夏だ!ゾンビだ!日本人が大好きな映画『○○オブ・ザ・デッド』必見作10選
世界でも日本でも、〈ゾンビもの〉がエンタメ作品の人気ジャンルであることは周知の事実。特に、『○○・オブ・ザ・デッド』という題名パターンは広く浸透しており、類似タイトルの作品が乱発されています。今回は、A級からZ級まで山ほどある作品群の中から、必見『○○・オブ・ザ・デッド』映画10作を厳選。これであなたもゾンビ映画通!?
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日本で増殖した『○○・オブ・ザ・デッド』作品の系譜
Wikipediaで“「オブ・ザ・デッド」で終わる作品の一覧”という項目があるほど、日本には、『○○・オブ・ザ・デッド』というタイトルの映画やドラマなどがあふれています。英語の“of the dead”は、「死者の〜」の意ですが、「〜オブ・ザ・デッド」と聞けば、なんのジャンルか瞬時に理解できるほど、「『オブ・ザ・デッド』=ゾンビ作品」という公式が、いつの間にやら我々の頭に刷り込まれています。
このきっかけとなったのが、下記でも紹介するジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968)。「ゆっくり歩く」「人肉を食らう」「食われると感染する」「頭部を破壊しない限り蘇る」というゾンビの定義は、この映画で確立しました。さらに、ロメロ監督のリビングデッド2作目『ゾンビ』(原題:Dawn of the Dead)(78)の世界的ヒットが、ゾンビの圧倒的な存在感の決定打となりました。
とはいえ、『ゾンビ』や同監督のリビングデッド3作目『死霊のえじき』(原題:Day of the Dead)(85)、『バタリアン』(原題:Return of the Living Dead)(85)などを見てもわかるように、80〜90年代のゾンビ映画ブームの中でも、邦題に「オブ・ザ・デッド」もしくは「オブ・ザ・リビングデッド」とつく作品は数えるほどしかありません。2000年代に入り、『28日後…』(2002)や『バイオ・ハザード』(02)で、ゾンビ映画が再び勢いづき、『ランド・オブ・ザ・デッド』(05)、『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』(08)、『サバイバル・オブ・ザ・デッド』(09)とロメロ作品が立て続けに公開され、日本での『オブ・ザ・デッド』作品も増殖の一途をたどります。原題に「of the Dead」はつかないのに、とりあえず邦題に「オブ・ザ・デッド」をつけておこう的な安易な「オブ・ザ・デッド」化も増えました。そのせいか駄作も多く、「オブ・ザ・デッド」系には、どうしてもB〜Z級臭がついてまわるのも事実。そこでここでは、邦題タイトルに偽りなしの必見『○○・オブ・ザ・デッド』映画10作をご紹介します。
ナイト・オブ・ザ・リビングデッド
『○○・オブ・ザ・デッド』映画の原点にして古典的芸術品
本作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』以前にも、ゾンビ映画は存在していましたが、上記の通り、現在、人類を恐怖に陥れるゾンビの基本は、この作品から始まりました。とはいえ、ジョージ・A・ロメロ監督は、当時ゾンビ映画を作っているつもりではなかったそうです。本作中に「ゾンビ」という言葉は一度も出てきません。ノロノロと歩み寄り、人間を襲って肉を食らう連中は、本編では「リビングデッド(生ける屍)」と称され、監督本人も「グール(ghoul)」などと呼んでいたと語っています。この作品を“ゾンビ映画”と呼び始めたのはマスコミで、それが定着してしまい、今では「ゾンビ映画の金字塔」とされている映画です。
