日本酒有名蔵元が醸す、隠れた逸品「粕取焼酎」10選
日本酒製造の過程でできる副産物「酒粕」。これを原材料として作られるのが「粕取焼酎」です。元々米の豊作を祝福する酒としてたしなまれ、福岡や佐賀など北九州を中心に拡まりました。そこで、有名日本酒蔵元が醸す「吟醸粕取焼酎」と昔ながらの製法を守る「正調粕取焼酎」に分けてご紹介します。
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アイキャッチ画像出典:www.flickr.com
酒粕から造られる焼酎がある!
日本酒作りで最後に残る酒粕。捨ててしまうには惜しい、杜氏たちの思いが粕取焼酎を生み出しました。さまざまな焼酎が店頭に並ぶいま、あえて酒粕を使って焼酎作りをする蔵元は少なくなりました。しかし、銘酒と呼ばれる日本酒を醸した酒粕が旨くないわけがない。日本酒の名蔵元が醸す隠れた逸品「粕取焼酎」をご紹介します。
粕取焼酎とは
そもそも粕取焼酎とはどんなものでしょうか。日本酒作りの副産物「酒粕」には、約8%のアルコール分が残っており、この酒粕を原料とするのが「粕取り焼酎」。元々はこの酒粕から「下粕」と呼ばれる稲作の肥料を作る過程で偶然生まれたという説があり、これが意外にうまかったというわけ。古くは「早苗饗(さなぶり)焼酎」と呼ばれ田植えを終えた祝いの酒として親しまれてきました。製法は太宰府天満宮の「神領田(しんりょうでん)」(神様に備える稲を作る田んぼ)のある地域から広がったと伝えられている。製法はいたって簡単、酒粕にもみ殻を加えて混ぜ、せいろ式の蒸留機で蒸留して造られます。
吟醸粕取焼酎
粕取焼酎は大きく2種類に分類されます。日本酒で酒米を50%〜60%以下まで精米して作られるものを吟醸や大吟醸と呼ばれている。この酒粕を使った粕取焼酎を「吟醸粕取焼酎」といい、さわやかな吟醸香がただよう、上品ですっきりとした味わいが特徴。また、酒粕に水や酵母を加え再発酵させたものもあります。
正調粕取焼酎
日本酒を搾ったあとの酒粕に水を加えると酵母により再発酵が始まります。十分にアルコール発酵がすすんだところで、もみ殻を混ぜて蒸気の通りを良くし、蒸篭(せいろ)型蒸留機にかける。江戸時代から続く伝統的な製法ですが、あまりに手間がかかり採算が取れないというのが悩みの種。その昔ながらの製法を守って造られるものを「正調粕取焼酎」と呼び、香ばしさと甘み、強烈な飲みごたえがあり、時に「クサイ」と言わせるほどの香りを放ちます。
粕取焼酎の飲み方
生、ロック、水割り、お湯割と定石通りの飲み方が楽しめます。しかし、古くから親しまれている粕取焼酎独特の飲み方が「糖類添加」。砂糖や蜂蜜などの甘味料を加えて飲むのです。甘味料の種類にはこだわりはなく地方によってさまざま。「粕取焼酎」初心者におすすめの飲み方です。
「吟醸粕取焼酎」6選
基本的に一般の酒屋さんでは入手できません。手間がかかる割に需要が少なく、採算が合わないことから、地元で消費できる分量しか作らないところが多いからです。ここではAmazonに掲載されている銘柄を中心に吟醸粕取焼酎を6銘柄、正調粕取焼酎を4銘柄、番外としてレアな正調粕取焼酎を1銘柄ご紹介します。
獺祭 焼酎【旭酒造】
「獺祭(だっさい)」といえば、日本酒ファンには外せない銘柄。獺祭を生み出した旭酒造は純米大吟醸だけに専念するという経営方針のもと、酒造りの過程を詳細にデータ化し、杜氏に頼らないノウハウを完成しました。その獺祭を生み出した大吟醸酒の酒粕を再発酵させて蒸留した焼酎です。純米大吟醸の香りを色濃く残しつつ、軽やかな味わいを実現しています。
宜有千萬(よろしくせんまんあるべし)【八海山】
清酒「八海山」を生み出した八海醸造株式会社が作る粕取焼酎が「宜有千萬」(よろしくせんまんあるべし)。新鮮な酒粕を原料にゆっくりと時間をかけて蒸留しました。3年以上貯蔵することで、味に円熟したまろやかさがただよい、吟醸酒の風味が加わったふくよかな焼酎に仕上がっています。
古酒 乙焼酎【石本酒造】
石本酒造と言えば清酒「越乃寒梅」を世に送り出した酒造会社。新潟市のほぼ中央に位置する亀田郷地域で江戸時代から作られてきた日本酒「越乃寒梅」、日本酒ファンでなくてもこの銘柄を知らない人はいないでしょう。乙焼酎は、石本酒造の2代目が抱いていた「蒸留酒を作りたい」との思いを引き継ぎ平成2年に誕生。大吟醸酒の酒粕に米を加え再発酵、減圧蒸留し冷凍濾過、その後5年間熟成させました。吟醸香の広がりと、長期熟成のまろやかさが口に広がります。
