世界が注目するアニメ監督!新海誠アニメ作品徹底解説【2019新作情報も!】
日本だけにとどまらず世界的大ヒット作となったアニメ映画「君の名は。」
来年夏には新作「天気の子」が公開予定となり、今後ますます活躍が期待されます。この記事では、今までの監督作全6作品の特徴や見どころをそれぞれ紹介しますので、今後日本を代表するであろうアニメ監督新海誠を、今のうちにチェックしておきましょう!
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アイキャッチ画像出典:bucketlist.hatenablog.com
これからのアニメ業界を牽引する監督、新海誠
出典:diamond.jp
1973年長野県出身。幼少期からSFや宇宙関連のものを好み、大学卒業後はゲーム会社に就職しその傍らアニメの自主制作を行なっていました。1998年に自主制作アニメ「遠い世界」にてメディアアートとクリエイターの祭典であるeAT'98にて特別賞を受賞、2000年に「彼女と彼女の猫」にて第12回CGアニメコンテストにてグランプリを獲得。翌2001年会社を退社し、アニメ監督として活動を始めます。
アニメ監督といえばアニメーター出身者が多く、アニメは分担作業で作られることが主流となっています。しかし彼はゲーム会社に就職し、昼は会社で働きながら帰宅後に、監督・脚本・演出・作画・美術・編集といった全ての工程を1人で行っていました。そしてつい最近まで製作委員会方式で製作していなかった異端な存在とも言えます。製作委員会方式とは、作品を作るために、1つの企業による単独出資ではなく複数企業に出資してもらう方式で、現在作られるアニメのほとんどがこの方式で作られています。そのため新海誠の作品は彼の伝えたいメッセージがダイレクトに伝わり、より色濃く個性が発揮されています。
他のアニメ製作者とは違う、彼にしか出せない魅力が詰まった全6作品を最新作から遡ってみていきましょう。
1.君の名は。(2016年 107分)
あらすじ・見どころ
1,000年ぶりの彗星がくると盛り上がっている現代日本。田舎の女子高生である宮水三葉(上白石萌音)はある日男の子になる夢を見ました。男の子は東京に暮らす高校生であり、何もない退屈な田舎とは違い最新のものに溢れる日常を楽しんでいます。また、東京に暮らす男子高校生の立花瀧(神木隆之介)も不思議な夢を見ました。それは自分が山奥の村で女子高生になっている夢でした。2人は何度も同じ状況の夢を繰り返し見て、その都度現実の世界で記憶と時間が抜けていることに気がつきます。お互いが別の人格であり、実際に存在していると分かった2人は夢の情報を頼りにお互いが誰なのか交流を持つようになります。最初はウマの合わない2人でしたが、辿るうちに心を通わせていきます。
世界で最も売れた日本のアニメ映画
今作で新海は初めて製作委員会方式をとっています。国内では宮崎駿に続いて史上2人目となる興行収入100億円を超え、2016年の国内興行収入ランキングでは「シン・ゴジラ」や「スター・ウォーズ」を抑えて1位となりました。世界125の国と地域でも供給され、日本アカデミー賞最優秀脚本賞受賞をはじめ、ロサンゼルス映画批評家協会賞にてアニメ映画賞受賞など国内外様々な賞を受賞しています。世界での興行収入はアジアを中心に3.55億ドルに及び、これは宮崎駿の「千と千尋の神隠し」を超え日本映画歴代1位となりました。
それまでの新海作品に比べ、テンポよく物語が進み、誰もが楽しめるストーリー構成で、主人公の2人には人気俳優の神木隆之介と上白石萌音を起用しています。鑑賞後は心が軽くすっきりとする映画ですので、まだ観ていない人はぜひ観てください。ひとりでの鑑賞ももちろんですが老若男女誰もが楽しめますので、家族や友人、恋人など誰かと観るのもオススメの作品です。
2.言の葉の庭(2013年 46分)
あらすじ・見どころ
靴職人を目指す高校生の秋月孝雄(入野自由)は、雨の日の1限は学校をさぼり近くの庭園で靴のスケッチを描くことが日課でした。季節は梅雨に入り庭園通いが続いたある日、いつもの場所でスケッチを描いていると、朝から缶ビールを飲んでいるミステリアスな年上の女性と出会います。彼女の名前は雪野百香里(花澤香菜)。はじめはお互い会話もなく座っていましたが、雨の日に必ず出会うふたりは徐々に交流を深めていきます。
