まずはここから!江戸川乱歩の短編集おすすめ10選
江戸川乱歩といえばミステリー小説!今回はそんな中から選りすぐりの、ちょっと不気味な後味の残る作品を10作品紹介していきます。読者は江戸川乱歩の作品をどう推理したらいいのか、徹底的にナビゲートしますので安心して推理小説の世界へ足を延ばしてみてみてください。
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江戸川乱歩ってだれ?
写真で見ると、街中を歩くごく普通のご老人に見えますね。この人がなんと、あのいくつもの推理小説を手掛けた江戸川乱歩です。
主に大正時代から昭和時代にかけて活動した小説家・推理作家です。本名は平井太郎という「江戸川乱歩」からは想像もできない平凡な名前ですが、このペンネームはアメリカの作家である「エドガー・アラン・ポオ」に由来しています。うまく日本語にできたなあと感嘆すら覚えます。
デビュー作は「二銭銅貨」という作品で、やはり有名なのは「怪人二十面相」でしょうか。今回はこの怪人二十面相にはあくまでスポットを当てずに、その人気の外側を埋めてきた江戸川乱歩の短編代表作をご紹介していきます。心の準備はよろしいですか?
「二銭銅貨」
二人の若者が自分の頭の良さを競い合う物語ですが、登場人物の片方はあの明智小五郎です。細かいところまでよく考えられている話で、途中に出てくる暗号もぱっと見ただけではそう簡単には解けません。明智小五郎の一人称で書かれている部分にも注目です。
江戸川乱歩のデビュー作、登場人物とともに明智小五郎に騙されてみませんか?
あらすじ
「私」と友人の松村武は金のない青年でした。ある日世間を騒がせていた、五万円を盗んでそのまま金の行方は分からずじまいという「紳士泥棒」の事件に二人はさっそく興味を示します。松村はふと、机に置かれた「二銭銅貨」に気が付きました。それは「私」が置いていったものでした。そしてこの「二銭銅貨」のある秘密に気が付いた松村はさっと立ち上がり、五万円の事件へと陶酔していくのです。「私」はこの状況をじっとこらえて見ていました。とうとう五万円のありかを「二銭銅貨」をきっかけに突き止めた松村は、ある日「私」に向かってその推理を堂々と喋りだすのですが、「私」はとうとうこらえきれなくなって笑いだします。松村はそんな彼の様子に目を丸くしてしまうのです。
明智小五郎の一人称の効果
明智小五郎はわざとこの二銭銅貨に細工をして、机の上に置きました。ネタバレをしてしまいますが、すべてのトリックはこの明智小五郎がすべて仕組んだことで、松村はまんまとそれのすべてに綺麗に引っかかってしまったのです。読者もこれにきっと騙されて、最後にひやっとする展開になっているんですが、これがなんとそうでもなく、本文中にいくつものヒントがさりげなく隠されています。これは明智小五郎の一人称であるからこそ落とすことのできたヒントです。例えば本文中の「私はだまって、一種の興味を持って、それを眺めていた」(『江戸川乱歩傑作選』p20)とあります。これは一種の明智小五郎から読者への最大のヒントになっています。こういった部分がいくつも本文中に隠されていますので、一度明智小五郎の声に注目して読んでみると「あ、これは明智小五郎随分と楽しんでいるな?」と気が付きます。つい松村の話に注目してしまう「二銭銅貨」ですが、ここは一度「私」に注目して推理してみましょう!
