呼吸を忘れてしまう程に美しくも残酷な「鬱映画」おすすめ10選
救いのない陰鬱で残酷な環境において、人はその本質を露わにします。ときに、その溢れ出た感情は美しい芸術のように私たちの心を惹きつけます。今回は、思わず目を覆いたくなるような、それでも見るのを止められないオススメの暗い鬱映画を紹介します。
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アイキャッチ画像出典:theaterguild.co
ゆれる
東京で華やかな生活を送るカメラマンの猛と、実家で小さなガソリンスタンドを継ぐ弟想いの兄、稔。母の一周忌を機に帰省した猛は、そこで兄が想いを寄せる幼なじみの智恵子と関係を持ってしまいます。その翌日、3人でドライブに出かけた渓谷の吊り橋で、智恵子は橋から落ちて命を落としてしまいます。
「蛇いちご」「ディア・ドクター」など、脚本から監督までこなす西川美和監督の作品。小さな揺れがもたらした悲劇はやがて兄弟の関係にまでその影響を広げていきます。殺人の罪で起訴された兄を、始めは庇う弟。しかし今までに見た事のない兄の持つ闇に触れて、彼は自分を見失います。何が真実なのかわからない。自分自身の感覚はとても不確かなものであるということを伝えてくれる作品です。最後の兄の表情が意味するものは、まさにこの作品の持つ曖昧さにマッチした余韻の残るものになっています。
リリイ・シュシュのすべて
中学の同じクラスで仲の良い蓮見と星野。夏休み、2人は友人たちと旅行に行きます。そこで起こったある事件を境に、星野は変質し、蓮見をいじめの対象へと変えていきます。そんな蓮見の救いは、カリスマ性を持つ歌手「リリイ・シュシュ」と、そのファンとのインターネット上での交流でした。
独特の映像美、世界観で有名な岩井俊二監督の作品。観ていて言葉を失います。幼さ故の残虐性と閉塞感、ひたすらに救いを求める少年少女の行動がここまで写実的に、そして美しく描かれている作品を他に知りません。それぞれに救いを求める彼らの行動と、彼らにやってくる異なる結末。それは救いのようなある種の絶望であり、観る者の中でいつまでも反芻します。シナリオ、登場人物、カメラワーク、音楽とすべてが見事に調和された岩井俊二ワールドを堪能してください。
ヴァンパイア
アルツハイマーの母親と暮らす、高校教師のサイモン。彼は日々、自殺仲間を募る”自殺サイト”で、血を提供してくれる人を探していました。
こちらも岩井俊二監督。自殺幇助というタブーを扱った作品。十字架も陽の光も恐れないサイモンは、死に惹かれてしまいます。たとえ彼が死よりも魅力的なものを見つけたとしても、もはや彼を受け入れてくれる場所はどこにもありません。設定が少し現実離れしているので映画の中に入り込むのに少し苦労します。しかしやはりその美しさに目を奪われてしまいます。
ダンサー・イン・ザ・ダーク
女手一つで息子を育てるセルマは、目の病気を患い視力を失いつつあります。その病気は遺伝性で息子にも症状が出始めていました。貧しい彼女は息子の手術費用を貯めようとはしますが、ある日職場を解雇されてしまいます。
鬱映画で有名なラース・フォン・トリアー監督が、歌手ビョークを主演に起用した作品。降りかかる不幸を空想で凌ぎ、息子を思う愛を愚直に貫ききった母の姿が描かれています。空想のミュージカルに響く彼女の歌声は圧巻です。誰もが「ミュージカルのままであってくれ」と願ってしまう程に、悲しい映画です。
MIST(ミスト)
スーパーマーケットで息子と買い物をしていた主人公は、突如発生した人間を襲う謎の霧に覆われ外に出られなくなります。
