イギリスの絵画・ギリシャ神話の世界を覗いてみませんか?ラファエル前派
ラファエル前派は、1848年イギリスで3人の画家により始まりました。ギリシャ神話や中世の伝説を題材として、主に人物画を描いています。メンバーのガブリエル・ロセッティ、エヴァレット・ミレー、ホルマン・ハントやその他の画家の美しい絵と生涯をご紹介します。
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ラファエル前派のはじまり
出典:pixabay.com
ラファエル前派は、1848年にダンテ・ガブリエル・ロセッティが中心となり始めた「同盟」です。当時の画壇の世界はアカデミックなものであり、古典を重視したもので何ら新鮮味のないものでした。ロセッティ、エヴァレット・ミレー、ホルマン・ハントの三人は「ラファエルより以前のイタリアの画家の方が自然を素朴に表現した」と共感し合ったのです。
三人の活動は順調のようでしたが、後にそれぞれは作風を変えるなど長続きはしませんでした。しかし、当時のイギリスの他の画家、ウォーターハウスやワッツ、レイトンなど多数の画家たちの作風はラファエル前派でないとしても、大変雰囲気が似ています。それだけイギリスの画家たちに与えた影響は強いということでしょう。日本の画家の青木繁「わだつみのいろこの宮」、藤島武二「天平の面影」なども影響を受けた作品といえます。
ダンテ・ガブリエル・ロセッティ
ダンテ・ガブリエル・ロセッティは1828年にイギリスに生まれています。イタリアからの移民ですが、父親はイタリア語の教授をしており、ロセッティは幼少から文学や絵画の才能があったようです。ロイヤルアカデミー美術附属学校に入って絵の勉強をしています。しかし、当時の古典的なアカデミックな「こうであるべき」という枠にはまった絵画の世界に批判的になっていきました。
1848年に結成したラファエル前派により、もっと自由で自然を見直す画風を目指すようになります。彼の絵には何人かの女性モデルがおり、ひとりは妻のエリザベス・シダルで、「ベアータ・ベアトリクス」の絵のモデルとなっています。後に過酷なモデルの仕事と、夫の他の女性への態度などからアヘンに溺れるようになり、結婚2年後1862年に亡くなりました。
もうひとりは、ロセッティが生涯恋焦がれた女性ジェーン・バーデンです。彼女は親友のウィリアム・モリスという芸術家の妻ですが、同時にロセッティの多数の絵のモデルとなっています。プロセルピナという絵は、冥界の神にさらわれた女性を題材にしており、ジェーンが不幸な家庭生活の中に囚われていることを象徴して描いたといわれています。
ロセッティは、妻が亡くなった際に多少の罪悪感から自身の詩を書き溜めたものを棺に入れて埋葬したのですが、数年後に墓を掘り起こし詩を取り戻したことは有名です。ロセッティは画家ですが、詩人でもあり創作の才能が枯渇したので、その詩集が惜しくなったということのようです。視力の衰えや不眠症など精神に異常が出始め、1876年にジェーンとの破局があり、手足の麻痺などで療養中の1882年に死去しました。
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エドワード・バーン・ジョーンズ
バーン・ジョーンズは1833年にイギリスに生まれ、オックスフォードで絵とは関係のない神学を学んでいます。ウィリアム・モリスとは生涯の友人関係ですが、その紹介でロセッティに絵を学び始めました。ラファエル前派の様式で主にステンドグラスの絵を描いています。代表作は「廃墟のなかの恋」です。
師のロセッティの画風に少し似た絵ですが、色見が濃く物語がはっきりと見えるような作風です。モリスとは私生活だけの関係ではなく仕事も一緒にすることもあり、作品は多数あります。徐々に才能を開花させ、多くの栄誉を得たようです。1898年に亡くなった後の葬儀は国葬に近いものだったと記録にあります。
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ジョン・エヴァレット・ミレー
エヴァレット・ミレーは1829年に裕福な家庭に生まれています。ロセッティとは同じロイヤル・アカデミーで学んだ友人です。ラファエル前派に同調し、代表作は「オフィーリア」があります。シェイクスピアの「ハムレット」に登場するオフィーリアは川に身を投げて自殺しますが、その絵のモデルとなったのがロセッティの妻のエリザベスです。
何時間も水の中に入りモデルをつとめ、健康を害したという話が伝わっています。この絵はたいへん評判になりました。精密な自然の川の藻や草木と透明感のある水や流れの描写に目が奪われます。その後、彼の描く子供の絵が好評となり、イギリスにビクトリア朝の可愛らしい少女の絵が流行していったようです。1896年に死去しています。
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ウィリアム・ホルマン・ハント
1827年にイギリスで生まれたホルマン・ハントはロセッティやミレーと同様にロイヤル・アカデミー美術学校で学びました。ラファエル前派の考え方に同調し、自然に忠実に美しい絵を描き続けています。代表作には「良心の目覚め」「シャーロットの女」などがあります。
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ウイリアム・モリスはロセッティなどの「絵」の画家ではなく、植物などを中心とした装飾画の画家です。現在ではデザイナーという職種と思われます。イギリスの近代化による機械生産に対する批判から、「アーツ・アンドクラフト運動」「手工業の大切さを見直し、芸術を職人芸のように」という考え方を実践しました。
どこまでも美しく絡まる植物の模様は、中世の時代のタペストリーのようで当時のアールデコ様式と重なり人気を博しました。日本でも「いちご泥棒」というデザインは、カップ、布製品、服、文具、家具などに使用され人気があります。イギリスでは「近代デザインの父」として成功し尊敬されていますが、ロセッティが恋愛感情をいだいていた妻のジェーンとの結婚生活は不幸に終わったようです。
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いかがでしたでしょうか。ラファエル前派の中心的存在であったロセッティは、モデルで人妻のジェーンを
生涯想いつづけたことは、多数の彼女をモデルとした絵で明らかです。また、ミレー、ハント、バーン・ジョーンズの中で一番成功しなかった人生といえるかもしれません。
不幸にも、愛し続けた女性が友人の妻になり、あきらめて結婚した女性を「不幸な死」に追いやった代償といえなくもありません。しかし、彼の絵の女性は、宿命の女ファム・ファタールとして強烈に印象に残るのは確かではないでしょうか。
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この記事のライター
検査技師をしておりました。現在は家庭に入り、ライター、アンティークドールのディーラー、人形関連の制作と売買、ピアノ講師などをしています。趣味の薔薇や犬、鳥の世話と夫と子供の世話に忙しい毎日です。