【高級時計】A.ランゲ&ゾーネが造り出す複雑時計の技巧と魅力
ドイツ・ザクセンに本拠を構え、高精度な複雑時計を造り出すA.ランゲ&ゾーネ。初代F・A・ランゲの時代から常に高精度な複雑機構を持つ時計を製作しており、当時の王侯貴族からも愛されていました。1990年に復活したA.ランゲ&ゾーネの魅力ある時計をご紹介します。
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アイキャッチ画像出典:www.alange-soehne.com
歴史の始まりはザクセンのグラスヒュッテから
1815年、後にA.ランゲ&ゾーネの創業者となるフェルディナント・アドルフ・ランゲ(以下F・A・ランゲ)が誕生しました。ドレスデン技術学校に通うかたわら、高名な時計師であるヨハン・クリスティアン・フリードリッヒ・グートケスに弟子入り。当時まだ15才だったF・A・ランゲの才能を見抜いた師は、ゼンパー歌劇場の五分時計製作にも携わらせるなど目を掛けていました。
見習いから時計師になったF・A・ランゲは、1837年からフランスに渡り修行をします。フランスでは時計職人の修行をしながらソルボンヌ大学に通い天文学や物理学を習得。1841年頃にドレスデンに戻り翌年にはマイスター証書を授与されています。F・A・ランゲは修行中の記録を「旅の記録」として残しており、ここには多くの表・設計図・メカニズム・計算などが記されていました。
1846年、グラスヒュッテの工房
F・A・ランゲは1845年にエルツ山地のグラスヒュッテに自身の工房を開きます。このグラスヒュッテはかつて銀採掘で栄えた街でしたが、資源枯渇などによって困窮。このためF・A・ランゲが当時のザクセン政府に時計産業でグラスヒュッテを再興させることを提案したのです。15人の時計職人を育成することを条件に多額の資金を得て、この後次々と伝説を造り出すことになります。
15人の育成は思ったより困難で工房の経営は厳しいものでした。しかし、足踏み式旋盤の導入やムーブメントの寸法をメートル法に換算するなど技術革新を実施。各部の精度が格段に高くなり、現在でも使用されている4分の3プレートの開発にも成功しました。
ロシア皇帝への返礼として送られた写真
F・A・ランゲは1848年からグラスヒュッテの町長を務めることになり、18年にわたって歴任します。この頃製作された「ソヌリ」は多くの複雑機構を搭載した懐中時計で、ロシア皇帝も購入していたほどです。この時計に感銘を受けたロシア皇帝からダイヤ付きの襟章を送られており、その返礼として自身が襟章を付けた写真をロシア皇帝に送りました。この時F・A・ランゲを撮影した写真が現存する唯一の写真といわれています。
1868年には息子リヒャルトが経営に参加、名称も「A.ランゲ&ゾーネ」となりました。1871年には次男のエミールも参加、1875年にF・A・ランゲがこの世を去り、2人の兄弟が経営を引き継ぐことになったのです。
1902年、グランド・コンプリケーションNo.42500
1900年に開催されたパリ万博においてエミール・ランゲが「百年紀記念トゥールビヨン」を発表。その功績によってレジョンドヌール騎士十字章を受賞しています。この頃A.ランゲ&ゾーネの時計をドイツ皇帝ヴィルヘルム2世が、オスマントルコ帝国のスルタン アブドゥル・ハミッド2世に贈呈。バイエルン国王ルードヴィッヒ2世からも発注されるなど高く評価されています。
1902年にハインリッヒ・シェーファーの発注によって「グランド・コンプリケーションNo.42500」を製作。1点のみ製作された懐中時計で大小のハンマー打ち機構・ミニッツリピーターをはじめ、永久カレンダーやスプリットセコンド・クロノグラフなど多くの機構を備えています。このムーブメントは精緻なハンドエングレービング加工が施されたゴールドのケースに収められており、A.ランゲ&ゾーネ史上最も複雑な機構を備える時計といわれています。
1931年、時計ゼンマイ用金属合金の特許