「D坂の殺人事件」
比較的有名な作品ですね。これは「文豪ストレイドッグス」というアニメとコラボしている表紙になります。この表紙からも十分不気味さが伝わってきますが、「D坂の殺人事件」の不気味さはまたしても明智小五郎という人物にあります。この男がなんとも怪しくて、さらに語りの「私」がこの明智小五郎を物語が終わるまで疑っているということが分かります。ツッコミどころが満載の一作なので、明智小五郎の言い分を疑いながらどうぞ。
あらすじ
あるD坂の大通りにある「白梅軒」という喫茶店で、「私」はコーヒーを啜っていました。そうして、目の前に見える古本屋を気にしながらじっと店の中から見つめていると、そこに明智小五郎がふらりとやってきます。二人は向井の古本屋を見ながら、「本泥棒」の正体に気が付きます。ですが、そいつは表からは出てこず、そして店の者ですらそこからは出てこないのです。不思議に思った二人は店の中へと入り込み、そしてあっと思った瞬間、そこに店の奥さんの死体を見つけてしまいます。二人はこの事件の第一発見者となりますが、「私」はどうも明智小五郎という男が怪しいと、自分の推理を繰り広げていきます。
明智小五郎という男の怪しさ
明智小五郎という男がこの事件の犯人である。「私」はそのような推理をします。読者も、この「私」の推理を聞いて「おお、なるほど、確かにそれなら明智が犯人で決定だ」と思ってしまいます。実際証拠や「私」の言い分も正しいのです。明智が犯人であっても間違いはないと思います。しかし明智は「自分ではなく、犯人は蕎麦屋の店主でSMプレイの結果そうなったのだ」と言います。ここで不思議なのは冒頭で「この通りのものに怪しいものはいなかった」とすでに言っているのに明智が示した犯人が通りの人間であった、という点なのです。それに電気を真っ先につけた明智が犯人だという点についての明智の反論が「電線が切れていて、偶然あの時ついたのだ」だったことも怪しいですね。すべては偶然である、と言っているんですから。この話はいかに明智の言い分が不安定であるか、「私」がどれだけ納得していないかという部分を「私」の一人称から感じ取ってもらえればいいと思います。
ちなみに、この作品は2015年に映画化されていて、R15指定がされています。この作品ではなんといっても「SMプレイ」の末に殺してしまった、という一つのポイントがあるためにどうしてもこういう結果になってしまったのでしょう。1998年にも一度映画化していますが、こちらもやはりR15指定です。「D坂」と「心理試験」と「屋根裏の散歩者」の合作になっています。
もちろん「明智小五郎」という人物にも注目なのですが、この官能的な表現にも映像化は特に注目です。
「心理試験」
ドキドキハラハラを味わえる一作!
明智小五郎の才能がだんだんと開花していく途中に添えられた話のようにも思えます。完璧な犯罪の中に、心理を揺すぶるような形で犯罪をばらしていく様が本当に見事で、これは江戸川乱歩の頭の良さが実に際立つ作品になっています。最後まで明智小五郎のやり方に気が付かない、でも最後までいけば「ああ、そうだったのか」と騙される、その騙され方が心地よい作品になっています。ぜひ一度手に取ってみてはいかがですか?
あらすじ
貧しい学生であった青年は、ある日親友から下宿先の老婆が大金を貯めているらしい、という情報を聞きつけます。その大金はこれからの未来のある自分が使った方が幾分か有効だと青年は考え、慎重に老婆の完全犯罪を計画していきます。そうして老婆を殺害後、第一発見者となった親友が警察に連れていかれ、このまま何事もなく親友が犯人で決定するはずでした。しかし明智小五郎という男によって、青年はどんどんと疑われていき、最終的に「心理試験」という方法で、彼が犯人であるという確たる証拠が突き付けられてゆくのです。明智小五郎のあっぱれな話術に、誰もがページを進める手を止められません。
「罪と罰」からの影響
この作品はドストエフスキーの「罪と罰」をそのままパクったのだと、なんと江戸川乱歩本人が言っています。確かに、物語の展開がすべて同じで、違う箇所と言えば、外国から日本へ場所が移り、壁の代わりに「六歌仙の金屏風」を使い、ペンキの代わりに「小野小町の顔の傷」を使っているという点です。ですが、ここで一つおかしいのは心理試験によって使われるこの二つの道具の順序が違うということです。「罪と罰」では先に壁の事を聞き出してそれからペンキ屋はいなかったか?と言っていますが、乱歩の「心理試験」ではもっと能力が上がり、先に金屏風についた傷の事を聞き出してからその金屏風は以前なかったものなのだ、と明智小五郎は言うのです。これは「罪と罰」よりも精巧な作りになっていて、犯人を華麗にだます素晴らしいものとなっていますね!
