ファム・ファタールをテーマにした美術講座3選 受講者と講師にインタビュー

ファム・ファタールをテーマにした美術展が、3つの美術館で開催されています。ファム・ファタールとは何でしょう。「ファム・ファタール」について取り上げたおすすめの美術講座3選をご紹介します。そのうちの一つ「ウィーン世紀末美術とファム・ファタール」の講座を取材させていただき、受講者と講師にお話を伺いました。

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■講師紹介

ファム・ファタールをテーマに講座を開催するのは、イタリアの観光ガイドの資格を持つ加藤まり子さん。京大卒法学部卒業し、外資系メーカーでマネジャーを務めながら、学芸員や通訳案内士の資格を取得。華々しいキャリアを築きながら、思い立ったようにイタリアに留学し、イタリア政府認定の観光ガイド資格を取得されました。本場イタリアでのガイド経験を生かした講座には定評があります。


講師 加藤まり子さん

■講座概要

ファム・ファタールの講座の一つ「ウィーン世紀末美術とファム・ファタール」に参加しました。講座の様子をご紹介します。

講座の流れ

イタリア人でも難関と言われるイタリアの観光ガイドの資格を持つプロのガイドによる美術館のツアーです。座学のあと、東京都美術館で行われている「クリムト展 ウィーンと日本 1900」を一緒に鑑賞します。

前半の座学では、ウィーンの時代背景などの知識と共に、クリムトの作品や象徴主義に関する解説、そしてメインテーマのファム・ファタールについて学びました。耳慣れないファム・ファタールとは、どういう意味なのでしょうか?

座学の風景

ファム・ファタールとは?

今から150年ほど前、19世紀末ヨーロッパでファム・ファタールが文学や美術の世界で多く表現されるようになりました。日本語では「運命の女」と言われます。その魅力で男性を破滅に追いやる女性を意味します。


展覧会鑑賞

美術館に移動し、作品に触れます。これら一連の流れは理想的です。学んだあと、またの機会に美術館へ・・・・と思っていると、時間がたつにつれ忘れてしまうものです。学んだ直後、熱の冷めないうちに鑑賞できる実践的講座です。

また、実際に鑑賞をしていると些細な疑問が沸き起こります。すぐに講師に聞くことができるのは、とても心強いサポートです。受講者からは何でも応えてもらえると好評です。

加藤さんは、生の声で伝えることの力を感じていると語ります。音声ガイドも知識を得ることができます。さらに、生のガイドには、双方向のライブ感が加わります。疑問があれば、直接ぶつけることができリアルタイムで解決できます。

東京都美術館「クリムト展 ウィーンと日本 1900」会場風景(内覧会にて撮影)

受けたいように受けられるフレキシブルな講座

しかし、時間の都合がつかないなどそれぞれの事情もあります。そこで、座学のみの受講も可能です。美術講座というと、連続講座が多い傾向ありますが、単発で開催というのも、人気の秘密です。自分の受けたいように受講ができる自由度の高い講座です。受講後、希望者はディナータイムもあります。より深めたり、耳より情報が聞けるチャンスかも。

■受講者の横顔 参加の目的は?

美術鑑賞を積極的に楽しむ方たち

この講座に参加された方々は、美術愛好家で、美術展にも比較的、よく足を運んでいらっしゃるようです。自分で勉強するのは大変だから。本だけだと限界があるからという理由で参加されています。また、絵には意味があることを知り、面白いと思って話を聞いてみようと思ったと語ります。

美術展には、2~3か月に1回ぐらいの頻度で訪れており、海外の美術館にも年1~2回訪れるという方もいらっしゃいます。ヨーロッパを始め、東南アジアの美術館にも行くという上級者も… また、これから海外の美術館に行くので、事前の情報を得たいという目的の方も参加されるそうです。

美術を専門に学ばれた方々かと思いきや、趣味が高じてだそう。美術関連の知識は、高校で世界史を学んだとか、大学の一般教養で世界史を学んだといった様子です。

初心者の参加も

一方、初心者も参加されています。絵画の見方がわからず、音声ガイドを聞いていたけども、絵にはバックがあることを知った。時代背景や回りとの関係を知りたいと思って参加した。好きな美術展があれば、時々行く程度。クリムトは、昔から好きだったので参加してみようと思ったなどなど…

