感動と驚嘆の嵐の10編！短編アニメーション映画は良作揃い

観ないのはもったいない。短編といえど完成度が高いアニメーション映画

1930年代から、米アカデミー賞には“短編アニメ映画部門”が設けられ、古くから映画のひとつのカテゴリーとして認められてきました。しばらくの間、ディズニーアニメやトムとジェリー、ルーニー・テューンズなどファミリー向けアニメが候補、受賞作になることが多かったのですが、70年代に入ると、『月曜休館』『砂の城』といったクレイアニメーション作品が受賞するようになり、より芸術性の高い映画も増えてきました。2000年に入る頃には、テクノロジーがどんどん進化し、CGアニメーションの短編作品も珍しくなくなりました。さらに今では、誰もが自分で創作した映像作品をインターネットに簡単にアップロードすることができる時代です。YouTubeやVimeoといった動画共有サイトでは、玄人はだしの短編アニメ映画が山ほど閲覧でき、世界的な話題となることも少なくありません。
　ここでは、短い時間にもかかわらず、感動と驚きがギュッと濃縮された「観ないのはもったいない」短編アニメ作品10編をご紹介します。正統派から変わり種までアニメーションの手法は様々ですが、どの作品も、長編映画を鑑賞したときと同じ、あるいはそれ以上の感慨深さを与えてくれるでしょう。

つみきのいえ

アカデミー賞で世界が注目した日本人監督による短編アニメ

加藤久仁生監督による2008年の短編アニメ映画『つみきのいえ』は、アカデミー賞短編アニメ賞を獲得した初めての邦画です。海面が上昇し続けて建物が水没していく街で、上へ上へと増築した、まるで積み木のような家にひとりで暮らす老人。ある日、お気に入りのパイプを水中に落としてしまい、彼はダインビングスーツを着込んで海に入ることに。深く潜れば潜るほど、過去を遡るかのように海面が低かった頃の昔の家にたどりつき、そこで過ごした懐かしい思い出が脳裏に蘇るのでした……。全編セリフはなく（日本語版のみ長澤まさみのナレーション入り）、柔らかな画風の映像とBGMだけ。老人の日常と過去が、凪の水面のように静かに美しく綴られていきます。生きた分だけ、人生の軌跡は海のごとく深くなるのだと胸を打たれることでしょう。本作は、監督の手で絵本化もされました。ページをめくるたびに、映像と同じような感動があなたを包み込みます。

赤い糸

人生の機微をこまやかに語る一筆書きアート

2011年から2016年まで「報道ステーション」のオープニング映像を飾っていた赤い糸の一筆書き映像。いまだ記憶に残っている方も多いと思います。当時は、月曜日から金曜日まで、「成長」「職業」「恋愛」「世界」「家族」と曜日ごとに異なる5つの映像が流れていました。それぞれが一筆書きとは思えぬ緻密さと躍動感、豊かなメッセージ性にあふれ、たった20秒の映像が有する奥行きのある世界観が印象的でした。この映像を生み出したのは、映像作家の奥下和彦氏。彼が手がけた「報道ステーション」のオープニングはグッドデザイン賞を受賞、その才能は幅広く認められることになりました。
そんな奥下氏の原点ともいえる映像が、YouTubeおすすめ動画TOPに掲載され、YouTube Video Awardのノミネート作品となった自主制作アニメ『赤い糸』です。
　ひとりの男の子が成長し、思春期を迎え、恋愛と別れを経験し、やがて運命の赤い糸で結ばれた女性と……というひとつの物語が、赤い一筆書きの線画で描かれていきます。線画ですから、詳細が全て表現されているわけではないのですが、映像が何を示しているのかは一目瞭然ですし、逆に描き込まれていない分、想像力が掻き立てられます。テンポ良く流れていく赤い糸が紡ぎ出す約4分の物語を、ぜひご自分の目で堪能してください。

奥下和彦氏の公式HP

On Your Mark

たった7分弱でも長編1本分を観た気分になれる伝説のジブリアニメ

地上では緑があふれているというのに、放射能汚染により病が蔓延し、人類は地下都市で暮らさざるを得なくなった世紀末。あるカルト教団の施設を武装警官隊が襲撃し、若き警官2人が施設の奥で翼の生えた少女を発見する。彼らは、研究資料として政府機関に連れ去られた少女をなんとか助け出そうと試みるのだった──。1995年に『耳をすませば』と同時上映されたスタジオジブリの短編アニメ『On Your Mark』は、もともとCHAGE&ASKAの楽曲のプロモーションフィルムとして制作されたものでした。わずか7分弱の長さにもかかわらず、細部まで描き込まれたジブリブランドの美しい映像は音楽とともに多くを物語り、全くセリフがなくても深いメッセージが観る側に伝わって長編映画を味わった気分にさせてくれます。
　すでに20年以上の前の作品ですが、今観ても、全く古さを感じさせないどころか、この20年で大きく変化した世の中を重ね合わせると新しい発見があって、ハッとさせられます。この作品は根強い人気を誇り、『On Your Mark』をためにジブリの短編集DVDを買い求めたという声も多く聞かれるので、まさに伝説のジブリ作品と言えるでしょう。

