森鴎外から学ぶ道徳作品おすすめ8選

森鴎外といえば、やはり国語の授業の『舞姫』でしょうか?森鴎外の作品はそれ以外にもやはりメッセージ性に溢れた作品ばかりです。ここで少し森鴎外の他の作品にも触れてみませんか?

satsuki210皐月虫
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森鴎外ってだれ?

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森鴎外と言えばまずはドイツ、と出てくると思います。彼はドイツの軍医として四年を過ごすという経験をしています。日本の小説家ですが、陸軍軍医としても働いていた少し変わった作家です。そのために彼の文体は少し硬く、読みづらさが目立つかもしれません。それは陸軍軍医という森鴎外の性格も表れているように思います。本名は森林太郎で『高瀬舟』『舞姫』『雁』など小学生から高校生で習うような有名な作品を手掛けています。軍医と文筆活動を両立させた彼の作品を有名どころから順にみていきましょう!

『舞姫』

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『舞姫』は教科書にも載っている森鴎外の短編小説です。森鴎外がドイツへ留学している1884年からの四年の間に執筆されたもので、その影響を多分に受けた作品となります。文体が特徴的で、国語の授業では多くの学生が頭を悩ませただろうと思います。特徴のある文体といかにも浪漫的なストーリーが見どころです。

あらすじ

太田豊太郎という主人公は、ドイツ帝国へと留学した官吏であり、この話は帰国中に書いているものを回想録的な形で綴ったものになっています。
美少女、エリスとの出会いによって豊太郎の運命は大きく変わっていくことになりますが、唯一の友人によって引き留められたりと苦難が生じていきます。エリスと同棲するまでに至った豊太郎でしたが、エリスが豊太郎との子供を身籠った頃、友人相沢の紹介でドイツ大臣のロシア訪問を持ち掛けられます。そうして相沢は彼を日本へと帰国させようとします。相沢から真実を告げられたエリスは発狂し、豊太郎に置いて行かれる結末へと向かっていきます。

『舞姫』の中に隠れたメッセージ

『舞姫』は舞姫論争となるほど様々な意見が寄せられていますが、この話を読み解くにあたって、太田豊太郎という人物の意思の弱さ、という点には注目すべきだと思われます。彼は相沢という友人に言われたことと、エリスとのことを逐一天秤にかけては悩み抜きました。そして彼の人間らしいところは自分が一番楽な方へと進んでいったという事です。最後エリスの方へと寄り添っていたならば、彼の意思の弱いキャラクターは完全に崩壊していたでしょう。この男の弱弱しい人間性がいかにも社会に大きな波紋をつくり、学び読まれるようになった由縁だとも思われます。
映画も1989年に公開しています。ドイツの風景が美しく表れていますので、映画でもぜひ見てみてください。

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『高瀬舟』

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『高瀬舟』も『舞姫』と同じく森鴎外の短編小説で、こちらは道徳の授業などでよく用いられる作品となっています。「安楽死」という重要で社会ではいまだ解決されていないテーマを作品に盛り込んだものです。考え方が人それぞれ変わり、それによって読み方も変わってくる異色の作品です。

あらすじ

場所は京都で、護送役の男は罪人を島へと送るためにその日も高瀬舟を下る舟に乗っていました。そこに乗ってきたのは弟を殺したという男で、名を喜助と言いました。罪人にしては晴れやかな顔をしている喜助の事が気になって男は彼にその訳を尋ねます。すると喜助は病気で毎日苦しんでいた弟の話を始めました。なぜ弟を殺したのか、そして弟を殺してもまったく罪を感じていない喜助に注目です。

道徳的観点から見る『高瀬舟』

「安楽死」というテーマには答えが存在しません。それ故に道徳で取り上げられるものとなっているのですが、答えがない分、この作品を毛嫌いする人と評価する人に分かれます。ですがどちらを思ったとしても弟の死を幇助した喜助の気持ちは真っ先に考えてしまうでしょう。喜助の晴れやかな顔を見ると、弟をようやく楽にしてあげられた、という気持ちだと読み取ることができます。現代よりまったく医療が発達していなかった中で、弟を救う方法が「死」しかなかったのだと思うと、これは永久に読み継がれていくべき作品だと思わずにはいられません。

出典:risseicinema.com

成宮さん主演の『高瀬舟』

『雁』

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『雁』は森鴎外の小説で広く知られた作品です。子供の頃に触れた方も多いかと思います。死んでいく雁と女性の心理状態をうまく表したもので、不運により死んだ雁の存在に、読者は何とも言えない気持ちになります。これも森鴎外のメッセージが含まれた作品で、少し苦々しい思いが残るかもしれません。