当時の技術は、現在のものとは比べものにならず、リビングデッドもそれほどグロテスクなメイクなどは施されていません。しかもモノクロ作品なので、血糊などの残酷描写は極めてマイルド。60年代ではタブーだったテーマに挑んで極限状態の人間をリアルに描き、非情なラストは賛否両論を呼びましたが、今では、芸術作品としてニューヨーク近代美術館に所蔵されている古典的カルト作品です。
『ゾンビ』(Dawn of the Dead)、『死霊のえじき』(Day of the Dead)と併せ、ロメロ監督の“ゾンビ三部作”があったおかげで、『○○・オブ・ザ・デッド』映画はゾンビ映画の定番タイトルとなりました。
『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年・アメリカ)
監督:ジョージ・A・ロメロ
出演:デュアン・ジョーンズ、ジュディス・オーディア
あらすじ:父親の墓参り先で、奇妙な男に襲われたジョニーとバーバラの兄妹。目は虚ろで、動作もぎこちなかった男だが、その力は強く、執拗にジョニーに噛みついたのだった。恐怖のあまり、兄を墓地に残して無我夢中で逃げたバーバラは、ある一軒の民家にたどり着く。そこには、ベンという黒人男性をはじめ、複数の人間が逃げ込んでくるが、安堵したのも束の間、家はたちまち“連中”に取り囲まれてしまう。外に逃げるべきか、家に留まるべきか。時間の経過とともに状況がどんどん悪化する中、彼らは究極の選択を迫られることになる。
『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の英語版トレーラー集。制作されてから50年近く経つというのに、最近のゾンビ映画より恐ろしく感じる予告編。ナレーションの「ナイト……オブ・ザ・リビングデッド」と、「ナイト」で数拍ためる言い方すら怖い
米国では著作権がパブリックドメインと見なされおり、wikipediaでは、全編を鑑賞することが可能(ただし英語版のみで英語字幕付き)
ナイト・オブ・ザ・リビングデッド/死霊創世記
人間もゾンビもパワーアップした『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』リメイク版
ゾンビ映画の原点の正式リメイク版。『ゾンビ』や『死霊のえじき』など、数多くのホラームービーで特殊メイクを担当し、『ゾンビ』では俳優として出演もしたトム・サヴィーニが、この『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド/死霊創世記』を監督。オリジナル版の脚本を、1990年の時代に合わせて脚色したのは、ジョージ・A・ロメロ。基本的に話の筋は同じなのですが、オリジナルで“泣きわめいて、怯える弱い女”だったバーバラが、強い女性として描かれ、勇猛果敢にゾンビに立ち向かいます。ゾンビの家宅侵入率も大幅アップし、心拍数上昇率もそれに比例します。黒人青年ベンと自己中心中年オヤジのハリーのいがみ合いも相当激化。ゾンビの造形も恐ろしさを増し、白目ゾンビのインパクトはかなり強烈です。オリジナルでも、極限状態に追い込まれた人間の異常な心理が浮き彫りにされていましたが、こちらでは、さらに人間の醜悪さが露呈されています。
『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド/死霊創世記』(1990年・アメリカ)
監督:トム・サヴィーニ
出演:トニー・トッド、パトリシア・トルーマン
