「線」の魔術師ハリー・ベルトイアが生んだワイヤーチェアの名品4選
おしゃれな家具を揃えることで、生活はより一層輝くものです。ワイヤーを使ったチェアというのもなかなかおしゃれではないでしょうか。今回はハリー・ベルトイアの家具をご紹介します。
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金属を使った現代アーティスト
イタリアに生まれ、少年時代にアメリカに移ったハリー・ベルトイアは、アメリカ本国ではデザイナーというより金属を使った現代アーティストとして知られています。若い時代にジュエリーの制作に没頭し、1950年代半ばにはワイヤーフレームによる椅子の名作を生み出しますが、その後は「音響彫刻」など金属を素材にしたオブジェ作品に没頭するようになります。わずかな期間にデザインされた数少ないベルトイアの椅子ですが、その希少性もあって、現在いっそう人気が高まっています。
ミニマルアートとして見るサイドチェア
ベルトイアがワイヤーフレームの椅子をデザインしたのは、ペンシルベニア州にスタジオを構え、ハンス&フローレンス・ノールと仕事を共にした時期でした。金属造形に長け、溶接技術に天才的な腕前をもっていたベルトイアは、いわば空間上の「線」というべき存在のワイヤーをたくみに組み合わせ、立体物としての椅子を造形したのです。ワイヤーシェル構造じたいはベルトイアの発明ではないにせよ、重量をもたないようなか細いワイヤーそのものをあえて前面に押し出したミニマルアートともいうべき優雅なフォルムは、家具デザインの分野のみならずコンテンポラルアートの分野でも大きな注目を集めることとなったのです。
ベルトイアの彫刻人生を支えた大ヒット作、ベルトイア サイドチェア/ジェネリック製品・デザイナーズ家具のE-comfort
やさしく優雅なダイヤモンドチェアの曲線美
ベルトイアがデザインした椅子のバリエーションは多くはありませんが、その中で最も有名な作品といえば、間違いなく「ダイヤモンドチェア」でしょう。ダイヤモンドのようなワイヤーの輝きと、鳥のように左右に広げたその両翼は、やさしく優雅な曲線を描いて座る人を招きいれてくれます。一本一本異なる長さのスチールロッドが繊細に曲げられて造形されており、ワイヤーの隙間のかたちが心地よいリズムを形成しているのです。単に座るための家具というだけでも、ディスプレーの装飾品というだけでもない、椅子の形を借りた現代彫刻作品といえるでしょう。
ベルトイアの彫刻人生を支えた大ヒット作、ダイヤモンドチェア/ジェネリック製品・デザイナーズ家具のE-comfort
座る人が宙に浮く!?ハイスツール
ベルトイアは自身の設計した椅子を「ほとんど空気でできている」と表現したことはよく知られています。ワイヤーの隙間から向こう側の景色が透けて見えるというこの究極の通気性によって、椅子という物体を限りなく透明な存在にしているのです。この透明感が一層強調されるのは、座面が高い位置にある「ハイスツール」です。足がフロアから浮いた状態で座ることになるため、遠目でみると、まるで人間が宙に浮いて見えるからです。実際の生活で使う場合にも、個性的で強い存在感をもっていながら、圧迫感がほとんどないため、日本の家屋のように狭い空間に置いて楽しむことができます。
ベルトイアの彫刻人生を支えた大ヒット作、ベルトイア ハイスツール シートパッド/ジェネリック製品・デザイナーズ家具のE-comfort
エロティックな表情に変貌するファブリック版
ベルトイアのワイヤーチェアは、その作品の本質にふれる上ではむき出しのワイヤーのままである方が適していますが、実際に椅子として使うにはすわり心地を快適にする工夫も必要でしょう。そのためクッション付きの製品も販売されていますが、中には座面全体をファブリックで覆ったバリエーションもあります。全面が覆われた作品は、ベルトイア特有の透明感が失われることになりますが、逆に、むき出しでは気づかない全体のフォルムの強烈さが現れてきます。特にダイヤモンドチェアにファブリックをかぶせたバージョンは、そのエロティックな表情にどきどきするのではないでしょうか。
ベルトイアの彫刻人生を支えた大ヒット作、ラージダイヤモンドチェア/ジェネリック製品・デザイナーズ家具のE-comfort
チェアのデザインから彫刻制作へ
ベルトイアがワイヤーチェアをデザインした期間は短く、残された作品数も多くありませんが、ダイヤモンドチェアを中心にアメリカで高い人気を集め、今もなお世界中でリプロダクト製品が販売されています。しかし当のベルトイアは、その後家具デザインから手を引き、本業である彫刻制作に集中しました。彼の彫刻作品は、アメリカ国内の多くの公共施設に収蔵されていますが、金属という素材を用いながら、その金属の実体を感じさせないようなコンセプチュアルな方法論を模索したことは興味深いことです。
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この記事のライター
藝術文化系のコラム、論評の執筆を多くこなしてきました。VOKKAではインテリアなど、アートに関わる記事を中心に執筆しています。