On Your Mark。 原作・脚本・監督 宮﨑 駿 製作 Real Cast Inc. 制作 スタジオジブリ 音楽 飛鳥涼 主題歌 CHAGE&ASKA 上映時間 6分48秒 配給 東宝（「耳をすませば」と併映） 公開日 （） .

Out of SIght （敲敲）

YouTubeで話題沸騰！　台湾の学生による目の見えない少女が“見る”世界

国立台湾芸術大学の3人の学生が、卒業制作のために作った短編アニメをYouTubeにアップしたところ、その丁寧な仕事ぶりと爽やかな感動を呼ぶ内容が日本でも大きく話題となりました。投稿されたのは2010年ですが、それから約7年が経過し、閲覧数は500万を超えています。
　目の見えない少女が犬のコウコウを連れて散歩している途中、引ったくりに遭い、カバンを盗まれてしまいます。コウコウは泥棒を追いかけていき、ひとり道端に取り残された少女は木の枝を拾い、それで建物の壁を叩きながらコウコウを呼び続けます。当然のことながら、少女の瞳に、我々が見る現実の世界は見えていません。しかし、木が何かに触れたときに立てる音、彼女のそばを通りすぎる人の気配、ベーカリーから漂う香ばしい匂いなど、音や匂いによって、彼女の“見る”世界がどんどん構築されていく様が秀逸です。可愛らしいタッチで描かれる少女の素敵な世界の広がりを、あなたも共有してください。

紙ひこうき

2012年のオスカー受賞作！CGと手描きの線が調和したディズニーのモノクロ作品

山積みの書類を持って電車を待っていたジョージは、偶然同じプラットホームでメグという女性と居合わせる。その場で別れた2人だったが、会社に到着した彼が窓の外を見ると、なんと隣のビルにメグの姿が！　ジョージは書類で紙飛行機を折って飛ばし、彼女に気づいてもらおうとするのだが、なかなかうまく行かず……。第85回アカデミー賞短編アニメ賞を獲得したのは、ディズニーの『紙ひこうき』というモノクロ作品。セリフのない中、柔らかなアニメーションの動きや表情、BGMが効果的にストーリーを盛り上げてくれます。監督のジョン・カースはこれが初監督作でしたが、従来の手描きのラインとCGの線が絶妙に調和する新しい手法を生み出しました。たわいのない男女の出会いの物語ですが、ジョージの頑張りに思わず応援し、2人の恋の行方に胸がキュンとする素敵な6分半が体験できます。

Pearl

ついにアカデミー賞にもVR化の波。360度見渡せるグーグルの短編アニメ

2016年のアカデミー賞短編アニメ賞に、初めてVR対応作品がノミネートされ、話題になりました。候補作となったのは、グーグルによって制作された『Pearl』です。ストリートミュージシャンの父と娘のロードムービーである本作は、2014年の同賞を受賞したディズニーの『愛犬とごちそう』のパトリック・オズボーン監督によるもの。幼かった少女がやがて反抗期を迎え、父親に反発しつつも成長していく姿が、「No Wrong Way Home」の心地よい音楽に乗せて描き出されていきます。YouTubeにアップされている動画では、助手席からの視点で映像が流れますが、実はこれ、VRだけでなく、パソコンやスマホでも360度全方向見ることが可能なんです（スマホで360度視聴するには下記のアプリが必要）！　
　この作品以外にも、グーグルは『HELP』という360度視聴可能なモンスターパニック作品も手がけています。クリーチャーに追われて逃げる女性と一緒に逃げている気分が味わえますので、こちらも併せて楽でみてください。

彼女と彼女の猫

『君の名は。』で社会現象を巻き起こした新海誠監督の原点

2016年8月に公開されるやいなや、大ヒットを記録して社会現象にもなったアニメ映画『君の名は。』。海外でも公開され、興行収入は240億円を突破しました。国内の歴代映画興行収入ランキングは、『千と千尋の神隠し』（308億円）、『タイタニック』（262億円）、『アナと雪の女王』（254.8億円）に次ぐ第4位という記録となっており、まさに世界を席巻した作品となったわけです。その『君の名は。』を作り出した新海誠監督が、1999年に完全に個人で作った（語り手の猫の声まで担当！）自主制作アニメーションがあります。タイトルは『彼女と彼女の猫』。わずか5分弱のモノクロ作品ですが、緻密な作画やカット割りの絶妙さは、まさに新海監督ならでは。彼の原点ともいえる作品ですので、一見の価値は十二分にあります。

ある夏の一番暑い日、彼女と、彼女の飼い猫"僕"との暮らしが始まった。彼女にとって"僕"と過ごす時間は、とても大切なものだった。しかし、家族のことや、友達のこと、将来のこと...いろいろなことがうまくい...