あらすじ:母親の墓参りに訪れたジョニーとバーバラの兄妹。穏やかな晴れの日の墓地で、突如現われたゾンビにジョニーが襲われる。間一髪、ある一軒家に逃げ込むことができたバーバラだったが、家の中でもゾンビに遭遇。それでも彼女は、黒人青年ベンと協力してピンチを切り抜けるのだった。その後、幼い娘を連れた夫婦や、若いカップルも民家に避難してきて、彼らは迫り来るゾンビ相手にサバイバルを繰り広げていくが……(オリジナル版と大筋は同じだが、細かい設定とラストが異なる)。
リメイクの英語版予告編。オリジナルと見比べるのも面白い
ドーン・オブ・ザ・デッド
2000年代の走るゾンビ像を牽引した『ゾンビ』の正統派リメイク
かつてのゾンビ映画では、「あー」とか「うー」とか唸り声を上げて近づいてくるゾンビに気づいても、連中の歩みは鈍く、まだ人間に逃げる余地はありました。ところが2000年代に入り、ゾンビは走り出したではありませんか!棺の中で肉体が朽ちた状態で蘇った輩なら無理でしょうが、“噛まれて感染したら潜伏期間なしで、即ゾンビ化”という設定も増えたため、ピチピチの健康体ゾンビがどんどん増える構図ができ上がったせいかもしれません。ロメロ監督作『ゾンビ』のリメイクとされる、2004年の『ドーン・オブ・ザ・デッド』は、まさにその先駆け。『ナイトメア・シティ』(80)や『バタリアン』といった80年代の作品で、すでに走るゾンビは登場していたのですが、「ゾンビはゆっくり歩く」という設定の方が好まれたためか、この『ドーン・オブ・ザ・デッド』まで、ゾンビの疾走ぶりが注目されることはありませんでした。
やがて時代は変化し、コンピュータや携帯電話などが登場してあらゆるものが高速化。インターネットでなんでもサクサクと見られるのが当たり前の世代にとって、「あ〜……う〜……」とうめき声が聞こえてから、間近に到達するのに何分もかかる牛歩のゾンビに対する恐怖は薄れかかっていました(ゾンビそのものも当たり前になり、目新しさはなくなっていましたし)。そんなゾンビ倦怠期に公開された本作は、「どうせ、ゾンビ映画なんてB級以下ばっかり」と同ジャンルを見下していた観客に「ゾンビを舐めんなよ!」とゾンビが逆襲に打って出たような衝撃を与えたものです。ヒビが入ったダムが決壊するかのごとく、本作以来、ゾンビは堰を切って走り出し、『28日後…』、『REC/レック』(07)、『ゾンビランド』(09)、『ワールド・ウォーZ』(13)と、全力疾走ゾンビもスタイルのひとつとなりました。
本作『ドーン・オブ・ザ・デッド』は、『300〈スリー・ハンドレッド〉』(07)や『ウォッチメン』(09)も手がけたこだわりのビジュアル派監督ザック・シュナイダーの作品で、オスカー候補にもなった女優サラ・ポーリーが主演するなど、低俗ゾンビ映画とは一線を画すメンバーが顔を揃えている作品です。
『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004年・アメリカ)
監督:ザック・シュナイダー
出演:サラ・ポーリー、ヴィング・レイムス
あらすじ:夫のルイスと平凡だが幸せな生活を送っていた看護師のアナ。ある朝、隣家に住む少女ヴィヴィアンが顔にひどい傷を負って寝室の前に佇んでいた。驚いたルイスが慌てて駆け寄ると、ヴィヴィアンは彼の首筋を噛みちぎって殺してしまう。目の前の惨事に呆然とするアナだったが、奇妙なことに、絶命したはずのルイスが立ち上がり、ものすごい形相で襲いかかってきた。辛くも逃げ出せたアナは、街が壊滅状態になっている恐ろしい現実を知る。そして、途中で出会った人々とショッピングモールへと逃げ込むのだが…。
予告編も疾走感にあふれ、心臓がバクバク!
