ミース・ファン・デル・ローエの近代デザイン史にその名を残す4大チェア
生活を豊かにするために設計された家具を置くことで、今の生活に少しアクセントをいれてみませんか。今回はミース・ファン・デル・ローエが設計したチェアをご紹介します。
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教育者として建築家に影響を与えてきた
ル・コルビュジエ、フランク・ロイド・ライトと共に近代建築の礎を築いた巨匠、ミース・ファン・デル・ローエ。「少ないことは豊かなこと」という彼の言葉は、その建築哲学をよく表しています。またナチスに閉鎖されるまでのバウハウスの最後の校長を務めたことでも知られ、教育者として世界中の建築家に大きな影響を与えてきました。そのミースの仕事の中でも家具、特に椅子のデザインもよく知られていて、無駄のない洗練されたそのデザインは、今もなおモダン家具の教科書として引用され続けています。
シンプルな中に気品漂うバルセロナ・チェア
ミースのデザインした椅子の中で、もっとも有名なのがバルセロナ・チェアです。これは、1929年のバルセロナ万博で、スペイン国王夫妻を迎えるためのドイツパビリオンの設計を依頼されたミースが、建物と一緒にデザインしたインテリア家具のひとつです。当時の椅子の多くは鋼管(パイプ)を使ったものでしたが、ミースは板状のスチールを使って溶接し、全体のフォルムを軽くすっきりしたものにしたのです。しかし単純化しただけでなく、クロスする脚の曲線などには非常にデリケートな神経が払われていて、最小限の要素の中に最大限の上品さを凝縮した椅子に仕上げたのです。
ミースのバルセロナ チェア。最高品質のジェネリックプロダクト。/ジェネリック製品・デザイナーズ家具のE-comfort
画期的な「一筆書き」椅子のMRチェア
1927年のワイゼンホフ展覧会で、ミースが発表した鋼管製の椅子は、画期的なデザインとして世界の注目を集めることとなりました。現代の私たちからみると、その極めてシンプルな形に特別な奇抜さを感じないかもしれませんが、背もたれからアーム、脚につながるラインが単純な一筆書きでできていて、座面を直接支える後脚が存在しない構造になっているのです。建築力学の原理として知られるカンチレバー、いわゆる「片持ち梁」を応用したフォルムであり、これがミースのデザイン椅子の最大の特徴として知られるようになりました。スチールパイプ製の椅子じたいは珍しくありませんでしたが、とかく冷たく硬いパイプ製椅子の欠点を、自然な弾力をあたえることで克服し、さらにこれ以上ないほどに無駄を排除した単純なフォルムにしたのです。
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建築構造を応用したブルーノ・チェア
ミース建築の代表作といえば、世界遺産にもなったトゥーゲントハット邸ですが、この邸がチェコのブルノ市にあることから、同邸のインテリア家具の一部としてデザインされた代表的な椅子が、通称「ブルーノ・チェア」として知られることとなりました。このブルーノ・チェアにもバルセロナ・チェアと同様に板状のスチールが採用されましたが、同時にまた、MRチェアで試みたカンチレバー・チェアをここでも採用しました。パイプよりも華奢にみえる板状のスチールですが、力学的な裏づけがあるからこそ強度が保たれているのです。家具デザイナーというより、大建築家であるミースだからこそ生み出し得た歴史的な椅子といえるでしょう。
ミースのブルーノチェア。カンチレバーによるロッキング。機能がデザインとなる代表です/ジェネリック製品・デザイナーズ家具のE-comfort
チューブラー・アームチェアで気軽に浮遊感を楽しむ
ミースがデザインしたトゥーゲントハット邸のインテリア家具の中には、ブルーノ・チェアと同じくカンチレバー構造を使った椅子の別のバリエーションもありました。全体のフォルムはブルーノ・チェアとほとんど同じですが、こちらは板状のスチールではなく、通常の鋼管を採用したもので、俗に「チューブラー(鋼管)・アームチェア」とよばれています。革新性という点ではブルーノ・チェアの注目度が高く、そのためミースの代表作とされていますが、こちらのチューブラー・アームチェアのほうが軽量で取り扱いしやすいという特徴があります。一般の家庭で気軽に浮遊感を楽しむには、チューブラーのほうが向いているかもしれませんね。
ミースのチューブラー アームチェア。カンチレバーによるロッキング。機能がデザインとなる代表です。/ジェネリック製品・デザイナーズ家具のE-comfort
デザインとは生活を豊かにする設計
デザインが「手工芸」と同じようなものと考えていると、とかく装飾的な要素や造りの見事さに注目してしまいがちです。しかし家具デザインとは、あくまでも生活の中で使われ、生活を豊かにしてくれるための設計であるという単純なことを、ミース・ファン・デル・ローエの作品は静かに語っているようです。1世紀近くも前に生み出された作品とは思えないほど、現代の生活でも通用するモダンデザインの古典的名作。ミースの椅子にゆっくり腰掛けながら、優れたデザインとは何かを考えてみるのもよいでしょう。
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この記事のライター
藝術文化系のコラム、論評の執筆を多くこなしてきました。VOKKAではインテリアなど、アートに関わる記事を中心に執筆しています。