ついついクセになる!後味の悪い洋画15選
鑑賞後にどうして観てしまったのだろう、と後悔するような洋画を集めてみました。気味の悪い物語から切ない人間関係を描いたストーリーまで。是非お気に入りの作品を見つけてください。
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アイキャッチ画像出典:k-onodera.net
ハッピーエンドではないからこそ、ハマる魅力
人の不幸は蜜の味、なんて言葉がありますよね。それとはちょっと違うかもしれませんが、世の中にはハッピーエンドではない物語が溢れています。それは人の不幸を見てみんなで楽しもうというのではなく、人の不幸を教訓に生きていこうなんてメッセージかも。もちろん全てに深いメッセージがあるというわけではありませんが、ここでは人生の儚さや辛さを扱った不条理な物語を洋画の中から15作ご紹介します。ちなみに筆者は怖いもの見たさも手伝って、バッドエンドを探し求めて常に飢えている、気が付けばバッドエンド大好き人間になっていました。
1.セブン(1995年 127分)
あらすじ・見どころ
定年間近の刑事サマセット(モーガン・フリーマン)は新たに赴任してきた若手刑事のミルズ(ブラッド・ピット)と最後となる事件に取り掛かります。事件の始まりはある巨漢男が食べ物に顔を埋めたまま亡くなった不可解な死。程なくして、次は有能弁護士が高級ビルの中の自室で殺されていました。一見関係のない事件ですが、死体の近くには必ずメモが置いてあります。そこにはキリスト教における7つの大罪に関係のある言葉が書いていました。その後も警察の捜査をかいくぐって新たな殺人が続きます。果たしてサマセットとミルズは犯人を捕まえる事ができるのか、そして犯人の目的は一体なんなのか。
ブラピ&モーガン・フリーマン夢の共演!
公開当時4週連続で全米興行成績1位に輝き、その年のアカデミー賞では編集賞にノミネートされ、SFホラー・ファンタジーなどのみを対象にしたサターン賞では脚本賞と美術賞にを受賞しました。そして本作は、のちに「ファイト・クラブ」や「ソーシャル・ネットワーク」を手がける鬼才デヴィット・フィンチャー監督の出世作になります。惨殺なシーンもあり後味の悪いストーリーですが、色調を抑えた荒い映像は全体的に物憂げで怪しく最高にクールです。20年以上前の映画ですが、色褪せる事なく今見ても新鮮で格好良い作品です。
2.ダンサー・イン・ザ・ダーク(2000年 140分)
あらすじ・見どころ
1960年代アメリカのある田舎町。チェコからの移民セルマ(ビョーク)は工場で働きながら息子のジーン(ヴラディカ・コスティック)と暮らしていました。貧しいものの理解ある優しい人々に囲まれ幸せな日々を送っていましが、セルマは先天性の病気で視力が奪われつつあり近い将来、失明してしまう運命でした。そしてジーンもまた、同じ病気で13歳までに手術をしなければ失明してしまいます。愛する息子のため必死で手術費用を貯めるセルマでしたが、ちょっとしたミスで工場を解雇されてしまい、貯めていた手術費用も盗まれてしまいます。あまりに不条理な物語をまるで夢のように描くミュージカル映画です。
アイスランドの国民的歌姫ビョーク主演のミュージカル鬱映画
カンヌ国際映画祭にて最高賞のパルム・ドール賞に輝き、主演のビョークは主演女優賞を受賞。音楽もビョーク自らが担当し、ゴールデングローブ賞、アカデミー賞の歌曲部門にノミネートされました。映画ファンの中でも有名な今作を私は鬱映画界の帝王だと思っています。
もがけばもがくほど落ちていく観ていてしんどい映画であり、時折流れるビヨークの歌声が精神不安定剤として大いに貢献します。いきなり歌い出すからミュージカルは苦手だと思っている人にも観て欲しく、今作は歌い出すことによってようやく観ることができるギリギリのラインになっています。そうでないとあまりに無慈悲で観ることのできないストーリー。しかし中毒性が高い作品でもあるため、鑑賞後に気分が落ちることが分かっていながらもついつい観てしまう作品です。