ショーン・オブ・ザ・デッド
単なるパロディ映画ではない英国発『ゾンビ』コメディ
ゾンビ映画にコメディ要素を投入するのは、ややもすると悪趣味になりがちですが、1978年『ゾンビ』のパロディ『ショーン・オブ・ザ・デッド』は、ロメロ監督も絶賛、タランティーノ監督も傑作の太鼓判を押し、国内外の〈見るべきゾンビ映画ランキング〉の常連になっている、ゾンビ映画史に残る秀作コメディです。多くの映画ファンに支持されている理由は、1)登場人物の徹底的なダメっぷり(もはやゾンビ以下)、2)ゾンビ、スプラッタ描写は手抜きなし(これは重要)、3)きちんとドキドキ、ハラハラさせてくれる(これも重要)、4)ここぞの緊迫シーンで脱力系ユーモアをかましまくる(そのせいで怖いシーンが際立つ結果に)、5)作り手のゾンビ愛が随所にあふれている(小ネタにニヤニヤが止まらない)、5)シリアスな展開と泣き笑いのバランスが絶妙(つまり、脚本が素晴らしい)、6)映画通を唸らせる演出やカット割り(特にクイーンの音楽をバックに戦うシーン!)などでしょうか。
これだけ多くの映画ファンに支持される本作は、残念ながら日本未公開でした。それでも、しっかりと人々の心を掴んで離しません。何年経っても、何度見返しても面白いのですから。本作の監督エドガー・ライト、脚本と主演を務めたサイモン・ペグは本作がきっかけで大ブレイクし、ハリウッドの第一線でも活躍中。本作の成功で、ゾンビコメディにも注目が集まり、『ゾンビーノ』(06)、『ゾンビランド』、『ウォーム・ボディーズ』(13)といったヒット作も生まれています。アイロニーあふれるブリティッシュ・ユーモアが満載の本作は、笑いで怖さが軽減されるので、ゾンビ映画初心者の方、ゾンビ系が苦手な方にもオススメの一作です。
『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004年・イギリス)
監督:エドガー・ライト
出演:サイモン・ペッグ、ニック・フロスト
あらすじ:ロンドンで暮らす冴えない男ショーンは、仕事に対しても恋人に対してもいい加減で、毎日パブ通いばかり。とうとう付き合って3年になる彼女に愛想を尽かされてしまい、このままではダメだと奮起するものの、彼は周囲の異様な雰囲気に気づいて愕然とする。なんと知らぬ間に、街はゾンビであふれていたのだ。これは一大事だと、母親と元カノを助けに向かうショーン。彼は行きつけのパブなら安全だと安易な判断をするが、案の定、避難先のパブもゾンビの大群に取り囲まれてしまうのだった。
世界中から愛される『ショーン・オブ・ザ・デッド』は、予告編も秀逸
ランド・オブ・ザ・デッド
やはり元祖は別格!20年ぶりのロメロ監督の社会派ゾンビ映画
『死霊のえじき』から20年、2005年にジョージ・A・ロメロが久しぶりにメガホンをとったゾンビ映画『ランド・オブ・ザ・デッド』は、氾濫する粗悪なゾンビ作品に辟易していた映画ファンを「さすが元祖は違う!」と歓喜させた逸品。ゾンビホラーでありながらも、その時代の社会問題を浮き彫りにするロメロ監督作は、根底に「やっぱり一番下衆なのは人間」という思いが流れています。ゾンビがあふれる世の中で生き残った人間は富裕層と貧困層に二極化。ほんのひと握り権力者がその他大勢の弱者から金を搾取し、支配する様子は、まさに現代の縮図だと言えるでしょう。
また、本作の特徴は、ゾンビが意思を持っており、怒りを覚え、銃を使うということ。それでも、走らない派のロメロ・ゾンビは、ゆっくりと不気味な動きで人間に迫ってきます。傲慢な人間たちの横暴な振る舞いを見ていると、ついゾンビに肩入れしたくなるのも、ロメロの演出力のなせる技。人間やゾンビを何かに置き換えると、世界が抱える問題が透けて見えてくるのです。とはいえ、決して堅苦しい内容ではなく、あくまでも純粋にゾンビホラーとしても楽しめます。
『ランド・オブ・ザ・デッド』(2005年・アメリカ)
監督:ジョージ・A・ロメロ
出演:サイモン・ベイカー、デニス・ホッパー
あらすじ:ゾンビが蔓延する世の中で、生き残った人々は川に囲まれた島に防護フェンスを作り、街を築いて暮らしていた。街はカウフマンという権力者に支配され、金持ちは高層ビルでゾンビ発生前と同じ豊かな生活を送り、貧しい人々はスラム街で苦しい日々を余儀なくされていた。貧困層には、富裕層のために物資を調達する部隊があり、彼らは高層ビルに住む日を夢見ながら仕事に勤しんでいたのだが、中には、全く報われないことにうんざりし、カウフマンへの不満を募らせる者もいた。そんなある日、人間たちの余興でゲームの的として殺される仲間を見て、ゾンビたちは怒り狂い、街への襲撃を始めるのだった。
怒りの感情を持ち、互いにコミュニケーションをとり、銃を使う“進化系”ゾンビが本作の特徴(ただし、走らない)
インド・オブ・ザ・デッド
グローバル化でインドにもゾンビが押し寄せてきた!?
