25年ぶりの続編『ツイン・ピークス The Return』始動!今こそ知りたい大人気米TVドラマ『ツイン・ピークス』10の魅力
1990年4月に全米で放送が開始されたテレビドラマ『ツイン・ピークス』は、本国のみならず世界中で社会現象となり、カルト的な人気を博しました。シリーズの前日譚となる劇場版の公開から25年、シーズン3となる新作『ツイン・ピークス The Return』が登場し、シリーズが再始動!ここでは、改めて同シリーズの魅力に迫ります。
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1990年代に人々が熱狂した『ツイン・ピークス』とはなんだったのか?
『ツイン・ピークス』がアメリカのABCで放送され始めたのは、1990年4月のこと。日本ではWOWOWが1991年の開局と同時に放映を開始し、大きな反響を呼びました。1992年には、「ツイン・ピークス」が流行語大賞の大衆語部門で銅賞を獲得していますから、どれだけ国内でも話題になっていたか、容易に想像できると思います。
アメリカだけでなく、日本を含めた世界中の人々を虜にした『ツイン・ピークス』とは、果たしてどのような作品だったのか──。ここでは、同作の10の魅力的要素を取り上げ、その真髄に迫っていきます。
2014年にブルーレイ化された『ツイン・ピークス』の予告編
レンタルビデオ全盛期の“ハマる”海外ドラマの先駆け
『ツイン・ピークス』が日本に上陸した当時の海外ドラマものと言えば、NHKで放送されていた『愉快なシーバー家』『アレフ』『フルハウス』といったファミリー向けのシットコムや『ジェシカおばさんの事件簿』などの健全な探偵もの、あるいは『新スター・トレック』や『冒険野郎マクガイバー』のように民放の深夜枠でひっそりとオンエアされていた作品がほとんどでした。
そんなときに彗星のごとく登場した『ツイン・ピークス』は、その過激で不可思議な内容で人々を虜にして“ドラマに「ハマる」”という経験をさせ、WOWOWに加入していなかったファンをビデオレンタル店に足繁く通わせることになった、最初の海外テレビドラマといっても過言ではないでしょう。「聖地巡礼」という言葉が映画やドラマに使われていなかった当時、ロケ地だったワシントン州スノクァルミー地域をめぐるツアーが企画されたほどだったのです。
その後、『Xファイル』『フレンズ』『ER緊急救命室』が登場し、90年代後半の『アリー my Love』『セックス・アンド・ザ・シティ』、2000年代前半の『CSI:科学捜査班』『24 -TWENTY FOUR-』『Dr. HOUSE』『LOST』『デスパレートな妻たち』など、日本にもどんどん多彩なジャンルの作品が入ってくるようになりました。ビデオやDVDレンタルで手軽に視聴が可能になり、この頃の日本は海外テレビドラマの黄金期だったのではないでしょうか。
今ではHuluやNetflix、Amazonビデオでさらに簡単に海外作品が観られますが、『ツイン・ピークス』は、まさに、日本人が中毒になったアメリカのテレビドラマの先駆けだったのです。
上のものとは別バージョンの予告編。予告編だけ見ても、独特の世界観であることがわかる
アメリカでは90年代高視聴率ドラマの上位に君臨するカルト作品
日本をも席巻したドラマですから、本国アメリカではもちろん、『ツイン・ピークス』旋風が吹き荒れました。90年代高視聴率テレビドラマの上位に君臨し、国内外で大ヒット。名だたる批評家先生たちにも認められました。エミー賞、ゴールデン・グローブ賞を獲得。特にゴールデン・グローブ賞で、最優秀ドラマシリーズ、最優秀主演男優賞、最優秀助演女優賞の3部門をテレビドラマが同時に受賞したのは、当時では異例のことです。同シリーズははカルト的な人気を呼び、他のテレビドラマ、映画、CM、コミック、ゲーム、歌詞などでも言及され、1992年に終止符を打った後も、人々に与えた影響はいつまでも尾を引きました。まさにアメリカのポップカルチャーの一部と化した作品だったのです。