The Duet

元ディズニーのアニメーターによる美麗な手描きアニメーション

ひとつの細胞が、やがて赤ん坊となり、成長してたくましい青年になっていく。そして彼は、ひとりの可憐な少女と出会い──。そんなストーリーが夜空のようなブルーの背景としなやかな線画で描かれる『The Duet』は、ウォルト・ディズニーのアニメーターをしていたグレン・キーン氏の手によるもの。ディズニー作品に20年以上携わり、『リトル・メーメイド』のアリエルや『美女と野獣』などの野獣などを手がけてきたベテラン中のベテラン、キーン氏の匠の技が、シンプルな短編アニメに集約されています。
　本作はグーグルのSpotlight Storiesで楽しめるインタラクティブ・アニメですので、アプリをダウンロードして、携帯でも鑑賞が可能（アプリは『Pearl』の項を参照）。美しい旋律に乗せて映し出される映像に、思わずため息が漏れることでしょう。メイキングの様子も動画で見ることができます。

岸辺のふたり

世界各国の映画賞に輝いた珠玉の短編に涙する

かつて「あなたの大切な人は、今、どこにいますか？　別れから始まる小さな物語……」というキャッチコピーで紹介された『岸辺のふたり』は、2001年の米英アカデミー賞をはじめ、世界各国の映画賞を受賞した名作です。幼い娘を残し、岸辺からボートに乗って去ってしまった父。父の面影を求め、少女は父と最後に別れた場所を訪れ続けます。流れる月日、繰り返される四季とともに少女は大人になり、やがてある奇跡が──。この作品の監督、デザイン、ストーリー制作の3役を務めたのは、オランダ生まれのマイケル・ドュドク・ドゥ・ヴィッド。彼は、スタジオジブリが製作に関わり、2017年アカデミー賞短編アニメ賞候補にもなった『レッドタートル　ある島の物語』の監督でもあります。
『岸辺のふたり』にはセリフがありません。「ドナウ川のさざ波」の哀愁漂うアコーディオンの音色が、ストーリーにより豊かな表情を与え、観た後にあなたは、深い余韻に包まれることでしょう。

Celles et Ceux des Cimes et Cieux

ジブリへの愛があふれるフランス人学生が作ったファンタジー映像

2年ほど前に、アニメーションを学ぶフランス人学生グウェン・ジャルマンさんが動画共有サイトVimeoに投稿した映像が話題になりました。彼の自主制作アニメである『Celles et Ceux des Cimes et Cieux（あの山と空）』という3分に満たない動画は、ジブリ作品へのオマージュが明らかに色濃く出ている作品だったからです。大木の上に作られた集落に暮らす青年、が謎の生物に襲われて地表に落下。地上の世界に迷い込むものの、そこで出会った2人の手を借りて元の場所へ帰ろうとするというストーリー。映し出される風景は、『風の谷のナウシカ』を連想させ、随所に『もののけ姫』『ゲド戦記』『ハウルの動く城』『千と千尋の神隠し』などを彷彿とさせるシーンが登場します。歴代ジブリ作品への深い愛情に満ちた、幻想的な世界観で繰り広げられる冒険物語。そのクオリティをご自分の目で確かめてみてください。

世界中の才能が生み出す優れた短編アニメーションを発掘せよ！

今日も世界のどこかで、優れた才能が生みだした良質の短編アニメがインターネット上にアップされています。映画は、映画館やDVDで観るだけのものではなくなり、パソコンやスマホでどこでもいつでも観られるエンターテインメントに変わってきました。短編アニメ映画の世界は、かつては手描きアニメーションに偏っていましたが、人形アニメーション、クレイアニメーション、CGアニメーション、3D、VRと手法が多様化し、どんどんその可能性は広がりを見せています。次は、あなた自身が才能を世界に知らしめる番かもしれませんし、あなたが次世代を担う才能を発掘することになるかもしれません。
　最後に番外編として、数年前にYouTubeで大きな話題になった高校生が作った動画をご紹介します。まるで洗練された映画の予告編を観ているかのような気分にさせてくれますが、その内容は……。ぜひとも動画を見て確認してください。