レトロと未来が交錯するアイリーン・グレイの中性的なモダンデザインの家具4選
どこかクールなようで、温かみのある家具を生み出すアイリーン・グレイですが、近年、人気が出てきています。今回はそんなアイリーン・グレイの家具をご紹介します。
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近年人気の高まるアイリーン・グレイの家具
アイルランド生まれの女性デザイナー、アイリーン・グレイは、アール・デコ様式とモダニズム建築様式との微妙な過渡期にデビューした興味深いクリエイターです。彼女は、若い頃に在仏中の工芸家・菅原精造から漆工芸を学んでおり、彼女の造形は日本の美意識とも遠縁の関係にあるともいえます。ル・コルビジェらを中心としたモダニズム様式が全盛を極める少し手前で、かすかに装飾性を残した彼女の近代家具デザインは、近年リプロダクト製品となって人気が高まっています。
タイヤマンのような愛すべきビベンダムチェア
グレイが残したデザイン家具の数は多くはありませんが、その中で特に高い評価を得てきた代表作は、この「ビベンダムチェア」です。この「ビベンダム(Bibendum)」とは、タイヤメーカー「ミシュラン」の有名なキャラクターの名前です。その名の通りタイヤを積み重ねたようなふくよかでユーモラスなフォルムは人気を集めました。ル・コルビジェらが台頭する時代、装飾性を排除する方向に動いていたモダニズムデザインの潮流は理知的な男性の嗜好に沿ったものでしたが、一方ではグレイのような女性デザイナーの目線から提案された親密な家具も生まれていました。
最小限の部屋で最大限に豊かなデイベッド
ビベンダムチェアは、グレイが自宅で使うために設計した作品でしたが、いっぽう彼女の生涯の仕事でより重要なプロジェクトは、最小限の空間で最大限の快適生活をもたらすことを目指した「住宅モデルE.1027」のインテリア設計でした。このプロジェクトの中で設計されたデイベッドは、モダニズムの理念を先取りして提案された注目すべき特徴をそなえています。それは、住み手が空間の中でとる行為にあわせて自由に使うことができるようにニュートラルでフレキシブルなフォルムが意図されていたことでした。装飾的な要素を排除し、あらゆる使用者や環境に適応する抽象的なデザインが、グレイの手で実現されていたのです。
ライフスタイルにあわせて柔軟に使えるサイドテーブル
こちらも同じく「住宅モデルE.1027」のために設計された家具の中で、もうひとつ根強い人気を誇っているのがサイドテーブルです。ベッドのそばやソファの傍らで使われる上で、最も使いやすい機能をもつことに重点をおいて設計された斬新なアイテムでした。前面や側面に支持脚をもたないために椅子などの脚がじゃまにならず、天板を有用に活用できるからです。また高さの調整も可能なので、使用場所を特定せず、住む人のライフスタイルに応じて柔軟に使うことができます。天板と対照をなすベースのパイプ脚にアールデコ風の面影を見せますが、機能美を追求したその姿勢が現代においても好まれる所以でしょう。
反逆児のためのユニークなアームチェア
出典:www.timus.jp
1927年にデザインされたこのアームチェアは「非協調主義者」という風変わりな名前がつけられた作品です。風変わりなのは名前だけでなく、アームチェアでありながら肘着きが片方にしかなく、後脚の形状も左右が非対称になっているのです。実用家具としてみる限り不可解な作品というほかありませんが、ここには、機械生産時代の規範にしっかり従いつつも、画一的につくられる無機質な量産品の山にならない野性的な精神を主張しようとした彼女のアイロニーをみてとれます。「家具」という以上に前衛アート作品としても稀有なメッセージ性をもった作品。大きなものに巻かれることを嫌う風雲児は、ぜひ一脚もっていたい名作です。
温かみを感じる家具
普遍性を追求したモダニズムのデザイン家具の中で、アイリーン・グレイの作品が近年人気が高まっているのは、装飾性を意識的に排除したクールな家具と違い、どこかにアールデコ風の臭いが残っているからかも知れません。確かに現代のインテリアの中に置いても違和感を感じさせない新しさがある一方、かすかに残る人間味ある装飾性が、どこか懐かしさにも似た温かみを与えてくれるのです。100年近くも前の作品とは思えないアイリーン・グレイの家具たち。レトロと未来の入り混じった稀有なテイストを楽しんではいかがでしょうか。
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この記事のライター
藝術文化系のコラム、論評の執筆を多くこなしてきました。VOKKAではインテリアなど、アートに関わる記事を中心に執筆しています。