1990年当時のアメリカでの『ツイン・ピークス』TVCM集
視聴者を惹きつけたデヴィッド・リンチ印の難解さ
他のどんな作品とも異なる非常に特異な世界観を持つ『ツイン・ピークス』ですが、これは、製作総指揮と監督を務めたデヴィッド・リンチの特徴が色濃く出ているからだと言えるでしょう。
長編デビュー作となった1976年の『イレイザーヘッド』から、リンチ印の不可解さ、難解さ、シュールさ、不気味さが炸裂しています。2作目の長編監督作『エレファント・マン』(80)は、作品賞をはじめとするアカデミー賞8部門にノミネート。これで彼の知名度は一気に上がりました。その後も、低予算映画『ブルー・ベルベット』(86)が全米批評家協会賞、『ワイルド・アット・ハート』(90)がカンヌ国際映画賞パルムドール、『マルホランド・ドライブ』(2001)がカンヌ国際映画賞監督賞を受賞。監督作の数は多くなく、決して万人受けする映画でもないものの、彼の作品は世に出るたびに高い評価を受けています。特に『マルホランド・ドライブ』は、アメリカの情報誌「タイムアウト」が2009年に発表した「過去10年の貴重な映画50本」の第1位に選ばれています。
とにかく異様で不条理でありながら個性的で美しい世界を描き出す才能で、彼の右に出る者はいないでしょう。『ツイン・ピークス』が人々の目を釘づけにし、長年支持される伝説の作品となったのは、デヴィッド・リンチの演出があったからに他なりません。
デヴィッド・リンチ作品10選
右も左もアクの強い奇妙な登場人物ばかりの人間ドラマ
テレビドラマで視聴者が作品に深くハマる理由のひとつは、魅力的な登場人物。『ツイン・ピークス』とて例外ではありません。この作品に出てくるのは、ほとんどが一見平和な田舎町ツイン・ピークスで平凡に暮らしてきた一般人と思われるキャラクターたちです。普通に見える人物と明らかに怪しいクセの強い人物が入り混じり、複雑に絡み合っていく中で、全員が何かしらの秘密を抱えていることが判明し、エピソードを重ねるたびに彼らの裏の顔や実情が明らかになっていきます。「えっ、あの人があんなことを!?」「まさか彼女が彼と……?」という衝撃がクセになり、さらにストーリーがどんどん混迷して、視聴者は不可解なドラマの底なし沼にズブズブとハマっていったのです。
丸太を大事そうに抱え、わけのわからないことを言い放つおばさんや、赤い服を着て変なダンスをする小さな男や、3メートルはあろうかと思われる巨人など、サブキャラもとことん印象的。あのキャラは端役だから……と決して侮ることはできないドラマなのです。
また、監督のデヴィッド・リンチ、歌手の故デヴィッド・ボウイ、『Xファイル』のモルダー捜査官でお馴染みのデヴィッド・ドゥカヴニーの、“3人のデヴィッド”の出演も注目すべきポイントです。
2016年に復活することが先日発表された海外ドラマ『ツイン・ピークス』。その朗報にあわせ、「『ツイン・ピークス』のベスト・キャラクター TOP30」を米ローリングストーン誌のサイトが発表
一番人気の登場人物は……?
『ツイン・ピークス』の登場人物紹介ビデオ(英語)。多少のネタバレを含むのでご注意を
謎が謎を呼び、その謎が新たな謎を呼んでしまう謎連鎖の展開に戸惑う
事の始まりは、いたってシンプルでした。作品の舞台となるのは、カナダ国境に近いワシントン州の田舎町ツイン・ピークス。美しく聡明で、“学園の女王”として誰からも愛されていた17歳の女子高校生ローラ・パーマーが、全裸でビニールに包まれ、死体となって発見されます。誰が彼女を殺したのか──。平和だった町が一変、犯人探しが始まります。FBIから特別捜査官のデイル・クーパーが派遣され、町の保安官たちと一緒に本格的な捜査を始めるのですが、事件は解決へ向かうどころか、次々に不可解な謎にぶち当たり、捜査は難航。どいつもこいつも怪しい!という状態になり、視聴者はまんまと製作陣の意図した“罠(「どつぼ」とも言えます)”にハマって「次がどうなるか知りたい」「次を観ないと」という中毒症状に陥っていくのです。恐るべし『ツイン・ピークス』!
