押さえておきたい夏目漱石の代表作7選

日本の文豪と言えば、夏目漱石を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。しかし、評論家の江藤淳が戦後に『夏目漱石論』を出版するまで、漱石は忘れられた作家でした。江藤淳の論文をきっかけに再評価され、文豪と呼ばれるようになったのです。そんな夏目漱石の代表作7つをご紹介します。

vokkaVOKKA 編集部
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『吾輩は猫である』

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当時のインテリの会話や精神を楽しむ

「吾輩は猫である。名前はまだ無い。」の有名な書き出しで始まるデビュー作です。
漱石宅に出入りする当時のインテリたちの会話を、猫の視線で見て人間を風刺する内容ですが、ユーモアや考え方は、現代ではよく理解できないものが多くあります。それよりは猫がお餅を食べようとして苦しむシーンや、苦沙弥先生と近くの学校の生徒のやり取りという小ネタの方が面白いと感じられます。
当初は1回読切の予定だった本作は、好評で連載されましたが、書き続けるのが面倒になり、猫を溺死させて終了にしたと言われています。

『坊ちゃん』

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「読んでいません」はまずいかも?!

漱石自身の松山中学校への赴任体験を元に、一本気で正義感の強い、江戸っ子気質の主人公が、赴任先で様々な出来事に遭遇した後、帰京するまでが書かれています。
ユーモア小説と評されることの多い本作ですが、喜劇は悲劇であり、坊ちゃんの味方は親兄弟ではなく、元女中の清ひとりであることもユーモアに隠れた寂しい面です。
また、江戸っ子の主人公と会津出身の同僚・山嵐が、西国出身の赤シャツらを懲らしめるのは、明治維新の中心だった西国対江戸・会津の幕府方という構図があるという説もあります。

『草枕』

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漱石の思索と新しい言葉にあふれた名著

有名な書出し部分は七五調を基本としたリズミカルな文章によって、山登りの様子を表現していると言われています。この時代は、西欧から新しい言葉が盛んに輸入されました。「哲学」や「野球」という言葉もこの時代に誕生しました。同時に、新しい日本語もたくさん作られた時代で、漱石作品を見ても後期より初期作品の方が、言葉が豊富で、聞き慣れない言葉も多く登場します。思索を述べることの多い本作はその典型のひとつです。

『二百十日』

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文豪でも失敗作(?)はある

新しい小説の形を模索した実験的小説で、全編にわたってほとんどが会話文で書かれています。漱石自身、失敗作と判断したのか、以後このような形式の小説は書いていません。作中に主人公の一人がビールを注文したところ、ビールはないがエビスならあるというシーンがあります。もちろん現在のエビスビールのことで、宣伝ではありませんが、この頃からビールとは少し違うという認識があったようです。

『夢十夜』

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夢の中で描かれる妖艶・奇怪・不思議な幻想世界

最も有名で印象的なのは第一夜です。百年待ってくれと言い残して死んだ女を埋めた場所から花が咲き、その花に唇を合わせて百年経ったことを知ります。百年後、唇を合わせた花が百合、というのはなかなか気づかないレトリックです。花びらから露が落ちるというのも妖艶です。

『それから』

すべての「それから」がここから始まっている

『三四郎』に続けて書かれた作品です。三四郎が失恋という終わり方ながら、まだユーモアがあるのに対して、『それから』以降は、主人公が時代や風潮、思想といったものと、個人の思いとの間で苦悩する作品へ変わっていきます。三四郎の、その後を書いたということでも「それから」ですし、以降の作品へ大きく舵を切った意味でも「それから」な作品です。

『こころ』

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連載百年 今、改めて向き合う

『こころ』以降、漱石の著作は随想集『硝子戸の中』と、自伝的小説『道草』、未完に終わった『明暗』しかありません。
『こころ』は漱石の最後の小説、集大成と呼ばれてもいい作品です。

「先生」が明治天皇崩御と乃木大将の殉死を契機に自死することを示唆して物語は終わります。つまり「先生」は大正に変わった直後に亡くなったはずですが、作品の初めの方で先生の死から数年を経ていることがわかります。漱石は数年、あるいは十年後の未来から過去を見るようにこの作品を書いたと言えます。
また、乃木大将の夫人は「静子」という名前でしたが、先生の奥さんも「静」です。乃木大将は殉死する際に妻とともに逝きましたが、先生は妻を残して逝きます。
この一致と不一致は漱石があえて行ったものです。漱石の意図を想像しながら読むのも、楽しみのひとつです。

明治を代表する日本人の一人、夏目漱石

漱石は元号が明治となる前年の1867(慶應3)年に生まれ、1916(大正5)年に亡くなります。明治に生まれ、明治に生きた人物といっていいでしょう。
その明治の代表のような人物が、後の世代に書き遺すと内容だからこそ、『こころ』はいまだに多くの人の心をとらえるのかもしれません。

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