【夜の切り札】芸術と文学が愛した破滅の酒・アブサン

知識は酒を美味しくします。目の前の一本、その一杯の香味の後ろに広がるストーリーに思いを馳せ、語ることができたら。知識は夜の切り札。立ち寄ったバーでアブサンを片手に芸術と文学を語れる人生と語れない人生、格好いいオトナはきっと前者です。

henomochinヨウスケ@外資系経営コンサル
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治療薬として誕生したアブサン

出典:devilishdesign.net

アブサンとは、ヨーロッパ各国で作られている薬草系リキュールの一つです。ニガヨモギを中心とした複数のハーブ、スパイスが配合されています。
アルコール度数は40〜80%前後と種類によるものの、平均して70%とかなり強いです。
誕生の切っ掛けについては下記の経緯があったようです。

ニガヨモギはヨーロッパでは道端などに野生している植物で、普通のヨモギと比較すると写真(上)のように違いがわかります。ニガヨモギを指で揉むとヨモギとはまた違った独特な香りが発せられます。また味は名前のとおり強い苦味を持っています。この苦味は切れ味が良く爽やかな苦味と評価されています。

11世紀のアラビアの医学者・哲学者のアウィケンナはこれに食欲増進作用があるといい、また14世紀イタリアのサレルノの医学校では、船酔いに効果があると教えていました。その後リウマチ、ペスト、コレラ、扁桃腺炎、中耳炎、虫歯などに効果があるとされ、また駆虫薬として用いられたり、衣類の防虫薬としても用いられてきました。その効果の真偽はともかくとして、各時代を通じてさまざまな病気に用いられてきました。

18世紀になってフランスのある医師がニガヨモギを原料とし、蒸留を応用したアブサンの処方を考案しました。当時フランス軍はこれを解熱薬として採用していましたが、連用すると幻覚・錯乱が生じるとされ、その後製造・販売が禁止になりました。当時の芸術家はこのアブサンを愛用し、ゴッホはカフェで出されたアブサンを美しい色彩で描いています。またフランスの画家アルベール・メニャンは『緑色のミューズ』でアブサンの魔力に侵されているイメージを絵にあらわしています。

アブサンのこのような中枢神経に及ぼす作用はツヨン(Thujone)という成分といわれ、強い神経毒性、麻痺性、昏睡、痙攣等の作用を発現することがわかっています。WHOはツヨンの残存量を0.5μg/gであれば承認するとしたことから、一度禁止されていたアブサンの製造も復活しました。

出典:www.yomeishu.co.jp

出典:www.yomeishu.co.jp

アルベール・メニャン『緑色のミューズ』
(Albert MAIGNAN, La muse verte)

魅せられた人間を破滅に導いた魔力

アブサンは安価なアルコールだったために多数の中毒者・犯罪者を出したことでも知られています。アブサン中毒で身を滅ぼした有名人としては、詩人ヴェルレーヌや画家トゥールーズ=ロートレック、ゴッホがいるようです。

アブサン中毒説
ゴッホはアントウェルペンないしパリ時代からアブサンを多飲していたが、アブサンには原料のニガヨモギに含まれるツジョンという有毒成分があり、振戦せん妄、癲癇性痙攣、幻聴を主症状とするアルコール中毒を引き起こす。サン=レミの精神病院に入院中、ゴッホが絵具のチューブの中身を飲み込んだことがあるが、これは絵具の溶剤であるテレビン油がツジョンと性質が似ているためであるという意見も発表されている。しかしこれを「耳切り事件」のような行動と結びつけるには難点もある。

出典:ja.wikipedia.org

アブサンなどの長年の飲酒により体を壊した上、梅毒も患ってトゥールーズ=ロートレックは次第に衰弱していった。家族によってサナトリウムに短期間、強制入院させられた後、友人らと旅行に出た後の1901年8月20日にパリを引き払って母親のもとへ行き、同年9月9日、ジロンド県のサンアンドレ=ドゥ=ボワ近郊にある母親の邸宅、マルロメ城で両親に看取られ脳出血で死去した。最期の言葉は彼が障害を持つようになってから、彼を蔑み、金品は与えたが彼の描く絵を決して認めなかった父親に対して発した「Le vieux con!(馬鹿な年寄りめ!という意)」だった[2]。36歳没。城の近くのヴェルドレに埋葬された[1]。

出典:ja.wikipedia.org

また作家の太宰治も「人間失格」において、喪失感の比喩としてアブサンを用いています。

「飲み残した一杯のアブサン。自分は、その永遠に償い難いような喪失感を、こっそりそう形容していました。絵の話が出ると、自分の眼前に、その飲み残した一杯のアブサンがちらついて来て、ああ、あの絵をこのひとに見せてやりたい、そうして、自分の画才を信じさせたい、という焦燥にもだえるのでした」

出典:www.aozora.gr.jp

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ヨウスケ@外資系経営コンサルヨウスケ@外資系経営コンサル

現在はツヨンの残存料を変えることでWHOの承認が降りたため、アブサンはいつでも飲めるようになっています。ただ、こうしたストーリーが一杯の後ろに広がっていることは、このお酒とその一夜をより深く楽しむことに繋がるでしょう。

クラシックスタイルは角砂糖に染み込ませて火を点す

出典:devilishdesign.net

アブサンファイアー

出典:devilishdesign.net

アブサンとアブサンスプーン

アブサンはそのまま飲むことも可能ですが、度数が高いため薄めて飲んだり、カクテル材料として使われることもあります。
薄めて飲む場合にはクラシックスタイルとして角砂糖に染み込ませる方法が有名です。
飲み方は以下の通りです。
①グラスに氷を入れる(アブサングラスという専用グラスもある)
②グラスの上にアブサンスプーンを置きその上に角砂糖を乗せる。
③アブサンを角砂糖の上に垂らすように注いで染み込ませる。
④角砂糖に火を付け、砂糖が泡立つまで待つ。
⑤砂糖の上からにミネラルウォーターを注いで消火し、アブサンスプーンでよく混ぜる。

こうした特徴的な楽しみ方があるのもアブサンの魅力の一つと言えるでしょう。

さて、貴方が次に行くバーで、隣に座る人に「アブサンの魔力を知っている」という知的さを醸し出すことはできそうでしょうか。貴方の夜がオトナ格好いい時間にならんことを。

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この記事のライター

ヨウスケ@外資系経営コンサル

慶應大学卒業→大手証券会社→外資系コンサルティングファーム。表参道に在住し「日常をドラマに」することに腐心し人生の上質化を目指す日々。酒を飲むこと、酒を飲むように本を読むことが好き。目を離せばすぐに眠りこもうとする遊び心をジャズとビールで蹴飛ばしながら、今日も都心で生きてます。

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斉藤情報事務

信州の曲者が集まるCLUB Autistaに所属する道楽者。車と酒と湯を愛し、ひと時を執筆に捧げる。

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