北野武監督作品映画10選【ディープな世界へ!】
日本が誇る世界のキタノ。「HANA-BI」や「菊次郎の夏」など世界中で人気の有名作品もありますが、実はあまり知られていない名作もあります。
今回は有名どころはもちろん、あまり知られていないおすすめ作品も紹介したいと思います。
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アイキャッチ画像出典:snjpn.net
芸能人監督としてのパイオニア的存在
今でこそ、お笑い芸人や俳優が監督を行ったり、異業種間での垣根が無くなりつつありますが、北野武はそういった芸能人が自ら脚本を書き製作側にまわるパイオニア的存在なのではないでしょうか。
彼は1980年代、芸人として確固たる地位を築きながら、俳優、映画監督としても類稀なる才能を発揮してきました。彼の持つ倫理観や死生観は彼の作る映画から垣間見ることができます。時代によって彼自身の中でも変化していく感覚を感じ取ってみましょう。
1.その男、凶暴につき(1989年 103分)
あらすじ・見どころ
その男、我妻諒介(ビートたけし)39歳。職業、刑事。刑事らしからぬ言動の彼は署内でも異端視されています。ある日、麻薬売人柄本(遠藤憲一)の惨殺死体が発見されます。捜査を進めるうちに、実業家・仁藤(岸部一徳)と我妻の親友であり防犯課係長でもある岩城(平泉成)にたどりつきました。腐りきっている警察、そして麻薬犯罪組織の首領・仁藤とその傘下にある殺人鬼・清弘(白竜)への狂気に対して、我妻の凶暴さはもう誰も止めることができません。
たけし初監督作品!
初監督作品にして、他の追随を許さないクオリティ。もともと脚本があったにも関わらず、タイトルとたけし演じる刑事が主人公ということ以外を変えて作ったというのだから、たけしの頭の中を覗いてみたくなります。また監督としてだけでなく俳優としても、佐野史郎、岸部一徳、平泉成など名だたる俳優にも引けを取らないたけしの演技。逃げる犯人を笑いながら車で追いかけ回すシーンは、たけし演じる吾妻の狂気がリアルに表現されています。また、ロッカーでのシーン、物語後半の倉庫にてはじまる対決も素晴らしい演出になっています。たけしの映画はセリフや音楽など無駄な説明を徹底して排除した静かなつくりとなっているのですが、静けさの中に様々な意味が含まれ、日本独特の感覚のようにも思えます。そして誰も予想できなかったラストは必見です。
2.3-4X10月(1990年 96分)
あらすじ・見どころ
ガソリンスタンド店員・雅樹(小野昌彦)は所属している草野球チームでも万年補欠です。いつも無気力で愛想のない彼は、仕事場でヤクザに絡まれ、ついにはトラブルに発展してしまいます。元ヤクザの草野球監督(ガダルカナル・タカ)もトラブルに巻き込まれ怪我を負ってしまいます。監督の仇を取ろうと、雅樹は知り合いと沖縄へ向かうのですが、そこでもまたヤクザの抗争に巻き込まれてしまいます。
たけし映画の中で1、2を争う難解なストーリー
最初読み方が分からなかったのですが、こちら「さんたいよんえっくすじゅうがつ」と読みます。様々な見解のある難解な作りになっており、これといった正解もなく、好みの分かれる作品です。主人公は小野昌彦(別名・柳憂怜)演じる雅樹となっていますが、たけし演じる上原の存在感。たけしの作る他作品を考えると、ヤクザである上原を主人公に据えるでしょうが、そこをあえて脇に配置し、蚊帳の外に主人公をつくることで、いつものたけし作品とは違った観点からストーリーが描かれています。多くは語れませんがラストの大爆発は何度も見返したくなります。また、ヒロイン・サヤカ役には石田ゆり子が、沖縄でのヤクザの組長役に豊川悦司が出演しているところも見どころです。
3.あの夏、いちばん静かな海。(1991年 101分)
あらすじ・見どころ
収集車でのごみ回収を仕事とする聾唖の青年・茂( 真木蔵人)は、ふとしたきっかけでサーフィンに打ち込み始めます。ひたすらサーフィンに打ち込む聾唖の青年と、いつも優しく見守るその恋人・貴子(大島弘子)。サーフィン仲間や友人たちも最初は白い目で見ていますが、彼のひたむきさに動かされ次第に仲間が増えていきます。
たけしの描く青春恋愛映画!
