球界の常識は社会とは逆?ドラフト会議に見るプロ野球球団の経済事情
10月22日に今年度のプロ野球・ドラフト会議が開催され、高校・大学・社会人野球で活躍した多くの選手がプロ野球選手の仲間入りをすることになりました。
しかし、その後の入団会見のニュースを観ると、違和感を覚えることはありませんか。
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プロ野球の新人選手獲得は球団の投資?
現在のプロ野球では新入団選手への契約金は1億円プラス出来高5000万円、年棒は1500万円と上限が設定されています。
社会人野球の選手はともかく、まだ高校や大学に通っている選手が億や数千万単位の金額を手にしているのです。
日本企業は現在こそアメリカ型の成果主義を採り入れた評価制度に移行していますが、長く年功序列によって、年齢の若い社員は長く勤務している社員よりサラリーが低いのは当り前という時代が続きました。
現在でも、何の実績も上げていない新入社員が先輩社員より高い給与をもらう、ということはほとんどありません。
選手生命が短いから仕方がない、という考えもありますが、新入団選手に多額の契約金と年棒を払うのは一般企業とは異なり、新人選手獲得は各球団の投資と考えた方が納得できるのも事実です。
2015年度ドラフト会議で福岡ソフトバンクホークスから1巡目指名を受け、チームメートたちに胴上げされて喜ぶ県立岐阜商の高橋純平
ドラフト会議はなぜ始まったのか?
日本プロ野球で初のドラフト会議が行われたのは、1965年11月のことです。
人気球団・強豪球団に有望選手が集まることを防ぎ、各球団の戦力を平衡化することが目的でした。
ドラフト施行前は、「自由獲得競争の時代」と呼ばれ、南海ホークスの記事でご紹介したように、一部の人気球団・強豪球団、金銭的に余裕のある球団が有望な選手に対して、在学中から「栄養費」という名前のお小遣いを渡し、その見返りとして卒業時に入団してもらうのがほぼ慣例となっていました。
現代ビジネスで言えば、「青田買い」に相当します。
金銭的余裕がなく、人気球団でもないチームに有望選手が入団することはほとんどなかったのです。
出典:p.npb.or.jp
ドラフト会議会場の様子
くじ引きで球団が決まるのは憲法違反?
ドラフト制度導入によって、各チームの戦力が拮抗し、育成次第ではどのチームにも優勝のチャンスが巡ってくるようになりました。
これまでご紹介した記事をご覧いただくとおわかりのように、2リーグ分立後、セ・リーグでは現在の東京ヤクルトスワローズ、広島東洋カープ、DeNA横浜ベイスターズ、パ・リーグでは消滅した近鉄バファローズが長く低迷をしました。
DeNAの前身の大洋ホエールズを除くと、他の3球団の優勝はドラフト制度施行後、10年以上待たなければなりませんでした。
しかし、一方でくじ運に恵まれない球団には有望な選手が入団せずに弱体化し、いくつかの球団は採算に合わないという理由で売却されました。
また、若い選手の人生を「くじ引き」で決めていいのか、選手が望んでいる球団に入ることができないのは「職業選択の自由」を認めた憲法に抵触するのではないか、という議論も起きました。
実際、希望する球団に指名されなかったという理由から入団を拒否する選手もいました。
一部の球団の要望によって、選手が希望する球団を指名する「逆指名制度」や「自由獲得枠」というものが設けられた時代もありました。
しかし、逆指名をしてもらうために複数の球団が有望な選手たちに億単位の裏金を出していたことが発覚し、裏金を出した球団の幹部職員が次々と引責辞任する社会問題にまでなりました。
実態を調査するために設けられた調査委員会は、調査結果をまとめたものの、この事実を公にすることは日本のプロ野球の歴史に大きなダメージを与えることになる、として公表が差し控えられました。
このような経緯で、現在の方式に至ることになったのです。
出典:mainichi.jp
2015年度ドラフトで競合し、くじによる交渉権獲得を行ったヤクルト・真中(右)と阪神・金本両監督。
ガッツ・ポーズをする真中だが、勘違いであることがわかり、交渉権は阪神に。
アメリカ・メジャーリーグと日本プロ野球の違い
日本と同様の理由で、ほぼ同時期にドラフト制度を導入したメジャーリーグはどうなっているのでしょうか。
メジャーでは、現在の日本のドラフト制度で2巡目以降に採用されている成績順位下位の球団から獲得したい選手を指名していくウェーバー方式を1巡目から行う完全ウェーバー方式です。
メジャーリーグは、各球団の上位組織に機構が存在し、全ての放映権料と、各球団から収入に応じて一定の割合をかけた金額を徴収し、全球団に再分配する方式を採っています。これにより、収益の少ない球団でも、機構側から分配金を受けることができ、選手の補強ができるようにしています。
よく使用される例えとして、メジャーリーグ全体が一つの会社で、各球団はその会社の各部署に相当すると言われています。人気球団は、さしずめ花形部署とでも呼ばれる存在にあたります。
これに対して、日本のプロ野球界は12の会社による企業集団として運営されています。日本プロ野球機構(NPB)という組織は存在しますが、最高決定機関は12球団のオーナーからなるオーナー会議です。
このように比較すると、メジャーリーグはプロ野球選手という職業に「就職」するのに対して、日本プロ野球は球団という会社に「就社」するという、日本の一般企業への就職活動と似た構造になっていることがわかります。
また、メジャーリーグはフリー・エージェント制度(FA)の権利取得までの期間が短く、選手の他球団への移籍も頻繁に行われるほかに、7月頃までに優勝の可能性がなくなったチームから優勝を狙うチームへの選手のトレードも活発に行われています。これは同一社内の異動に例えられます。
これに対し、日本にもFA制度はあるものの、権利取得までの期間がメジャーに比べて長いのが特徴です。高額な初期投資に対する利益が充分に還元されないうちに出て行かれたのではたまらない、という球団側の思惑が作用しています。
また、FA権を取得してもチームへの愛着を理由に行使しないケースが多く見られます。同時に「○○球団一筋」という言葉が使われるように、一つのチームで選手生活を終えることを尊ぶ精神性もあります。
これもまた、日本企業は長い間、終身雇用制によって多くのサラリーマンが定年まで同じ会社で働くことが当然のこととされてきました。ヘッドハンティングや転職サイトなどが発展し、転職が多くみられるようになった昨今でさえ、生涯一企業で終えるのが望ましいという考えが根強くあることと似ています。
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この記事のライター
フリーライター。歴史・文学からビジネス、スポーツ等、幅広い分野において執筆を行う。