3.ゴーン・ガール(2014年 149分)
あらすじ・見どころ
5度目の結婚記念日の朝、妻エイミー(ロザムント・パイク)が姿を消します。直前まで妻がいた家の中はまるで誰かに襲われたかのように荒れ、大量の血液を拭き取った後がありました。エイミーは人気児童文学のモデルでもあり、メディアはこの失踪を大きく取り上げ、夫であるニック(ベン・アフレック)に疑いの目を向けます。身に覚えのないニックは無実を主張し妻の身を案じていましたが、夫婦には金銭的な問題や夫の浮気があり、ニックにとって不利なものが次々と出てきます。それもまるで誰かが操っているかのように。誰がエイミーを誘拐したのか、そしてエイミーは無事生きているのか。理想的夫婦の真実が暴かれます。
仮面夫婦を描いたサイコホラー
ハリウッド映画賞では最優秀作品賞と脚本賞に輝き、アカデミー賞やゴールデングローブ賞にも数多くノミネートされました。夫ニックを演じるのは「アルマゲドン」のフロスト役や「アルゴ」にて監督兼主演を務めたベン・アフレック、妻エイミーを演じるのは「007ダイ・アナザー・デイ」にてボンドガールを務めたロザムンド・パイク、そして監督はさきほどご紹介した「セブン」と同じデヴィッド・フィンチャー監督です。
物語は夫視点で語られた後に、妻視点に切り替わります。男性と女性によって捉え方がここまで違う映画も珍しいかも。誰かと一緒に見てどうだったか話し合うのも面白いですよ。
4.アメリカン・ヒストリーX(1998年 119分)
あらすじ・見どころ
デレク(エドワード・ノートン)は3年前に黒人の車泥棒を殺した罪で服役していましたがこの度、出所となります。弟のダニー(エドワード・ファーロング)は兄を心から尊敬しており、自分もまた白人至上主義の極右組織ネオナチのメンバーとなっていました。ようやく再会した兄弟でしたが、デレクは以前のような暴力的な考えから打って変わって別人のように穏やかになり、そしてダニーもまた以前の兄以上に白人至上主義に傾倒し変貌していました。ある兄弟を通してアメリカに今なお存在する人種差別の闇が描かれます。
根強く蔓延る人種差別を取り扱った問題作
主人公ダニーを演じるのは「ターミネーター2」のジョン・コナー役で一躍有名となったエドワード・ファーロング。白人至上主義に染まってしまったために人生を狂わせた兄弟の物語です。日本人にはあまり馴染みのない人種差別ですが、アメリカでは今なお残っている深い問題です。公開されたのは20年前になりますが、人種だけでなく貧富の差なども描かれ現代日本であっても他人事ではなく深く考えさせらます物語です。
客観的に見ていれば分かりきったことですが、もし自分が当たり前のように差別をして過ごす当事者だったら、あまりに日常的で気がつかないものなのか。自分はどうだったか、どきりとしてしまいます。文化や宗教、差別や偏見について考えなければなりません。
5.ミスト(2007年 125分)
あらすじ・見どころ
のどかな田舎町、湖のほとりに住むデヴィッド・ドレイトン(トーマス・ジェーン)は妻と幼い息子との3人家族。激しい嵐が町を襲った翌日、湖の向こう岸には異様な深い霧が立ち込めていました。デヴィットは買い出しのため、幼い息子と隣人ブレント(アンドレ・ブラウアー)と車で地元のスーパーマーケットへ向かいます。スーパーは人で賑わっており買い物をしていると、いきなり店外から大きなサイレンとともにけが人が駆け込んできます。「霧の中に何かいる」と叫び逃げてきた人々は、入口を閉めるように言い、瞬く間にスーパーは一寸先も見えない深い霧に包まれてしまいました。夜になっても消えることのない霧。霧の中には何がいるというのか。
スティーブン・キング原作のパニック映画
「ショーシャンクの空に」「グリーンマイル」でお馴染み原作・スティーブン・キング、監督兼脚本フランク・ダラボンの最強タッグです。「ショーシャンクの空に」や「グリーンマイル」はなぜか感動作に仕上がっていますが、ホラーの帝王スティーブン・キングがようやく本領発揮してくれます。
