古きよき19世紀ウィーンの香りをとどめるホフマンの椅子4選
世界遺産を手掛けた建築家のデザインした家具を手にしたいという方もいるのではないでしょうか。今回は世界遺産を手掛けた建築家ヨーゼフ・ホフマンの家具をご紹介します。
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世界遺産も手掛けた建築家
チェコのボヘミアで生まれ、おもにウィーンで活躍した建築家のヨーゼフ・ホフマンは、クリムトやオルブリッヒといった芸術家とともにウィーン分離派をおこした人です。世界遺産となっているブリュッセルのストックレー邸は特に有名な代表作で、幾何学的な直線を使った装飾的な意匠に特徴がありました。手仕事による有機的なフォルムの造形から、量産を目的とした合理的な工業製品のデザインへと世界の潮流が変わってきたその過渡期にいた建築家。彼の設計した独創的な家具をご紹介します。
19世紀末ウィーンの香りを今日に伝える『クーブス・ソファ』
ホフマンがデザインした家具は少なくありませんが、ジェネリック家具やリプロダクト製品として現在入手できる製品はわずかです。それがこの『クーブス・ソファ』のバリエーションです。『クーブス・ソファ』は1910年にデザインされ、ブエノスアイレスの展覧会で出品されたものでした。見た目にはル・コルビュジェのソファにも通ずるモダンデザインのテイストですが、工業デザインを前提としたル・コルビュジェの理念とは実は大きく異なっています。ホフマンにとっての家具デザインは、あくまでも手仕事の見事さによって支えられるものだったのです。19世紀末のウィーンの芸術の香りを残した古きよき時代の椅子です。
重厚なデザインが特徴のクーブス ソファ 1p。ヨーゼフ・ホフマン屈指のデザインです/ジェネリック製品・デザイナーズ家具のE-comfort
強烈な「直線美」で造形されたアームチェア『アルムレッフェル・チェア』
ホフマンのデザイン家具の中でもっとも端的にその特徴を示している作品のひとつが、幾何学的なひじ掛け椅子『アルムレッフェル・チェア』でしょう。水平と垂直、強い直線のイメージだけで構成された幾何学的なデザインですが、ひじ掛けの部分に例外的に半円状のかたちが現れていて、重要なアクセントになっています。生産効率のためではなく、あくまでも美しさの要素として水平垂直が扱われているのです。どこか現代の工業製品のものとは違った手工芸的な品格。現代販売されているのはヴィンテージ品のみですが、廉価なリプロダクト製品があったら人気が高まりそうですね。
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ウィンナー・キャバレーの雰囲気を伝える『こうもりチェア』
かつてウィーンにあった「キャバレーこうもり」のインテリアとしてホフマンがデザインした家具のひとつです。建築内装のデザインの一環として設計されました。ウィーン工房の仕事として行われたこのデザインは、ホフマンの初期の仕事をよく特徴づけていて、幾何学的なフォルムを前面に押し出した前衛的なデザインが、キャバレーという非日常的な気分の充満する空間を演出しました。この「キャバレーこうもり」は現在はクラブハウスになっていますが、当時の雰囲気を再現した「ノイエ・ギャラリー・カフェこうもり」がニューヨークにあり、ホフマンの家具を楽しむことができます。
Josef Hoffmann Fledermaus Collection - Specially designed in Vienna in 1907 for the Fledermaus cabaret in Vienna, this suite was later produced by the Kohn bentwood furniture company.
サナトリウムのために設計された珍しい前衛家具
建築家としてのホフマンの仕事ではストックレー邸が特に有名ですが、これに比肩する優れた最初期の作品に「プルカースドルフのサナトリウム」があります。この作品は「白」を基調として水平と垂直を強調したデザインで、ストックレー邸よりむしろモダニズム建築に近い合理性を感じさせる建物です。このサナトリウムのために設計された家具のひとつが、このアームチェア。静けさをもつ建物の外観とはうってかわり、強烈な個性を発揮する作品です。このヴィンテージ作品は豊田市美術館に収蔵されていますが、現代のインテリアと合わせたら面白い空間になりそうですね。リプロダクト製品がつくられることが待たれます。
Josef Hoffmann Purkersdorf Armchair and Table - The black and white colour scheme and quadratic motifs of this chair and table were a continuum throughout the foyer of Hoffmann’s Purkersdorf sanatorium, built from 1904–1905.
古き良き時代に作られた家具
19世紀のウィーンは、エゴン・シーレやクリムトといった画家や、マーラーやシェーンベルクといった音楽家など、不安定な大衆気分を反映した独特のテイストをもった芸術が花開いた都市です。この時代に生み出されたホフマンの家具は、モダンデザインの系譜としてみればややレトロな雰囲気の装飾性を感じさせるものですが、そのフォルムの冒険主義は現代のインテリアの中にあっても強い個性を発揮するはず。古きよき時代のウィーンを彷彿させるホフマンの家具。そのバリエーションが増えるといいですね。
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この記事のライター
藝術文化系のコラム、論評の執筆を多くこなしてきました。VOKKAではインテリアなど、アートに関わる記事を中心に執筆しています。