あらすじ

末造という男の妾であるお玉は、医学を学ぶ大学生の岡田に密かに想いを寄せていて、末造の来ない日にはわざと家に一人でいるようにして、散歩に来る岡田を待っていました。しかし、一人で散歩していた岡田に語り手の「ぼく」の邪魔が入り、一緒に散歩に出ることになってしまいます。その途中、たまたま投げた石が飛んでいた雁に当たってしまい、雁はそのあと不運にも死んでしまいます。
そうしてお玉の家の前を通った岡田たちでしたが、彼は一人ではなかったために何事もなく、お玉は岡田に想いを伝えることなく、岡田は洋行していきました。

不運で死んだ雁とお玉の心

この小説では不運で死んでしまった雁の存在と、お玉の伝えられなかった想いが重要であると思われます。なぜ岡田たちがお玉の家の前を通る前に一匹の雁を殺してしまったのか、不思議に思うところであり同時にそこがこの作品のポイントにもなってきます。彼女の心と雁が連動していると考えてみたらどうでしょうか?死ぬ=消えると考えれば、お玉の伝えられなかった想いは雁の命と共に消えてしまったという事になります。そしてなぜ消えたのかと言えば、外部からの乱入に思い至るためにすべては語りての「ぼく」がやはりすべての元凶となるわけです。
『雁』は1953年に映画化されており、またテレビドラマ化も幾度かされている作品になります。

出典:blogimg.goo.ne.jp

『ヰタ・セクスアリス』

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パット見ただけでは意味が分からないタイトルですが、これはラテン語で「性欲的生活」を意味する言葉からきています。スバルに掲載された当初、政府から卑劣な小説であると言われ発禁となってしまいますが、実際この作品で性行為が直接描写はされておらず、むしろ性についての哲学であると今では考えられています。

あらすじ

性欲についての前置きがあった後、金井という人物は筆を手に取り書き始めます。内容は年を追っていくという書き方で表されていて、最初は六つから始まります。彼は「性」という問題について様々な出来事と人を通しながら自然と学んでいきます。七つの頃、おじいさんが彼に「阿藤様とおっ母さまが夜何をするか知っておりんさるかあ」と問います。顔をくしゃくしゃにして笑うおじいさんに「僕」は途端怖くなって逃げるように駆け出しました。そうしてそのあと、男と女が夫婦になってその間に子供ができるという事実を「僕」は秘密があるのだと思うようになり、考えを膨らませていきます。

性についての教養文学

今では「保健の授業」というものがあります。小学生の頃、大体こうした性についての話はそこで習うだろうと思いますが、森鴎外の『ヰタ・セクスアリス』はこの事実を「僕」を通して勉強していくというものになっています。子供はいつこの事実を正確に知るのか、それはやはり誰にも分りません。性はつまり哲学であり神秘です。それを「僕」は不思議と分かっていて、しかしその一歩を踏み出すことにとても勇気がいります。これを読むことで、単に性欲について理解するのではなく、哲学として読み解くということが必要になります。青空文庫でも出ていて無料で読めますので、ぜひ試しに読んでみてください。

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『青年』

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『青年』は森鴎外の長編小説です。スバルで連載をしていました。青年というタイトルからも分かる通り、青年独特のあふれる悩みと成長を見事に描いています。これは夏目漱石の『三四郎』に影響を受けた作品なので、『三四郎』も合わせて読むことをおすすめします。

あらすじ

上京してきた作家志望の小泉純一は、著名作家の元へ訪れたりしていました。医学生と親しくなり、大村という人物に啓発されたりしていました。ある日、劇を見に行くとそこで未亡人と知り合いになります。それは坂井という人物でした。純一はその後坂井と親しくなりますが、どうしても坂井の事が忘れられなくなり、坂井を追って箱根へと向かいます。しかしその未亡人は岡村という画家と一緒におり、その未亡人は美しい肉体が横たわっているだけだったのだと、気がつくのです。

青年の成長を学ぶ

ここではやはり、上京してきた青年が一人の未亡人と出会うという点が一つのポイントであると考えられます。今までの青年の人生の中でそこが大きな分岐点になっていったでしょう。そしてその出会いこそが成長の一つのポイントでもあるわけです。この小説は青年の成長が一つの見どころとなっているので、この未亡人の登場はこの小説の中で盛り上がるところです。そして青年は未亡人をついに追っていって真実を知ってしまうわけですが、大きな壁や絶望といったものは成長には不可欠であるということも教えてくれます。代表的な青春小説と言えるでしょう。

『阿部一族』

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森鴎外の短編小説である『阿部一族』は江戸時代初期の阿部一族が全滅した事件を元に書かれた作品で、演劇や映画、テレビドラマなどで多く親しまれています。漫画にもなっており、事実を元に創作されたことによる注目が多い作品です。史実と違った点などもあり、歴史と比べてみるのも面白いかもしれません。