最初はただのホラー映画だなんて思いますが鑑賞していると分かります、これは人間の心理を上手く描いたパニック映画です。後味の悪い映画で検索すると必ず名の挙がる常連映画であり、衝撃の結末が待っていますので途中で諦めること無く必ず最後まで観てください。極上の不快感が味わえます。本当に怖いものは見えない敵では無く生きている人間なんですね。
6.チェンジリング(2008年 142分)
あらすじ・見どころ
1928年、ロサンゼルス郊外で9歳になる息子ウォルターと暮らすシングルマザーのクリスティン(アンジェリーナ・ジョリー)。仕事から帰宅したクリスティンは家に息子がいないことに気がつきます。最初はちょっとした家出だなんて言う人もいましたが数日経っても帰ってこない息子に不安を募らせ、ロサンゼルス市警に捜査を依頼します。不正が横行する警察に事件を解決することができるのか、メディアも注目するようになります。5ヶ月後、息子が発見されたと警察から連絡が入り向かった先には、ウォルターを名乗る見知らぬ少年が立っていました。
クリント・イーストウッドが描く実在にあった恐怖の事件
監督は俳優としても名を馳せたハリウッドの大御所クリント・イーストウッド、主演は「Mr.&Mrs. スミス」「マレフィセント」で人気のアンジェリーナ・ジョリーです。1920年代実際に発生したゴードン・ノースコット事件を題材に製作され、カンヌ国際映画祭出品、アカデミー賞主演女優賞、撮影賞、美術賞にノミネートされました。
「チェンジリング」とは「取り替え子」というヨーロッパの言い伝えから名付けられています。自分の子が行方不明になって、別人が帰ってきたなんて聞いただけでもゾッとしてしまいます。子どもの失踪だけでなく、警察内部の闇も描いた恐ろしい一作です。
7.縞模様のパジャマの少年(2008年 95分)
あらすじ・見どころ
第二次世界大戦下のドイツにて、ナチス将校の父の仕事の都合でベルリンから遠く離れた田舎に引っ越してきた8歳のブルーノ(エイサ・バターフィールド)。ブルーノは友達とは離れてしまい、近所に学校もなく姉と家庭教師しかいない日々に飽き飽きしていました。そこで母からは危ないからと禁止されていましたが、家の周りの探検を始めます。家の裏には森があり、その奥のフェンスの向こうに自分と同じくらいの人影を見つけました。彼の名前はシュムール(ジャック・シュキャロン)、ブルーノと同じ8歳でいつも縞模様のパジャマを着ています。すぐに仲良くなった2人は大人の目を盗み頻繁に会うようになります。
主人公の純粋さゆえの残酷な物語
主演のエイサ・バターフィールドは数百人の中から主役に抜擢され、この映画に出演後もマーティン・スコセッシ監督の「ヒューゴの不思議な発明」、ティム・バートン監督の「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」に出演し、順調にキャリアを築いています。
第二次世界大戦中のドイツを舞台に描いた作品。こう説明すれば分かるかと思いますが、出会った少年が着ているものはパジャマではありません。それでも何も知らされていない子どもである主人公は、その純粋さゆえの公平さによって時に優しく時に残酷な少年として映ります。フィクションではありますが実際の史実をもとに作られた映画、実際に起きたわけではないということがせめてもの救いです。
8.真実の行方(1996年 130分)
あらすじ・見どころ
冬のシカゴにて発生した大司教惨殺事件。すぐさま彼の侍者であったアーロン(エドワード・ノートン)という青年が逮捕されました。野心に満ち溢れた弁護士マーティン・ベイル(リチャード・ギア)は世間からの注目度の高いこの事件を、売名行為に最適だと感じ無償でアーロンの弁護を買って出ます。アーロンは血まみれで現場から逃走しており彼の犯行に間違いないと思われていました。しかし殺害犯行時の記憶がなく、物乞いをしていた自分を拾って育ててくれた大司教を殺すはずなどないと無実を訴えるアーロン。不審に思ったマーティンは彼の精神鑑定を依頼し、そこから驚愕の事実が見えてきました。
