公道で使えるモータースポーツ由来のドライビングテクニック10選
レーシングドライバーがレースでおこなっている、車を速く走らせる技術を応用し、日常のドライブを、より安全に、より楽しくするためのテクニックとしてご紹介します。
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より速く より安全に走行するためのテクニック
レーシングドライバーがレースでおこなっている技術というのは、なにか特殊なことをしているような印象を受けますが、自動車の操作方法という点に関しては、私たちが日常で運転していることとほとんど違いはありません。
アクセルペダルを踏んで、シフトレバーを操作し、ステアリングを切って、ブレーキペダルを踏むという単純な操作。
違うのは、その一つひとつの操作の意識と精度の違いです。
よく考えれば基本的なことなのだけれど、自動車教習所では教えてくれない、より安全に車を走らせるモータースポーツ由来の10のテクニックをご紹介します。
全ては最適なシートポジションから
出典:pixabay.com
レーシングカーのシートやステアリングなどの操作系統は搭乗するドライバーの体に合わせて調整されるのが常識です。無理な姿勢で操作すれば、僅かな集中力の乱れや操作の遅れが確実にタイムに響いてくるのです。
シートポジションは車を運転する上で何よりも重要です。
しかし、どんなに重要でも、一般の車にオーダーメイドの身動き取れないレース用のシートを奢るのは非現実的ですから、標準のシートでも正確な操作ができるシートポジションの取り方をご紹介します。
ポイント1: 腰をシート奥にめり込ませるように座ること
クッションの柔らかいシートや、浅く腰掛けていたりするとブレーキペダルの反力で体が押し返されてしまいます。その結果、ブレーキが効くタイミングが遅れるなど、正確なペダル操作が出来なくなってしまうのです。
ポイント2:ステアリングの反対側を握ってリクライニングを調整
つまりステアリングを両手で普通に握っての右手で左手の位置の位置をつかんで肩がシートバックから浮かないようにします。
理由はポイント1と同じく正確なステアリング操作をするためです。
ここまでの調整で少し窮屈に感じると思いますが、実際に走ってみると意外に気にならないものです。
ポイント3:姿勢は正しく、頭は常に垂直に保つこと
耳の中にある三半規管という器官は身体のバランス感覚をとるための機能を司ります。頭が傾くと、三半規管が上手く機能しなくなり、車の正確な状態を把握する事が難しくなるのです。
また、姿勢を正すことで長距離ドライブでも疲れにくくなります。
体型やシートの作りによっては、完璧なポジションが取れず、3つのポイントの中で妥協点を探ることになると思いますが、最近の車は人間工学が考慮され、かつてほど無理な運転姿勢をとらせる車は少なくなりました。
また、朝と夕でも姿勢は違いますので、特にリクライニング位置はその時々で調整すべきだと思います。今の姿勢は安全に運転する上でベストポジションか?という普段からの問題意識が大切です。
ステアリング操作のいろは
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レーシングドライバーはどんなステアリング操作をしているのでしょうか?
素早く切ったからといって速く曲がれるということはありません。
未舗装路を走るラリーでは小刻みに素早くステアリングを操作しますが、それでもしっかりとステアリングから伝わるタイヤの状態を感じながら適切な操作をしているのです。
ステアリングの操作方法は、「押し」か「引き」かで意見が分かれるところですが、絶対的に「押し」を推薦します。
その理由は人間は引くの方が強い力が出せるため、微妙なステアリングの重さを感じ取ることができなくなってしまうためです。
右に曲がる場合は、左手を押し上げてステアリングを切る。その際、ステアリングの重さを意識してください。ステアリングの重さ=フロントタイヤと路面との食いつき具合なのです。
シートポジションがしっかりしていれば「押し」操作だけでステアリングを180°回せるはずです。持ち手を変えずに小さな交差点も曲がれるので、市街地を走っている分にはステアリングを持ち替える必要がなくなります。それはすなわち、持ち替え時の僅かな操作不能状態をなくすことで事故のリスクを減らすことにつながるのです。
峠道などの急なヘアピンカーブでは、反対に「引き」を使います。