言わずと知れた映画大国インド。年間1000本以上の映画が作られ、ハリウッドならぬボリウッド(インド映画の本拠地ムンバイの旧称ボンベイの「ボ」と「ハリウッド」の掛け合わせ!)と呼ばれています。かつて『ムトゥ 踊るマハラジャ』(95)が日本でも大ヒットしたのを記憶している方もいるでしょう。『ムトゥ〜』をきっかけにマサラムービー(インド国内で制作される映画のこと)は日本でも認知されるようになり、その後も毎年日本に上陸し続けています。
そんな中、満を持して誕生した本格マサラゾンビコメディが、本作『インド・オブ・ザ・デッド』です。しっかりゾンビゾンビしてくれて、ゴアシーンも満載ですが、コメディ要素もたっぷり。主人公は人生につまずいた2人の青年とその友人。3バカトリオがビーチリゾートへGO!というところから、この映画は始まります。そして、そこで蔓延するのが、もちろんゾンビ。彼らに加え、インドの美女とどう見てもインド人のロシアン・マフィアも絡んで、事態は怒涛の展開へ。アクションもロマンスも笑いも恐怖もてんこ盛りの一作に仕上がっています。
この映画、キャッチコピーが「きっと、うまくいかねぇ!」。そこに日本配給側のインド映画愛を感じ、ニヤリとしてしまいます。映画通の方ならおわかりでしょうが、2009年のインド映画『きっと、うまくいく』のタイトルをもじったものだからです(『きっと、うまくいく』も3バカトリオのロードームービーで、世界各国の映画賞を受賞したハートウォーミングコメディ。筆者的には人生ベスト20映画に入る傑作なので、こちらもかなりオススメ!)。彼らのサバイバル大作戦がうまくいったのか、いかなかったのかは、ぜひ本編で確認してください。
『インド・オブ・ザ・デッド』(2013年・インド)
監督:ラージ・ニディモール、クリシュナDK
出演:サイフ・アリー・カーン、クナール・ケームー
あらすじ:失業したハルディクと失恋したラヴ。人生に行き詰まった2人の青年は、居候先の家主で仕事人間のバニーの出張に便乗し、「ヒッピーの聖地」と言われるビーチリゾート、ゴアへ向かう。彼らはロシアン・マフィア主催のレイヴパーティに潜り込むが、そこで披露された新型ドラッグが原因で、摂取した者は皆ゾンビになってしまう。金がなくて入手できなかった3人は無事だったものの、島はゾンビであふれ、阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。ハルディクたちは、パーティに誘ってくれた美女ルナ、パーティを主催したボリスと合流し、ホラー映画とテレビゲームで培ったペラッペラな知識だけを頼りにゾンビに立ち向かおうとするのだった。
音楽もイケてる『インド・オブ・ザ・デッド』は、インド初のゾンビ映画にして、インド初のゾンビコメディ
ゾンビ革命 -フアン・オブ・ザ・デッド-
革命か?反体制派か?いや、ゾンビだ!キューバ史上初のゾンビコメディ
キューバ、おまえもか!と叫びたくなるほど、ゾンビのグローバル化の波は、いや、ゾンビウィルスのパンデミックは確実に進んでいます。インドの1年前に、ゾンビが上陸していたのはキューバ。『ゾンビ革命 -フアン・オブ・ザ・デッド-』は、キューバがアメリカと国交を回復する2年前の2012年の作品で、キューバ史上初のゾンビ作品と言われています。街でゾンビによる襲撃が始まっても、キューバ国民は、また反体制派による革命?と考えてしまう辺りが、お国柄を反映。そんな社会情勢に対するブラックユーモアが盛り込まれた本作は、実はかなりノリノリで下ネタも大量投入されたお気楽ゾンビコメディです。愛する人がゾンビになっても殺せないでいる人のために、主人公のフアンは、ゾンビを代わりに殺すビジネスを発案。ひゃっはー!ゾンビが増えば増えるほど、儲かるぞ!と意気込んだのはいいのですが、アホすぎる仲間はミスを連発し、ゾンビの増殖スピードは想像以上で、事態は思わぬ方向へ。
