坂口安吾のおすすめ有名作品10選
『堕落論』や『白痴』で有名な坂口安吾ですが、堅苦しそうと思って読むのをやめていたりはしませんか?導入部分として、みなさんに坂口安吾の有名な作品を10作品選りすぐってお届けします
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坂口安吾って、だれ?
坂口安吾といえば、丸い眼鏡と口元のほくろでしょうか。本名は坂口 炳五(さかぐち へいご)と言い、日本の小説家、評論家、随筆家です。『堕落論』が有名なために、小説化よりも評論家や随筆家であると思われがちですが、しっかりと小説も世に残している人です。昭和の戦前、戦後にかけて活躍した作家で純文学だけでなく、歴史小説や推理小説なども書いています。太宰治や織田作之助らとともに、無類派とよく呼ばれます。坂口安吾の作品には独特の力があり、個性の強い作品なので読む人を選びますが、人生に一度は触れておきたい作家のひとりです!
『風博士』
『風博士』は坂口安吾の小説で、雑誌「青い鳥」に掲載されていたものです。この作品は坂口安吾が作家として認められていくきっかけとなった作品でもあり、島崎藤村の『黒谷村』と同時に世界を轟かせたものでもあります。第二次世界大戦の前に発表された初期の作品でありながら、今でも人気が絶えません。
あらすじ
風博士は自殺した。冒頭はそう書き始められ、その後、唯一残された風博士の遺書が始まっていきます。語りてである「僕」はこの遺書のあと、読者すべての人に語り掛けるように「風博士の遺書を一体どう思ったか?」と問います。偉大なる博士は不思議な死体を残さない方法をとって自殺をしました。この「僕」は唯一博士の自殺の目撃者としてここで臨終を語ります。博士を一人知る者としてそれが「僕」に残された役目でもありました。
無料で閲覧可能!
『風博士』は戦前の作品なので、日本語の使い方が独特で読むのが難しいと感じる方もいるかもしれませんが、青空文庫では新字新仮名版と新字旧仮名版が出ていて、誰でも閲覧可能なので気軽に読むことができます。全集にもよく加えられている作品なので、何か他の坂口安吾作品を読むついでにも覗いてみてはいかがでしょうか?1989年にはラジオドラマ化もされていました。
『堕落論』
坂口安吾の随筆、評論の代表作。第二次世界大戦後の日本の中で、これまでの倫理観を徹底解析して敗戦した日本のすさんだ人々の心を救った作品。明日へ踏み出す指標を表したとも言われています。倫理や道徳の否定といった従来の本とは違って、人間だから堕ちるだけで戦争に負けたから堕ちるのではないと坂口安吾は宣言しています。人間の本質を見極めるための一冊です。
人間に注目した究極な一冊
『堕落論』は一般的な小説とは違っていて、さらに読みづらく難しい部分もあるかもしれません。物語性があるわけでもなく、坂口安吾が言う「人間」について語ったものなので、彼の文章では理解が難しいでしょう。そんな時は漫画で一度彼の言いたいことを知ってから読んでみると良いです。何も知らず読むのと、内容を少しでも掴んでから本文に臨むのでは多少違いがみられるでしょう。さらに『堕落論』は舞台化や朗読などでも広まっていて、いかに人々に坂口安吾の言いたかったことを伝えていくかというものが2000年代から活発になっています。内容を知る機会にでも活用してみてください。
『白痴』
坂口安吾の短編小説である『白痴』は、『堕落論』の次に有名になった作品です。坂口安吾は『堕落論』から『白痴』を発表するに及んで、太宰治や織田作之助らとともに終戦後の新時代を担っていくものとして文壇に特異な地位を占めました。坂口安吾がこだわった「敗戦」というテーマとともに、「白痴の女」との出会いによって真実を求める作品となっています。
あらすじ
敗戦後、見習い演出家として働いている伊沢は社会の動きにのまれたままの映画会社の連中に憤りを覚えていましたが、その一方で金もなく、そんな社会に首にされるのを怖がっていました。ある晩、白痴の女が押し入れの蒲団の横に隠れていて、何か分からず怯えている彼女を伊沢は仕方なく一晩泊めてやることにしました。そして女の話を聞いているうちに、伊沢はその白痴の女は自分に似合いなのではないかと思われたのでした。
女が白痴である意味
『白痴』は1999年に映画化されていて、舞台化などもされていますが、この映画は『白痴』を原案として作られたものになっています。この作品にはまずなぜ女は「白痴」なのか、なぜ「白痴」でなければならなかったのか、という問題が添えられていて、さらに「戦争」というキーワードが伊沢という男にまとわりつき、そこに「社会」というものも混ざってきます。社会に納得のいかなかった伊沢にとってこの「白痴」であった女は貴重な存在であり、彼にとって唯一思い通りになるものであったと推測ができます。『堕落論』と似通った考えの部分があるので、ぜひ参考に読んでみてください。
『桜の森の満開の下』
坂口安吾の代表的な小説です。傑作と言われることがこの作品では多く、美しく幻想的な中に含まれる坂口安吾らしい恐ろしさがここには多分に含まれていることからも、坂口安吾がすべてを注ぎ込んで作られたのが分かります。桜の木の下には死体が埋まっている、と現代でもよく言われますが、そういった説話形式を利用した作品です。ドキドキ恐怖を味わいたい方、必見です!
