアで最高の音楽校であるモスクワ音楽院を創設しています。チャイコフスキーがピアノ協奏曲第一番の草稿をニコライに見せたところ、批判的であったためチャイコフスキーはひどく失望した話は有名です(後にニコライはその評価を撤回していますが)。
ニコライの生徒で有名な人はアレクサンドル・ジロティでしょう。彼はリストの弟子でもあり、男前で性格が良く人から好かれたということです。彼の弟子には後の巨匠ラフマニノフ、優秀な教師のゴリデンヴェイゼル、イグムノフなどがいます。
また、チャイコフスキーとの仲良く並んだ写真は有名で、その関係(チャイコフスキーは男色家という説がある)も取り沙汰されました。ニコライは1881年に、弟子のジロティは1945年にこの世を去っています。
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グスタフ、ゲンリヒ、スタニスラス・ネイガウス
ネイガウスの名前はモスクワ音楽院では伝説的に有名といえるかもしれません。ゲンリヒ・ネイガウスはモスクワ音楽院でユダヤ系のピアノのクラスを受け持つ名物教授でした。彼は1888年生まれで、ドイツ系ユダヤ人の父親とポーランド人の母親の間に生まれました。父親はグスタフ・ネイガウスでピアニストです。
ゲンリヒは父親の弟子である「ブリュメンフェリト」にピアノを習いましたが、師はゲンリヒの叔父でもあり作曲家カロル・シマノフスキの従兄弟です。つまりゲンリヒ・ネイガウスはシマノフスキの血を引いていることになります。また、後にゲンリヒは離婚していますが、息子のスタニスラス・ネイガウス(後の大ピアニスト1927年~1980年)は弟子でもあります。
スタニスラスの母親はスタニスラスを連れて、ポリス・パステルナーク(作家でありドクトル・ジバコの作者)と再婚しました。パステルナーク家も代々芸術家の家系であるようです。スタニスラスは、後にモスクワ音楽院で父親のピアノのクラスに入っています。また、スタニスラス・ネイガウスも、父親同様に離婚し別れた妻が息子を連れて出ています。
その息子というのが「スタニスラス・ブーニン」で、ショパンコンクール1985年第1位になり、「ブーニン・フィーバー」で大人気となったピアニストです。ただ、この親子関係には師弟関係はありません。ブーニンはモスクワ音楽院ではゴリデンヴェイゼル系統で学びました。親子ですが音楽的にはつながりはないことになります。しかし、グスタフから4代続くピアニストとしての家系には驚異を感じます。
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アレクサンドル・ゴリデンヴェイゼル
文豪トルストイと仲がよかったゴリデンヴェイゼルは1875年ロシアの生まれで、モスクワ音楽院ではジロティに学んでいます。イグムノフと同じ師であるパブストに学び、弟子には後に現代まで脈が続くサミュエル・フェインベルクとギンズブルグ、ニコライエワがいます。その孫弟子にはルガンスキやニコライ・ディミジェンコ、ダン・タイ・ソン、スタニスラス・ブーニンなど現在最高のピアニストたちが継ぎました。
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コンスタンチン・イグムノフ
パブストに学んだイグムノフは、1873年生まれです。最初はズヴェーレフ、ジロティに学びゴリデンヴェイゼル同様にパブストに教えを受けました。演奏技術は非常に高いことで知られており、弟子はそれぞれ大ピアニストとして活躍しました。
ショパンコンクール第一回1位のオボーリン、フリエール、ベラ・ダヴィドヴィチという伝説的なピアニストたちです。更に孫弟子にはレオンスカヤ、ガヴリロワ、フェルツマン、ミハイル・プレトニヨフ、エゴロフ、そして現在最高のピアニストであるアシュケナージがいます。
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テオドール・レシェティツキ
1830年、ポーランドに生まれたレシェティツキーは神童として知られていたようです。師はベートーベンの弟子であるツェルニー(現在ピアノの教則本で有名)。後にアントン・ルビンシュタインに招かれてペテルブルグ音楽院の教授になり、優秀な弟子を多く育て脈々と教えが受け継がれ続けています。
その一番太い脈はワシリー・サフォーノフという後のモスクワ音楽院学院長につながっていきます。孫弟子には大作曲家スクリャービン、メトネルなどです。また、レシェティツキの弟子のひとりエシポワはプロコフィエフという巨匠を生み出しています。
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ロシアのピアノ芸術は永遠に
いかがでしたでしょうか。ロシアのピアニストの歴史は、その師と弟子の関係が代々受け継がれ現代に脈々と続いています。ご紹介しました人たちはほんの一部であり、世界的な知名度があまりない人であっても国内で後進の指導をしている優秀なピアニストたちなのです。
もし彼らがロシアを去っていたとしても、世界のどこかで師の音楽に対する愛情やピアノ演奏法と内面の深い理解や知恵を伝え続けるに違いないでしょう。アントンとニコライ・ルビンシュタインが始めた素晴らしいロシアのピアノ芸術を今後も永遠に伝え続けてほしいと願って止みません。
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この記事のライター
検査技師をしておりました。現在は家庭に入り、ライター、アンティークドールのディーラー、人形関連の制作と売買、ピアノ講師などをしています。趣味の薔薇や犬、鳥の世話と夫と子供の世話に忙しい毎日です。