アクションシーンは痛快(セックス・ピストルズの「マイウェイ」をBGMにゾンビを一網打尽にするシーンは秀逸!)で、スプラッタ描写もいい仕事ぶりなのですが、イラつくほどの登場人物のアホさ加減に恐怖は相殺され、軽いノリで鑑賞できる作品となっています。それでも、ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭銀カラス賞をはじめ、数々の名誉に輝いた実績を持っていますから、最後まで侮れません。
『ゾンビ革命 -フアン・オブ・ザ・デッド-』(2012年・スペイン/キューバ)
監督:アレハンドロ・ブルゲス
出演:アレクシス・ディアス・デ・ビジェガス、ホルヘ・モリーナ
あらすじ:40歳になっても定職につかないダメ親父フアンは、親友のラサロと怠惰な毎日を過ごしていた。ある日、キューバの首都バハマで、突如凶暴化した人々による襲撃事件が頻発。マスコミは新たな反体制勢力が蜂起したとの見方をしていたのだが、次第にフアンとラサロはそれがゾンビであることに気づいていく。街は瞬く間にカオス状態に陥るものの、脳天気なフアンは、ゾンビを殺したくても殺せない人のための「ゾンビ殺戮代行サービス」でひと儲けしようと目論む。ところが、殺しても殺してもゾンビ感染者は後を絶たず、彼らはキューバ島からの脱出を迫られることに。
カリブの青い空、青い海、陽気な音楽にゾンビというミスマッチさがいい
ワイルド・オブ・ザ・デッド
『サウスパーク』の脚本家が贈るノンストップ西部劇ゾンビコメディ
「『○○・オブ・ザ・デッド』なのに面白かった!」「ウェスタン×ゾンビ作品の掘り出し物!」という声があちらこちらで発せられていますが、それはこの『ワイルド・オブ・ザ・デッド』に対する賞賛です。『○○・オブ・ザ・デッド』映画の凋落ぶり、ウェスタンゾンビ作品の不出来具合いに落胆させられまくった映画ファンが、同ジャンルの救世主と目を輝かせたのが、本作でした。
特徴的なのが、ゾンビは生前の人間のキャラを失ってしないという点。なので、おバカキャラが集まった本作では、ゾンビになっても人間だったときと同様のおバカぶりを発揮するのです。それなりに皆キャラが立っているので、愉快でしょうがありません。しかも、ゾンビ化の原因は、ネイティブアメリカンの白人に対する“呪い”で、噛まれると傷口から呪いが体内に侵入し、ゾンビになってしまうという斬新な設定。そのせいなのか、頭を撃たれただけでは退治できず、首を斬り落とす必要があるので、対処する方もひと苦労。グロテクスな描写も、ここぞというときには徹底しています。
ゆるい系のほのぼのコメディ映画かと思いきや、最後で、「『サウスパーク』の脚本家が監督しただけあるわ」と思い知らされます。ラストの展開には賛否あるようですが、その結末の詳細は、是非ご自身でお確かめください。
『ワイルド・オブ・ザ・デッド』(2007年・アメリカ)
監督:グラスゴウ・フィリップス
出演:ジェームズ・デントン、クリス・カッタン
あらすじ:カウボーイのルークと脱走兵のエルマーは悪徳保安官の金を奪って逃走するが、アパッチの女戦士スーに捕らえられてしまう。保安官たちがルークとエルマーの捜索を続けていたその頃、虐殺されたアパッチ族のジェロニモが絶命の間際にかけた呪いのせいで、白人たちが次々とゾンビになっていた。保安官たちにも呪いは広がり、ゾンビ化してもなおルークたちを追跡。町は壊滅状態となり、ゾンビは増え続け、ルークたちの行く手には絶望しかないように思えた。果たして、彼らに救いはあるのだろうか?