クーパー捜査官は、女子高生殺人事件を解決しようとして、どんどんツイン・ピークスの闇を広げてしまう結果に
カイル・マクラクランのキュートさに惚れる人続出
『ツイン・ピークス』の重要キャラ、FBIのクーパー捜査官は、甘いマスクの長身で頭脳明晰。鋭い観察眼を持ち、ほんの些細な糸口から事件を解決へと導いていきます。オカルト的なものを信じる謎めいた部分を持ち合わせつつ、おいしいブラックコーヒーとパイやドーナツといった甘いものに目がなく、素直で誠実、さらに謙虚な上に、小さなことにもすぐに感激してしまうなんとも可愛い性格の持ち主。こんなキュートかつハンサムで性格も良く、少しミステリアスな側面もある男性に、惹かれない女性はいません。彼は、たちまち世界中の女性視聴者の心を鷲掴みにしました。
クーパー捜査官を演じているのは、カイル・マクラクラン。リンチ作品『デューン/砂の惑星』(84)の主役に抜擢され、『ツイン・ピークス』でも主人公を演じました。新たに始まったシーズン3でも主役を務めており、いぶし銀の魅力を思う存分振りまいています。
カイル・マクラクランが主演した、デヴィッド・リンチ監督作『デューン/砂の惑星』の予告編
セクシー、小悪魔、清純派……様々なタイプの美女が登場
冒頭で死体となって発見されるローラ・パーマーは優等生(と町の皆に思われていたのですが……)、ローラの親友のドナは清純派(と思いきや……)、ダブルRダイナーのウェイトレスのシェリーはビッチ感を漂わせ(てはいるものの、その実は……)、保安官事務所の事務員ルーシーは鼻にかかった声で話すベビーフェイス(おつむ足りなさ系と見せかけておいて……)、ホーン家のお嬢様オードリーは男を誘惑する小悪魔(でも、純な部分も……)など、『ツイン・ピークス』には、違ったタイプの美女が集結しています。どのヒロインも表と裏の顔があり、エピソードを重ねるたびにミステリアスな部分が明かされていくので、視聴者は彼女たちからも目が離せなくなってしまうのです。かつては、キャラクターの人気投票などの企画も各方面で行われていました。さあ、あなたはどの美女がお好みですか?
『ツイン・ピークス』に出てくる美女を紹介する動画
現実と幻想を行き来する摩訶不思議な世界
ただの殺人事件ミステリーだと思っていた視聴者は、いつの間にか『ツイン・ピークス』のラビリンスに迷い込んでしまっていることに気づきます。クーパー捜査官が夢やオカルトの力を信じるがゆえでしょうか、とにかく謎めいた描写が多いのが特徴ですが、中でも、クーパー捜査官が睡眠中にだけたどり着くことができる「赤い部屋」は謎だらけ。その赤い部屋で赤い服を着て、奇妙なダンスを踊り、不気味な声で語りかけてくる小さな男は、『ツイン・ピークス』の中で最も視聴者の胸をざわつかせる存在なのではないでしょうか。シュールレアリズムをこよなく愛するデヴィッド・リンチ監督だから構築できた、現実と幻想の狭間にあるような『ツイン・ピークス』の不可思議な世界に、あなたもぜひ酔いしれてください。
もしデヴィッド・リンチが『ラ・ラ・ランド』を監督したら……という設定の予告編。幻想的で不気味でシュール。確かにこうなりそう!
コーヒー×ドーナツ×チェリーパイ
ツイン・ピークスの町の住民は、1人あたりのドーナツ消費量が世界のどこの市町村よりも多いことを誇りにしているんだとか。とにかく、毎回ドーナツが登場。保安官たちも、第1話からドーナツを頬張っています。クーパー捜査官もコーヒーとドーナツが大好き。そして、ダブルRダイナーのチェリーパイも大のお気に入りです。しかも彼は、本当においしそうにドーナツやパイを食べ、コーヒーをすすります。いつの間にかファンの頭には、『ツイン・ピークス=コーヒー×ドーナツ×チェリーパイ』という公式が刷り込まれてしまいました。
シーズン1が放送された当時、アメリカでは日常的に食されるチェリーパイも、日本ではなかなかお目にかかれないスイーツでしたので、コアなファンは手作りで『ツイン・ピークス』のチェリーパイを再現していたものです。シーズン3が登場すると公表された際、パブロフの犬と化していた往年のファンは、すぐに「コーヒーとドーナツとチェリーパイを片手に観なければ!」と思ったかもしれません。
視聴者の胃袋まで掴んだ『ツイン・ピークス』。砂糖やカフェインのように中毒性のあるドラマであることは間違いありません。
お菓子の家の苦境を、知恵と度胸で乗り越えて人生を切り開いた、女の子グレーテル。現代のグレーテル達に向けて、美しく、優しく、柔らかく、スイーツに迫る教養娯楽番組。
『ツイン・ピークス』のチェリーパイのレシピ
『ツイン・ピークス』の中で、「コーヒー」と「パイ」というセリフが出てくるシーンをまとめた動画。本当に多い!
