冬だからこそ冷でこっそり楽しみたい!うま味極めた純米酒10選
冬だからチンチンの熱燗で身体を温める、というだけが日本酒の楽しみ方ではありません。冬だからこそ、常温の冷で飲むのが日本酒のうま味と香りを案じられるのです。そして、飲むなら何といっても「純米酒」。そんなこだわりの条件で選別したおすすめ10銘柄をご紹介します。
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日本酒が今、再ブームです。特に女性の間で人気です。
ただし、お酒好きの女子たちが、好んで飲む日本酒は、いわゆるチェーンの居酒屋で出てくる銘柄のない日本酒や、大手メーカーの大量製造・大量販売している日本酒ではなく、あまり大きくない酒蔵が作った、銘柄だけではなく製造方法やカテゴリーを選びながら飲む日本酒です。
そして、彼女たちはその味や香りを比較しながら、楽しんでいます。その接し方はちょっとワインに対する時と似ています。もちろん、飲む場所は家でなければ、ちょっとおしゃれなBarのような日本酒専門店。別に、銘柄も何も関係なく酔えればいい、という日本酒の飲み方は否定しませんが、それだけでは面白くありません。日本酒はワインと同様に、奥が深く、いろいろな味わい方ができるお酒だからです。
ここでは、そんないろいろな味わい方の中で「冬でも冷(ひや)」、そして「純米酒」にこだわった日本酒のご紹介をしていきます。
何で冬なのに冷?
寒い寒い冬。こういう日には、日本酒の熱燗で冷えた身体を温めて、という殿方も多いと思いますが、筆者はこういう気候でも、日本酒を「冷(ひや)」で飲むことを推奨します。寒いのに冷でなんか飲んだら、もっと身体が冷えてしまうじゃないか、というご意見もあると思いますが、仮にそうだとしても、冷で飲む良さがあるのです。
冷とは実は「常温」のこと
冷というと、冷蔵庫でキンキンに冷やして飲む、というイメージが言葉的にはありますが、日本酒の飲み方の「冷」とは、基本的に「常温」で飲む、ということです。よく、日本酒を多く扱っている酒屋などに行くと、冷蔵庫に日本酒が保管してあるので、ああやって冷やして飲むのが冷だとも思えますが、そうではないのです。
ちょっと余談ですが、本来、一般的な製造プロセス中で「火入れ」という工程を2回経ている日本酒は、意外に温度に対しての耐性があり、直射日光を避けて冷暗所で保管すれば、冷蔵庫ではなくても品質が維持できるのです。確かに、冷暗所よりも冷蔵庫の方が、より品質維持期間は伸びますので、あの冷蔵庫の保管は、酒屋側の在庫管理の一環だと考えたほうがよいでしょう。
それはともかく、先に書いたように、冷とは「常温」で飲むことです。決してキンキンに冷やすのではないとご理解ください。
冷を推奨するのは、うま味と味と香りを楽しむため
今、ネットなどで「日本酒 飲み方」を検索すると、「燗酒の魅力再発見」的な記事がいくつか出てきます。日本酒の飲み方としては、どちらかというと燗のほうが見直されているわけです。ただ、燗酒と言っても、実はその温度は30度くらいの「日向燗」から70度くらいの「熱燗」までありますが、その中で見直しされているのは、チンチンに熱い熱燗ではなく、日向燗からぬる燗くらいの、比較的低い温度の「熱燗」です。
確かに、日本酒の味わい方として、そのほうが味も香りも立ってくるので、筆者もよいとは思います。その飲み方の「熱燗」なら否定しません。避けたい、というか、ほかの飲み方をしてみたら?という提案がしたいのは、その飲み方ではなく「寒いからチンチンに熱くして飲む」熱燗なのです。
ですので、冷を推奨する理由としては、基本的には「日向燗」「ぬる燗」と同じで、そのほうが日本酒のうま味や味や香りを楽しめるから、ということなのです。ましてや、最初のセクションで書いたように、「冷」はキンキンに冷やした状態ではなく「常温」ですから、冬でもそれを飲んだからと言って、身体が冷え込むことはないはずですし。