予告編の心地よいゆるさは本編同様。笑いが満載のゾンビウェスタン
ハーモニー・オブ・ザ・デッド
ゾンビものには珍しい氷に閉ざされた街が舞台。“あれ”から9年後を描き出す
ゾンビの襲撃によって世の中が壊滅状態になった“ゾンビアポカリプス”から9年が経過。雪と氷に閉ざされた白一色の街ハーモニーで、唯一生き残ったジャックとその娘ルー、さらに謎めいた隣人パトリックの3人が暮らしているという設定の本作は、増殖するゾンビからの決死のサバイバル劇よりも、サバイバル後の3人に焦点を当てた人間ドラマです。本作でのゾンビは、極寒の環境に適応して目は退化したものの、耳が発達。爪と牙が伸びてより俊敏に動けるようになっており、ゾンビアポカリプス時点で赤ん坊だったルーは、ゾンビの真の恐怖を知らないで育っています。それが、ある事件のきっかけに──。
冒頭とクライマックスに緊迫のアクション&ホラーシーンがぐっと濃縮され、中盤は、すっかり仲違いをしてしまったジャックとパトリックの過去を含めた人間ドラマが丁寧に描かれていきます。ヨーロッパ映画ならではの、ド派手な映像だけに頼らず、数少ない俳優たちの演技力にものを言わせた異色作。ゾンビパニックが背景にありますが、父娘の愛のあり方など、深く考えさせられる内容です。
原題は『Extinction(絶滅)』。邦題の『オブ・ザ・デッド』のせいで「どうせB級ゾンビホラーでしょ」と残念な勘違いをされ、見向きもされていない可能性が高い、もったいない作品です。
『ハーモニー・オブ・ザ・デッド』(2015年・スペイン/ハンガリー)
監督:ミゲル・アンヘル・ビバス
出演:マシュー・フォックス、ジェフリー・ドノバン
あらすじ:ゾンビアポカリプスから9年後、雪深い街ハーモニーには、中年男性ジャックが9歳の娘ルーと息を潜めて暮らしていた。街の住人は他に、ほとんど行き来しない隣人パトリックだけ。ジャックとパトリックの確執は、9年前のある出来事が原因となっていた。ある日、高いフェンスと過酷な極寒の気候が進化したゾンビの脅威から守ってくれているこの街に、見知らぬ女性がひょっこり姿を現わし、全てが大きく変わり始めていく。
物語の中盤が静かな展開であることが、ラストの緊張感を増幅
コリン LOVE OF THE DEAD
ゾンビに感情移入できる!ハリウッドが失った“何か”を持つ制作費約6000円の佳作
制作費わずか45ポンド(日本円にしておよそ6000円)の超低予算のイギリス映画ですが、カンヌ国際映画祭をはじめ、各国の映画祭で賞賛を浴び、日本では劇場公開までされた注目作。監督、製作、脚本、編集、撮影をひとりでやってのけたマーク・プライスは、本来は0円で作りたかったとのこと。Facebookを利用してボランティアのスタッフやエキストラを集めた、言わば、非常にチープな自主映画なのですが、決して「所詮、安かろう悪かろうでしょ」と吐き捨ててしまえるようなチープな仕上がりの作品ではありません。撮影にお金をかけていない分、安上がりな映像になっているのは仕方ないのですが、そのチープさを逆手にとった演出がこれまた素晴らしい!家庭用手持ちビデオカメラの手ぶれ具合と閉塞感が、観る者の恐怖を巧みに煽ります。また、運良く特殊メイクスタッフに腕の良い経験者がいたため、ゾンビの造形などもゴアシーンも、そこそこ劇場公開に見合うレベルになっています。