そしていずれの初心者の方も、ある時、絵にはいろいろな意味があることを知る機会があり、それを知りたいと思うようになったそうです。

愛好者も初心者も同じ

講師のプロフィールの影響もあってか、美術の愛好レベルはちょっと高めな印象を受けました。受講するうちにリピーターとなり、流れで受講されている方もいらっしゃいます。一方で、初心者も参加されています。

鑑賞経験の差はあっても、もう一歩先を求めており、知りたい欲求を持っているという共通点を感じました。そして、美術の上級者に見える方も「最初は絵の見方がわからずただ見ているだけだった」と語ります。ある時「絵には意味があり、背景があることに気づいた」とみなさん口をそろえて語られていました。

海外の美術館にもでかける美術愛好者でも、今回のテーマ「ファム・ファタール」を知らなかったといいます。スタートは誰でも同じということです。初心者も愛好者も、さらに知りたいという内なる欲求が講座に向かわせていることがわかりました。

初心者は、参加するのに躊躇していまいますが、参加者からは、こんな声が届いています。「講師のノリがよく、テンポよく絵画の裏に隠された歴史的背景、メッセージを教えていただけるので、初めてでも心配はない」と。多様な横顔を持つ参加者のニーズに的確に応えてくれる講座です。



■講師へのインタビュー

今回のテーマ、ファム・ファタールから何を学べますか?

―――ファム・ファタールにスポットをあてて3つの講座を企画した意図は、どのようなところにあったのでしょうか?私たちは、ファム・ファタールから何を学べますか?

ファム・ファタールは、悪の話。人間は悪に引かれる面があります。たとえば、性の衝動などもそれに含まれます。人は、いい人でありたいと思う一方で、悪いことへのあこがれもある。両面を持ち合わせいるものです。タブ―を冒すには、原動力が必要で、エネルギーを要します。

また、男性から見た女性というのは、自分と違いがあり神秘的です。それは優しくもあり怖い存在にもなりえます。そのような存在とどう向き合い立ち向かっていくか。

自分の中にある未知のものへの憧れや恐れを乗り越えるためのエネルギーを、過去の人たちの経験から学んでほしいという思いを込めて3つの講座を企画しました。100年前の人たちが向きあった葛藤。それはモラルを冒すことと戦った時代です。そんな時代があったことを知り、学ぶことで、時代の変革を自分の中にもおこす原動力にしてほしいと思っています。

加藤さんご自身が持っている突破力の根源が見えたようでした。


グスタフ・クリムト《ユディトⅠ》 1901 ウィーン、ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵(内覧会にて撮影)

ユディトは、旧約聖書外典に登場する美しい未亡人。祖国を救うために敵陣に向い、司令官ホロフェルネスを誘惑して酔いつぶし、隣に眠る彼の首を切り落とした一場面です。首を手にする姿は、手段も厭わない強い女性の能力を誇示し、それが貞淑で道徳的という伝統がありました。

ところが、裸体に薄手の衣をまとい、恍惚とした表情を浮かべ、匂いたつような官能性を放っています。女性の魅力に惑わされる危険を警告するという新しい表現を試みました。そんなチャレンジの裏には、クリムト自身が女性の誘惑の犠牲になっていた時期と重なります。

美術鑑賞法について

―――昨今、美術鑑賞では、「感性で見るか」「知識で見るか」ということが話題になります。知識を得て見ることについては、どのようにとらえていらっしゃいますか?

