川端康成を知るための厳選おすすめ10作品
川端康成をしっかりと知っている人は少ないのではないでしょうか?今回は作品の中から分かりやすい代表作を選んで紹介していきます。川端康成は難しい、という印象をぜひこの機会に変えてみましょう!
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アイキャッチ画像出典:www.designroomrune.com
川端康成ってだれ?
画像を見てみると、お茶目な方ですね。川端康成はなんとノーベル文学賞を受賞した方で、世界の人々により深い感銘を与えた方なんです。横光利一などと共に同人誌『文藝時代』を創刊して新しい感覚の文学を目指す「新感覚派」の作家として活躍をしました。作品の中には様々な手法、作風を取り入れて愛や死や日本の美など色んなものをテーマに書き続け、数々の名作を日本社会に残していきました。『伊豆の踊子』や『雪国』などは特に有名作品で、多くの人々に読まれた作品になります。
『伊豆の踊子』
川端康成の初期の代表作です。伊豆を旅した彼が19歳の時の事を元にして描かれた作品で、儚い恋を抱いた物語です19歳のもつ、その時にしか分からない特有な孤独感や、憂鬱な青年の気持ちが作品の中に表れています。この作品を読むだけでたくさんの事について考え、孤独の切なさを噛みしめられます。
あらすじ
孤独と憂鬱さから逃げるために伊豆へ旅に出た一人の青年の物語。旅芸人一座と道連れになった青年は、そこにいた踊り子の少女に淡い恋心を抱いていきます。青年特有の自我による悩みや感傷が描かれ、その心がすべて通り子の少女の素朴で純粋無垢な心によってだんだんと解きほぐされていく様が綴られます。そうして少女との切ない別れが最後には待っているのです。
映画で見る『伊豆の踊子』
美空ひばりさんの出演する映画『伊豆の踊子』は1954年に公開されたものです。この他にも1933年の『恋の花咲く 伊豆の踊子』や1960年m1963年、1967年、1974年の『伊豆の踊子』、があります。何度も何度も映画化が繰り返された愛された作品で、映画では少し原作と違ったところも加えられるなど少しの修正もされています。白黒からカラーまで様々な『伊豆の踊子』が映画化されていますので、ぜひチェックしてみてください!
『雪国』
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」
有名な一文ですね。この作品は川端康成の長編小説として名高いものです。この長編は断続的に雑誌で書き継がれたものが次第に一つの作品になった、というものでその構想は長く続きました。たくさんの人が冒頭部分を知っていて、しかし内容をしっかり理解している人は少ないかもしれません。この名作をぜひ、内容まで深めてみませんか。
あらすじ
12月の初めの事でした。島村は雪国へと向かう汽車の中で、ある女に興味を惹かれます。それは病人の男に付き添う恋人のような若い娘でした。二人は島村と同じ駅で降りたのでした。旅館には芸者の駒子という女があり、その駒子とは新緑の五月に出会いました。なんと駒子の師匠の家にはあの車内で見かけた病人がいて、その男は師匠の息子であり、その付き添いでいた女、葉子は駒子と知り合いのようでした。
島村は東京に置いてきた妻子を忘れたように温泉場へ逗留を続け、駒子と葉子の二人の女に翻弄されていきます。
映画『雪国』の魅力
映画『雪国』では何といっても小説でもあらわされていた雪の描写が魅力の一つです。雪国というキーワードにもなる一つの場所で、その冷たさに負けずに生きる駒子という女が実に魅力的であり、そのそばにいるもう一人の、愛した男を亡くした葉子という女の存在がまた駒子を引き立たせます。その中に入り込んだ妻子を東京に残してきた島村という男が、この二人の魅力に囚われていく様が、1957年の一度目から再び復活して1965年に公開した映画でしっかりと映し出しています。
