実は初心者にもおすすめ!室内楽曲おすすめ・名曲10選
室内楽とは2人以上で各自が異なる旋律を奏する楽曲の事を指します。オーケストラほど大規模でなく、各パート・楽器がそれぞれ意思疎通を図りながらそれぞれ演奏し、一つの音楽を造り上げていく室内楽は日常に落ち着きや静かな美を促してくれます。今回はクラシック初心者にも取り入れやすい室内楽の素晴らしい名曲をご紹介します。
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アイキャッチ画像出典:ja.wikipedia.org
演奏家にとっても必要な室内楽というジャンル
クラシックの奏法とは長年を費やし日々の精進によって磨き上げていく大変息の長い世界です。1人で演奏するソロ曲や、ソロとオーケストラで奏でるコンチェルト、大規模編成のオーケストラが奏でるシンフォニーなど様々なジャンルがありますが、音楽の流れやそれぞれの楽器の歌い方を合わせて織りなす室内楽もまた大きな一つのクラシックのジャンルと言えるでしょう。その様な演奏家目線とはまた別に、ただ癒やされたく聴いてみるという時にもうってつけの素晴らしい室内楽の名曲が多くあります。日常を美しく彩り落ち着きをもたらす室内楽はクラシック初心者にも大変おすすめのジャンルです。
1・ベートーヴェン・ピアノ3重奏曲第7番 Op.97 「大公トリオ」
後に生まれた作曲家達がこぞって憧れたベートーヴェン。シンフォニーや弦楽四重奏は特に素晴らしい偉業として現代まで語り継がれ、クラシック音楽に携わる人々の教師・絶対的な存在としての地位を揺らがせません。そんなベートーヴェンはあらゆるジャンルで名曲の数々を生み出していますが、ここにあげる大公トリオもその様な作品の一つです。語りかける美しいメロディ、意味深なピチカート(弦をはじく奏法)、リズミカルな気持ちよさ、穏やかなヴァリエーションなど様々な要素で成り立つこの楽曲は奏者によってもイメージが大きく変わる広がりのある作品です。古い邸宅で聴くようなカザルス・ティボー・コルトーによるカザルストリオの録音は甘くどこまでも自然で、レトロな映画へタイムスリップした様です。ルドルフ大公に献呈された事から「大公トリオ」と呼ばれています。
2・ブラームス ・ピアノ5重奏曲 Op.34
ソロ・オーケストラ・コンチェルトなどのジャンルでも数々の名曲を生み出したブラームスは室内楽でも堪らない魅力を打ち出しています。ソナタ・トリオなどでも選びきれない名曲に溢れていますが、室内楽曲の花型・ゴージャスなピアノ五重奏曲もやはり外せない作品です。重厚なブラームスを演奏するには奏者の高度な技術レベル、楽曲の成り立ちへの知識、幅のある音量や音質が細密に求められます。「美しく、かつドラマティック」そしてさらにそれだけではなく博識であり正統なドイツ3大B (バッハ・ベートーヴェン・ブラームス)への敬意を持ち演奏家がしっかりと取り組む名曲です。
3・シューベルト・ピアノ5重奏曲 D667「鱒」
1819年作曲の鱒 (ます)。まだ若く、未来への希望や幸福に溢れているシューベルト22歳の頃の、5楽章編成の明るい作品です。通常のピアノ5重奏曲の編成 (通常はヴァイオリン2・ヴィオラ1・チェロ1) とは異なり、コントラバスの低音が入る事により、音域の幅や重厚感を感じさせます。歌曲「鱒」の主題を第4楽章に置いた事により、この曲も「鱒」という副題で呼ばれます。水に現れては消える鱒の動きがピアノによって表現され、若々しく元気、かつ優雅なその動きを感じさせます。聴く者に優雅で明るく楽しい気持ちを呼び起こす作品です。
4・メンデルスゾーン・ピアノ3重奏曲 第1番 Op.49
美しく軽く聴きやすいとされるメンデルスゾーン。多くの作曲家が人生の中で苦しみ・多大なる試練を経験した中、メンデルスゾーンは比較的恵まれた生きやすい人生を送ったとされ、その楽曲も「なんとなく軽い」といった意見を持つ人も多くいます。このピアノトリオは哀愁を持ったチェロのメロディで始まる第1楽章、ひたすらに綺麗な第2楽章、軽快な第3楽章、情熱的な第4楽章で成り立ち、確かにその様な目で見ると軽い印象を受けるものの、いつの間にかそのメロディックな美しさや情熱に心が奪われていきます。ここにあげた他の楽曲の中でも特に聴きやすい一曲と言える作品です。
5・ハイドン・ピアノ3重奏曲 Hob.XV:25 「ジプシートリオ」