少年と年上女性の静かな恋の物語
「君の名は。」が全国300館での供給だったのに対し、前作であるこちらは全国23館。それも料金は1,000円均一でしたが、公開3日間で興行収入3,000万円を記録、評判が広まり多くの劇場で上映延長が決定した異例の作品です。またドイツで開かれるシュトゥットガルト国際アニメーション映画祭・通称ITFSにてグランプリを獲得しています。
新海作品の特徴は光を大切にした細密で美しい風景描写です。今作でも雨の雫の反射、雨上がりの太陽の光など息を飲むほど丁寧に描き、実際にある新宿駅のホームや東京の街並みは忠実に描かれています。また、新海作品のもう1つの特徴は思春期の複雑な心理描写です。将来の夢を追いかける大人びた少年と、人生に行き詰まりを感じている年上女性を描いたストーリーは、多用される詩的表現と美しい映像によって、全体的に静かで文学性の高い作品になっており、「君の名は。」とは違ったテイストですがこれぞ新海映画の醍醐味とも言えます。ちなみにヒロインの雪野は次作「君の名は。」にも出演しており、作中に出てくる庭園は新宿御苑がモデルとなっています。細部までリアルに描かれているので、鑑賞後は新宿御苑に足を伸ばしてみてはいかがでしょうか。
3.星を追う子ども(2011年 116分)
あらすじ・見どころ
母と2人で暮らす渡瀬明日菜(金元寿子)は、放課後は自分だけの秘密基地で野良猫のミミと宿題をしたりラジオを聞いて過ごしていました。いつものように秘密基地へ向かう途中、見知らぬ少年と出会います。彼の名はシュン(入野自由)。シュンとは会ったばかりでしたが、2人はすぐに打ち解け、また明日と言って帰宅します。しかし翌日シュンは遺体で発見されました。実感の湧かないアスナは新たに赴任してきた森崎先生(井上和彦)の授業で聞いた「死後の世界」という地下に広がると伝承される世界に強い興味を抱きます。その日の帰り道でアスナはシュンに瓜二つの少年・シン(入野自由)と出会います。自分は地下世界から来たシュンの弟であり、兄が持っていた石を回収しに来たと言います。訳のわからないアスナでしたが「もう一度あの人に会いたい」、その思いからシンと森崎、そして猫のミミとの旅に出ます。
自ら新たなジャンルであるファンタジーに挑戦した意欲作
日常の中に少しSF要素の入った世界を得意とする新海誠にとって、これは新たな挑戦をした作品と言えます。また少年が主人公であることが多い新海作品の中で、少女が単独で主人公として描かれているのも珍しいです。新海作品の醍醐味である、丁寧で美しい背景描写、それと相まって描かれる思春期の複雑な心理描写は健在ですが、ファンタジー要素が強く、他にはないアクションシーンもあります。新海本人は「ジブリ作品を連想させる部分が確かにあると思うのですが、それはある程度自覚的にやっているという部分もあります」と語り、アニメ関係者の中でも特殊な経歴の彼は、日本のアニメの伝統的な作り方で完成させてみることを目標にしたと言います。ファンの中でも賛否分かれますが、新海誠を語るには欠かせない作品です。
4.秒速5センチメートル(2007年 63分)
あらすじ・見どころ
東京の小学生の遠野貴樹(水橋研二)と篠原明里(近藤好美)は、恋のようで言い切ることのできない「他人にはわからない特別な想い」を抱きあっていましたが、小学校の卒業と同時に明里は栃木に転校し離れ離れになってしまいます。中学生になり半年が過ぎた頃、貴樹に明里から手紙が届きました。これをきっかけにふたりは文通をはじめ、また心を通わせていきます。しかし、しばらくして今度は貴樹が鹿児島に転校することになりました。13歳にとって栃木と鹿児島は絶望的に遠い場所。転校する前にもう一度会いたい、そう願い貴樹は大雪の降るなか、明里に会いに行くことにします。距離と時間に翻弄される少年と少女の淡く切ない物語。
キョリををテーマに描いた、これぞまさに新海ワールド
単館上映でありながらも半年に及ぶロングランを記録し、新海誠ファンにも根強い人気を誇る作品です。イタリアのフューチャーフィルム映画祭 にて最高賞を受賞、2008年には海外で現地クリエーターを対象としたデジタルアニメーション制作のワークショップを行い、終了後はロンドンに1年ほど滞在しました。後にこの活動が「世界で活躍し『日本』を発信する日本人プロジェクト」で選出され内閣府国家戦略室の担当大臣古川元久から感謝状が贈られました。