1931年、リヒャルト・ランゲが時計ゼンマイ用金属合金の特許を取得。この特許を得たヒゲゼンマイはその後「ニバロックスヒゲゼンマイ」の名で販売されることになり、現在でも高級な機械式時計に採用されています。
1941年、4代目となるウォルター・ランゲが、オーストリアにあるカールシュタインの時計師学校に入学。時計職人となるべく歩み始めましたが、第二次世界大戦終結直前に空襲によって本社社屋が破壊されてしまいます。更に1948年、ソビエト占領地区内にあったことから会社は国有化されてしまい永い空白の時代を迎えました。
時は移り1990年、ベルリンの壁崩壊と共にドイツは統一されます。西ドイツに亡命していたウォルター・ランゲは、再びザクセンで世界最高の時計を製作するという強い想いを持ってA.ランゲ&ゾーネを復活させました。
新たな時代を迎えたA.ランゲ&ゾーネ、魅力ある時計を10モデルご紹介します。
2001年、A.ランゲ&ゾーネ本社社屋に復帰
ツァイトヴェルク
ミニッツリピーター
機械式のデジタル時計を造る、それまでの既成概念を覆す発想で開発が企図されたコレクションであるツァイトヴェルク。時刻を数字で表すために開発したのは、特殊な構造を持つ瞬転数字メカニズムで、3枚のディスクを使用しダイヤル左側に時を右側に分を表示します。
モデル「ミニッツリピーター」は、瞬転数字式時分表示と10進ミニッツリピーターを搭載した製品。この2つの機能を同時に搭載するのは初めてとのこと、音で時刻を知らせることが可能です。作動は10時の位置にセットされたボタンで行い、「時を低音・10分を重複音・分を高音」で知らせます。スモールセコンドがセットされたダイヤルは無垢のシルバーで、収められるケースはプラチナ製。ケースバックはスケルトンです。
機械式デジタル時計にミニッツリピーターを組み合わせた斬新な発想のモデルです。
【スペック】
モデル:Ref.: 147.025
タイプ:手巻き
ムーブメント:ランゲ自社製キャリバーL043.5
石数:93
ケース:44.2mm
ストライキングタイム
ご紹介するのはツァイトヴェルクコレクションの「ストライキングタイム」。瞬転数字式時分表示のムーブメントを搭載したモデルで、左側のハンマーが1時間毎に、右側のハンマーが15分毎にゴングされる機構を持っています。
パワーリザーブ表示やスモールセコンドを備えたダイヤルは無垢のシルバー、ケースはピンクゴールド製です。ハンマーのデザインはかつて銀鉱山で栄えたザクセンの鉱夫が使う工具からインスピレーションされており、ポリッシュ仕上げ。ケース右下のプッシャーでゴングのON/OFFが可能です。
美しい音色のゴングと瞬転数字式時分表示を備えた1本です。
【スペック】
モデル:Ref.: 145.032
タイプ:手巻き
ムーブメント:ランゲ自社製キャリバーL043.2
石数:78
ケース:44.2mm
参考価格:12,787,200円(正規販売店 oomiya 大阪心斎橋店)
リヒャルト・ランゲ
トゥールビヨン “プール・ル・メリット”
科学研究用デッキウォッチを現代に復活させるというコンセプトの元、高精度・信頼性・視認性を追求したコレクションのリヒャルト・ランゲ。かつてA.ランゲ&ゾーネが製作したデッキウォッチは、飛行船で有名なツェッペリン伯爵など多くの科学者に愛用されていました。
モデル「トゥールビヨン “プール・ル・メリット”」は、時刻表示を3つのダイヤルに分割した1本。レギュレーターと呼ばれる時計に由来する表示方式で、高精度なトゥールビヨンを搭載し窓からこの機構を観察することができます。特許技術のストップセコンド機能も搭載し、秒単位で時刻を正確に合わせることが可能。「プール・ル・メリット」の称号を冠したモデルです。
高精度と視認性を高度にバランス、デッキウォッチを名乗るに相応しいモデルです。
【スペック】
モデル:Ref.: 760.032
タイプ:手巻き
ムーブメント:ランゲ自社製キャリバーL072.1
石数:32
ケース:41.9mm
参考価格:23,576,400円(正規販売店 oomiya 大阪心斎橋店)
パーペチュアルカレンダー "テラ・ルーナ"