ただ引くのではなくて、右ヘアピンなら、カーブ手前で右手を反対側の時計でいう10時付近をつかんで素早く引く。そして不足分は左手の「押し」で操作することで、素早く大きな蛇角をタイヤに与えることができる上、コーナリング中は左手でタイヤの食いつき具合を確認しながら微調整ができるというメリットがあります。
一定速度を保つ難しさ
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意外に出来ない人が多いのが車速を一定に保つということです。
車はギア比や、空気の抵抗、路面の勾配などでアクセルペダルを一定に踏んでいても車速は絶えず変化してしまうものです。
速度を一定に保つことを意識して、必要に応じたアクセルの微調整する感覚を養いましょう。
大パワーのエンジンを搭載し、タイヤを限界まで使うレーシングカーは、ほんのわずかアクセルの踏みすぎでスリップ、はたまたスピンしてしまうのです。
雪道を走ったことのあるドライバーならそれがよく分かるのではないでしょうか。
車速一定キープの繊細なアクセル操作は省燃費にも貢献します。
もし、すべてのドライバーが一定の速度で走ることができたのなら、高速道路のサグ部渋滞(勾配での速度が低下が引き起こす渋滞)も少なくなるのではないかと思います。
踏力一定ブレーキング
レースをする上で一番難しいとされるのがブレーキテクニックです。
サーキットでの200km/hオーバーからのフルブレーキはどこからブレーキを踏むかが問題です。
早すぎればタイムロス。遅すぎればコースアウト。
さらに、少しでもバランスを崩せば、レーシングドライバーですらどこに車が吹っ飛んでいくか予測がつきません。
一般道でも、慌てて急ブレーキ踏んでしまうパニックブレーキの果ての交通事故が後を絶たないのが現実です。
そこで簡単にブレーキテクニックを磨く方法をご紹介します。
その名も「踏力一定ブレーキ」です。
まず、公道で行う場合はくれぐれも前後に車がいないことを確認してから行ってください。
一定速度で走り、前の信号が赤になったら、ブレーキを踏む力を一定にしたまま停止線で止まる。これだけです。
ただし、ブレーキの踏力をわずかでも調整してはいけません。一定の踏力、一定の減速Gになるようにします。
人間の能力とは素晴らしいもので、この訓練を続けると、目標位置で止まるためにはどこからブレーキを踏めば良いか予測出来るようになるのです。逆にいえば、今のスピードでどれだけの強さでブレーキを踏めば、どこで停止できるかも分かるのです。
慣れると、ブレーキの安心感が全く違います。初めて通る山岳道路などでも、まるで走り慣れた道のようにスムースに走り抜けることができるようになるでしょう。
シフトチェンジはニュートラルを意識
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コンマ1秒を争うレースの世界では素早いシフトチェンジが求められます。しかし、速すぎたり、力まかせの無理なシフトチェンジをするとトランスミッションを壊してしまい、レースはそこで終わってしまいます。
公道では素早いシフトチェンジは必要ないので、常にトランスミッションをいたわりながら確実な操作を心がけましょう。
特に3速から4速への切り替え時には注意が必要です。
ただ前から後ろに引くだけなので、多くの場合シフトチェンジが速すぎてミッションを痛めやすいのです。
レバーを抜いたら、一瞬ニュートラルで止めて、入れる。という一連の流れを意識しましょう。
回転数さえ合っていれば、シフトチェンジに力は不要で、吸い込まれるように入ります。
また、クラッチペダルは足の真ん中付近で踏んでしまいがちですが、親指の付け根付近で踏むことで微調整がしやすく。シフトショックのないスムースな変速が可能です。
現在はレースシングカーですら自動変速が主流で、市販車でもデュアルクラッチ式のトランスミッションが登場し、変速の速さでは、もはや人間が敵わない領域まで進化しました。
しかし、変速ショックという点ではまだまだ熟練した人間のシフトチェンジの方に分があります。
シフトダウンの妙技・ブリッピング
ブリッピングとはあまり馴染みのない言葉ですが、要するにシフトダウン時に、クラッチを切っている間にアクセルを煽って回転数を上げ、タイヤの回転数に応じたエンジン回転数に合わせてクラッチをつなぐマニュアルトランスミッション特有のテクニックです。
低回転で走行中、追い越し加速が必要になったときなど、ただクラッチを切ってシフトダウンすると、ガクンと急激なエンジンブレーキにより、駆動系を痛めてしまいます。
そこでシフトダウンの合間にブリッピングを挟むことで変速ショックのないスムースで素早いシフトダウンが可能になり、低いギアでの加速体勢へと即座に移れるのです。
