「奨学金」は悪なのか?あるいは借金との付き合い方について。
ここ数年、奨学金破産のような記事やニュースを結構目にするようになったと感じます。
「くれるものだと思っていたら借金だった!騙された!」「破産者が出る制度は、悪!」といった感情的な論調も見受けられますが、フラットに考えると総じて借り手にとって非常に優しい制度だと思っています。
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奨学金破産などのニュースを見ると、奨学金制度=金に困った弱者に借金を背負わせて搾り取る冷酷無慈悲な制度だと反射的に考えてしまう人もいるようですが、個人的にはまったく賛同できません。本記事ではその理由を説明していきます。
もしこれから奨学金や教育ローンの利用を考えている親御さんなどがいれば、エッセンスレベルの解説となりますが参考にしていただければ幸いです。
なお、本記事での「奨学金」とは、「日本学生支援機構」が提供する奨学金制度を指します。
結論:奨学金制度は「借り手有利の制度」
まず最初に、奨学金は基本的には借金です。無利息だったり利息付きだったりしますが、どれも返済しなければならないものです。「くれると思ってたのに借金だった!」と騒いでいる人には、ちゃんと契約書を読んでおくべきとだけ言っておきます。
低金利・無担保・必要な人に貸与
見出しの通り、奨学金は有利子のものであっても非常に低金利であり、担保(返せなくなった時にはこれをもらうぞ、というもの)も不要、所得審査も「お金持ち"じゃないこと"」をチェックするためとなっています。
なお、連帯保証人および保証人(債務者が返せなくなった時に代わりに返済義務を負う人)が必要にはなりますが、これは借入を行う以上仕方のないことだと思います。
両親や親戚などが(連帯)保証人になることと思いますが、もし保証人を用意できない場合には別途保証料の負担が生じる代わりに機関保証を利用することができます。この保証料が借入金額の〜6%程度かかるということについては、個人的には高いなと感じます。
しかも、保証料を払っていたとしても返済困難時に借入がチャラになるわけではないので注意が必要です。
※日本学生支援機構HPより抜粋
金利の話に戻りますが、上記が直近の貸出金利となります。個人が無担保で変動年利0.10%/20年固定年利0.63%で借りられるって普通ならまずありえないことです。
金利は、返済が見込みやすい相手に貸す場合には低く、返済不能になる可能性が高そうな相手に貸す場合は高くなるのが大原則ですので、まだ働いてもいない学生に対して0コンマ数%で貸し出すってすごいことです。
ちなみにソフトバンクが最近発行した5年社債は年利1.36%でした。期間の違いなどがあるので本来単純比較はできませんが、ソフトバンクが5年以内に倒産する可能性といち学生が将来借金を返せなくなる可能性、どちらが高いかを考えると奨学金制度の優しさがわかるはずです。
もちろん金利はその時点での情勢によって変わってくるものですが、最高でも年利3.00%の上限が設けられているのも借り手有利だと感じます。
破産者が出るのは、審査基準が通常の借金と「真逆だから」
借り手にとって非常に優しい奨学金制度ですが、ニュースなどで取り上げられている通り返済不能に陥る人が増えているようです。その大きな原因は、貸し手のポジションの違いによる入口での審査基準の違いだと思っています。
「返せる人」に貸すのが民間金融機関、「必要な人」に貸すのが公的機関
見出しの言葉に尽きると思います。
通常、銀行などのローン審査では、借入を返済できるだけの安定した収入が見込めるかどうかをチェックします。
一方、奨学金の審査においては、借入を本当に必要としているかどうかをチェックします。銀行とは真逆で、お金持ちだと借りられないということです。
※日本学生支援機構HPより抜粋
※有利子の奨学金の場合
ドラマ『半沢直樹』でも、「銀行は晴れの日に傘を差し出し、雨の日に傘を取り上げる」などと揶揄されていました。余裕のある人には貸すけど、本当に困っている人には貸さないということです。
これは問題である一方で、差し出す「傘」は利用者から集めた預金ですので、簡単には貸せないというのもまた事実です。
公的機関の制度である奨学金は、困っている人に行き渡るように設計されていますが、その原資は我々の税金であったり民間金融機関から集めた預金だったりするので、返済困難者が増えるのは問題だと言えます。
奨学金破産を防ぐのであれば、「一定以下の学歴には貸さない」などのスクリーニングが生じるかもしれない
奨学金破産を減らそうと思ったら、返済可能性の低そうな学生に対しては貸出を行わない、貸出金額を低くする、といった措置を行う必要があると言えます。
そんな審査が導入された時にどこをチェックするかというと、真っ先に学歴が見られると思います。
「その大学に借金してまで進学する価値があるの?」と問われるということです。
不愉快に思う人もいるでしょうし、「学歴が低くても稼いでる人はたくさんいる!」というのも事実ですが、統計的に算出すると多分学歴スクリーニングが妥当というところに落ち着く気がしています。
個人的には、一番奨学金の恩恵を受けているのは「大卒」と呼べるのかすら怪しいような名も知らない大学の職員ではないかと思っています。卒業してもよい仕事に就ける可能性が低く、それでも学費は一丁前に徴収するんですから。
Tips:「教育ローン」との違いは?