しかし、本作がすごいのはビジュアル面ではなく、物語開始15分でゾンビとなってしまった主人公コリンの描写です。人間の心や感情を残したままゾンビ化した主人公の映画は過去にもありましたが、コリンは、人間味をほとんど失ってしまうロメロゾンビ状態。それでも、わずかに残った人間の本能が、コリンをある場所に向かわせ、延々と歩かせます。今まで観客は、ゾンビに襲われて恐怖を味わう人間の立場になって映画を観ることが多かったわけですが、今回は主人公の視点が180度ぐるりと変わり、それに伴い、観客の物の見方も転換します。主人公がゾンビになるわけですから、ゾンビ自体はもはや怖い存在ではなくなり、逆に、ゾンビ狩りの対象になるんじゃないかと人間を恐れる立場に回るのです。そして、コリンをなんとか正気に戻そうとする彼の家族の虚しい努力に胸を痛め、時折無垢な赤子のように行動するコリンに癒され、彼の孤独さが胸に突き刺さる辛い場面では涙がこぼれそうになります。そう、これはゾンビに感情移入する映画。しかも、セリフらしいセリフも存在せず、ほとんど感情のないゾンビに我々が感情を揺さぶられるという巧妙な演出が光る稀有な良作なのです。
『コリン LOVE OF THE DEAD』(2008年・イギリス)
監督:マーク・プライス
出演:アラステア・カートン、デイジー・エイトケンス
あらすじ:世界中で蘇った死者たちが人々を襲い始め、ロンドンの街もパニックと化していた。危機的な状況下、青年コリンもゾンビとなってしまう。次第に遠のいていく朦朧とした意識の中、彼はある場所にどうしても行かなければならないという衝動に駆られる。ゾンビとなり、思うように動かなくなった身体を引きずるようにして、彼は壊滅した街を歩き続けるのだった。途中、姉や母と再会し、家族はコリンを正気に戻そうとするも、一度ゾンビとなった者が人間に戻ることはない。果たして、彼がゾンビになっても行きたかった場所とは──。
残念なことに、日本版予告編は宣伝文句で激しくネタバレしているので、英語版の予告編をどうぞ
留まるところを知らない玉石混淆『○○・オブ・ザ・デッド』の世界
ゾンビ映画の制作が続く限り、『○○・オブ・ザ・デッド』作品も誕生し続けることでしょう。今回は洋画のみの紹介となりましたが、もちろん邦画にも、『ニート・オブ・ザ・デッド』(15)や『新撰組・オブ・ザ・デッド』(15)があり、『オブ・ザ・デッド』の汎用性の高さが改めてわかります。
さて、本家本元のロメロ監督は、ゾンビ映画の新作『ロード・オブ・ザ・デッド』を準備しており、脚本を担当するそうです。なんでも、生き残った人間の富裕層が、余興としてゾンビたちにカーレースをさせるという内容で、『マッドマックス2』(81)×『ローラーボール』(75)×NASCAR(米のストックカーレース)的なものになるとか。あの『ベン・ハー』(59)にもインスパイアされているそうで、ついにゾンビは車も運転することになりそうです。歩みが鈍くても猛スピードで車を走らせられるのであれば、一層危険な存在になることは約束されたようなもの。公開日などの詳細は未発表なので、続報が楽しみです。
○○に入る言葉の数だけ、『○○・オブ・ザ・デッド』作品は可能なわけですから、今後も観客を震撼させ、歓喜させてくれる良質の作品がどんどん生まれることを願ってやみません。
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この記事のライター
数々のミステリー、アクション小説、伝記本、映画雑誌のインタビュー記事、人気ゲーム関連の邦訳を手がけるキャリア20年の翻訳家。小学2年で読書の悦びに目覚めた本の虫で、読書と翻訳作業で培った知識は、映画、海外ドラマのショウビズ関係はもとより、生物学、医学から欧米の文化、政治、歴史、犯罪、銃器、ミリタリーなど広範囲に及ぶ。日々の生活で「一日一善、一日一爆笑、一日一感動」を心がけ、読者を笑顔にし、読み手の胸に染み入る文章を目指す。米国フロリダ州オーランド在住で、映画、海外ドラマ、アメリカンカルチャーなどの旬な情報も随時発信。