なんて奥深い!心を豊かにする大人のための絵本10選

大きなページをめくると、一面に広がるカラフルな絵。少しだけ添えられる平易な文章は、リズミカルな言葉遊びだったり、優しく語りかける口調だったり……。ですが、小さな子供でもわかりやすい本だから、“絵本=子供の本”だと決めつけていませんか? ここでは、大人も惹きつけられる奥深い魅力を持つ絵本10冊をおススメします。

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皆、絵本を読んで大きくなった! 実はロング&ミリオンセラーの宝庫

もう何年も絵本に触れていないという方でも、何かしら、幼い頃に読んだ絵本の記憶があるのではないでしょうか。『ぐりとぐら』『はらぺこあおむし』『100万回生きたねこ』『おおきなかぶ』『ウォーリーをさがせ』『11ぴきのねこ』など、タイトルを聞いただけで、絵と懐かしい思い出が脳裏に浮かんでくるかもしれません。実は、名作と言われる絵本は数多く、ロングセラー、ミリオンセラーの宝庫なのです。例えば、『ぐりとぐら』は1963年に刊行され、472万部発行されていますし、1976年刊の『はらぺこあおむし』は368万部です。ちなみに、絵本の中で第1位の発行部数を誇るのは、1967年から販売されている松谷みよこさんの『いないいないばあ』の596万部。流行り廃りのスピードがどんどん速くなっている昨今、絵本には、世の中の変化をものもともせず、親子二世代、三世代と、時代を超えて長く愛されている良書が多く存在しているのが事実なのです。
(※発行部数のデータは、トーハン「ミリオンぶっく」2015年版より)

不況にあえぐ出版業界で個性あふれる絵本に注がれる熱視線!

インターネットの普及やスマホの登場で、人々の活字離れが進んでいると言われています。「本が読まれなくなった」「書籍の売り上げが右肩下がり」「書店がどんどんつぶれている」──そんなため息まじりの声が、出版業界から聞こえてくるようになりました。確かに、ここ数年の間でも、電車の中で文庫や新聞、雑誌を広げている人の数がめっきり減ったと、感じている人は多いのではないでしょうか。
ところが、出版不況と言われる中、2016年4月に、3日間で12万部を売り上げた絵本が登場し、業界の話題をさらいました。また、クラウドファンディングで多額の資金を集め、出版が実現してニュースになった絵本もありました。今、注目の絵本市場では、単に子供に読み聞かせるための本ではなく、大人が自分のために購入したくなるような作風の本が数多く出版されています。そのような絵本のページを開けば、奥深い独特の世界観に、思わず唸らされたり、癒されたり、感動させられたりすることでしょう。自分でのんびり読むのもよし、大切な人への贈り物にするのもよし。さあ、あなたも久しぶりに絵本を手にとってみませんか。

まるでサイレント映画を見ている気持ちになる、どこか不思議で温かい世界

アライバル

本国に家族を残し、異国の地に単身やってきた男。新天地で右往左往しつつも必死で己の生活を切り拓き、やがては妻子を呼び寄せる日がやってくる──。言葉を一切排し、セピア色の緻密な絵で綴られる物語は、絵本というよりもグラフィックノベルに近い感覚。メルヘンともSFともつかないノスタルジックな世界観は、どこか謎めきながらも温かみを帯び、読み進めていくうちに、サイレント映画の良質な人間ドラマを鑑賞している気分になるから不思議です。自身も移民だった過去を持つ著者ショーン・タンは、主人公が初めて見る異国の風景を独創的に、ときに不気味に描きますが、読者にスリルと共感を覚えさせ、物語にぐいぐい引き込んでいきます。タンは、映画制作も手がけ、アカデミー賞短編アニメーション賞の受賞歴もある多才な人物。読者を映画のような広がりのある世界に引き込む画風、構成はさすがで、本書が世界各国29の賞を受賞したのも納得です。

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エッシャーのだまし絵を立体で堪能できる、驚きの飛び出す絵本