節五郎【菊水酒造】
日本酒「ふなぐち菊水一番しぼり」を醸す「菊水酒造」、新潟県を代表する銘柄の一つです。この菊水の酒粕を使って造られた粕取焼酎が「節五郎」。減圧蒸留を行なっているので、雑味が少なく透き通るようなクリアな味わいとフルーティーな香りが信条。酒粕由来のほのかな甘みが残ります。
北雪 焼酎つんぶり【北雪酒造】
明治5年、佐渡島の小さな港から酒造りが始まりました。平成5年から「北雪酒造」と名前を変えて、創業以来の伝統と熟練の技に近代技術を加え、新しい日本酒造りを行なっている北雪酒造。ここで作られる粕取り焼酎が「つんぶり」。減圧蒸留機を用いて酒粕の香りと旨味を閉じ込めました。「つんぶり」という名前は佐渡方言で「いただき(頂点)」という意味がある。清酒だけでなく焼酎でもトップクラスでありたいという意気込みを感じさせます。
七田 吟醸粕取焼酎【天山酒造】
明治の初めから佐賀県小城市で清酒「天山」を作り続ける酒造会社が「天山酒造」。「七田」は県外向けに販売されるブランドです。吟醸酒の酒粕を原料とし作られる「七田 吟醸粕取焼酎」は、豊かな吟醸香とキレのよい飲み口が楽しめる。雑味は全くなく、フルーティーな香りとアルコールの甘さが渾然一体となって、水割りやロックで楽める逸品です。
【正調粕取焼酎】4選
昔ながらの製法を守る正調粕取焼酎ですが、あくまで日本酒製造の副産物として作られます。どの蔵も日本酒をつくりながら、地元で求める人のために製造を続けているのが現状。そんな正調粕取焼酎の中から比較的入手しやすいものを中心にご紹介します。
博多小女郎 粕取焼酎 大亀【光酒造】
ここ光酒造は焼酎専門の蔵としてスタートしたという珍しい歴史があります。主力商品は麦焼酎「博多小女郎」、他にも米焼酎、にんじん焼酎といったものまであるのですが、清酒「西乃蔵」の製造は平成に入ってからでした。粕取焼酎「大亀」の香りは非常に落ち着いて、もみ殻特有の焦げ臭はあまり感じません。落ち着いたまろやかさを感じさせる濃醇な味わいが特徴です。
正調粕取焼酎ヤマフル35°【鳴滝酒造】
正調粕取焼酎らしいもみ殻臭が鼻を刺激します。くさや、鮒寿司など「クサイ食品ほどウマイ」というのがいわれますが、美味いとわかっていても慣れるまでが大変。味は香りほど癖がなく、口に含むと熟成したまろやかさが広がります。クサイを通り越して美味いと感じた時の感動を味わってみましょう。
粕取焼酎 三隈(みくま)【クンチョウ酒造】
「一部の熱烈なファンから熱い支持を受けている」と酒造会社自身に言わせる個性派たっぷりの焼酎です。頑固さが口から鼻から強烈に伝わってくる。「飲みたい者だけが飲めばいい」、まさに昔気質の粕取焼酎です。アルコール度数が25度と35度があり、初心者はマイルドで飲みやすい25度から始めるのがおすすめだそうです。
粕取焼酎 辰泉【辰泉酒造】
会津の米と会津の水を存分に生かして醸される清酒「辰泉」。辰泉の酒粕を原料に杉材を使った「サナ」と呼ばれる蒸篭(せいろ)式蒸留機で昔ながらの製法を守りながら造られます。もみ殻の焦げ臭さはウイスキーのピート臭にも似ているとか。いわば焼酎界のシングルモルトでしょうか。
超レア 富源(ふげん)【浜嶋酒造】
番外として正調粕取焼酎のなかから、現地でしか入手できない超レアな銘柄を一つご紹介します。大分県大野郡緒方町で「鷹来屋」という銘柄の日本酒を醸し続ける酒造所が「浜嶋酒造」。かつてはどこの日本酒を醸造する蔵元でも造られていた粕取り焼酎ですが、そのほとんどは地元で消費され一般に流通することは少ないのです。この「富源」も地元緒方町から大野町の一部だけで流通しており、ネット販売も行われていません。「粕取焼酎を濾過すると、その機械は他の酒の濾過に使えなくなる」と言われるほどに、個性的で強烈な香りが特徴。味わいは臭いに反して穏やかで深みがあり、甘露という言葉が似合います。
クサイがウマイに変わるとき
いかがでしたか。「粕取焼酎」という名前を初めてお聞きになった方もあるでしょうか。まだまだ、日本には素晴らしい焼酎が眠っています。残念なのは正調粕取焼酎の生産が危機的状況にあること。とはいえ、この強烈な臭いこそが粕取り焼酎の命かもしれません。強烈なクサイがウマイに変わったとき、心地よい酔いが体中を駆け巡る不思議な飲みのもです。