『抒情歌』
川端康成の新境地であるこの『抒情歌』は、川端康成の短編小説で死生観がよく表れている作品であると言えます。川端康成が最も愛した作品で、川端康成の事を詳しく知るためには欠かせない大事な一冊です。死の中で輪廻転生に救いを求める女性の心が神秘的に語られます。
あらすじ
主人公の「私」には霊感がありました。彼女はある日夢の中で一人の青年に恋をします。その夢の2,3年後に「私」は「あなた」に出会います。不思議な魂の霊感の叫びによって、二人は愛し合い暮らし始めたのです。この主人公である「私」の霊感は、人の死を直感してそれは、母の死でした。葬儀の後、「あなた」は「私」を待ってはおらず違う女性と結婚していて、「私」は愛の苦しみを癒そうと様々な本を読み漁ります。そうして彼女は「輪廻転生」という人間のつくった中で一番美しい「愛の抒情詩」だと思うのでした。
川端康成の死生観
はやくから「死生観」というものを考えていた川端康成の「死生観の集成」と呼べるものがこの作品です。日本の作家、三島由紀夫はこの作品を高く評価しています。この作品そのものが、川端康成の独白と呼んでもいいでしょう。そして気になるのが霊感という能力を持っていること、それから輪廻転生への考え方です。現代では考え方が曖昧になっているこれらの「死」にまつわるものを、この作品ですべて明らかにし、死をどのように考えるか、川端康成は述べています。ぜひ、現代に生きるすべての人々に読んでもらいたい、そんな小説になっています。
『禽獣』
川端康成の「非情」を描いたこの作品は、禽獣たち、つまり動物たちの生命の裏側の潜むたった一つの虚無が密かに語られたものです。動物を愛する男は人間を愛するよりも動物を愛して一緒に暮らした方がいいとまで考える男で、少し異質に感じる作品かもしれません。しかしこの中に描かれる新しい思想は、きっと心の奥深くで何か刺さるものがあるはずです。
あらすじ
動物を愛する男の昔の女に千花子という女がいました。踊り子の彼女は伴奏弾きと結婚して、自分の舞踏会を開くようになっていました。その輝かしい踊りに男は惹かれ、また子供を生んでから衰えた踊りをするようになった千花子を男は叱ります。その様々な回想の中で、男は死なせてしまった雲雀の事を考えたりします。人間の女と動物の事を同時に考えているのです。そうしてふと、千花子と心中しようとしたことを思い出し、そして男に殺されようとしていた千花子の姿に「虚無のありがたさ」を見ました。
川端康成の「嫌悪」
この作品も、先ほどと同様に川端康成自身の見解が多分に入り込んでいる作品です。川端康成の本質を知るという意味では欠かせない本になるでしょう。多くの批評、作家論に発展するこの話ですが、タイトルの『禽獣』というものから、動物というものにスポットが当てられます。川端康成も同時純潔の犬しか飼っておらずそこからこの作品も生み出されたのではないかと予想されます。「犬と舞踏と少女」というキーワードを持って展開するこの物語の中にある、川端康成の「嫌悪を取り除こう」とする心を、ぜひ見つけてみてください。
『古都』
川端康成の長編小説で、古都、京都を舞台にした物語です。京都の名所、行事がたくさん盛り込まれた作品で、京都の伝統を知りたい、風景を知りたいという方に大変人気です。舞台化や映画化などもされていて、多くの媒体で親しまれている作品で、川端康成の描く切なさと可憐さがあふれているものとなっています。
あらすじ
呉服屋の一人娘であった千重子は、両親に愛されて育ったはずだったが、自分は捨て子なのではないかという悩みを持っていました。だが両親はその噂を否定して、夜桜の下に置かれていたかわいらしい赤ちゃんをさらってきたのだと言いました。
五月、千重子は自分そっくりな娘を見つけます。それは妹であり、苗子と言いました。自分が双子だったのだと千重子はその時に理解します。千重子の両親は、苗子を引き取ってもいいと言い、千重子もずっと一緒にいてほしいと苗子に言います。けれど苗子は千重子にはずっと幸せでいてほしいと願い、雪の朝早く、山の村へと帰っていきました。