エッシャー:ポップアップで味わう不思議世界(しかけえほん)

“視覚の魔術師”と言われるオランダの画家マウリッツ・エッシャー。彼のだまし絵を目にしたことがある人は多いと思います。建物の高所から低所に落ちる滝の水がさらに低いところへ流れていくと思ったら、いつの間には、最初の地点に戻っている……? そんな『滝』の絵を、何度も見直した人もいるでしょう。本書の中を覗いてみると、彼の数々のトリックアートが立体となって飛び出し、たちどころに読み手は圧倒させられます。表紙にもなっている『婚姻の絆』は、3Dになると俄然存在感が増し、まるで別の作品のよう。平面アートだから錯視効果があると思いきや、奥行きと高さを備えただまし絵の世界は、平面にはなかった新しい驚きと錯覚に満ちています。同シリーズには、『北斎』や『ガウディ』のポップアップブックがあり、日本語版は出ていないのですが、英語版には『サルバドール・ダリ』も出ており、全部揃えたくなります。本著は、おなじみの芸術が違った形で楽しめる斬新なアート本だと言えるでしょう。

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死んだらどうなるの? きっとこんな感じ? ヨシタケシンスケ流愉快な終活読本

このあと どうしちゃおう

実は、初めの方で述べていた“3日で10万部を売り上げた絵本”というのが、こちらのヨシタケシンスケさんの『このあと どうしちゃおう』です。男の子が、亡くなったおじいちゃんの遺品から見つけた一冊のノートには、おじいちゃんが想像する天国(とにかくお刺身がおいしい、有名人に結構会える、あちこちに布団と温泉があるなど)や地獄(意地悪なアイツが行くだろうと仮定。トイレが一個しかない、毎日柔軟体操をする、2種類の混ざった砂を分けるなどなど)、生まれ変わったらなりたいものや、死んだ後に作ってもらいたいものが、面白おかしく書かれていました。「死」という、ややもすると悲しく暗くなりがちなテーマでありながら、著者が可愛いイラストとともにユーモアたっぷりに作り上げた終活の絵本。ヨシタケさんのファンが、彼の他の本(『もうぬげない』『りんごかもしれない』も秀逸!)も大人買いするという現象が各地の書店で起きている話題作です。

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空き地で繰り広げられる雑草の静かで激しい冒険と戦いの5年間

雑草のくらし─あき地の五年間─

子供の頃、空き地は魅力にあふれた空間でした。秘密基地でもあり、戦場でもあり、冒険の出発点、終着点にもなりました。毎日、何の変哲もない空き地で遊んだ経験は、皆さんにもあるのではないでしょうか。大人になると、もはや空き地を一瞥することすらなくなり、足早にその隣を通り過ぎるだけになってしまいます。ですが、絵本作家の甲斐信枝さんは違っていました。彼女は、1979年の春から5年間、ある空き地を借り、四季を通じてどんな雑草が生え、繁殖し、陣取り合戦を展開し、枯れていくか、その栄枯盛衰を観察し、絵にしたため続けたのです。緻密で丁寧に描かれた雑草たちの姿には、作者の愛情が込められています。毎年同じ季節には、同じように同じ草が同じ場所に生えるのだろうと漠然と考えていたこちらの予測を裏切り、熾烈な生存競争や熱いドラマが空き地では生まれていました。本書を読み進めていくうちに、雑草が人間、空き地が人間の暮らす地域の縮図に見え始め、深い感慨に包まれてページを閉じることになるのです。

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世界がもし100人の村だったら……。改めて読み直す世界の現実