ヒール・アンド・トゥ
マニュアルトランスミッションでモータースポーツをする際に外せないのがヒールアンドトゥというテクニックです。
つま先(トゥ)でブレーキを踏みつつ、カカト(ヒール)でのアクセル操作でブリッピングをしてエンジン回転数を合わせ、シフトダウンとブレーキを同時におこなうテクニックです。
ヒールアンドトゥを使うことで、カーブ手前のブレーキ・シフトダウンで車の挙動を乱すことがなくなります。
そして、コーナリング中は最適なギアが選択されているので、車体が安定するというメリットがあります。
ただし、複雑な動作のため熟練にはかなりの時間を要します。
ブレーキの踏み込みが浅かったり、クラッチをつないだままアクセルを煽れば、交通事故を起こしかねません。
100%の確率で成功できるようになるまで公道での使用は厳禁です。
理想的なライン取りを常に考える
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サーキットを走る上で欠かせないのがライン取りです。
カーブでは、より遠心力の働かない緩やかな円を描いて走行するのが理想的なので、アウト・イン・アウトと呼ばれる走行ラインがベストということになります。
カーブの入り口では外側から進入し、カーブの頂点付近では内側を走り、出口で再び外側を通ることで、できる限り最大半径を描き、車に働く遠心力を最小限にとどめるのがアウト・イン・アウトのライン。
しかし、公道の見通しの悪いカーブでは対向車が来ているかもしれないので実際にはアウト・ミドル・イン(外側から緩やかに内側へと移るライン)がより安全でしょう。
ただし、前車が通ったライン以外の場所は砂利や釘などが落ちていたりすることがありあますし、イン側に寄りすぎていると、飛び出してくる人や動物に対応できなくなる恐れがあるので、その時々の状況に応じたラインを選ぶことが重要です。
侮るなかれドライビング・シミュレーター
安全に車を走らせるためには、車の動きを理解する必要があります。
コンピュータの性能が飛躍的に上がった最近のレースゲームは、実際の車の挙動とほぼ同じ動きを実現しています。
ソニーコンピュータエンタテイメントが販売するグランツーリスモをはじめとする、ドライビング・シミュレーターと呼ばれるレースゲームは、どんな操作をすれば車がどう動くのかということを、最も手軽に理解できる手段です。
実際に、ゲームが上手なプレイヤーを選抜してレーシングドライバーを養成する「GTアカデミー」という企画が日産自動車主催でおこなわれ、何人ものプロのレーシングドライバーが誕生しているのです。
ドライバーとしての鋼のメンタルはつくれる
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レーシングドライバーもそうですが、一般のドライバーであっても、運転中は平常心を保つことが最も重要です。
安全のためには、事故を起こすような運転をしないことが第一。
そして事故を起こしそうになった時に、いかに冷静で的確な対処ができるかが安全運転の最終手段です。
的確な対処ができずに起こる事故を防ぐには、それを一度体験してしまうことです。
一度、または定期的に、サーキットやジムカーナ場を借りて、安全な環境で危険な状態を体験してみましょう。
そうすることで、不用意に挙動を乱した際の、車と身体にかかる強い力によるパニックを防ぎ、的確なリカバリーができるようになります。
「失敗は成功の元」とよくいわれますが、人間は一度でも経験するとその経験が記憶に刻み込まれ、次に活かせるようにできています。
そして非日常な経験でも、繰り返し経験する事で、それが日常になります。
レーシングドライバーと一般ドライバーの最大の違いは、技術の差以上に、運転経験の差だといえるでしょう。
運転をより安全に より楽しく
以上、公道で使えるモータースポーツ由来のドライビングテクニック10選をお届けしました。
自動車技術の進歩の歴史は、常にモータースポーツと共にありました。
普段のただ漫然とした自動車の運転が、モータースポーツのテクニックを取り入れることで、こんなにも刺激的で奥深いものになるということが伝わっていただければ幸いです。
自動運転技術の進歩著しい昨今ですが、その裏を返せば、人間が自動車をしっかりと操ることができないという現れでもあります。
一人ひとりのドライバーが、もう少しだけ自動車というものを理解し、真摯に向き合うことができれば、自動車における悲しい事故や様々な問題が少なくなるのではないかと思います。