あらすじ
ある山賊は、旅人の身ぐるみをはがしたり、好きな女を女房にしたりして過ごしていましたが、彼は唯一満開の桜の木が怖く、その下を通ればきっと気が狂ってしまうに違いないと信じていました。ある春の日に、山賊は旅人の連れていたある女を女房にし、その女は山賊を怖がることなくあれこれと指図をしました。二人は都に移り、女がしたことは山賊の狩ってくる首を並べて遊ぶという「首遊び」でした。どうしても都に慣れない山賊は女とともに山へと帰りました。そのころにはもう桜の木は満開になっていました。桜の木の下を山賊が歩き、ふと後ろを振り返った時、女は醜い鬼へと変わってしまっていました。
堂々アニメ化された『桜の森の満開の下』
青い文学シリーズでアニメ化された『桜の森の満開の下』は、キャラクターデザインを漫画BLEACHなどを手掛けた久保帯人が行い、アニメ化をマッドハウスが担当しました。この奇怪で美しく、そして清々しいほどの残酷さと恐怖が一気に画面に蘇り、坂口安吾の世界観を完全に再現しています。満開の桜のシーンも美しく、そして時折アニメならではのギャグを盛り込みながら話を進めていきます。話数も短く、コンパクトに話がまとめられているので、初めて『桜の森の満開の下』に触れる、という方にはキャラクターのイメージなどにも使えると思います。ぜひチェックしてみてください。
『二流の人』
坂口安吾の中編小説で、歴史小説として名高い作品です。黒田官兵衛を主人公としたもので、「第一章 小田原にて」「第二章 朝鮮で」「第三章 関ケ原」の三章構成となっています。歴史小説で分かりにくい、と思いがちですが、しっかりと章に分けて説明されているので比較的わかりやすい歴史小説になっていると言えます。黒田官兵衛も有名な人なので、入り込みやすいです。
みどころ
黒田官兵衛が、天下を目指す豊臣秀吉や徳川家康、石田三成らの勢力の下でどさくさに紛れて密かに天下を狙う二流の者として描かれた作品です。歴史小説なので、彼の行動と共に日本国がどのように変わっていったか、そして戦の中での変わりようがこまやかに描かれています。戦国の英雄たちの個性がくっきりと表れた戯作的な文体で、武将たちをよりコミカルに描いているところが魅力です。
歴史小説の中でも、二流と言う立ち位置にあった黒田官兵衛を主人公に据えた辺りが坂口安吾らしく、天下を取った武将などではないところも面白いところです。あまり人々の目に映らない部分を、密かなたくらみや挫折とともにライトノベル風に読みやすくかみ砕いているので、歴史小説をあまり読まないという人にもなじみやすい文体になっています。
『不連続殺人事件』
坂口安吾の長編小説ですが、これはなんと彼が初めて書いた推理小説です。探偵小説愛好家であった坂口安吾は、ずっと探偵小説の構想を練っていました。そうして初めて書かれたこの作品は、探偵小説関係者の間でも高い評価を得て、江戸川乱歩からも十分な評価を受けています。探偵小説の基本を作った江戸川乱歩が認めた探偵小説として名高い一冊です。
あらすじ
第二次世界大戦から二年が経過した時代のN県で殺人事件は発生しました。語り手である小説家を含めて多くの人物が一馬の手紙によって招待され、歌川家に集められましたが、その招待状こそが偽物で、その家にいた使用人、家族、そして招待された人物たち29人の中で密かに絡み合う性関係や憎悪がだんだんに浮き彫りになっていきます。次々に起こる事件には一貫した動機がまるでなく、次に一体誰が殺されるのかまるで想像ができず、犯人が複数なのかそうではないのかも分からない、という状況となり、その結果この事件は「不連続事件」と呼ばれました。
不連続殺人事件と殺人事件の違い
