12音音楽への到達者シェーンベルクの代表作を聴く
オーストリアの作曲家で指揮者アルノルト・シェーンベルクは、従来の調性を脱し、12音技法を確立したことで知られています。20世紀になって印象主義や表現主義など機能和声に代わる新たな音楽の可能性が探求されましたが、シェーンベルクの12音音楽は現代音楽に決定的な影響を与えた最も重要な音楽家のひとりと位置づけられます。
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印象主義への反動
19世紀末から20世紀初頭の時代は、全音音階や無調音楽、あるいは原始的なリズムや旋律の復興や民族主義的音楽など、多様な音楽が自立をもとめて乱立した時代でした。その中で、印象主義音楽への反動として、自由な無調性を特徴とする表現主義音楽を越したのが、アルノルト・シェーンベルクとその弟子たちの新ウィーン楽派でした。
後期ロマン主義の時代 「浄夜」
靴屋を営むユダヤ人の家庭にウィーンで生を受けたアルノルト・シェーンベルクは、8歳よりヴァイオリンを習い、その後チェロを独学で学びました。しかし当初は銀行勤めで生計をたててており、作曲家で指揮者のツェムリンスキーから対位法を学んだ以外、音楽の専門的な知識と経験は独学で得たものでした。初期のシェーンベルク作品は、ブラームス、ツェムリンスキー、ヴァーグナーの音楽に傾倒し、半音階主義的な作品「浄められた夜」(作品4)など後期ロマン主義の影響を残す作品を書いています。
調性音楽との決別 「グレの歌」
シェーンベルクは、調性の枠を離れた方法を模索し、無調による作品をめざしていきます。10年の歳月をかけて完成した合唱曲「グレの歌」は、カンタータやオペラ、歌曲などの諸要素が合体した楽曲で、あたかも後期ロマン主義の時代に終止符を打つ大作になっています。
無調性音楽の傑作 「月に憑かれたピエロ」
シェーンベルクの名を不動のものとする傑作は、後期ロマン主義の影響を完全に脱した中期になってからのメロドラマ作品にあらわれます。1912年、彼の代表作として音楽史に刻まれる傑作「月に憑かれたピエロ」(作品21)が書かれました。作品は21曲の台詞(歌)と管弦楽器が織り成す組合せで構成される無調音楽で、後世の音楽家たちに多大な影響を与えています。
12音技法の確立
シェーンベルクは、無調性音楽として高い完成度をもった「月に憑かれたピエロ」を書いた後も、秩序をもたせた完全な12音技法の確立をめざします。1924年、ピアノ組曲(作品25)で完全な12音技法を完成させます。12音技法とは、1オクターブを構成する12の音を、作曲家が決めた順番に並べ替えた「音列」をベースにして曲を組み立てる方法です。12音技法はシェーンベルクによる発想ではなく、無調性音楽から12音技法への新秩序の構築には多くの音楽家がさまざまな側面から探求していました。その中でシェーンベルクは、客観的で論理的な思考によって制御され、なおかつ芸術的な高みに到達した最初の作曲家として名を残すこととなりました。
不協和音を使う大胆さ
ユダヤ人であるシェーンベルクは、第二次世界大戦中にナチス・ドイツから逃れてアメリカに渡り、アメリカで没しました。しかし亡くなるまでのアメリカ居住中にシェーンベルクはカリフォルニアを拠点にジョン・ケージやルー・ハリソンなど多くの若い音楽家を育てました。大胆な不協和音の使用を特徴とした表現主義音楽を経て、やがて12音音楽に秩序を構築したシェーンベルクの音楽的探求は、戦後から現代音楽に至る世界の大きな方向に道をつけることとなりました。
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この記事のライター
藝術文化系のコラム、論評の執筆を多くこなしてきました。VOKKAではインテリアなど、アートに関わる記事を中心に執筆しています。