本作にてはじめて音楽に久石譲が参加しました。暴力描写が一切ない恋愛映画ということで、たけし作品の中で異色とも言えます。たけし映画には、青い小物を使用したり意図的に画面上に青を配置することで自身の世界を作り出す「キタノブルー」とよばれる特徴がありますが、海でのシーンが多いこの作品は、キタノブルーの原点とも言えます。また聾唖の青年が主人公ということもありほぼ台詞が出てきません。101分の中で台詞もシーンも無駄がなくて心地よくなります。「その男、凶暴につき」などバイオレンス映画からの振り幅がすごく、本職はお笑い芸人ですから、改めて北野武という人物の才能に脱帽です。
この作品はサーフィンが題材とされていますが、晴天より雨の印象の方が強く、雨の休日にゆったりと観ることをおすすめします。
4.ソナチネ(1993年 93分)
あらすじ・見どころ
北嶋組幹部の村川(ビートたけし)は、ヤクザとしての人生に嫌気がさしています。そんな男が、親分の依頼で中松組の助っ人として、沖縄に向かいます。これは事実上の左遷であり、面倒ごとを任された村川はこれまで以上にやるせなくなってしまいます。連れの子分も殺され、生きることの無情さを感じた村川は最後の戦いに向かいます。
圧倒的バイオレンス映画
たけし初期作品の集大成ともいえるソナチネ。彼の作品の中でいちばん純粋にバイオレンスが描かれており、たけし映画にバイオレンスを求めるファンから熱狂的な人気を誇っています。少ない台詞、キタノブルーこと青を基調とした画面構成、ただただ歩くシーン、登場人物のアップなどまさに彼の作品の真骨頂。この作品は、たけしの持つ死生観が色濃く感じられ、海辺での頭に銃を突きつけるシーン、紙相撲の真似事をするシーンなど命をおもちゃのように扱ったり、また対極的にあっけなく命が失われていく様子は、日常の中に常に付きまとう死を、生々しく感じとることができます。
5.キッズ・リターン(1996年 108分)
あらすじ・見どころ
落ちこぼれの同級生シンジ(安藤政信)とマサル(金子賢)は、高校生活が終わるとシンジはボクシング、マサルはヤクザの道を選びます。別々の世界に飛び込み、がむしゃらに頑張るふたりでしたが、理想と現実のギャップにぶつかり挫折します。時は過ぎてシンジはジムも辞めて何となくアルバイトをこなす、うだつの上がらない生活。一方で刑務所から出所したばかりのマサルもまた、ヤクザに戻るしかありませんでした。
彼らの人生は終わりなのか、それとも
誰もが経験のある若さゆえの過ちそして挫折を、主人公の二人とそのまわりの人々を丁寧に描き、作り込んでいます。ラストにて、シンジとマサルが母校の校庭を自転車で訪れる印象的なシーンがあります。久石譲作曲のメインテーマと合わせて、人生に対するその問いかけの深さに、私は何といったらいいか分からない感情に思わず泣いてしまいました。登場人物ひとりひとりが丁寧に描かれラストにつながっていく感動作です。また、端役に当時新人だった宮藤官九郎が出演していますので、ぜひ探してみてください。
6.BROTHERS(2001年 114分)
あらすじ・見どころ
ヤクザの組の対立で日本にはいられなくなった山本(ビートたけし)は、弟ケン(真木蔵人)をたよりロサンゼルスへ向かいます。ロサンゼルスへ行っても臆することなく自身の流儀で地元ギャングに喧嘩をふっかける山本。ことは次第に大きくなり、ついにはマフィア一味との死闘に発展します。果たして山本は生き延びることができるのか。
アメリカを舞台とした兄弟の物語
日英合同作品となっていますが、あくまでもハリウッド映画ではなく北野武映画です。撮影はほぼロサンゼルスで行われ、久石譲が音楽を、そして山本耀司が衣装監修をしています。ギャング映画として非常に高いクオリティであり、タイトルのBROTHERは、実際の兄弟のこと、日本のヤクザ文化であるアニキと舎弟による兄弟関係を意味します。このような人情ものは重くなりがちですが、ときには兄弟のために命を落としつつも、重すぎることなく男と男の絆をドライに描いた本作は非常にニクい演出となっています。この映画を観て私はむしろ本当の兄弟より、アニキと舎弟としての絆の方が強いように感じました。
7.座頭市(2003年 115分)
あらすじ・見どころ
金髪頭に盲目の旅人・市。しかし彼こそ居合いの達人・座頭市でした。とある町にて旅芸者の姉妹おきぬとおせいをはじめ様々な人に出会います。この町はヤクザの銀蔵一家と金持ちの商人・扇屋が裏で繋がって人々から金を巻き上げて居ました。そして出会った人々はみな悩みを抱えています。
弱気を守り悪に立ち向かう、新たなヒーロー像の誕生です。
型破りのエンターテインメント!