「感性で見るか、知識で見るかは、好みの問題」ときっぱり。今回、見学をした東京都美術館では、子ども向けに、感性で見る対話的鑑賞の講座を行っています。何も知らない子どもには、そういう鑑賞法も入口として選択の一つです。鑑賞を重ねるうちに「知ってからみることが面白い」と感じるかどうかの問題ではないでしょうか?知って見ることが面白いと思えば、知識を得て見ればいいのです。

■ファム・ファタールに関する講座3選

ファム・ファタールをテーマにして行われた講座を3つ、紹介します。
*講座は、すでに終了しております。

ラファエル前派展見学付き!イギリス世紀末美術とファム・ファタール

三菱一号館美術館「ラファエル前派の軌跡展」の鑑賞付き講座

19世紀末のヨーロッパでは、退廃美が席巻し、中でも運命的な女「ファム・ファタール」を描いた作品は人気を博し男たちを翻弄します。

美術でもファム・ファタールが描かれ「ラファエル前派」のロセッティ「リリア」など講座で取り上げました。

ウィーン世紀末美術とファム・ファタール

東京都美術館「クリムト展ウィーンと日本1900」の鑑賞付き講座。

日本でも大人気のクリムト。分離派という独自の派閥を立ち上げ題材に取り上げたのがファム・ファタール。男性を翻弄する彼女たちは、クリムトをはじめとする世紀末芸術家たちのミューズとなりました。そのファム・ファタールに焦点をあてました。

【展覧会概要】

展覧会名:「クリムト展 ウィーンと日本 1900」
会  期:2019年4月23日~7月10日
開室時間:9時30分~17時30分 ※金曜日は20時まで(入室は閉室の30分前まで)
会 場 名:東京都美術館



モロー展見学付き!世紀末 象徴主義美術とファム・ファタール

パナソニック汐留美術館「ギュスターヴ・モロー展― サロメと宿命の女たち ―」鑑賞付き講座。

ギュスターヴ・モローが描いたサロメを中心に19世紀末に流行したファム・ファタールブームと象徴主義について解説。なぜ19世紀末にファム・ファタールが流行したのか、当時の文化的時代背景や人間の本質からも迫ります。

今後の講座の予定

今後の講座の予定につきましては、下記よりご参照下さい。

加藤まり子のフィレンツェ公認観光ガイドが教える西洋美術史! | ストアカ

↑ 今後の講座予定はこちらをご参照下さい。 加藤まり子の教える絵画・デッサン教室の情報や口コミ、開催スケジュールを掲載。

■取材を終えて

最近は、美術展に訪れた上に、さらに講座を受けるという方が増えています。そこにはどのような目的があるのでしょうか?それは、個々の中にあるもっと知りたい欲求がふつふつと沸き起こり、その欲求の大きさによって、様々な講座に向かわせていることがわかりました。

海外にまで行く方でも、最初はただ見ているだけだったけども、鑑賞体験を重ねると「これは〇〇かな?」と想像したことがあたった喜びを語られました。はずれることもあるけども、そんな体験が、もっと知りたいという好奇心を誘発したといいます。鑑賞経験から自分なりの理解が生まれます。その先にあるものへの探求心が、講座へ足を運ばせる原動力となるようです。

鑑賞を通して生きるためのヒントを自分でつかんでいく。自分で見る力、受け止める力をつけられるのが理想です。しかし、初めて知ったファム・ファタールから、どう理解し、落とし込んだらいいのか、いくら考えても及びませんでした。

そこで講師に答えを求めてしまうことの是非はあるかもしれません。しかし、捉え方やいかに消化するのか一つのヒントとして、講師の見解を伺ってみてもいいのではと思いました。それを元にして、自分で考える糧にすることができます。さらに受講者された方との会話も、理解へのヒントとなります。文字情報だけなく、実際に見て語る中から得られることは計り知れません。

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ライター 著書は10冊以上。VOKKAでは専門を離れ、趣味の美術鑑賞から得られた学びや発見、生きるためのヒントを掘り起こしていきたいと思います。美術鑑賞から得られることで注目しているのが、いかに違う視点に触れるか、自分でも加えることができるか。そこから得られる想像力や発想力が、様々な場面で生きると感じています。元医療従事者だった経験を通して、ちょっと違うモノの見方を提示しながら、様々な人たちのモノの見方を紹介していきたいと思います。美術鑑賞から得られることは、多様性を認め合うことだと考えています。

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イラストも文章も手掛けるフリーのイラストレーター。

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