映画『古都』の魅力
映画『古都』は1963年に一度映画化され、アカデミー賞にノミネートしたあと、1980年に二度目の映画化を果たしました。そして2016年に、舞台を現代風にアレンジしたものが作られました。ここまで時代を追って映画化されるのは珍しく、それほど注目される作品であるということが分かります。この映画では、現代の中で千重子、苗子、その娘たちがどのように生きていくかが中心に描かれていて、小説とはまた一風変わった風景が広がっています。川端康成の『古都』を読んだ後に、一体彼女たちがどうなったのかを映画『古都』で確認してもらえればと思います。
『千羽鶴』
川端康成の戦後の代表作として有名な作品です。続編には『波千鳥』というものがあって、これは未完となっています。芸術院賞を受賞した作品で、愛と死を軸に、美しい幻想の美世界が広がる神秘的な物語です
。その中で染み渡る現実的な人間関係が絶妙な温度差をもって、作品を構成しています。
あらすじ
太田夫人は、ある茶会の席で出会った菊治に惹かれ、その夜を共に過ごします。菊治は今は亡き情人である三谷の面影を宿した息子で、太田夫人にとっては菊治そのものが菊治の父であると同様でした。菊治もその感覚を素直に受け入れて、その別世界へと誘い込まれてゆきます。菊治には夫人が人間最後の女である、はたまた人間ですらないと思えていました。そんな中菊治の父の愛人であったちか子の陰謀によって、恋にやつれてしまった太田夫人は罪深さから自殺をしてしまいます。
千羽鶴へのこだわり
川端康成は千羽鶴に強いこだやわりがあります。作中に見られる「茶器」や風呂敷の千羽鶴の絵模様などからもうかがえます。日本の美について誰よりも深く考えていて、作中でも重要になる志野焼は尾張、美濃にの陶器でもあります。これは夫人の象徴でもあって、特に注目したいところです。日本の美しい文化と、夫人の妖しさをうまくかけています。映画化もされていて、1953年に一度、そして1969年に二回目が公開されています。川端康成のこだわった『千羽鶴』を映像でも眺めてみてください。
『山の音』
『山の音』は川端康成の長編小説で、戦後日本文学の最高峰と評価されています。たくさんの日本文学の中でここまで言われるのはやはり川端康成だからこその事で、彼の完全なる文体が世の中に認められている証拠ともいえます。この作品こそが川端康成の作家的評価を格段に上げ、戦後の傷跡の中に残る、日本の悲しみと美しさが込められています。
あらすじ
東京の会社に通う尾形は、家族四人で鎌倉に住んでいました。物忘れをするようになってきた尾形は、喀血をしていて、診察を受けなくても特に影響はなかったのですが、夏の深夜、彼は「山の音」を耳にして、それが自分の死期を宣告しているようにも聞こえ、恐怖しました。彼は時々夢を見て、そこには死んだ知人や友人が出てきたり、若い娘が出てきたりしました。友人の遺品であるある能面を預かった時、その美少年のような中性的な顔の唇に思わず接吻をしそうになったほどでした。息子の嫁に密かに淡い恋を抱きつつ、自分の迫りくる死期と不思議な夢によって翻弄されていく物語です。
友人の遺品である能面のモチーフ
敗戦と友人の死
この『山の音』には川端康成自身の体験である敗戦と友人、知人の死が執筆背景としてあります。日本が戦争に負けたという事実を受け止め、その中にあるすべての人々の悲しみを一心に背負いながら書き上げたこの作品の中で、川端康成は日本の悲しみだけでなく、日本の変わらぬ美しさについてもこの作品の中で語っています。そんな川端康成を代表する『山の音』ですが、1954年に映画化され、結末が原作とは異なってるのが特徴です。小説を読んだあとに見るとまた違った面白さを体験できておすすめです!