「ショーシャンクの空に」「グリーンマイル」のスティーヴン・キング原作、フランク・ダラボン監督の作品。タイトルにもなっている霧の世界はほとんど描かれません。極限状態に陥った時に現れる人間の醜さと恐ろしさ、安全なはずの人間社会の中にこそ危険が隠れているという皮肉が描かれています。またラストシーンは原作にはない映画オリジナルであり、原作のスティーブン・キングが絶賛したとまで言われているので是非観てみてください。
父の秘密
妻を亡くしたロベルトは娘のアレハンドラとともに新たな土地にて生活を再スタートさせます。転校先で友人などもでき、徐々に元気をと取り戻していくアレハンドラ。しかしある日、彼女の性行為が盗撮された映像がインターネットに流れます。学校での壮絶なイジメを受ける彼女は、失踪してしまうのです。
メキシコ出身、マイケル・フランコ監督の2作目にあたる今作は、カンヌ国際映画賞「ある視点」部門でグランプリを受賞しています。イジメシーンの描写が壮絶かつリアリティ溢れており、気分が落ち込みます。このシーンを目の当たりにして、父のとった行動を非難できる人はいるのでしょうか。
ミリオン・ダラー・ベイビー
小さなボクシングジムを営むフランキーのもとに、女性ボクサーのマギーが現れます。女性な上に年齢も31歳というマギーを始めは相手にもしなかったフランキーですが。彼女のやる気に影響を受け、トレーニングを始めます。徐々に才能を開花するマギーはプロデビューし、タイトルマッチに出場するまでになります。
クリント・イーストウッド監督作品。本当に大切な人だからこそ苦しんで欲しくない。その意思を尊重したい。この思いが尊厳死という形で現れています。残された彼は永遠に冷めない夢に囚われてしまいます。それはまるで死と同義なのではないでしょうか。
セブン
退職まであと1週間のベテラン刑事、サマセットと熱い新人ミルズはとある連続殺人事件に巻き込まれます。やがて事件はキリスト教の「七つの大罪」をモチーフに行われていることに気づく2人。彼らは着実に犯人へと近づいていきます。
デヴィッド・フィンチャー監督、ブラッド・ピット主演の作品。彼らは今作以外にも「ファイト・クラブ」「ベンジャミン・バトン」などでも組んでいます。猟奇的な事件がとても陰鬱に、最後まで一貫して描かれています。そしてラストシーンで主人公へ降りかかる絶望と、それに対して彼の中で生じた理性と感情のせめぎ合い。溢れ出す感情はとても美しく、思わず見とれてしまいました。
16歳の合衆国
16歳の少年リーランドは、恋人ベッキーと知的障害を持つ彼女の弟と共に仲睦まじい生活を送っていました。しかしある日、彼は彼女の弟を刺し殺してしまいます。
自身が矯正施設の教員を務めていたというマシュー・ライアン・ホーグ監督による作品。施設の教師とのやりとりを通して徐々に明らかになる、あまりにも感受性が豊かな主人公がとった正義。私たちは彼の選択を責めることはできるのでしょうか。彼が口にする「大丈夫だよ。約束する。」という優しいセリフは、とても儚くただただ悲しい。
縞模様のパジャマの少年
第二次世界大戦時代、ナチス将校の父を持つ8歳の少年ブルーノは、裏庭の森の奥で鉄条格子で覆われた場所を見つけます。そこで彼は、縞模様のパジャマを着た少年シュムエルと出会います。
イギリス出身マーク・ハーマン監督の作品。少年たちの純粋さを軸に、物語は進み、彼らは悲しくも予定調和のように取れるラストにたどり着きます。予定調和である、予想ができるラストなのですが、実際のシーンを前にして思わず息をのんでしまいます。大人が行う戦争が持つ矛盾を、子供の目から投げかけている作品です。
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この記事のライター
新しい物好きなうざかわ系アラサー男子。男子校で男に囲まれてきた反動から、大学以降は女性にモテることのみを考えてます。でも基本シャイなんでうまくアプローチできません。外資系メーカー→MBA→国内インフラ企業と経験。英語も話せる真面目な人間。