上質な不快感のミステリー映画
上で紹介した「アメリカン・ヒストリーX」、これからご紹介する「25時間」にて主演のエドワード・ノートンのデビュー作となります。2000人以上のオーデションからキーマンとなるアーロン役に抜擢され、デビュー作とは思えない演技力と存在感は主演のリチャード・ギアを食ってかかるほど。
今作でゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞し、アカデミー賞と英国アカデミー賞においても助演男優賞にノミネートされました。ある殺人事件を軸に描いた今作は、誰も予想の出来ないクライマックスに後味悪く、不快感もバッチリです。私はそうとは知らずに鑑賞したため観終えた後なんとも言えない気持ちになりました。
9.チョコレートドーナツ(2012年 97分)
あらすじ・見どころ
1979年のカリフォルニア、シンガーを夢見ながらもショーダンサーで日銭を稼ぐ同性愛者のルディ(アラン・カミング)。 ゲイであることを隠して生きる勤勉で優しい弁護士のポール(ギャレット・ディラハント)。 母の愛情を受けずに育ったダウン症の少年・マルコ(アイザック・レイヴァ)。 世界の片隅で3人は出会い 、ルディとポールは愛し合い、マルコとともに幸せな家庭を築き始めます。 しかしゲイであるがゆえに法と好奇の目にさらされ、ルディとポールはマルコと引き離されてしまいます。 血はつながらなくても、法が許さなくても、ただ愛する人を守るために奮闘する姿を描いた感動作です。
愛で救えるのか、深く切ない愛情の物語
本作はモデルになった男性と同じアパートに住んでいた脚本家によってシナリオ化されました。アメリカの演劇界で最も権威ある賞とされるトニー賞受賞俳優のアラン・カミングがルディ役を熱演し、作中でも美声を披露しています。
また実際にダウン症のアイザック・レイヴァがマルコを演じ、障がい者が俳優になる可能性を見せてくれました。LGBTについて障がいについての世間の目が厳しい40年前、差別と偏見を描いた今作に暴力的な描写が一切ないですが、心に重くのし掛かり、幸せとは何なのか深く考えさせられます。
10.ぼくのエリ 200歳の彼女(2008年 115分)
あらすじ・見どころ
ストックホルムの郊外に住むいじめられっこの少年オスカー(カーレ・ヘーデブラン)は母子家庭で育ち友達もおらず、ひとり寂しく過ごしていました。父親とふたりで隣の部屋に引っ越してきたエリ(リーナ・レアンデション)に親近感を覚えたオスカーは、友達になりたい一心で声を掛けます。ふたりは夜の中庭で会うようになり次第に仲良くなります。その頃、街では不可解な失踪や殺人が相次いでいました。逆さ吊りで血を抜かれた遺体、突然炎を出して燃える被害者。街の人々は恐怖に怯え、事件が起き始めたのはエリの親子が越してきてからだと気がつきます。そしてオスカーもまたエリの重大な秘密を知ってしまいます。
吸血鬼を描いたスウェーデンの映画
トーマス・アルフレッドソン監督作品。日本ではあまり馴染みのないスウェーデンの映画ですが、英国アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされるなど国際的に評価され、2010年エリ役にクロエ・モレッツを起用しハリウッドでリメイクされました。ところどころホラーのような演出もありますが、全体的に色味を抑えた美しい映像が得意のアルフレッドソン監督らしい画作りです。
全体的に寒さを感じる映像表現は、役者たちを魅力的に映し、より恐怖感を際立てます。ぞくっとするエンディングは、後味の悪い映画ファンならば気にいるはずです。
11.メメント(2000年 113分)
あらすじ・見どころ