モデル「パーペチュアルカレンダー "テラ・ルーナ"」も、リヒャルト・ランゲコレクションの1本。アイコンであるレギュレーターダイヤルを持ち、デイト・曜日・月をはじめ閏年表示が付いた永久カレンダーも装備します。
ケースバックはスケルトンで、北半球に対応したデイ・ナイト表示が可能な軌道ムーンフェイズを搭載。軌道ムーンフェイズは天空・月・地球の3ディスクで構成されており、北半球が昼・夜どちらの時間帯であるかも表示します。複雑機構のレギュレーターダイヤルはシルバー。ホワイトゴールド製のケースに収められます。
レギュレーターダイヤルと軌道ムーンフェイズを組み合わせた、リヒャルト・ランゲコレクションの1本です。
【スペック】
モデル:Ref.: 180.026
タイプ:手巻き
ムーブメント:ランゲ自社製キャリバーL096.1
石数:80
ケース:45.5mm
参考価格:25,509,600円(正規販売店 oomiya 大阪心斎橋店)
ランゲ1
タイムゾーン
A.ランゲ&ゾーネ復活第1号コレクションとして発表された4モデルの1つであるランゲ1。当時4年の歳月を費やして開発されたモデルで、当時のドレスデン王宮でお披露目され現在ではA.ランゲ&ゾーネを代表するコレクションとなっています。
モデル「タイムゾーン」は、自国のホームタイムと各国のセカンドタイムを同時に表示できる1本。オフセンターでセットされた大型ダイヤルがホームタイムを、右下の小型ダイヤルがセカンドタイムを表示します。どちらもデイ・ナイト表示がされており、矢印が青を指す時間帯が夜間です。セカンドタイムゾーンは24都市リングを回転させることで手軽に設定可能。アウトサイズデイト表示はホームタイムに連動しています。
ケースは18Kホワイトゴールドやプラチナなど4種類を用意、セカンドタイムが表示できる1本です。
【スペック】
モデル:Ref.: 116.039
タイプ:手巻き
ムーブメント:ランゲ自社製キャリバーL031.1
石数:54
ケース:41.9mm
グランド・ランゲ1・ムーンフェイズ ルーメン
モデル「グランド・ランゲ1・ムーンフェイズ ルーメン」は、A.ランゲ&ゾーネで初めて夜光性のムーンフェイズとアウトサイズデイトを搭載する1本。このモデルは通常ゴールドで造られるムーンディスクをガラスで製作、1164個の星々と月がレーザーカットで描かれています。
ムーンディスクの下には蓄光プレートを備えていますので、暗闇で星や月が輝くように設計されています。このムーンフェイズ表示は122.6年で誤差1日という超高精度。夜光性のアウトサイズデイトも技巧を凝らした造りとなっています。ダイヤルにはA.ランゲ&ゾーネのアイコンであるパワーリザーブ表示や、スモールセコンドもセット。プラチナ製のケースに収められます。
暗闇に輝く星と月、限定数200本の逸品です。
【スペック】
モデル:Ref.: 139.035
タイプ:手巻き
ムーブメント:ランゲ自社製キャリバーL095.4
石数:42
ケース:41mm
限定数:200本
1815
クロノグラフ
創業者F・A・ランゲの生誕年にちなんで付けられたコレクション名の1815。懐中時計からの伝統を受け継いで4分の3プレートを搭載、インデックスにはアラビア数字が使用されています。
1815コレクションの「クロノグラフ」は、世界各地に16店舗ある直営ブティックでのみ販売されている限定品です。F・A・ランゲの生誕200周年を記念したモデルで、ホワイトゴールド製のケースとブルーのインデックスが特徴。2カウンターのクロノグラフで、脈拍を計測するための目盛りも刻まれています。
高精度なクロノグラフは5分の1秒の精度でのタイム計測が可能。プレシジョン・ジャンピング・ミニッツカウンターが計測したタイムを正確に表示します。計測スタートは上のプッシャーで、下のプッシャーがリセット用。フライバック機能も搭載します。
ブルーインデックスの美しいクロノグラフ、ブティック限定の逸品です。
【スペック】
モデル:Ref.: 414.026
タイプ:手巻き
ムーブメント:ランゲ自社製キャリバーL951.5