1794年-95年頃に書かれたこの作品は、40余曲あるハイドンのピアノ3重奏曲の中でも大変演奏の機会を多く持たれる楽曲です。全3楽章を通してピアノが主を取り、ヴァイオリンが音域の高さと色で花を添え、チェロが拍を取るというスタイルを持ちます。明るく快活な変奏曲である1楽章、優美な2楽章、そしてこの曲が「ジプシートリオ」と呼ばれる所以を持つ「ジプシー風ロンド」3楽章。この第3楽章はピアノとヴァイオリンの素早い動きが軽快な主題と短調のリズミックなパートが止まる事なく交互に現れ、息をつかせません。
6・シューベルト弦楽4重奏曲 第14番 D810 「死と乙女」
全楽章を通して短調で書かれているこの作品は、シューベルトが健康の衰えを自覚した直後の1824年のもの。31歳という若さで亡くなったシューベルトの絶望感や緊迫感が現れています。先の「ピアノ5重奏曲・鱒」と同様に、彼自身の歌曲「死と乙女」のモチーフが第2楽章に使われている事から同名で呼ばれています。様々な編成がある室内楽曲の中でも、演奏の作り込み過程が大変難しいと言われる弦楽4重奏。弦楽奏者が時間をかけて取り組むジャンルであり、多くの名曲が残されていますが、この「死と乙女」も取り組みが難関な名曲と言えるでしょう。
7・ブラームス・チェロとピアノの為のソナタ 第2番 Op.99
1886年、スイスのトゥーン湖のヴィトマンの邸宅にて作曲されたこのチェロソナタ2番は、20年以上前に作曲された第1番とはまた違うキャラクターを持ち明るく、壮大かつ美しい楽曲です。チェロの技巧はもとより、ピアニストにとっても全楽章を通して高度な技巧が求められます。どっしりと壮大な1楽章、チェロのピチカートとメロディクなピアノがなんとも言えず叙情的な2楽章、ビートの効いたリズム感がチェロ・ピアノ共に迫る3楽章、穏やかに流れゆくメロディが美しい4楽章とそれぞれキャラクターが異なり、名曲を多々生み出したブラームスらしく、聴き応え・自然の美しさをしっかりと兼ね備えた作品です。
8・シューベルト・弦楽5重奏曲 D956
シューベルト最晩年の室内楽曲。死の2ヶ月前に作曲されたこの作品は、ヴァイオリン2・ヴィオラ1・チェロ2という編成でなり、ヴァイオリンの奏でる高音から、チェロ2本の低音まで幅のある重厚感が大変魅力の大曲です。楽章それぞれ大きくキャラクターが異なり、聴きごたえは充分。ピアノの巨匠、アルトゥール・ルビンシュタインは自身の葬儀の際にこの作品の第2楽章を流すようにと命じました。名のある演奏家達でもなかなかこれといった名演に当たる事の少ない難しい楽曲です。
9・ドヴォルザーク・ピアノ3重奏曲 第4番 「ドゥムキー」
チェコを代表する作曲家・ドヴォルザークのピアノ3重奏曲・4番「ドゥムキー」。ドゥムキーとは、ウクライナ起源の憂鬱な叙事的歌謡であるバラッド「ドゥムカ」の複数形です。6曲からなる全楽章を通して大変瞑想的で美しく、スラヴ的な憂いやチェコ独特な土臭さがよく現れており、ドラマティックに始まる冒頭からころころ変わる情景は、民族的なリズムと音使いを伴い、まるで古い一本の映画を観ている様です。しっかりとした構成の伝統的な形式というよりは、流れ行く美しさを感じさせ、その世界にいつの間にか没頭してしまいます。
10・シューマン・ピアノ5重奏曲 Op.44
シューマンの代表的な室内楽曲。先に挙げたブラームスの「ピアノ5重奏曲 op.34」と対で演奏される事の多い作品です。シューマンの「室内楽の年」と言われる1842年の9月から10月の数週間で完成され、妻のクララ・シューマンに献呈されました。華やかで堂々とした第1楽章、葬送行進曲風の美しい第2楽章、軽快な動きの主題と2つのトリオ部分を持つ第3楽章、ピアノが主を取るフィナーレ・聴きごたえのあるフーガを持つ第4楽章から成り、全楽章を通して素晴らしい魅力を持った名曲です。
聴きごたえのある名曲揃い
いかがでしたか。日本では一部の愛好家にしかなかなか広まり辛いクラシック音楽ですが、生活に取り入れる事で美しさと落ち着きをもたらしてくれます。知識は楽しさを倍増させますが、ただじっと耳を傾けるだけでも新しい領域へと誘われるでしょう。クラシック初心者にも取り入れやすい室内楽曲はここに挙げたものだけでなく、素晴らしい名曲に溢れています。そしてまた、名盤・名演も多く産まれています。是非この機会に日常へ取り入れてみてください。