あらすじ

官営18年に、肥後藩の主であった細川忠利の病状が悪化したことにより、その側近たちは殉死を次々に願い出ます。そんな中阿部弥一右衛門も殉死を願い出ますが、彼をけむたがっていた忠利は彼に「生きて新藩主を助けよ」と遺言を残します。そのあと忠利は彼の殉死を許可しないまま死去し、そのために阿部弥一右衛門は他のものが次々と殉死していくなか以前通りに勤務をしていました。しかし彼は一族を集め、彼らの前で切腹を遂げることを誓います。

歴史小説としての阿部一族

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映画で見た方が、歴史としては分かりやすいかと思います。しかし、実際とは異なる点があって、阿部弥一右衛門が殉死したことは史実通りに書かれていますが、史実では、細川忠利の子・光尚が藩主となった翌年の寛永20年(1643年)に、阿部権兵衛が先代・忠利の法事で髻を切り投獄されています。阿部一族は、屋敷に立てこもり、討ち手と闘ってことごとく討ち取られ、その後に権兵衛が縛り首にされました。実際の歴史と多少異なる部分をしっかりと抑えて見ていただければ、しっかりと物語性を掴みつつ、歴史の一部にのめりこめると思います。

『山椒大夫』

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この小説は中世の芸能で有名だった演目の一つである「さんせう太夫」を元に執筆されていて、中央公論に掲載されたものです。小説化によって脚色された部分もあって、この『山椒大夫』には森鴎外の好みに合わない部分には小説的な変更を加えていったと、随筆では述べています。映画や舞台なども高く評価されていて、注目の作品です。

あらすじ

平正氏の幼い姉弟は、左遷された平正氏に会いに行く途中で越後国で人買いに騙されて離ればなれになってしまいます。そして山椒大夫によって奴隷として人生を送ることになります。成長した二人はとうとうそこから脱出しようと考え、脱出した片方は入水した姉を弔ったあと、人買いを一斉に禁止させ、山椒大夫は仕方なく、奴隷を解放することになります。

脚色の加えられた『山椒大夫』

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『山椒大夫』の映画化はヴェネツィア国際映画祭で賞を獲得するほど、海外でもかなり高い評価を受けている作品です。森鴎外によって脚色が加えられた『山椒大夫』をさらに映画にかかわる二人の脚本が共同で脚色を加え、日本を代表する作品の一つとして世界に放出しています。溝口監督の代表作の一つとしても名高く、数々の世界映画として表彰されるなど、どちらかというと日本よりも世界での人気が高いようです。「奴隷制度」という価値観にも注目して鑑賞してみてください。

『渋江抽斎』

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森鴎外によって書かれた歴史小説『渋江抽斎』は、一般にも広く知られ、後世に森鴎外が描く前にも江戸時代末期の医師などで活躍した人物です。江戸の神田に生まれ、儒学と医学を学びました。森鴎外の人物像とも近いところがあります。森鴎外に多い道徳的作品の中では薄いかもしれませんが、彼の書く歴史小説にも一度触れてみませんか?

「渋江抽斎」を描いた理由

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『渋江抽斎』は青空文庫で無料閲覧ができますので、気軽に手が出せる作品です。
渋江抽斎の史伝には森鴎外の『渋江抽斎』と、『森鴎外の歴史小説』などがあり、ほとんど森鴎外一人が注目したものです。なぜ彼はここまで注目したのか、それはやはり渋江抽斎が医学の人物であったということが影響しているのでしょう。森鴎外も小説を書きながら、常に人を救うことを考えていました。人間の命を大切にする森鴎外だからこそ、道徳的な人間の心に訴える作品が多いのかもしれません。これは、その森鴎外の目指した道がそのまま示されている作品なのです。

森鴎外の魅力

いかがだったでしょうか?すでに知っているものも多かったと思います。知らなかった作品はぜひお手にとってその魅力に触れてみてください。ほとんどが「人間の正しい在り方」を問うものが多いです。自分で読んでみて、それから自分の意見を森鴎外にぶつけてみることも彼の作品で味わえる魅力のような気がします。ここに載せたものだけでも、ぜひ読んでみてください。

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皐月虫

太宰治、三島由紀夫を愛する本の虫武蔵野大学文学部所属フランス映画にハマっていますフランス語3級とるため勉強中

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旅行と食べること、ファッションが好き。インドア派でアウトドア派のフリーライターです。生まれは四国、大学で東京へ行き就職で大阪へ。転々とする放浪癖を生かして様々な地域の記事を書いています。

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