秒速5センチメートルとは桜の花びらが舞い落ちる速度のこと。3部構成で作られた今作は、ひとつひとつの纏まりもさる事ながら全体の構成が巧みに隣り合っています。他の作品同様、星空や電車の風景も美しいですがなんといっても桜の映像表現が美しい。桜の描写とともに山崎まさよしの担当する主題歌が流れるラストシーンは思わず涙が溢れてしまいます。SF要素はなく、現代日本を舞台に主人公・貴樹と明里の小中学生、高校生、成人後、それぞれの等身大を描いた今作を観ると、ノスタルジックな感情になることでしょう。
5.雲の向こう、約束の場所(2004年 91分)
あらすじ・見どころ
もうひとつの戦後の世界、1996年日本は南北に分断されていました。どこからでも見える白くて大きな謎の塔。青森県に住む中学3年生の藤沢浩紀(吉岡秀隆)と白川拓也(萩原聖人)はあの塔まで飛ぶことを夢見ていました。その夢には同級生の沢渡佐由理(南里侑香)も加わりいつしか3人には絆が芽生えます。しかし佐由理はいきなり転校して2人の前から姿を消してしまいます。不思議に思って調べた2人は、佐由理が原因不明の昏睡状態に陥っていること、そして何やらそれには国家の陰謀が関わっていることを知りました。「佐由理を救うか、世界を救うか」、彼らはいつか交わした約束の場所にたどり着くことを今もまだ夢見ています。
2作目にして高い完成度を誇る隠れた名作
今作は毎日映画コンクールアニメーション映画賞を受賞、これは宮崎駿の「ハウルの動く城」を抑えての受賞となりました。その後2018年に舞台化もされ、いわば隠れた名作とも言える作品です。新海の得意とする現代日本を舞台としながらも、もうひとつの戦後として描かれたパラレルワールド。近未来のようで、主人公たちの日常である学校生活はどこか懐かしい雰囲気が漂っています。青森県が舞台となりJR津軽線を描かれたカットもあるため聖地巡礼なども面白そうですね。主人公の声には俳優の吉岡秀隆が起用されているのもポイントです。
6.ほしのこえ(2002年 25分)
あらすじ・見どころ
2046年、同じ中学に通う同級生の長峰美加子と寺尾昇。部活も同じで互いに気になる存在のふたりでしたが、中学3年の夏、美加子は国連軍の選抜メンバーに選ばれました。翌年2047年の冬、美加子は選抜メンバーとして地球を飛び立ち、そして昇は高校に進学します。地球と宇宙、2人は宇宙でもつながる携帯メールで連絡を取り合いますが、地球から遠く離れていく美加子とのメールにかかる時間は長くなっていきます。最初は1日だった距離も1週間、1ヶ月とかかり、地球に残った昇は次第に大きくなるズレに苛立ちを募らせます。
記念すべき1作目!制作のほとんどを監督1人で行った原点とも言える作品
記念すべき劇場公開作品第1作目。監督・脚本・演出・作画・美術・編集のほとんどを1人で行っており、25分と短いものの、その出クオリティに圧巻されます。近未来を舞台にSF要素を入れつつ、思春期の少年少女の繊細な心情を描いた今作は、新海誠の原点とも言える作品です。線や色味など最新作と比べると変化がよくわかります。本当にひとりでアニメーションを作ってしまたのだな実感できる作品であり、新海誠という表現者の魅力が最大限詰まった、個人的に一番おすすめの作品です。1作目にしてすでに確立している新海ワールドを堪能してください。
終わりに
彼女と彼女の猫
どの作品も、繊細で美しい情景と、少年少女の恋と友情の間の淡く切ない関係を描いています。これは「思春期の困難な時期に、風景の美しさに自分自身を救われ、励まされてきたので、そういう感覚を映画に込められたら、という気持ち」という新海誠の作家として表現したいものの軸を感じ取ることができます。
また、今回は紹介していませんが、劇場公開作品前に作られた「彼女と彼女の猫」は5分弱のショートアニメで現在youtubeで観ることができます。
来年2019年7月19日に全国公開されることがあきらかになった新作「天気の子」。新作について「身近で壮大で、大いに笑って泣ける(はずの)ドエンタメ映画です。でも同時に、すこしも模範的ではなく、むしろ社会や規範から外れていってしまう人物たちの物語です。でもだからこそこれは自分のための映画だと、誰かに思ってもらえますように。」と意気込む新海誠。今後ますます活躍が期待される今、少し時間を作って鑑賞してみてはいかがでしょうか。