北野映画最大のヒット作です。雨音や畑を耕すクワの音、雨天時に百姓たちがリズミカルに踊っている姿が描かれ、泥臭い画面のなかにスタイリッシュな印象を与えます。また、居合いの達人・座頭市の剣さばきや、ラストで二転三転する展開など芸術性だけでなくエンタメ性も高くワクワクしっ放しです。時代劇なのにたけし演じる市が金髪なのはおかしいといった意見もありますが、なぜ金髪なのか、市は一体何者なのか、考察してみるのも面白いかもしれません。タップダンスは、たけしが芸能人として生き残るために始めたらしく、残念ながら作中でたけしがタップダンスを披露するシーンはありませんが、彼自身も相当な腕前です。しかし、必要以上の上達を目指さず、基礎を習得してそれ以降はいかに自己流に魅せるかが芸人の仕事だという彼の持論は粋で格好良いなと思います。
8.TAKESHIS'(2005年 107分)
あらすじ・見どころ
ビートたけし(ビートたけし)は芸能界の大スターとして多忙で豪華な生活を送っています。一方でビートたけしとそっくりな北野(ビートたけし)は売れない役者としてコンビニでバイトをしながらオーディションに向かう日々。ある日、北野とビートたけしは偶然出会い、北野はビートたけしの演じる映画の幻とも現実とも区別がつかないファンタジーの世界に迷い込んでいきます。
芸術とは?エンターテイメントとは?
たけし曰く「100人の評論家が見て、7人しか分からない映画」であるこの映画は「考える」のではなく「感じる」映画になります。本人も自身が求める芸術と世間の評価の間でもがき悩みながら作ったと言っており、こういったもがきは2000年代後半に製作された3作品に強く感じとれます。理解できなかった作品を面白くなかった、つまらないと思う方もいるかもしれませんが、全てを理解しようと思わなくても良いと思います。理解できなくても何か格好良く感じたり、少しでも気持ちが高揚したならば、それでもう充分なのではないでしょうか。
9.アキレスと亀(2008年 119分)
あらすじ・見どころ
裕福な家に生まれた少年の真知寿(吉岡 澪皇)は画家になることを夢見ていました。しかし突然父親が亡くなり母も消え、意地悪な叔父夫婦のところで暮らすことになります。家もお金も愛する家族も失った真知寿は、画家になることだけが生きがいとなりました。青年になった真知寿(柳憂怜)の前に、ひとりの理解者・幸子(麻生久美子)が現れます。やがてふたりは結ばれ、真知寿の夢は夫婦の夢となり、様々なアートに挑戦するふたり。しかし作品は全く評価されず、ふたりの創作活動は、街や警察をも巻き込むほどにエスカレートしていき、ふたりは離れてしまいます。
自身の願望と世間からの評価のギャップ
どんな映画か全く知らずに見たのですが、これは鬱映画と認識して良いと思います。親しい人との別れや知人との再会などひとつひとつの出来事が、ただただ静かに過ぎ去ってゆきます。また芸術という、答えのない世界で生きていくことの孤独や葛藤が表現されています。
この映画が公開された前年の2007年にはダウンタウン松本が、2010年には板尾創路が長編映画監督としてデビューしています。最初は撮りたい映画を撮っていたたけしも、気づけば下の世代から新たに才能ある監督が誕生し、大御所監督として扱われるようになりました。そんなたけしの中にも、他人からは理解できない孤独や葛藤があったのでしょう。
10.龍三と七人の子分たち(2015年 111分)
あらすじ・見どころ
引退した元ヤクザの龍三(藤竜也)は、同居する家族にも煙たがられ、時代の変わった世界に窮屈さを感じています。ある日オレオレ詐欺に引っかかりそうになった彼は、詐欺師たちに仕返しをするため昔の仲間に招集をかけました。集まったのは、震える手で拳銃を構えたり、乞食のように金をせびったり、未だに特攻隊気分だったりと個性豊かな7人のメンバー。久々の再会に盛り上がった龍三たちは勢いで「一龍会」を結成。果たして彼らはどこへ向かうのか。藤竜也、近藤正臣、中尾彬ら平均年齢72歳のベテラン俳優たちが暴れまわります!
元ヤクザたちによるドタバタコメディ!
ヤクザを題材に描きながら、ここまでコメディ色の強い映画は初ですね。
たけし映画にバイオレンスを求めるファンからすれば残念な声も聞こえますが、作品として非常にきれいにまとまっており、2000年代後半の葛藤後、監督自身の持つ芸術性と世間の求める娯楽の両方をうまく昇華できたのだなと思います。これまで芸術的でメッセージ性の強い作品が多かったですが、もしかしたら娯楽として見るならば一番観やすい映画なのでは。監督27年目にしてなお進化しているたけしにはこれからも色んな作品を撮って欲しいです!
終わりに
今回は、マイナーな作品を紹介しつつ、これは外せないと感じた有名作品を入れてみました。改めて見ると、バイオレンス映画からラブストーリー、見る者によって印象の異なる難解な作品など多岐に渡り、北野武の才能と製作意欲に感服します。また、たけし映画には大杉漣や寺島進などのたけしに見出された俳優とともに、たけし軍団のメンバーによる味のある演技が楽しみだったりします。
ぜひお気に入りの一作を見つけてみて下さい。