1977年に公開された『不連続殺人事件』の映画があります。完成度の高い映画をはじめに見てしまうのも作品に親しむために良いかもしれません。ただ、ただの「連続殺人事件」ではない、ということをぜひ本文を読んで知ってほしいと思います。不連続、のどこに魅力があるのか、それは一貫性のない動機といつだれがどのような陰謀のうちに殺されるのかが読者にはまったく分からないというところです。これを考えていって最後の結末までけして分からない、読者までも完全に巻き込んだ完全な探偵小説を、ぜひお手に取ってみてほしいと思います。ぜひ江戸川乱歩とはまた少し違った探偵ものをどうぞ。
『真珠』
坂口安吾の『真珠』は真珠湾攻撃に対する想いと、「九軍神」への感動を題材にして書かれた私小説です。九人の若者が死を受けとめ特攻していった時間と、坂口安吾の過ごした無類な日常を対比させてより彼らの行動や想いを際立たせている作品です。「九軍神」について語った最初の小説と言われていますがその後再版が禁じられて、没後に刊行された全集や文庫版で語られています。
あらすじ
語りて「僕」はその晩飲み歩いていて、三好達治の家においていた「僕」のどてらは夏の洪水で水浸しになってしまっていてそれを干して乾かしていたのがガランドウであり、「僕」はそれを取りに行く予定でした。どうやら戦争が始まったらしいおかみさんが言っていました。「僕」はてっきりどこかの紛争だろうと思っていましたが、それが日本であったと知った時、「僕」の頬に涙が流れました。
「僕」が焼酎を飲んでいたちょうどその時、「あなた方」と呼ばれた「九軍神」は真珠湾内で日没を待っていました。「必ず死ぬ」と決定された時、「僕」にはない強さが「九軍神」たちにはあることに気が付きます。それを「僕」は「偉大な人」と呼ばなければなりませんでした。
作品の持つ影響力
彼ら九軍神は自ら自爆攻撃を志願した英雄たちとされ、今でも伝えられています。この坂口安吾の私小説は実に生々しく、さらにそこに坂口安吾の至って変わらぬ日常が挟まっているからこそ、彼らの壮絶な「死」が際立ってくるのです。小説でありながらフィクションではなく、ただ楽しんで読むものでもないこの作品には、もう戦争を知る人も少なくなってしまった現代にとって極めて貴重なものです。これを忘れてしまったらもう一度彼らのような人々が現れてしまうかもしれないと恐怖さえ覚えます。彼らを英雄と呼んだ我々ですが、けしてその英雄を再び蘇らせてはならないと思わずにはいられません。
『負ケラレマセン勝ツマデハ』
坂口安吾の随筆、評論となっている作品です。坂口安吾が国税庁へと闘いを起こした様子を記録したもので、小説とはまた違ったものが味わえます。今とはだいぶ時代も違って、坂口安吾が生きていた時代を詳しく知るきっかけにもなるかもしれません。『真珠』では戦争とは距離があった坂口安吾の、現実的な闘いというものが見られる作品になっています。
映画『負ケラレマセン勝ツマデハ』
出典:i.pinimg.com
1958年に映画化された『負ケラレマセン勝ツマデハ』は豊田四郎監督の長篇劇映画で、「税金」という問題に向かっていくものになっています。主人公の久吉と税務署が繰り広げる闘いがやはり映画で見ると分かりやすく伝わってきます。小説ではないのでしっかりと物語がない、と思われると思いますが、この映画は坂口安吾の原作に沿いながらもしっかりとしたストーリー性も持って作られているのでおすすめです。
『戦争と一人の女』
戦争中の空襲時を舞台とした、坂口安吾の短編小説です。虚無的な男と、不感症の女が同棲しているという戦争の中にある異様な男女の姿を描いています。GHQによって大幅な削除がされていましたが、1971年以降は復活をしています。