石数:34
ケース:39.5mm
トゥールボグラフ・パーペチュアル “プール・ル・メリット”
「トゥールボグラフ・パーペチュアル “プール・ル・メリット”」も1815コレクションの1本。搭載される複雑機構は「永久カレンダー・クロノグラフ・ラトラパント・チェーンフュジー・トゥールビヨン」の5機構です。
「プール・ル・メリット」の称号を冠するモデルとしては5本目で、限定数は50本。ラップタイム計測ができるラトラパント機能が付いたクロノグラフで、ここに永久カレンダーが組み合わせられるという稀有なモデルです。トゥールビヨンとチェーンフュジー(鎖引き)を緻密に制御することでトルクを補正し、高精度を実現。使用される部品点数は648個に及び、石数52個の内2個にダイヤモンドが使われています。
5つの複雑機構を搭載した「プール・ル・メリット」の称号を冠する1本です。
【スペック】
モデル:Ref.: 706.025
タイプ:手巻き
ムーブメント:ランゲ自社製キャリバーL133.1
石数:52(2個はダイヤモンド)
ケース:43mm
限定数:50本
サクソニア
ランゲマティック・パーペチュアル
A.ランゲ&ゾーネ発祥の地であるドイツ・ザクセン州。サクソニアとはこのザクセンを意味する言葉で、究極の審美性を追求し最善の機械構造を体現するコレクションです。サクソニアはメカニズムにおいてその本質的要素を追求、どの時代にも通用するデザインの時計を創出しています。
「ランゲマティック・パーペチュアル」は、ご紹介する中で唯一の自動巻きモデル。使用される4分の3スケールローターは両方向巻上げ式で、46時間のパワーリザーブが可能です。アウトサイズデイトや永久カレンダーが組み合わされたクロノグラフで、ムーンフェイズとデイ・ナイトも表示されます。このアウトサイズデイトは2100年2月まで修正が不要、ムーンフェイズ表示も122年後まで修正不要です。
ケースは18Kピンクゴールドなど3種類を用意、革新的なアウトサイズデイト搭載モデルです。
【スペック】
モデル:Ref.: 310.032
タイプ:自動巻き
ムーブメント:ランゲ自社製キャリバーL922.1 SAX-O-MAT
石数:43
ケース:38.5mm
ランゲ31
「ランゲ31」は2017年の新作で、アウトサイズデイトの下に「MONATS-WERK」の文字が刻まれたモデル。この文字はドイツ語で「MONATS=月、WERK=ムーブメント」を現しており、なんと31日間のパワーリザーブが可能なモデルです。ダイヤル右側にあるパワーリザーブ表示は通常とは異なり0~31の表示、目盛りは2日単位になっています。
このモデルにはゼンマイを効率的に巻き上げるために、ワンウェイクラッチが搭載された巻き上げ用カギが付属します。巻き上げたエネルギーはムーブメント内にある大型のツインバレルに蓄えられ、中に収められているゼンマイはそれぞれ1850mm。通常の機械式時計の10倍程度の長さであり、完全な巻き上げ状態でのエネルギーの量は3ジュール以上になります。
ケースの素材は3種類、18Kホワイトゴールドモデルは限定数100の逸品です。
【スペック】
モデル:Ref.: 130.039
タイプ:手巻き
ムーブメント:ランゲ自社製キャリバーL034.1
石数:62
ケース:45.9mm
限定数:100本
予定価格:17,010,000円(正規販売店 oomiya 大阪心斎橋店)
歴史に翻弄されながらも復活を果たしたA.ランゲ&ゾーネ
創業者創業者F・A・ランゲの誕生から既に200年以上の時が経過しています。戦争によって大きな空白期間ができてしまいましたが、見事に復活を遂げました。ドイツ工業技術の結晶ともいえるA.ランゲ&ゾーネの時計、いつか貴方の腕にも。
※ 掲載内容は2017年5月現在、価格等は参考です。
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この記事のライター
信州の曲者が集まるCLUB Autistaに所属する道楽者。車と酒と湯を愛し、ひと時を執筆に捧げる。