ここまでで、まず「冬でも冷」という推奨の主旨はお分かりいただけましたでしょうか?それでは次に、「なぜ純米酒?」ということについてご説明していきます。
そもそも純米酒とは
ちょっと日本酒の知識をお持ちの人なら「純米酒って米だけの酒でしょ?」ということはおわかりでしょうが、ここで、日本酒とそれに対峙する「本醸造酒」の違いについて、まず触れておきます。
純米酒と本醸造酒との違いはアルコール添加の有無
定義的に言うと、「純米酒とは精米歩合を70%以下にした白米と米麹、水のみで製造された日本酒」で、本醸造酒とは「純米酒に醸造アルコールを添加した日本酒」です。ここまで書くと、「本醸造酒って添加物が入っているんだ!」とネガティブな反応があるかもしれませんが、少し本醸造酒を弁護していくと、まず、添加する醸造アルコールは、白米に対し10%以下の重さと非常に低く決められています。
また、次に詳しく書きますが、その醸造用アルコールも化学的に合成されたような「添加物」ではなく、大手の酒造メーカーではない、中小規模の味を大切にしている酒蔵の作っている本醸造酒は、基本的には比較的「ピュア」な醸造用アルコールを使っています。
ですので、いわゆる「添加物!」と否定するようなものではありません。ただ、筆者としては、それでも醸造用アルコールを添加した本醸造酒は推奨したくないですし、少なくとも自分は一切飲みません。
アルコール添加の是非。必ずしも「悪」ではない一面も。
出典:o-dan.net
行きつけの「日本酒に非常にこだわった、居酒屋よりはちょっと上質な日本料理屋」があるのですが、その店に行ってお任せで日本酒を頼むと、純米酒だけではなく、本醸造酒も出てきます。そして、それに異を唱えると、「アルコール添加」肯定の主張をされます。
それは具体的には、以下のような根拠からです。
まず1つは、醸造用アルコールというものの品質の問題です。つまり、ちゃんとした酒蔵で使っている「醸造用アルコール」は「柱焼酎」というもので、原料は米だけで作った「米焼酎」であり、いわば「純米酒」に「米焼酎」を加えたものだから、変な添加ではない、ということです。
2つめは、本醸造酒の方の品質の問題です。純米酒は味が「酵母次第」なので、どうしても味にばらつきが出ます。そこにアルコールを添加することで、品質を一定レベルに保てる、ということです。
3つめは、本醸造酒の味の問題です。彼ら「酒の目利き」からすると、端麗辛口の酒の場合は、純米酒よりも本醸造酒のほうが味がクリアでキリッとしておいしい、ということです。味に「雑味」がない、という表現も使います。
そして4つめは、本醸造酒の香りの問題です。ご存知でしたか?実は、現在の全国新酒鑑評会に出品されるお酒のほとんどはアルコール添加をしている本醸造酒です。これはアルコールを添加したほうが、香り高く作れるからなのです。金賞ともなるとほぼ確実に本醸造酒です。
このように言われると、確かにその通りなのかと思うのも事実です。ただ、同じアルコール添加と言っても、大手酒造メーカーや味にこだわらない酒蔵は、粗悪な醸造用アルコールを添加することでコストを下げる、ということを行っており、それについては、「酒の目利き」も「NO!」と言っているいうことも、付記しておきます。
ですので、アルコール添加をした本醸造酒には、それなりの(というかかなりの)「良さ」があるのです。それはそれでよく分かります。とはいえ、やはり筆者は純米を選択したいのです。というのも、これは個人の味覚の嗜好の問題ですが、アルコール添加の日本酒は、その醸造用アルコールがちゃんとしたものであっても「味が強すぎる」ように感じるからです。
筆者的には、日本酒は「生まれながらの味のブレを持ちながら、やさしく自分の味を主張する」純米酒のほうが、性に合っているのです。そもそも筆者にとって「日本酒」のおいしさとは、「原料の米の味が遠くに感じられる」ということです。筆者にとって、それは「酒のうま味」なのですが、「酒の目利き」はそれを先に書いたような「雑味」だというわけです。
以上、「純米にこだわりたい」理由をお分かりいただけますでしょうか?