あらすじ
時は太平洋戦争で、東京の街に住んでいる小説家の男、野村は酒場の主人の妾だった女との生活をはじめました。女は不感症なために体の悦びはありませんでした。しかし二人は絶望した戦争という中で、どうせ世界は破滅するのだ、日本は終わるのだ、という敗退的な生活を続け、そこに愛情はなくとも奇妙な家庭的なものがありました。空襲が激しくなった頃、死ぬことを当たり前に享受していたはずの女が、家をどうか火から守ってくれと野村に頼み込むのでした。
死ぬことを見直す
2013年に映画化されたものです。削除されたものとその続編他を原作としています。かなり激しいものなので鑑賞する際は注意が必要です。戦争を知っている人が少なくなった今、戦争中の荒廃を知っている人もいなくなり、この作品から漂う「死」という感覚は貴重なものです。どうせ死ぬんだ、というとても死に近くなってしまった現状と気持ちの諦めは空襲の中では当たり前だったのかもしれません。不感症というポイントも、体の悦びを感じることができない部分と荒廃してしまった世界をつないでいる気がします。そして女が本当の死に近づいた時の人間らしい気持ちに、はっとさせられるのです。
『UN-GO』
最後に一つ、少し息抜きに坂口安吾を原作としたアニメ『UN-GO』をご紹介します!
とても珍しいケースで、坂口安吾の小説を網羅しながら一つのストーリーが進んでいくものとなっています。監督は『新世紀エヴァンゲリオン』の演出や『シャーマンキング』などを手掛けた水島精二で安定感のあるストーリー構成となっています。
あらすじ
終戦を終えた近未来の東京という舞台。そんな東京では探偵の存在はもはや陳腐化されていて、代わりに高度なメディアを操る人物によってたくさんの情報と頭脳でほとんどの事件を解決していました。それは海勝麟六という人物で、その男の裏を探るのが、「最後の探偵」となった結城新十郎という男と、その相棒である少年、因果でした。この二人は力を合わせて事件に挑み続けていきますがそんな中で因果の秘密やすべての過去が絡み合っていきます。
みどころ
主な登場人物。
坂口安吾の『明治開花 安吾捕物帖』や『復員殺人事件』などを原案としていて、その設定を舞台を近未来にしたりと工夫を凝らしながらアレンジを加え、謎の少年「因果」とともに難事件を解決していく探偵ものです。坂口安吾の世界についていけなくて小説にも手を出すことができなかった、という方でもこのアニメは比較的に簡単に世界観へと入っていけます。「よくわからない謎」の世界観を出すことが多かった坂口安吾の小説の雰囲気をそのまま受け継いでいますが、やはりアニメにした分強度は下がっていると言えます。魅力的なキャラクターと引き付けるような謎が視聴者を引っ張って世界へと引き込んでくれるところが最大の見どころとなっています。
安吾の魅力的で独特な世界観
ここまで10作品をご紹介しました。坂口安吾は小説だけでなく、随筆や評論も多く書いているので彼の考えが割と分かりやすくにじみ出ていますが、その分新しい謎も深まって彼の魅力的な世界観に引き込まれていくような感覚があります。最後に紹介しました『UN-GO』のように坂口安吾を原案としたアニメも作られていて注目度が高い作家です。幻想的な作品から戦争のようなリアリティのある作品まで幅広く楽しめる作家となっています!
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この記事のライター
太宰治、三島由紀夫を愛する本の虫武蔵野大学文学部所属フランス映画にハマっていますフランス語3級とるため勉強中