〈改元記念〉名画でふり返る「明治・大正・昭和の日本画」より、各時代の3選
米国の日本庭園専門誌が16年連続日本一に選んだ庭園を有する足立美術館。秋の庭園の色づきに合わせて秋季特別展が開催されています。今年は、改元により令和の時代を迎え、この機会に改めて明治、大正、昭和の日本画を紹介しています。日本庭園で四季の移ろいを感じながら、日本画の美に触れ、芸術の秋を楽しんでみてはいかがでしょうか?
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■明治・大正・昭和の日本画の表現の変化を感じてみよう
明治、大正、昭和の各時代の名画36点がずらりと並ぶ展示室。全体を眺めていると、それぞれの時代の雰囲気や、日本画の表現の変化を俯瞰して観ることができます。
常に日本画の革新を求めて模索した巨匠たちの作品を通して、明治・大正・昭和の激動の時代を振り返りながら、日本画がいかに、変革を繰り返してきたのかを感じてみましょう。
明治時代
明治時代は、西洋文化が押し寄せ日本が急速な変化を見せた時代です。日本絵画も西洋絵画の影響を受け、日本絵画を「日本画」とする考えが生まれました。
そして美術学校の創設や、文展、院展もできました。展覧会を通して、これまで一般の目には触れる機会が少なかった日本画を見ることができるようになります。新しい日本画が誕生した新時代ともいえます。
大正時代
大正時代は、大正デモクラシーなどの民主主義運動が高まりました。日本画壇にも、自由な気風のもと、大らかな大衆文化が広がり、個性が重視され新たな価値観も生まれます。
さらにこれまでの画壇から離れ、多くの団体や研究会が設立されました。画家たちの自由で多彩な作品が多く見られます。
昭和時代
太平洋戦争を境に、昭和の時代は一変します。大正期の自由な表現から伝統回帰の傾向が強まり、新古典主義と称される作品が描かれます。
そして戦後は、西洋化の影響から、日本文化を低くみる風潮も広まりました。こうした激変する昭和の中で、画家たちは、日本画の模索、革新を進め独自の日本画を発表してきました。
■企画担当学芸員が選んだ各時代のおすすめ作品
今回の企画を担当された織奥かおり主任学芸員に、明治、大正、昭和の各時代から、おすすめの一枚を選んでいただきました。
明治時代・・・横山大観「無我」
「無我」は、仏教の悟りの境地を、大きな衣服をまとった子どもがぼんやりとたたずむ様子に託して表現したもので、大観の出世作とされています。
大観の「無我」は3点存在しており、「東京国立博物館」「水野美術館」(長野)にも所蔵されています。足立美術館の「無我」だけが水墨画です。
制作は3点とも明治30年ですが、制作順序はわかっていないそうです。推測ではありますが、足立美術館の「無我」は、墨で描かれていることから、一番初めに描かれたのではとのことです。
足元には色づいた菫が咲いています。身に着けている着物や草履はサイズが合っていません。そうした部分にも、無の境地が感じられます。
この時代「無我という禅の悟りの境地を、童子で表わす」という斬新な発想を29歳という若さで描いた大観。出世作として、今に伝えられます。
大正時代・・・榊原紫峰「青梅」
榊原紫峰は、花や鳥の絵で知られます。大正時代に描かれた「青梅」は、自由な気風の文化が広がった時代を映し出しています。
第1回国展への出品作品。
国展は、文展を離れ、京都の新進気鋭の画家たちが、自由な制作の発表の場を求めて大正7年に結成。昭和3年に解散しましたが、形式や伝統にとらわれない新たな日本画を追求し、若手画家たちに大きな影響を与えました。
樹皮の精密な表現は、とても写実的です。また画面いっぱいに埋め尽くされる枝や葉、幹がうねりながら上昇する描写なども、西洋の影響を感じさせられます。
構図は中国絵画の影響が伺え、東洋と西洋のエッセンスを取り入れようとしていた制作姿勢が垣間見えます。
昭和時代・・・橋本関雪「夏夕」
狐とヨルガオの白が絶妙で、背景の暗がりに映えます。狐の透き通るような白に対し、花はふっくらとした柔らかさを感じさせられます。
注目は、狐の体毛の表現。毛描きのように緻密に毛を描いていないのですが、野生動物のしっかりした毛の質感が想像させられます。
■秋季特別展のお馴染み 庭の紅葉と大観の紅葉
足立美術館は、日本庭園で知られ、創設者の足立全康氏は「庭園もまた一幅の絵画である」と語っています。
足立美術館の基本方針は、日本庭園と日本画の調和です。日本庭園で四季の美に触れ、日本画の魅力を理解し「美の感動」に接していただきたいというのが創設者の願いだといいます。
秋の行楽シーズン。紅葉を求めて多くの人が訪れます。秋は日本人のメンタリティーに響くものがあります。そんな四季の美しさを先人たちは、どのように日本画に描いてきたのでしょうか?
足立美術館の大観作品で、最高最大とも言える「紅葉」は、毎年秋に特別公開されます。庭の紅葉と水の流れとともに、ぜひ味わいたい作品で、大観作品の中でも、最も絢爛豪華な趣を持つ一作です。
足立全康氏は、大観の「紅葉」に言葉を失うほどの感動を覚え、なんとしてでも手に入れたいと行動に移しました。「美しいものに感動する心」を何とかして人に伝えたいという想いが、足立美術館の根底に流れています。
■取材を終えて
日本の美しい四季に合わせ展覧会も年4回行われています。本館では展示替えのための休館はとっていません。(新館のみ展示替えのため休館日あり)年中無休で開館されていることに驚きました。せっかく訪れた方たちをがっかりさせたくないという思いからだそうです。
手入れの行き届いた庭は、秋の観光シーズンに向けて赤松の剪定が行われていました。この時期、剪定をするのは、ここぐらいとのこと。
さらに、開館前、7名の専属の庭師や、約30人の美術館職員も清掃し、一年中、最善の状態を保っています。365日、細部に至るまで徹底した維持管理を行い、訪れる人を迎え続けたことが「いま鑑賞できる日本庭園としていかに優れているか」という評価基準を十二分に満たし、16年連続日本一の快挙を達成していたのでした。
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この記事のライター
ライター 著書は10冊以上。VOKKAでは専門を離れ、趣味の美術鑑賞から得られた学びや発見、生きるためのヒントを掘り起こしていきたいと思います。美術鑑賞から得られることで注目しているのが、いかに違う視点に触れるか、自分でも加えることができるか。そこから得られる想像力や発想力が、様々な場面で生きると感じています。元医療従事者だった経験を通して、ちょっと違うモノの見方を提示しながら、様々な人たちのモノの見方を紹介していきたいと思います。美術鑑賞から得られることは、多様性を認め合うことだと考えています。