世界がもし100人の村だったら 総集編 POCKET EDI

地球上の人々を100人の村だと考えたら、52人が男性で、48人が女性。100人のうち30人が子供で、70人が大人。その大人の中で7人がお年寄り。70人が有色人種で、30人が白人。20人は栄養が十分に摂れず、1人が飢餓に危機に瀕する一方で、15人は肥満状態。地球上の富を振り分けると、6人が59%の富を握り、そのほとんどがアメリカ人。74人が39%の富を掌握し、残りの20人がわずか2%の富を分け合っている──。2001年に日本で初めて『世界がもし100人の村だったら』が出版され、この事実に衝撃を受けた人もいるでしょう。あれから時代は進んでいます。今、改めてこの本を読むことで、忘れていた現実を考え直すきっかけになるかもしれません。本書は9年前の2008年に出版された本ですが、世界の食糧危機に焦点を当てた“食べ物篇”、医療・教育の急務を訴える“子供篇”、さらには原典の「1000人の村」を収録した総集編になります。また、2017年1月30日には、“お金”を糸口にしたシリーズ最新刊『世界がもし100人の村だったら お金篇 たった1人の大金持ちと50人の貧しい村人たち』が刊行されましたので、併せて読むことで、より深く世界の現実を理解できるでしょう。

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関西弁の翻訳文章が絶妙な立役者となった、シュールでスリリングな絵本

ちがうねん

はっきり言いましょう。こちらは英語の原書より、物語に厚みが感じられ、読者がより深みにハマりそうです。その理由は、翻訳の関西弁ではないでしょうか。物語はいたってシンプル。大きな魚が寝ている間に、その帽子を小さな魚が盗みました。どうせ気づかれまいと、小さな魚は海の中を逃げていくのですが……。思わぬ展開の帽子争奪戦にドキドキワクワクしながらページをどんどんめくれるのですが、関西弁のリズムとテンポが軽快で、改めて絵に添えられる文章の大切さを再認識しました。著者のジョン・クラッセンの前作『どこいったん』は、ニューヨークタイムズ ベストセラーになっており、そのときも、翻訳者は絵本作家の長谷川義史さんでした。この2人の秀逸なコンビネーションが生み出した日本語版だけが持つ素晴らしさを、ぜひ味わっていただきたいと思います。『どこいったん』も『ちがうねん!』も、ある意味、ラストが読み手の想像力に任されるため、あれこれ結末を考えてしまうことになるのも特徴です。

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想像力を掻き立てる幻想的なイラストが夢幻の世界にあなたを誘う

終わらない夜

本書は、もはや芸術作品の画集の領域にあり、絵本というカテゴリーに入れるのがもったいないほど、美しく幻想的なイラストが16の不思議な世界を創り出しています。しかし「絵本」とされているからこそ、より幅広い年齢の読者に読まれ、支持されているのだとも思います。だまし絵の巨匠ルネ・マルグリットやM・C・エッシャーに影響を受けたロブ・ゴンザルヴェスが描く、シュールな絵には、やはりトリックアート的な要素が加わり、読み手の想像力、創作力を大いに刺激してくれます。子供の頃に夢想していたような既視感を覚える景色や、神秘的で少しゾッとするような風景を見つめていると、どこか遠くの異世界に連れ出されてしまうような感覚に陥ってくるのです。本書には、セーラ・L・トムソンの詩が添えられていますが、この2人が組んだ他の絵本『真昼の夢』『どこでもない場所』では、同様の素晴らしさを堪能しつつも、少し違った趣を味わえますので、ぜひ手に取っていただきたい作品です。

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世にも恐ろしい地獄絵図と可憐で美しい極楽浄土を一度に楽しめる一冊

地獄と極楽

怖すぎる絵本として話題になり、子供のしつけに使えると大勢の母親たちが買い求めたというロングセラーの大型本『絵本地獄』と、その対極にある極楽浄土を描いた『絵本極楽』が一冊にまとめられ、文庫サイズで出版されたのが本書です。『絵本地獄』は、一度は死んだ五平という男が生き返り、見てきた地獄の恐ろしさを語るという内容です。子供向けの可愛いイラストとは大きく異なり、寺院が所蔵する本格的な宗教画であるゆえ、その迫力と破壊力は半端ありません。特に、地獄で繰り広げられる様々な責め苦の様子には、大人であっても背筋が寒くなり、つい「真面目に生きよう」と考え改めてしまいます。一方で、『絵本極楽』の世界は地獄とは正反対で美しく、眺めていて清らかな気持ちになれます。人生の最後に得られる片道切符。あなたはどちら行きがいいですか?