保険の調査員をしていたレナード(ガイ・ピアーズ)は、自宅に押し入った何者かに妻を強姦され殺害されてしまいます。レナードは犯人を取り押さえようとしたが頭を打ち、事件後は10分間しか記憶を保てない前向性健忘になってしまいました。取り逃がした犯人を捜すため、覚えておくべきことをメモしてハンデを乗り切り復讐を果たそうとします。出会った人や場所はポロライドで撮影してメモを記し、大切なことは消えないよう自身の体にタトゥーとして彫り込みます。それでも複雑に変化する環境と難解なメッセージの数々に悩み困惑するレナード。
ストーリーを逆向きに映し出していく難解映画
監督は「バットマン」シリーズ、「インターステラー」でお馴染みのクリストファー・ノーラン。今作はアカデミー賞前日に開催されるインディペンデント・スピリット賞にて作品賞と監督賞を受賞し、ゴールデングローブ賞では最優秀脚本賞にノミネートされ、そしてアカデミー賞ではオリジナル脚本賞と編集賞にノミネートされました。ストーリの終わりから始まりへ徐々に時間が遡る斬新な演出となっています。
そのことによって誰が殺されたのか、誰が殺人を犯したのか、その動機は、と15分ごとに新たな展開続きの連続です。難解なストーリーとして有名であり、私も完全に理解するまで何度も見返しました。
12.エレファント(2003年 81分)
あらすじ・見どころ
アル中の父に送迎され学校へ通うこと、愛を囁き合うこと、友達ができないこと、興味があるのはダイエットと恋バナであること、次のデートの約束をすること、イジメられること、いつも通りの日常を送る高校生たち。しかし、なんの前触れもなく終わりを告げます。目に見えないスクールカーストの中で、苦しみもがきながらも彼らは確かに生きていました。
全米を震え上がらせた驚愕事件
今作は、カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールと監督賞を史上初めて同時受賞しました。1999年世界を震撼させたコロンバイン高校銃乱射事件を題材にし、説明は一切なく映画は進んでいきます。この作品は臨場感を出すため、俳優ではなくオーディションで演技未経験の高校生たちを選び、彼ら自身の本名をそのまま役名にすることで等身大の姿を演じてもらいました。
一切予測のつかない展開であり、後半のショッキングなシーンが続く場面は後味悪く、学校という閉鎖的な空間で生きることの過酷さを訴えかけている映画です。
13.明日、君がいない(2006年 99分)
あらすじ・見どころ
午後2:37、そのとき誰かが命を絶つ。オーストラリア南部の高校。その日の朝いつものように学校に通うのは、将来の夢は弁護士である優等生のマーカスと妹のメロディ。そしてメロディの幼馴染にしてスポーツマンのルーク、ルークの恋人で自分をスクールカーストの最上位だと信じてやまないサラ、ゲイでありそれに対する差別にイラついてマリファナに走るショーン、先天的な障がいによっていじめをうけるスティーブン。いつもと変わらない日常を過ごしつつも皆どこかに悩みを抱えている6人の高校生たち。誰が自殺をしてしまうのか、何が原因なのか。
19歳が描いた究極の学校ドラマ
監督の友人を自殺で亡くした実体験と、上でご紹介した「エレファント」に影響を受けて作られた映画です。21歳にしてカンヌ国際映画祭に衝撃を与えたムラーリ・K・タルリ監督は、脚本を書き上げた当時映画知識の全くない19歳でした。「エレファント」に影響を受けていますが、決して二番煎じなだけの映画ではありません。確かに同じ手法かもしれませんが、明らかに独立し作品であり、それぞれに良さがあり、魅力がありますので監督が伝えたかったことを感じて欲しいです。ただ影響を受けただけで作れる作品ではなく、監督の中には作りたいものが確実にあり、アウトプットする手段の側面に影響が現れているだけだと感じました。
ひとつの映画として非常に完成度の高い作品となっており、エレファントを見た後にこの映画を見て欲しいなと思います。原題は「2:37」ですが、鑑賞後に邦題がじわじわと効いてきます。