ここで、奨学金制度と金融機関の教育ローンを簡単に比較してみます。それぞれ長所と短所があるので、状況に応じて使い分けて欲しいと思います。
教育ローンは奨学金に比べて高金利
営利企業である金融機関の教育ローンは、公的な奨学金制度に比べると間違いなく高金利だと言えます。
この記事を執筆している現在であれば、おおよそ年利3.00%前後が一般的だと思います。国の教育ローンであっても年利2.00%以上は取られるでしょう。
奨学金制度では現状年利0コンマ数%ですので、借入金額にもよりますが総返済額は百万円レベルで変わってくるかもしれません。
また、返済金利の決定時期も異なっており、教育ローンであれば契約のタイミングで金利が決定します。一方、奨学金の場合は貸与が終了(卒業など)したタイミングで金利が決まるため、教育ローンに比べて不確定要素があると言えます。(それでも、金利が安いのはほぼ間違いありません)
教育ローンは奨学金に比べて貸出がスピーディ
申込から貸出が実行されるまでのスピードで言えば、教育ローンの方が間違いなく速いと思います。
私立大学などにありがちな、「合格が決まってから◯日以内に入学金を振り込まないと合格を取り消す」といった殿様条件に応じなければならない際には、教育ローンの利用が適していると言えます。
金融機関にもよるかもしれませんが、預金の印鑑で申し込めるために印鑑証明が不要という場合も多く、源泉徴収票などの書類をきちんと準備して問題が無ければ申込から3営業日くらいで融資を受けられます。多分。
借り手と貸し手、それぞれにとっての「有利な借金」と「不利な借金」がある
奨学金や住宅ローンは借り手にとって有利な借金
ここまで本記事で紹介してきたように、奨学金は借り手有利な商品だと思っています。
他にも、住宅ローンなども借り手有利の代表格です。いち個人が借りるには非常に低い金利で長期間借りられる上に、また、債務者が亡くなったら残債がチャラになるので残された家族にはローンによる金銭的負担はゼロです。
ちなみに某プロブロガーのイケダハヤト氏は35年住宅ローンをディスり倒していましたが、ちょっと意味がわかりませんでした。
そろそろギャグになってきましたよね。35年ローンって。 35年間、借金を返し続けるの?w
貸し手にとって有利な借金の代表格はリボ払い
クレジットカードのリボ払いなどは、圧倒的に貸し手有利な商品です。
借り手は毎月の支払額をコントロールすることはできますが、そもそもの利率が非常に高く、元金が全然減ってないということもままあります。利息だけをせっせと支払い続ける最高のお客さんになってしまっていないかは注意が必要です。
クレジットカード会社各社においては、(言葉は悪いですが)金融リテラシーが低いターゲット層に向けてリボ払いへの切り替えをプッシュしていることと思います。1名のリボ払い利用者から見込める利益が、それ以外の利用者100名分、といったことも冗談ではなくあり得るでしょう。
数字などの条件からフラットに考えよう!
借金は、うまく付き合っていけると人生の自由度を広げてくれるものだと思います。
「借金=悪」と短絡的に捉えるのではなく、条件や内容をきちんと理解してそれが自分にとって有利なのか不利なのかをフラットに考えることが大事だと思っています。
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この記事のライター
慶應→金融→Web89年世代。幼少期からアニメと漫画に触れながら育ち、高校時代は2年半ほどネットゲームを毎日6時間以上という生活を送っていました。読みやすく納得感のあるものを書いていきたいと思っています。