ハンス・J・ウェグナーの完成度を誇る名作椅子4選
ハンス・J・ウェグナーは500脚以上もの椅子をデザインしたにも関わらず、100脚前後しか量産されませんでした。今回はそんなハンス・J・ウェグナーの完成度を誇る名作椅子をご紹介します。
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椅子の機能美を目指したデザイナー
デンマーク生まれの世界的に知られる家具デザイナー、ハンス・J・ウェグナーは、若い頃にアルネ・ヤコブセンのもとで仕事に携わり、その後もコペンハーゲンでもっぱら椅子のデザインに取り組みました。一般にモダンデザインは機能性を論理的に導くものであったのに対し、ウェグナーは有機的に統合した機能美をめざしました。東洋風のテイストをもつ作品が多いのも、自然と芸術の調和に対するウェグナーの姿勢のあらわれといえるでしょう。東西文化の垣根をこえて今も尊敬されるウェグナーの代表作をご紹介します。
ウェグナーの出発点『チャイニーズチェア』のたたずまい
「圏椅(クワンイ)」という中国明朝時代の椅子を見て衝撃を受けたウェグナーが、これをもとにしてモダンなテイストにアレンジした作品『チャイニーズチェア』です。最初につくられた1944年のモデルから、ベースや座面、背板や支柱の形状などに少しずつ変更を加え、さまざまなバリエーションがつくられました。単なる東洋趣味の嗜好ではなく、機能性という点で理に適った構造をなしていて、無駄を省いた近代的なフォルムに生まれ変わっているのです。奇をてらうのではなく、古くから伝わる伝統的な形態の利点を継承しながら、それを同時代の人々のために生かすデザインを求めたウェグナーの姿勢がうかがえます。
中国の圏椅がルーツのチャイニーズチェアです/ジェネリック製品・デザイナーズ家具のE-comfort
華も実もある孔雀の『ピーコックチェア』
イギリスの伝統的な椅子『ウィンザーチェア』を1947年にアレンジした作品。庶民生活に普及した一般的なウィンザーチェアは控えめなフォルムですが、ウェグナーの『ピーコックチェア』は、孔雀が羽を広げたような華麗さを際立たせています。命名したのは、彼の友人でもあったフィン・ユールとも伝えられています。寡黙で実直な印象の強いウェグナーの木製椅子の中で、数少ない「華」のある作品ですが、この華麗さは装飾的な効果を意図したものではなく、背もたれの快適さを追及した結果であることは重要です。視覚上の「美」と、リラックスできる「実」の、奇跡的な遭遇を形にした名作といえるでしょう。
究極の完成度をもつ、その名も『ザ・椅子』!
数あるウェグナーの名作椅子の中でも、あらゆる点で最高の完成度を誇る逸品といえば、1950年の作品『ザ・椅子』でしょう。安定したフォルム、バランスのよさ、座る人の快適さや、環境への適応性、そして非常にシンプルなモダンデザインでありながら、肘から背にかけての有機的なカーブに手仕事のあたたかさをも残しています。ここから何を引くことも、何を足すこともできない、研ぎ澄まされた美の到達点を見せられる作品。『ザ・椅子』という大胆な名前を付けたのはインテリアショップの役員オスカー・フィッシャーといわれていますが、まさに、他の何物にもたとえることができない、「椅子の極致」というべき椅子です。
職人のセンスが凝縮されたダイニングチェアの定番!『ND23 ダイニングチェア』
『ND23 ダイニングチェア』も、ダイニングで使用する軽快な椅子として、ウェグナーの中で最高峰に位置する傑作です。一見すると地味な印象の強いシンプルなダイニングチェアですが、脚の天地に微妙に太さの加減をほどこし、さらに背板に向かって上に行くほど細くしなやかになるように、まるで彫刻作品のような繊細さで設計されているのです。また側面にまで回りこむ座面のペーパーコードには独特な編み方が採用され、座る人に特別な気分をもたらしてくれるます。軽快なつくりの中に、デリケートなウェグナーの造形センスが凝縮されている名作。使うのがもったいないくらいですが、ダイニングで日常的に使ってこそ味わうことができるでしょう。
特徴的な座面を持つ北欧デザインのND23 ダイニングチェアです/ジェネリック製品・デザイナーズ家具のE-comfort
生涯500以上もの椅子をデザインした
多作家としても知られるウェグナーは、生涯の間に500以上もの椅子をデザインしたといわれています。ただしその500のうち、実際に製造ラインに入って量産された作品は100前後ともいわれています。したがって、いまだ見ぬウェグナー作品も多数存在するわけですが、リプロダクト製品やジェネリック家具として、今後わずかながらもウェグナーの「新作」を見ることもできるかもしれません。知的な気品に満ちたウェグナーの名作椅子たち。使えば使うほど味わい深く楽しめる家具です。
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この記事のライター
藝術文化系のコラム、論評の執筆を多くこなしてきました。VOKKAではインテリアなど、アートに関わる記事を中心に執筆しています。