14.パンズ・ラビリンス(2006年 119分)
あらすじ・見どころ
1944年スペインの内戦で仕立て屋の父を亡くしたオフィリア(イバナ・バケロ)。彼女は妊娠中の母と共に、新しい父親となるヴィダル大尉(セルジ・ロペス)の赴任先である森の中の軍の砦となっている屋敷に向かいます。ヴィダルはもうすぐ生まれる自分の子のことばかりで、オフィリアを邪魔者扱いします。母は優しいものの出産直前で体調も良くなく娘に気が回りません。新しい土地でひとりぼっちのオフィリアでしたが、彼女は大好きな本の中に自分の居場所を見つけようとします、そんな折に、彼女は森で妖精と出会い、憧れのおとぎ話の世界へと迷い込んでいきます。
アカデミー美術賞受賞のダーク・ファンタジー
アカデミー賞にて美術賞と撮影賞に輝きそ、カンヌ映画祭にも出品、世界各国の数多くの映画賞を受賞しました。主人公のオフィリアは戦争によって実の父親を亡くした悲劇の少女。作中でも彼女に対し無慈悲な仕打ちが多く出てきますが、もしかしたら彼女は幸福であったのかもしれません。後味こそ良くないものの、不幸と決めつけるのは違うのでは?と感じる映画です。
グロテスクな表現もありますがダークで美しい世界観はメルヘンでもあります。それもそのはず監督は「パシフィック・リム」などで知られ、SFやファンタジーを得意とするギレルモ・デル・トロ。今回紹介する映画の中では不快感少なめですので、まずはこの作品から観始めるのも良いでしょう。
15.25時間(2002年 135分)
あらすじ・見どころ
ニューヨークのブルックリンで暮らすドラッグディーラーのモンティ(エドワード・ノートン)は、何者かの密告によって麻薬捜査局により逮捕され、明日から刑務所の中で過ごすことになっています。長い獄中生活の前に残された最後の一日、彼は今までの人生において大切な人々に会いに行きます。母校では英語の教師となった幼馴染のジェイコブ(フィリップ・シーモア・ホフマン)に会い、そしてもうひとりの幼馴染で株のディーラーであるフランク(バリー・ペッパー)にも声をかけ、馴染みのクラブで最後の夜を過ごします。大切な人々と何気ない時間を過ごした彼は、翌日刑務所に向けて出立するのでした。
収監されるまでの25時間を描いた社会派ドラマ
監督は「マルコムX」や「ドゥ・ザ・ライト・シング」など数々のヒューマン映画を世に送り出し、自身の言動にも注目が集まっている、アメリカを代表する映画監督スパイク・リー。主人公モンティ役にエドワード・ノートン、幼馴染役にフィリップ・シーモア・ホフマンらハリウッドきっての演技派俳優が出演しています。ショッキングな演出はなく静かな映画ですが、ラストシーンは観ていて辛いものがあります。
犯罪は犯した本人が悪いことは当然なんですけれど、こうはいってはなんですが健全に生きている人間でも一歩踏み間違えてしまうこともあるかもしれないと感じました。他の映画にはない喪失感があります。
終わりに
バッドエンドだと構えて観ていても、ちょっと油断したらその隙を必ず付け込まれます。想像以上の絶望に突き落としてきます。しかしそんな絶望も回数を踏めば癖になり、ゾクゾクしてきます。是非とも絶望の底の底まで落ちてください。
また気になるけど怖いという、怖いもの見たさの方は誰かと一緒に観ましょう。人間とは不思議なもので誰かと感情を分かち合うことで救われます。もちろん不快感を独り占めしたい方は必ずひとりで観てください。鑑賞後思った以上に精神が沈んで再起不能になった場合は、すかさずハッピーエンドの映画を観ましょう。ディズニーの「魔法にかけられて」や「ズートピア」がオススメです。沈みきったあなたを水面まで引き上げてくれます。
後味が悪いと言っても感じ方は千差万別。この主人公は幸せ者だなと思ったり、なんて格好良い演出なんだと何度も繰り返し見たり。1番の恐怖は何も知らずに見た映画が最高のバットエンドだったこと。これ以上の楽しみはありません。