なんと「心理試験」は2016年にテレビドラマ化もされています!犯人の青年役はあの人気者の菅田将暉さん。悪役が似合いますね。このテレビドラマは江戸川乱歩の初期作である「D坂の殺人事件」「心理試験」「屋根裏の散歩者」を連続してドラマ化したものです。明智小五郎が三作ともに女性である満島ひかりさんが演じているところにも注目です。
「赤い部屋」
この話は世にも奇妙な物語、のような不気味な作品です。共感を呼ぶような話でもなく、「赤い部屋」に集まった人間が、ある一人の人間の話を聞き、結末まで見届ける、というどこか冷めたような淡々としたものがあるのですが、それでも読者は知らずに巻き込まれて最後の瞬間まで見届けてしまうはずです。江戸川乱歩の不思議な魔力が十分に発揮されている作品です!
あらすじ
「赤い部屋」に集まった七人の男たちは興奮する気持ちと共に椅子に腰かけています。
そんな中、「T」はある奇妙な出来事について話し始めます。それは自分はこれまで99人の人間を殺してきたのだということでした。自分は罪を背負わず人を殺す手段を発見してからは、彼は様々な方法で人間を殺してゆきました。自分は恐ろしい殺人狂なのではないか、そう話を締めくくります。最後、偽物だからと渡されたピストルで給仕の女がTを撃った後、Tはあっけなくその場で死んだかと思われましたが……
Tの話は本当に嘘か?
ネタバレをしますと、Tは死んでいません。
Tという男は撃たれた後その場の人間の反応を見ながら立ち上がり、「今までの話は嘘なのです」と言いましたが、ここではこれは本当に嘘なのか?という問題が浮上してきますね。ここまで精巧に話をつくる事が可能であるのか、特に気になる点は彼自身の心をしっかりと描写していることです。「退屈を忘れる」ということまでしっかり言っているので、これはTの本心がしっかりと出てしまっているのではないだろうか、と思われます。話は嘘だったのかもしれません。しかし彼の心の奥底までは嘘ではなく、そういうことを考えたことはある、という意思表示がこの話の本筋なのかもしれません。
江戸川乱歩作品の漫画といえばこれ!
まさに短編集を丸ごと漫画に描き下ろしたものになります。赤い部屋は結構淡々とお送りする話なので、アニメにもなってはいますがこの作品は漫画で読む方がオススメです。その方が落ち着いて、しかも飽きることなく見ることができるのではないでしょうか。アニメーションですとどうしても淡々としすぎてしまう部分がありますので、漫画はオススメです。
「屋根裏の散歩者」
アニメ「乱歩奇譚」とコラボしているものになりますが、やはりそれだけ有名な「屋根裏の散歩者」。NHKでもアニメで放送されていました。こちらも実に奇妙で少しやってみたい、とも思ってしまう話ですが、タイトル通り散歩するだけなのかと思えばさすが江戸川乱歩、それだけではなくしっかりと主人公の欲望を形にしてしまいます。最高級の「犯罪」をぜひ!