耽美な映像と秘密の空間の閉塞感がクセになる
不条理で難解な作品はお手の物のデヴィッド・リンチ監督ですが、非常に妖艶で美しい前衛芸術のような映像も彼のお得意です。やけに艶かしいヒロインが多いのも、彼女たちがリンチ・ワールドの独特の雰囲気作りに必要だから。見てはいけない何かを見てしまったバツの悪さを視聴者に感じさせ、時には罪悪感さえをも覚えさせる映像が随所に挟まれます。知らず知らずのうちに「ここまで観たら、もう後戻りできない」と観る者に思わせるのも、リンチ演出のなせる技でしょう。
不条理スリラーと言えば、ヴィンチェンゾ・ナタリ監督の『CUBE』(1997)や、最近ならば、メキシコ出身のイサーク・エスバン監督の『パラドクス』(2014)や『ダークレイン』(15)を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、そういった映画とは異なり、『ツイン・ピークス』の映像は、かなりセクシーで耽美的。とはいえ、不条理シチュエーションスリラーにはつきものの、閉ざされた空間もしっかり登場しています。片田舎のツイン・ピークスの町自体が閉鎖的な場所のようにも思えますし、クーパーの夢の中の赤い部屋や善と悪を象徴する「ホワイト・ロッジ」と「ブラック・ロッジ」はもとより、秘密を抱える登場人物の心も閉じられており、口ではなかなか説明しづらい独特の“閉塞感”が視聴者を襲います。そして、狭い空間で登場人物と何かを共有したと思えるつながりが、エピソードを重ねるごとに強くなっていくのです。
こうしたリンチ・マジックが、映画ではなくテレビドラマだからこそ、『ツイン・ピークス』では存分に生かされているのかもしれません。
オードリーがチェリーを食べるシーン。エロティックだが、決して下品ではない。この艶かしさがリンチ作品の特徴でもある
不条理スリラーとして話題になった『CUBE』。公開から20年が経った今でも、全く古さを感じさせない
メキシコの鬼才イサーク・エスバン監督の『パラドクス』予告編
25年ぶりの新作『ツイン・ピークス The Return』でもリンチ演出は健在
日本でも、7月22日よりWOWOWで放送が開始された『ツイン・ピークス』の新シーズンでは、クーパー役のカイル・マクラクランをはじめ、お馴染みのメンバーの多くが再び顔を揃えます。25年が経ってそれなりに年齢を重ねた登場人物たちの人生は、一体どう変わったのでしょう。また、アマンダ・セイフライド、ナオミ・ワッツ、モニカ・ベルッチ、裕木奈江らが扮する新たなキャラクターも加わります。5月からスタートしたアメリカでは、すでに半分以上が放映されましたが、あのリンチワールドは今も健在。それどころか、さらに感性が研ぎ澄まされ、案の定、不可解な謎が謎を呼び、その謎が新たな謎を呼び続け、全く期待を裏切りません。
1990年代の初頭に一世を風靡した『ツイン・ピークス』の魅力を語ってきましたが、過去同作にハマった人はおさらいとして、まだ観ていない人は予習として捉えていただければと思います。新作にも興味を持った方は、どうぞ「こちら側」にいらしてください。このシリーズが最終的にどこに行き着くのか、一緒に見届けようではありませんか。
奇才デヴィッド・リンチが手がけた海外ドラマの原点にして頂点。あの伝説のTVシリーズが帰ってくる!
『ツイン・ピークス』OPのテーマ音楽。この哀愁漂う曲を聴くと、あの世界に舞い戻ってしまう
『ツイン・ピークス』新作の特別映像:ミラー編
『ツイン・ピークス』新作の特別映像:ドーナツ編
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この記事のライター
数々のミステリー、アクション小説、伝記本、映画雑誌のインタビュー記事、人気ゲーム関連の邦訳を手がけるキャリア20年の翻訳家。小学2年で読書の悦びに目覚めた本の虫で、読書と翻訳作業で培った知識は、映画、海外ドラマのショウビズ関係はもとより、生物学、医学から欧米の文化、政治、歴史、犯罪、銃器、ミリタリーなど広範囲に及ぶ。日々の生活で「一日一善、一日一爆笑、一日一感動」を心がけ、読者を笑顔にし、読み手の胸に染み入る文章を目指す。米国フロリダ州オーランド在住で、映画、海外ドラマ、アメリカンカルチャーなどの旬な情報も随時発信。