『眠れる美女』
『眠れる美女』は川端康成の中編小説で、全五章となっています。今までの川端康成作品とは少しカラーの違う作品と思う方もいるかもしれません。『古都』や『千羽鶴』のような日本の伝統さの美を追及した作品とは違い、幻想的な作風で全体が作られています。「老人の性」を描くものとして、谷崎潤一郎の『瘋癲老人日記』も合わせて読んでみると比較ができておすすめです。
あらすじ
江口はある宿を訪れました。「すでに男でなくなっている客」として迎えられた老人江口は、二階の八畳間に案内され、そこで一服します。隣には鍵のかかった寝部屋があり、「眠れる美女」の密室となっていたのです。その館はなんと、全裸の娘と一晩添い寝をして逸楽を味わう秘密のくらぶであり、眠ってる娘には質の悪いいたずらや性行為をしてはいけないという決まりがあったのでした。江口は眠っている娘の美しさに心を奪われ、半月後に再びその館を訪れました。
世界で親しまれる『眠れる美女』
『眠れる美女』を読むなら、まず映画化に注目です。幾度も映画化がされていて、それがなんと海外のものが多いのが特徴です。1968年に日本で映画化された『眠れる美女』をはじめに、1995年にはフランス映画として『オディールの夏』というタイトルで映画化されています。そうして1995年にはもう一度日本で『眠れる美女』が公開され、2007年にドイツ映画『眠れる美女』が公開。2011年にはオーストラリア映画として『スリーピング ビューティー/禁断の悦び』が公開しています。さらにオペラ化もされていて、海外の注目が著しい作品となっています。日本の小説がここまで海外で映画化されることは稀なので、ぜひあわせてチェックしてみてください。
『狂った一頁』
『狂った一頁』は原作川端康成の、日本映画です。
新感覚派映画連盟という、横光利一や川端康成らの新感覚派の作家で結成されたチームが制作したもので、無字幕のサイレント映画となっています。
あらすじ
元船員である男は、自分が犯した虐待のせいで精神異常を起こしてしまった妻を見守るため、精神病院に小間使いとして働いていました。男の娘が結婚の報告をするため病院に来た時に、父親がここで小間使いをしているという事実を知ります。次第に男は妻をこの病院から逃がせようと狂った精神状態に陥っていき、だんだんと病院の意思や狂人を殺していくという幻想を見ていきます。そうしてついにはその狂人たちの顔に能面をかぶせていくという幻想に変わっていくのです。
『狂った一頁』の制作背景
監督である衣笠貞之助はこの新感覚派のチームを作った責任者でもあり、映画監督、俳優でもあります。原作を川端康成としたこの作品は、タイトルの通り狂った女と男が織り成すストーリーとなっていますが、最初に衣笠貞之助が考えていたのはサーカス一座の話でした。そこから川端康成らと話し合っていくうちに病院へと場所が変わっていきましたが、このストーリーの肝ともなる「能面」には、少しこの当初あったサーカス要素が残っているようにも感じます。ぜひ、小説の川端康成だけでなく映画の原作として活躍をしたものも手に取ってみてください!
『片腕』
川端康成の『片腕』は一見、江戸川乱歩のような雰囲気を受けます。短編小説である『片腕』という話は官能的願望世界をよりシュールに、リアリズムで描いたもので、川端康成らしく美しい文体で描いています。川端康成の後期の短編として広く知られています。
あらすじ
「片腕を一晩お貸ししてもいいわ」
娘の一言が印象的です。娘はこ言い放つと、「私」の前に肩からはずした右腕を置きました。「私」が娘の袖のない肩や腕がきれいだと思っているのに気が付いて、娘はそれをそのまま貸してくれたのでした。「私」はその腕を大事に抱きながらアパートへと帰っていきます。片腕を胸に抱きながら、「私」は今までの女たちを思い出しながら、そして腕と会話をしながら眠りにつきます。次第にその腕の脈と「私」の心臓の鼓動は一致していきます。
狂気の中の美
川端康成は常に睡眠薬の服用をしていましたが、それを一旦やめて二月には禁断症状により入院していました。こうした薬というものの影響が含まれた作品であるともいえます。そしてこれは、『眠れる美女』にも同じことがいえます。川端康成の精神状態とが溶け合ってできた作品である『眠れる美女』とこの『片腕』はどこか狂気の孕んだ空気が伺えます。川端康成の『雪国』が好きという方などはもしかしたら突然変化したこの雰囲気についてこられないかもしれません。しかし川端康成の違った面を見るという意味ではこの後期の作品は適当であるとも言えます。
川端康成の軌跡
いかがだったでしょうか。きっと川端康成の知らない作品が多数あったと思います。有名作品の他にも、川端康成には少し違った傾向のものもあるので、彼の軌跡をたどってみると面白いです。ぜひ彼の違った性格の小説も読んでみてください。ただ美しいのではなく、その中に孕んだ狂気、官能がにじみ出ていて新しい川端康成に出会えるはずです。映画化されている作品もぜひお手に取ってみてください!
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この記事のライター
太宰治、三島由紀夫を愛する本の虫武蔵野大学文学部所属フランス映画にハマっていますフランス語3級とるため勉強中