あらすじ
親の仕送りで生活をしている三郎は女や酒などのあらゆる遊戯に興味をもてず、退屈な日常を送っていました。下宿を点々としてみたり、なんとかこの退屈をまぎらわそうとしていたのです。「犯罪の真似事」などもやってみたりしていましたが、それに丁度飽き始めていた頃でした。押し入れの天井板が外れることに気が付き、彼はとうとう屋根裏を散歩するという行動を始めるようになります。そうして、遠藤という男の部屋の真上に来たころ、口を大きく開けて眠る彼の口の中へ毒薬を垂らして殺すという、完璧な犯罪を思いついたのでした。
完全犯罪の落ち度
この話の楽しみ方は、なんといってもこの完全犯罪がどうして見破られてしまったか、という点にあります。彼の犯罪は確かに足跡のつかない犯罪だったのですが、明智小五郎というまたしても頭の切れる探偵が現れてしまい、三郎は犯人だとばれてしまいます。ただ、三郎は遠藤を殺した日から煙草を吸えなくなっていたり、集中力を切らしていたり、あまりに過信しすぎて明智小五郎を遠藤の部屋までわざわざ案内をしてしまったりと見直すべきところは多分にあります。そして極めつけはシャツのボタンが現場に残されていたということですね。これはなんだか証拠が残りすぎるのと、注意力散漫すぎでは?という謎も残るところです。犯罪者のリアルな動揺がこの作品にはありふれていますので、そこにも注目してみてはいかがでしょうか。
映画化も何度かされていて、一度目は1970年です。そして二度目が1976年、三度目は1994年、この画像のものは2007年版になります。その後にR18指定の2016版が最新として映画化されています。ここまで何度も映画化されるほどの注目作です。最新版になればなるほどリアルに描かれていて、江戸川乱歩の奇妙で官能的な部分が味わえるでしょう。
「人間椅子」
江戸川乱歩の中でランキング争いをするほど有名な作品です。
こちらは知っていても人生損はしません!江戸川乱歩といえば人間椅子。そのぐらいの認識でももっていると随分と違う気がします。この作品は一度も二度も重ねて騙される作品となっていますので、江戸川乱歩の短編の中でもよりスリルを味わえるものとなっています。ぜひ一度お手に取ってみてください!
あらすじ
ある日、女性作家である佳子は一通のファンレターに目を通します。その手紙に書かれていたのはある「私」の罪悪の告白の物語でした。容貌の醜い「私」は人間たちから蔑まれていましたが、職人としての腕は確かで、ある時ホテルに納品される椅子を依頼されます。「私」はその椅子が出来上がったところでふと、ある出来心がむくむくと沸き起こりその椅子の中に人ひとりが入り込めるほどの空間をわざと作り、その中へと入って、椅子とともにホテルへと向かったのです。椅子に座る人々を皮を間に挟んだ状態で感じて、そこに快感すら覚える「私」でしたが、そこには外国人が多くできれば日本人の女性の感触を感じたいと思うようになりました。そんな時、突然ホテルからその椅子は古道具屋へと移されました。そこの女性の感触を得られると思った「私」は期待に胸を躍らせるのです。
一枚挟んだ快感の行方
江戸川乱歩の作品を原作としたアニメ「乱歩奇譚」。この中でも最初はこの人間椅子の話から始まります。このアニメの中では死体を使った椅子となっていて、この江戸川乱歩の人間椅子より若干ハードな内容となっています。しかし椅子の中に人骨が入っていたりと、「椅子の中」というキーワードはアニメの中でも生きています。椅子の中に人間が入る、という奇怪な話ですが、ここでの読むポイントはやはりそこに「ある快感」があったということです。この乱歩奇譚というアニメでは、「独占欲」から死体を椅子にしたのですが、原作の人間椅子にもやはりそこには何か「欲」があったのだと考えるのが妥当でしょう。彼がどうしてそこまで一枚皮を挟んだ向こう側で女性に触れることを望んだのか、それは彼の容姿にも関係していますが、そういったポイントを意識しながら読んでみると良いでしょう。
「鏡地獄」
