【近代絵画の父】あなたの知らないポール・セザンヌの世界
「近代絵画の父」と呼ばれるポール・セザンヌ。彼が描いた作品は、その後の美術を大きく変えてしまうほどの大きな影響を与えました。今回はそんなセザンヌについて解説したいと思います。
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現代アートへの入り口
ポール・セザンヌは「近代絵画の父」と呼ばれるポスト印象派の画家です。美術史上とても重要な画家であるセザンヌ。日本では印象派がとても人気なので、ポスト印象派であるセザンヌにスポットライトが当たることは意外と少ないです。しかし現代アートを理解する上で、セザンヌを避けて通ることはできないと言っても過言ではないのです。
セザンヌの発明1|多角的視点の導入
そんなセザンヌですが、彼は一体どんな絵画的発明をしたのでしょうか。もしも私たちが絵を描くとしたら、見えるがままに筆を走らせるでしょう。これを単一視点と言いますが、セザンヌ以前は単一視点で描画することが当然でした。しかし、それは対象物の一側面を描いただけにすぎません。セザンヌはそれでは対象を正確に描写することではできないと主張しました。そこで彼は多角的に対象物を観察し、画面に同時に描写する「多角的視点」を導入します。これはピカソのキュビズムにつながる美術における大革命なのです。
この発明は「りんごとオレンジ」(1895年)などの作品に顕著です。これは対象物を斜め上から見て描かれているのですが、その視点とは全く異なった視点から容れ物が描かれていたりします。
セザンヌの発明2|構造的視点の導入
多角的視点と共にセザンヌが発明した描画方法が「構造的視点」の導入です。構造的視点とは自然の風景を、例えば山は三角、木は長方形といった具合に基本構造に還元して捉え直すというものです。どの時代、どの地域においても丸や三角、四角といった基本構造は変わりません。したがって、構造的視点を導入することによって、対象物の普遍的な構造を描写することを可能にしました。その結果、描かれる対象物は単純化されることになります。
この発明は、彼が生涯を通してモチーフとした「サント・ヴィクトワール山」の変遷を追っていくとよく分かります。画像の1枚目のように、初期は伝統的な遠近法を無視した構図であったりはするものの、モチーフを単純化することはありませんでした。しかし後期になると、2枚目の画像のように、その風景は基本構造に還元され、単純化して描かれることになるのです。
セザンヌの矛盾と現代アートへの展開
この2つの発明によってセザンヌは何を描きたかったのでしょうか。セザンヌが描きたかったもの、それは正確な「対象物の普遍的な本質」に他なりません。そんなセザンヌの思いとは裏腹に、「対象物の普遍的な本質」を追求すればするほど、私たちの目に映る「リアル」な対象物からは遠ざかるという矛盾をセザンヌの発明は内包していたのです。
しかし、この矛盾こそが現代アートへの展開の第一歩となるのです。美術史を振り返ってみると、セザンヌ以前は「リアル」な描写こそが美であり、正解でありました。これは現実の模倣こそが美であるという考え方です。その一方で私たちの「リアル」と対象物の正確な本質との間には齟齬があります。なぜなら、先述の通り、私たちの「リアル」とは対象物の一側面でしかないからです。「対象物の正確な本質」とはいくつもの「リアル」が複合的に成り立つものであり、私たちの認識を超えるものなのです。
この、いわば形而上的な「リアルの集合体」を追求したのがセザンヌであり、現代アートはまさにこの文脈でこそ語られるものなのです。ゆえにセザンヌは「近代絵画の父」と呼ばれるのです。
知的な遊びとしての絵画鑑賞
彼の絵画作品は、単純に美しいとかそういった尺度で鑑賞するものではありません。むしろそういった視点で鑑賞すれば、セザンヌの作品よりも優れた作品は無数に存在するでしょう。セザンヌを読み解くにはインテリジェンスが必要です。彼が作品に込めた哲学的な思想というコンテクストがあってこそ、初めて楽しめるものなのです。そんな知的な遊びとしての絵画鑑賞を楽しんでみませんか。
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