時代を超えて愛されるル・コルビジェの不朽の椅子
近代建築の礎を築いた巨匠ル・コルビュジェをご存知でしょうか。今回はル・コルビュジェの代表的な製品をご紹介します。
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世界の建築家に影響を与えた存在
スイス生まれでフランスで活躍した建築家ル・コルビュジェは、フランク・ロイド・ライト、ミース・ファン・デル・ローエと共に近代建築の礎を築いた巨匠です。日本では国立西洋美術館の設計者としても知られていて、垂直・水平を基本としたその建築哲学は、今日もなお世界の建築家に大きな影響を与え続けています。
一方で、そうした建築と一体的に、緻密に追求された機能的なインテリアデザイン、特に「LC」という名前をもつチェア・ソファのシリーズは根強く愛され続けています。
これらル・コルビュジェが設計したチェア・ソファの名作は、現在多くのリプロダクト製品となって私たちに求めやすくなっています。今回はその代表的な製品をご紹介します。
硬派ならやっぱりコレ!世界一有名なル・コルビジェの椅子
巨匠ル・コルビジェのデザインした家具の代名詞ともなっているスリングチェア(LC1)は、おそらく世界で最も有名な近代デザイナーズ家具かも知れません。座った人の姿勢に合わせて背もたれが回転して動くという、緻密な計算の上に設計された別名「バスキュラントチェア」は、デザイン史にその名を刻む不朽の名作として知られています。
また、極限まで装飾的な要素を排除し、合理的に単純化されたそのフォルムは、半世紀以上たった現代でも古さをまったく感じさせません。曲線を基本としたヤコブセンと対照的で、ル・コルビジェのチェアは無骨なまでに直線でできています。しかし人間工学に基づいて合理的に追及されたその座り心地、パイプと革の質感の対比が醸す存在感は抜群です。
男たるもの、曲線じゃなくやっぱり直線だ、という硬派にこそ、おすすめしたいル・コルビジェです。
愛する人と一緒に座りたい! ソファ「LC2」
スリングチェアが個人使用として普及したロングセラーだったとすれば、公的施設や企業など広いスペースの快適な座り心地で定評があるのがソファです。ル・コルビジェは「LC2」「LC3」といったモデル名をつけ、座る人数や設置環境に応じた細かな構造上の差を設けた製品を世に送り出しました。
特に「グランドコンフォート」(大いなる快適)と呼ばれて今なお世界中で親しまれているのが、二人掛けタイプのソファ「LC2」です。小さすぎず、また大きすぎない。公的空間でも、日本の一般家屋でも使うことができるちょうどよいサイズのソファといえます。落ち着きと品格をもち、お部屋の重心としてどっしりと構えるその風格。まさに一生ものの家具になるでしょう。
スリングチェア(LC1)が書斎用だとすれば、こちらのLC2はリビングにぴったり。二人分の体をぴったり包んでくれるLC2は、きっと恋人にも喜ばれるかもしれません。
ル・コルビジェの名作寝椅子で贅沢な休息を
ル・コルビジェの家具として、もうひとつ忘れてはいけない作品、それはシェーズロング(寝椅子)の「LC4」です。
他の作品と同様に、ル・コルビジェらしい無駄のない機能的なフォルムに徹した作品ですが、実はこのLC4、ル・コルビジェの事務所に入って1年目の、まだ若き女性デザイナーの卵だったシャルロット・ペリアンの構想でつくられたシェーズロングなのです。当時事務所が取り組んでいたチャーチ邸の設計で、家具のひとつとして採用されて誕生したものでした。
ル・コルビジェの建築哲学を踏襲して、装飾を排除しながら、究極の休息をもたらす寝椅子として生まれたこの作品は、今日もなお、ル・コルビジェを愛する世界中の人々に指示されています。リクライニングの機能性というだけでなく、ゆるやかなカーブを描くシンプルなそのフォルムは、お部屋のアクセントとして強烈な存在感を示します。
レア好きなら見逃せない、幻の名品「LC5」
ル・コルビジェのチェア・ソファーの製品の中で、実は「LC5」のデイベッドは、長らく「永久欠番」ともいわれた幻の製品。オリジナルが一脚あるだけで、製品化されることがなかったからです。
それだけに希少価値が高いレアなデザインともいえますが、これは商品化を目的としたものではなく、ル・コルビジェが自分のアパートで昼寝に使うつもりでつくられたソファだったからです。
しかし、簡素でありながら重厚なその存在感は、まぎれもなくル・コルビジェの思想を宿した逸品。昼間はソファ、夜はベッドになるデイベッドの特性を最大限に引き出しつつ、無駄な要素を削り取ってなお空間を引き締める、まさにル・コルビジェによってつくられるべくしてつくられた作品です。
近年、幻のままにしておくには惜しいというファンの期待に答えるように、リプロダクト製品を手軽に購入することも可能になりました。レアなル・コルビジェを求める人におすすめです。
時代と国境を越えた作品
ル・コルビュジェが設計したチェア・ソファは、近代建築の巨匠によるものだけあって、今となっては古典ともいえるもの。しかし半世紀以上たってもなお私たちの心をひきつけてやみません。20世紀後半になると、建築やインテリアデザインは水平・垂直から、やがて曲線の多用へと流行がかわっていくことになりますが、無骨なまでに端整な機能美を追求した合理主義デザインの名作は、時代や国境を選ぶことなく、世界の人々に愛され続けています。あなたの生活空間に、時代を超えた不朽の古典デザインを配置してみてはいかがでしょう。
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この記事のライター
藝術文化系のコラム、論評の執筆を多くこなしてきました。VOKKAではインテリアなど、アートに関わる記事を中心に執筆しています。