ここには一つの狂気があります。最初に読む時、かなり勇気がいる作品なのではないでしょうか。たくさんの鏡の中で過ごす人間の心情というものはきっと誰にも分りません。この作品には「犯人」という存在がいるわけではないですが、世間から離れて鏡によって「自分」に向き合った人間の結果が記されています。最後この人間が一体どうなってしまうのか、注目の一作です。
あらすじ
Kの友人である「彼」は、幼い頃から鏡やレンズ、ガラスといったものに興味があり、それは中学になっても変わらず続いていました。中学になって物理学を学んだ彼は、一層鏡などに夢中になり、部屋にすっかり籠るようになってしまい、病的なほどの「レンズ狂」となってしまいます。中学を卒業したころ、彼は庭に立派な実験室を作ると、中学の時よりももっとその実験室に籠るようになり、Kだけが彼を訪れるようになっていったのでした。
ある朝、Kは彼の使用人に慌てて呼び寄せられると、何事かと思い彼の実験室へと急ぎました。そこにあったのは大きな玉であり、その中からは笑い声が響いています。それが彼であることは、時間がたつにつれて分かってきました。なんとか中から彼を出してやったKでしたが……
鏡に囲まれた世界で何を見るか
この作品ではやはり「鏡」というキーワードがあります。想像してみてください、鏡に一日中囲まれていたら、そこには何が見えるでしょうか?そこには「私」という存在しかいません。自分の存在が自分を見つめ、またその自分を違う自分が見ています。これこそが鏡の脅威です。鏡とは何かを映し出す、というものですが、これはつまり反射です。自分という一人の人間を反射された時、そこには本性が浮き彫りとなって現れてくるはずです。自分にとって自分の本当の姿が目の前に現れてくることほど恐ろしいことはないのではないでしょうか?そのことを想像しながらぜひ、この鏡に取りつかれた「彼」と向き合ってみてください。
ちなみに「乱歩地獄」という映画が2005年に放送されました。この「乱歩地獄」では四作の短編が違う監督・脚本によって作られているのですが、この「鏡地獄」では監督を実相寺昭雄さん、脚本を薩川昭夫さんが担当しました。成宮さんが見事に役を演じきった作品です。
「芋虫」
こちらの作品は、人によっては本当に見ていられない、と思う人もいるかもしれません。それほど衝撃な作品です。戦争から帰ってきた夫を、「芋虫」と呼ぶ妻の気持ち、その「芋虫」となってしまった夫の気持ちが交差して繰り広げられるこの話は、なんとも言い難い奇怪さを含みます。
あらすじ
軍人である英雄の夫を持つ妻、時子。夫は戦争で手足を失い、聴覚や味覚さえもなくなっていました。夫の醜い姿を、素直に醜いと思いながらも、そこに時子はなぜか時折快感を覚え、夫の無抵抗さに虐げてさらなる快感を得ていました。ですが、夫には一つだけ残っているものがありました。その純粋すぎるほど輝いた瞳です。その外部と接続している唯一の瞳に、時子はたまらなく恐ろしくなり、とうとうその夫の瞳さえも奪ってしまいます。それに悶え苦しむ夫を見て、時子ははっと正気を取り戻し、「ユルシテ」という文字を指で何度も夫の体に書き、謝罪をします。
夫はその後手足のない状態で失踪しました。時子の元には必死に書かれたであろう「ユルス」の文字だけが残っていました。
芋虫の死は「幸せ」なのか
英雄となったはずの夫は戦争が終われば芋虫となって生きていきますが、これが果たして彼にとって幸せなのかそうではないのか、ここがポイントとなっていきます。夫の気持ちは、彼がしゃべることのできない設定をうまく使ってまるで語られていません。時子の気持ちを語り続け、その間夫ははたしてどのように生きていたのか、たまにじっと空を見ていた時彼が何を思っていたのか、答えは語られていません。これは読者の想像で補っていくしかありません。最後、夫が「死」の前に立った時、彼は「幸福」と「不幸」のどちらを思ったでしょうか?この点に注目しながら「芋虫」という作品を読んでみてはいかがでしょうか?
