作曲家の自作自演が面白い!100年前の録音はタイムマシン
クラシック音楽の作曲家というと100年以上前に生きた人というイメージがあるのではないでしょうか。はるか昔の音楽家の録音を聴く手段があります。ピアノロールやアコースティック録音という発明です。その素晴しい演奏を5曲ご紹介いたします。
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100年前に思いを馳せる
出典:pixabay.com
100年前の写真や映画などを見ると、時代背景は別にして現代に生きている人と何ら変わらないと感じます。画像は古くなり色褪せ、映画などではぎこちない動きであったりするのですが、その表情は現代人と何も違ってはいないのです。作曲家の録音は、古くはブラームスの弾くハンガリー舞曲の演奏が残っています。雑音が多く、作曲家の細かい表現まではわかりません。
しかし、はるか昔に「いた」作曲家の息遣いまでを感じるようで、それだけでタイムマシンで会えたかのような感動をおぼえます。当たり前のようで、忘れていたことを思い出しました。作曲家は作品を残し、後世の人は数百年後であったとしても「作曲家の想いを再現し、現世に生き返らせることができる」ということです。今回は、作曲家自身が弾いている録音をご紹介します。どうぞ、曲を聴くだけではなくその「音の向こう」に作曲家の生きている存在感なども感じていただければと思います。
エドヴァルド・グリーグ 1843年~1907年
グリーグは、ノルウェーを代表する巨匠作曲家です。ピアノ曲だけではなく管弦楽曲や歌曲など多数の作品を残しています。北欧のショパンと呼ばれるほどのピアノの名手であり、ロマンチックなメロディで人気があります。ピアノ協奏曲は特に有名で、ピアニストにとって重要な位置を占めるものです。グリーグは国民学派として分類され、ノルウェーの英雄とされています。
彼の作品には「北欧らしさ」を感じ取ることができますが、彼が「北欧のメロディを作り上げた」創始者であるといえます。わたしたちが感じ取る北欧らしさは、「グリーグらしさ」であるのと同義語でしょう。ご紹介しています曲は、「トロルドハルゲンの婚礼の日」です。グラモフォン社のアコースティック録音ですので、少し雑音が多いのですがグリーグのピアニストとしての力量がわかる名演です。
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モーリス・ラヴェル 1875年~1937年
ラヴェルのピアノ曲「鏡」より「悲しい鳥」の演奏や彼自身のいろいろな曲をピアノロール録音で聴くことができます。ご紹介します曲は、1912年録音のものです。ピアノロールは、テンポ調整など若干テクニックがいるようなので再生する側の知識も問われるということです。しかし、奥行きのある響きが現代の技術により完璧に再現されています。ラヴェルの切れのよいタッチがわかり興味深い歴史的録音といえるでしょう。
この曲についてですが、ラヴェルは「夏のとても暑い日に、暑さで力尽きながら鳥たちは必死に森にたどりつきます。真夏のうす暗い森の中で、鳥たちはひっそりと息絶えます。」と解説しています。この鏡という曲は、「蛾」「海原の小舟」「悲しい鳥」「道化師の朝の夢」「鏡の谷」という5曲の組曲です。ラヴェルらしい幻想的な世界が繰り広げられ、魅惑的な曲ですが、音楽から題名が直接連想されるようなものではありません。
いずれも海の底に深く沈んでいくような精神世界があり、聴く人の想像を掻き立て、いつのまにか幻想の心地よい世界にいることに気がつきます。ラヴェルの生きた当時のフランスの文化や芸術の世界を少し勉強すると、「額面通りの意味ではなく抽象的なもの」を指していることがわかります。
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セルゲイ・ラフマニノフ 1873年~1943年
ラフマニノフは、ロシアで生まれました。スクリャービンとは良きライバルとしてモスクワ音楽院で同時期に学んだ作曲家です。ロシア革命の際に、亡命のように祖国を離れ最後はアメリカの地で亡くなっています。彼自身の演奏は、ピアノロールやアコースティック録音も比較的に多数残っています。大きな体格で巨大な手を持っており、オクターヴ半が楽々と届いたといわれます。
作品も超絶技巧で難易度は高いものが多いことで知られます。ロマンチックという言葉がぴったりな作品は、ロシアより西側諸国で大評判となりました。ご紹介します曲は、「前奏曲 作品23の5」で1903年2月10日モスクワでのピアノロールによる録音です。自身がヴィルトゥオーソ(名人)であったことから、軽く正確なタッチとロマンチックなメロディを歌うように奏でる圧倒的なテクニックに感動するでしょう。
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グスタフ・マーラー 1860年~1911年
マーラーは、オーストリアを代表する巨匠作曲家です。彼の生い立ちですが、裕福な家庭に育ち音楽の勉強ができる幸運な環境であったようです。作品は交響曲が主体でピアノ用の独奏曲は書かれていませんが、ピアノロールに残された演奏からピアノはかなりの腕前であることがわかります。
ご紹介します曲はマーラー自身の交響曲第4番、第5番のピアノ独奏です。第5番はノーベル文学賞受賞作家トーマス・マンの小説を映画化した「ベニスに死す」(ルキノ・ヴィスコンティ監督映画)で使用されたことでも有名な曲です。1905年ピアノロールによる録音です。
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アレクサンドル・スクリャービン 1872年~1915年
スクリャービンは、ラフマニノフと同時代にロシアに生まれた作曲家です。現在では巨匠のひとりとして世界に知られていますが、一時期忘れられた作曲家として埋もれていた時代があります。ロシア国内では、その評価はかなり変化したということですが、西側諸国にスクリャービンの作品が広められたのは1970年代に入ってからです。神秘主義の音楽家として知られますが、後期ロマン派で甘い美しい曲が多く作られています。
ご紹介している曲「エチュード 作品12の8」は、スクリャービンの代表作のひとつでピアニストに大変人気のあるものです。Welte-Mignon製のピアノロールによる録音は1910年ペテルブルグでの演奏のものということです。スクリャービンの激しい情熱が伝わり、少年時代に演奏を見てもらったというウラディミール・ホロヴィッツとの共通点を感じます。
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昔の演奏を聴いて思うこと
いかがでしたでしょうか。作曲家自身が演奏する録音は、現代の人の演奏にはない感動を得られたのではないかと思います。演奏自体も素晴らしいのですが、巨匠の生きた息づかいがそのまま「音の息づかい」として感じられて、その場にタイムスリップしたような錯覚をしてしまいそうです。
近代的な発明品が大好きだったという、ダンディで知られたラヴェルの録音は多くあります。彼が現代に生きていたら、ハイテクのデジタル録音、光ディスクなどに夢中になったかもしれません。音楽を聴きながらそういったことを想像してみるのも面白いのではないでしょうか。
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この記事のライター
検査技師をしておりました。現在は家庭に入り、ライター、アンティークドールのディーラー、人形関連の制作と売買、ピアノ講師などをしています。趣味の薔薇や犬、鳥の世話と夫と子供の世話に忙しい毎日です。