うま味極めた純米酒10選
さて、ここまでで「冬でも冷」と「純米にこだわる」という話を「中年の主張」してきましたので、ここからいよいよ、その基準で選んだ「純米酒」を10種類ご紹介します。選択の基本は「日本酒のうま味」を感じさせてくれるかどうか、ということです。
篠峯 遊々山田錦純米(奈良・千代酒造)
製造元の千代酒造は、酒と料理のマリアージュにこだわり「食中酒」として、料理の味を引き立てる酒造りをポリシーにしている、小さな酒蔵です。その中で「篠峯」は限定流通品なのですが、だからとって高額品ではありません。あくまで手の届く価格です。
この「遊々」はその中でもさらに「普及品」で1.8L2000円台ですが、味のほうは香りがほどよく、確かに料理の邪魔をしない日本酒です。にもかかわらず、アルコール度14.8度というやや低めの度数でも、しっかりとしたうま味があるのは、日本酒度+3.5という、端麗辛口ではない、芳醇うま口系の日本酒だからでしょう。
天遊琳 特別純米 瓶囲い(三重・タカハシ酒造)
天遊琳が目指しているのは「食事の邪魔をしない」ではなく、「食事をより美味しくする」です。非常にいい意味で「優等生」的で、純米酒なら持っていてもらいたいうま味と、誰にでも好かれる澄んだ味わいが癖になります。酒蔵的には「ぬる燗」推奨ですが、筆者は当然冷で飲みます。
瑞冠 「いい風/花」純米吟醸 雄町(広島・山岡酒造)
「いい風/花」は切れ味のよい辛口ですが、同時に芳醇な味わいも持っている、という二刀流のお酒です。それは日本酒度+6というところからきているのでしょう。淡白でありながら、同時にうま味も持っているので、どんな料理にもあわせやすい一品です。
繁桝 純米吟醸 酒是日本魂(福岡・高橋商店)
やわらかい味わいでしながら、うま味は芳醇、吟醸香はどこまでも上品というお酒です。遠くに酸も感じられます。日本魂という名前に、いい意味でふさわしくない優しです。裏ラベルには、「日本酒の復権を祈るとともに、日本酒が皆様の心の糧、体の糧として生活に潤いと活力を与える『幸せの力水』となることを心より願い造ったお酒です」と記載されています。
梵 GOLD 純米大吟醸(福井・加藤吉平商店)
皇室御用達、国賓クラスの晩餐会、政府専用機で用いられているのが、福井の銘酒「梵(ぼん)」です。その中でGOLDはフラッグシップ的な位置づけ。この酒蔵は、某福井の旅行雑誌の裏表紙にも宣伝を出すくらい、福井では大手ですが、それでありながら、この味を維持しているのがすごいです。味わいは、純米大吟醸らしい端麗さを持ちつつ、芳醇。こう書くと高そうですが、1.8L3000円と破格の安さです。
杉勇 純米吟醸 出羽燦々(山形・杉勇蕨岡酒造場)
山田錦50%精米の純米吟醸です。山田錦の50%精米なので、華やかなな香りかと思いきや、そのあたりは控えめな美しさ。強い日本酒が多いこの酒蔵の中では比較的珍しい一品。一方で、味わいはやや甘め。山田錦の純米吟醸酒にしては価格もお手頃です。
篠峯 山田錦純米酒 萌黄(奈良・千代酒造)
やわらかい米のうま味と適度な酸のバランスが良い、日本酒好きならたまらない一品です。筆者も参加した、この酒蔵の試飲会でも大人気でした。当然料理とのマリアージュもGoodです。
雪の茅舎 純米吟醸(秋田・齋彌酒造店)
米で醸した酒というよりも、何かの果実酒のようなフルーティさを感じます。だからこそ感じる上品な甘味と、そこに加わるほどよい香り。甘いというと、後味が舌に残りそうですが、酸も適度に効いているので、後味もすっきりした感じです。
純米吟醸 ランド・オブ・ウォーターLand of Water(秋田・朝舞酒造)
何より、名前がいいと思いませんか?「水の国」です。まさに、豊潤な国で醸された日本酒、という感じです。味わいも、その名前の通りで、一言で言うと「非常にきれい」なお酒です。その秘密は、仕込み水に琵琶寒泉という湧き水を使っていることでしょう。米は、山田錦ではなく、地元秋田産の美山錦を使用。「秋田の産物だけで作った」酒、というコンセプトにもワクワクさせられます。
出典:craviton.com
瑞冠 はぐれわっぱ(広島・山岡酒造)
規格で決まった大きさよりも小粒の山田錦を使用した純米酒。それを何と30%精米していますが、等外米なので純米大吟醸とは名乗れません。その分、掟破りお安さ。味わいは、しっかりと密度のあるうま味で、香りも芳醇。超お買い得な一品です。
最後になぜ「こっそり」?
いかがでしたでしょうか?この10選の中から気になったものを1本でも選んで、飲んでいただければ、筆者の主張する「冬でも冷」「純米こだわり」がおわかりいただけるでしょう。
そして最後に、まとめ代わりに「こっそり飲みたい」の「こっそり」とは?について、お話しておきます。
それは、こういう「わかる人にはわかってもらえる」お酒は、宴会でワイワイ飲むには全くふさわしくありません。純米酒とは、といううんちくやこだわりを語っても鬱陶しがられるだけです。それであれば、1人でしみじみ楽しむか、あるいは気心が知れた1人か2人で「さしつさされつ」がベストです。
そういう意味でぜひ「こっそり」純米酒を冷で味わっていただければと思います。