「乱歩地獄」の一部である「芋虫」は佐藤寿保監督と夢野史郎さんの脚本で構成されています。平井太郎という主人公は松田龍平さんが演じています。原作とはまた違った「芋虫」を感じられる一作です。
「蟲」
粘ついた恋が語られたこの作品。やはり江戸川乱歩の作品にはこのような気味悪さの漂った作品が多いような気がします。この作品は特に主人公の「ストーキング」や「所有欲」などなんだかねちねちとした雰囲気が感じ取る事ができます。
あらすじ
主人公である愛造は、友人の池内によって初恋の相手であった人気女優の木下と再会します。愛造の初恋はこの再開で再熱され、自らの想いを彼女に伝えるのですが、木下はその必死の想いを軽く嘲笑ってしまします。数か月間、愛造はストーキングを行いますが、木下と池内の逢引きをストーキングしていくうちに、例の「所有権」を抑えられなくなり、愛造はついに木下を殺害し、その体を部屋に連れ込むことに成功します。ですが彼の作戦とは裏腹に、その死体は蟲によって浸食され、次第に腐っていくのです。
「蟲」が食ったものは「所有欲」
この作品はただ死体を「蟲」という存在が腐らせた、で終わる作品ではありません。このタイトルにもなっている「蟲」という存在が一体なぜ死体を腐らせるのか、ここに注目したいと思います。愛造の所有欲の標的となった木下の死体が蟲によって腐ってゆくということはつまり、愛造の想いは完全に死体にすらも拒まれてしまっているということで、愛造の所有欲によって殺された彼女の体は死んでもなお、愛造を拒んでいることになります。蟲は愛造の中の何かを壊しながらじわじわと浸食していっている、ということにぜひ注目してみてください。
「乱歩地獄」のオムニバス映画の一遍として映像化された「蟲」は、監督・脚本をカネコアツシという漫画家が担当し、主演には浅野忠信さんが選ばれています。浅野さんの狂気的な演技が見物となっている作品、ぜひ本作を読んだ後にいかがですか?
「双生児」
作品の表紙からも分かる通り、こちらも奇怪なお話です。
双子であるだろうから、きっと入れ変わるとかだろうと思っていた方は思わぬ展開に驚くかもしれません。愛と憎悪が入り混じったこの作品、読んだら最後、映画にまで手を出したくなるはずです。
あらすじ
医師の息子である雪雄は美しい妻、りんを手にし充実した日々を送っていました。しかし突然母と父が謎の死を遂げ、話は一気に怪しい空気に包まれていきます。ある日雪雄が庭を散歩していると、自分と瓜二つの男によって古井戸に投げ捨てられてしまいます。彼は捨吉と言い、幼いころ両親に捨てられ貧民窟で育った雪雄と双生児の男だったのです。彼はすべてに復讐をするためやってきたのだと言い、貧民窟で恋仲であったりんと捨吉は偽の雪雄として生活を続けます。古井戸の中にいる本物の雪雄にも最低限の食事を与え、なんとも奇妙な生活が続いていきます。
実は一人だったのではないか?
1999年に公開された日本映画です。塚本晋也監督が手掛けたこの作品の出演者は本木雅弘さんとりょうさんです。
映画「双生児-GEMINI-」のこのパッケージからも、本当は一人の人間の話なのではないか?とも思えます。双子というのは深層心理では繋がっている、という話もよく聞きます。この話では確かに捨吉という捨てられた男がいて、その男の復讐劇である、となってはいますが、実は表上ではそれでも裏を見てみるとすべては雪雄の心の中を投影させただけなのではないか?とも読めます。心の中で捨吉と雪雄の葛藤する様子を、古井戸やりんという存在を絡めつつ描いているのではないでしょうか?書いてあることをそのまま読み取るのではなく、その裏に隠されていることも深読みしてみるとさらに面白い作品になります!映像とともにお楽しみください。
江戸川乱歩はやはり奇怪!
ここまで読んでくださった方は「奇怪だ!」と感じたと思います。江戸川乱歩はどの作品も本当に奇怪の中の深みを掘るようなものばかりで、やはり中毒性にあふれていますね。
ここまで10作品をご紹介しましたが、そのどれもが映画化やアニメ化という映像化がなされていて、江戸川乱歩は多くの人に愛されて作品が展開されています。小説を読むことで新しい発見も生まれると思います。たまにはこんなちょっと不気味な作品にも触れてみてはいかがでしょうか?
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太宰治、三島由紀夫を愛する本の虫武蔵野大学文学部所属フランス映画にハマっていますフランス語3級とるため勉強中