ユーモアと気品溢れるカスティリオーニのチェア3選
ユーモア溢れる家具を輩出するカスティリオーニ。家にも一つ置いて雰囲気を変えてみてはいかがでしょうか。今回はカスティリオーニの家具をご紹介します。
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強いメッセージ性のある家具
アッキレ・カスティリオーニは、兄のリビオ、ピエール・ジャコモらとともに1950年代以降のイタリアのデザイン界に新しい風をまき起こした寵児として世界的に知られています。そのデザインは、どこにでもあるかのごく普通の素材を用いて、過不足なく最小限度のシンプルな構造で造形されるところに特徴があります。カスティリオーニが手がけた作品は、過剰な装飾が多かった当時のデザインに一石を投じただけでなく、ユーモアと社会批評眼をも含み、単なる家具という領域を超えた強いメッセージ性をもって今日も生き続けています。
ささやかな至福「スリーク」
家具の商品ではありませんが、カスティリオーニの特徴が端的にあらわれている作品として「スリーク」は無視できません。ジャム(本来はマヨネーズ用)をビンからすくうとき、普通の丸いスプーンではうまく取れないものですが、このスプーンは片側が直線になっているため、ビンの中身を隅々まできれいにすくい取ることができるのです。世界的なキッチンアイテムメーカー「ALESSI」の製品として、カスティリオーニ兄弟が手がけた「技あり!」のデザインです。ここではデザインが過剰に自己主張するのではなく、生活をちょっとだけ便利になって私たちを笑顔にしてくれるものとして、ささやかに機能しているのです。
既製品から生まれた「メッザドロ」
カスティリオーニ兄弟の最初期の代表作として知られる斬新なデザインの椅子です。トラクターの座席を利用して、そこにステーを折り曲げて取り付けただけの、実に簡素な構造になっています。しかしこの簡素な構造ゆえに、座った人の足の動きを妨げないようにできているのです。座った状態で身体を楽に動かすことができるため、特に軽作業用の椅子として愛用されました。トラクターのシートといえば、夢のあるデザインとはむしろ対極にある労働の象徴ですが、そうした生々しい既製品をたくみにデザインに応用するカスティリオーニのユーモアが、すでにこの頃から花開いていたといえるでしょう。
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遊び心いっぱいの「セッラシート」
トラクターの椅子を使った斬新な「メッザドロ」のあとに、これを発展させる形で、アッキレとピエール・ジャコモがデザインしたユニークなシートです。いうまでもなく、こちらは自転車のサドルを応用した製品。足の設置部分は半球状態になっているため、座る人はフラフラ揺れるシートの上でバランスをとるという、遊び心いっぱいの椅子なのです。椅子としての機能性はともかく、既製品(レディメイド)をユーモアをもってまったく別の可能性をひらくカスティリオーニの造形センスがあふれた作品。設立間もなかったザノッタ社から発表された製品で、同社は現在もなおイタリアを代表するコンテンポラリー家具のブランドとして知られています。
1957年にアッキーレとピエールジャコモカスティリオーニによってデザインされたセッラシート。自転車のサドルの様なユニークなデザインは元々、アッキーレの別の作品である「Mezzadroトラクターシート」をベースにデザインされた。その遊び心に富んだデザインはスツールとしてはもちろん、ディスプレイ用のオブジェとしても使用できる程。
復刻された名作チェア「TRIC」
折りたたみ椅子といえば、現在の私たちの身近にたくさんありますが、カスティリオーニも1965年にこれを手がけています。そのデザインは、斬新さとユーモアあふれる初期のものとは異なり、無駄な要素を極限まで省きながらも、上品さと機能性を失わない究極のシンプルなフォルムでした。それが名作チェア「TRIC」です。オリジナル製品ではオーク材が使われましたが、イタリアの家具メーカーBBB社が2005年にポリカーボネートを材料にして復刻。より軽量な製品として生まれ変わりました。折りたたみ椅子でありながらすわり心地が緻密に計算され、折りたたんだ状態でもふくよかなカーブが気品を感じさせる美しいデザインです。
カスティリオーニ兄弟の手によってリデザインされたポリカーボネート製フォールディングチェア
卓越したユーモアセンス
カスティリオーニが手がけたデザインの仕事は幅広く、とくに卓上照明器具は近年人気が高まっています。しかしいずれの仕事にも、彼らの卓越した造形力とユーモアセンス、そして時には社会に対するアイロニーをにじませた批評眼が生きています。日常生活の中で、彼らの手がけたデザインを使うことで、毎日をポジティブな気持ちでいられるかもしれませんね。あるいは、ディスプレーとして楽しむことができるのも、カスティリオーニ製品の大きな特徴でもあります。
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この記事のライター
藝術文化系のコラム、論評の執筆を多くこなしてきました。VOKKAではインテリアなど、アートに関わる記事を中心に執筆しています。