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黒井健の柔らかなイラストに心が和む、童話作家新美南吉の名作

手ぶくろを買いに

1913年に愛知県で生まれた新美南吉は、『ごんぎつね』『おじいさんのランプ』など数多くの珠玉の童話を遺し、わずか29歳で夭折した童話作家です。彼の作品は、小学校の教科書にも採用されているので、子供の頃に読んだ経験がある人も多いことでしょう。岩手県出身の宮沢賢治と比較されることも多く、「北(あるいは東)の宮沢賢治、南(または西)の新美南吉」と称されたりもします。そんな南吉の『手ぶくろを買いに』は、冬の寒さに凍てつく子狐のために、母狐が手袋を買ってやろうと思い立つことから物語が始まります。南吉のシンプルな文章と黒井健の柔らかなタッチのイラストが非常にマッチして、心癒される美しい作品に仕上がっています。英語版も出版されており、海外の方への贈り物としても重宝される絵本なのです。

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絵も題字も全て怖い。大人でも眠れなくなる京極夏彦の怪談絵本

怪談えほん(3) いるの いないの

子供どころか、読み聞かせした大人の方まで怖くて眠れなくなり、夜トイレに行けなくなると話題になった絵本。おばあちゃんの古い日本家屋でしばらく暮らすことになった少年は、家の暗がりが気になっていました。その暗がりの中に誰かがいるに違いないと、感じていたからです──。天井のシミ。少しだけ開いた押し入れの隙間の奥。暗闇に包まれた廊下の先。柱時計が刻む音。年季の入った家は、どこかに得体の知れない何かが潜んでいるようで不気味です。子供の頃に、祖父母の家などで、そう感じていた人も少なくないでしょう。この絵本は、そういった感覚、記憶を全て引き出す、本当に怖い絵本なのです。京極夏彦さんの文章も、町田尚子さんの絵も、読み手の恐怖心を掻き立てる効果は抜群。怖いものみたさで、結局はページを開いてしまうのです。この『怪談えほん』シリーズでは、宮部みゆき、小野不由美、恩田陸、綾辻行人、岩井志麻子など、錚々たる顔ぶれの作家が執筆しています。これでは、怖くても読んでみたくなりますね。

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大人になってから読むことで、新たな世界が見えてくる

絵本の多くは、子供が読んで何かを学び、世界を広げていくための本ですが、大人になってから読むことで、子供の頃に読んだときとは、また違った何かが見えてくるはずです。仕事に追われ、時間に追われ、責任に追われ、大人の視野はどんどん狭くなり、頭も固くなっていますので、ときには絵本を開き、童心に返ったり、忘れかけていた大切なことを思い出したり、今まで見えていなかった何かを見出してみてください。もちろん、大人の読者層を意識した独創的な絵本も数多く出版されています。今まで素通りしていた「絵本コーナー」で、今日は足を止めてみてはいかがでしょうか。

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数々のミステリー、アクション小説、伝記本、映画雑誌のインタビュー記事、人気ゲーム関連の邦訳を手がけるキャリア20年の翻訳家。小学2年で読書の悦びに目覚めた本の虫で、読書と翻訳作業で培った知識は、映画、海外ドラマのショウビズ関係はもとより、生物学、医学から欧米の文化、政治、歴史、犯罪、銃器、ミリタリーなど広範囲に及ぶ。日々の生活で「一日一善、一日一爆笑、一日一感動」を心がけ、読者を笑顔にし、読み手の胸に染み入る文章を目指す。米国フロリダ州オーランド在住で、映画、海外ドラマ、アメリカンカルチャーなどの旬な情報も随時発信。

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都内在住。コーヒーとサンドイッチが大好きで1日1カフェ生活を送っている。夏の定番はレモネード、冬の定番はホットチョコレート。オシャレやヘルシーという言葉に敏感なミーハー系女子。

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