美術展に新たな潮流?新しい価値の創造をテーマに掲げた展覧会3選

現在、同時開催されている3つの美術展。取り上げているテーマは違うのですが、底に流れるコンセプトが共通しています。「既存の評価や価値を見直し新たな価値を見つけ直そう」というもの。これらは単なる偶然の一致なのか、あるいは、美術界におこった新たな潮流なのでしょうか?切り口が共通している美術展を紹介します。

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アイキャッチ画像出典:www.photo-ac.com

既存の価値を打ち砕き、新たな視点を示したチャレンジャーな企画3選 

今年に入って、各美術展が取り上げているテーマに、一種の変化があるように感じていました。それは、そんなこと、言ってしまっていいの?と思うような言説を耳にしたり、美術番組では、その映像を流すのか…というものも目にしています。

何かが変わりつつあるのでしょうか?そこに現在、開催中の美術展も、チャレンジャーな企画で攻めていると感じさせられました。その3つの美術展をご紹介いたします。


1.「縄文ー1万年の美の鼓動」東京国立博物館

縄文土器。そこに新たな価値を見出したのは、岡本太郎です。それまで、縄文土器は考古学の世界の研究対象で、美術品としての価値は認められていませんでした。

既存の価値に対して、新しい価値を見出す目。岡本太郎は芸術家という立場から、縄文土器に美を感じ論文にしたそうです。やっと陽の目を見たようなのですが、世間に浸透するには、まだまだ時間がかかりました。

そんな縄文にスポットをあて、縄文ってアートでしょ。縄文人ってすごいよねというメッセージがバシバシ届いてくる展示でした。


美術展紹介記事

一流ビジネスマンは縄文人に学ぶ 東博・縄文展から読み解く成功のヒント | モモモサーバー

縄文が密にブームの兆しと耳にします。東京国立博物館では特別展「縄文ー1万年の美の鼓動」が始まりました。燻るブームの火種を大きく燃え上がらせそうな予感。展示の目玉は、現在、国宝指定されている縄文の出土品6件が全国から集結します。縄文の美意識や暮らしぶりから学べること。また展示を通して、ビジネスのヒントも探ってみましょう。

展覧会情報

展覧会名:特別展「縄文―1 万年の美の鼓動」
会  期:2018年7月3日(火)〜9月2日(日)
会 場 名:東京国立博物館 平成館
住  所:東京都台東区上野公園13-9
問い合わせ先:03-5777-8600(ハローダイヤル)

2.「モネ それからの100年」横浜美術館

モネと言えば「睡蓮」そして「印象派の巨匠」 しかし、モネには次の時代を先取りした、絵画の潮流の一滴を、作品の中に垂らしていたのです。晩年に描いた睡蓮の中に、描かれています。

モネの死後、時を経てアメリカで抽象主義が台頭します。その裏では、モネが先鞭をつけて垂らし込んでおいた一滴が、地下水のようにじわじわと浸透しながら、時を経て表に湧き上がってきたかのようです。

モネを捉え直す様々な切り口は、時代を追いつつ、形を変えて提示されています。新たな価値をいかに抽出していくか。参考になりそうです。

モネの評価の見直し。モネは印象派だけにとどまっていませんでした。そしてその影響力は、今尚続いており、現代美術作家がリスペクトしたり、無意識のうちに影響を受けて作風に現れているということがおきています。

美術展紹介記事

「モネ それからの100年」私が見つける新しいモネ ビジネスの着眼点も見つけよう

「モネ それからの100年」私が見つける新しいモネ ビジネスの着眼点も見つけよう

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印象派を代表するモネに、新たな視点を加え再発見を試みた展示。モネに通底する特徴を捉え直し、現代作家が受けた影響を抽出して、作品を並列展示しました。調査段階でおなじみのモネ作品に、数々の発見があったと言います。しかしまだまだ発見はあるはず。サブタイトルは「私がみつける新しいモネ」鑑賞者もモネの魅力を引き出してみましょう。

展覧会情報

展覧会名 :モネ それからの100年
会  期 : 2018年7月14日(土)〜2018年9月24日(月・休)
会 場 名 : 横浜美術館
住  所 : 横浜市西区みなとみらい3-4-1
問い合せ先:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間 : 10:00〜18:00
※ただし8月10日(金)、17日(金)、24日(金)、31日(金)
9月14日(金)、15日(土)、21日(金)、22日(土)は20:30まで
※入館は閉館の30分前まで
休 館 日 : 木曜日 ※ただし8月16日は開館



3. ルドン ひらかれた夢ー幻想の世紀末から現代へ

奇妙な絵、孤高の画家と認識されているルドン。内に閉ざされたイメージで受け止められることの多いルドンを、再度、とらえ直そうという試みでスタート。近年の研究により、これまでのルドンのイメージとは違う側面が見えてきました。

同時代の美術や文化と比較することでルドンの新しい顔を浮き彫りにします。印象派とは一線を画しているようでいて、印象派のような色彩で描いていたり、最新の科学の知見を取り入れた上で、創出された奇妙な絵であったり・・・・ 自分自身をセルフプロデュースする客観性も持ち合わせ、奇妙な絵は、同時代の印象派との差別化であったり・・・・

これまで出来上がってしまった孤高の幻想画家という神話を覆す画期的な展覧会です。

美術展紹介記事

ポーラ美術館「ルドン ひらかれた夢 ―幻想の世紀末から現代へ」 | インターネットミュージアム

これまでルドンのイメージは、奇妙な絵を描く人。外的影響を拒絶した「孤高の芸術家」、心の奥の世界と向き合った画家。そんなレッテルが張られていました。近年の研究で、近代科学に目を向け、様々な情報を収集し、外部の影響を絶っていたわけではないことが判りました。ルドンと言えば、奇妙な目玉。その目は、何を見ているのでしょう。ルドンの描いた目や視覚に注目してみます。

展覧会情報

展覧会名:ルドン ひらかれた夢ー幻想の世紀末から現代へ
会  場:ポーラ美術館
開催期間:2018年7月22日(日)~12月2日(日)
館 日:会期中無休 ※ただし9月27日(木)は展示替えのため休室。(常設展示のみ観覧可能)
開館時間:9:00~17:00(入館は16:30まで)
所在地: 神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
問い合わせ:0460-84-2111(代表)


既存の殻をやぶるむずかしさ

出典:www.photo-ac.com

これまでの評価や価値を見直し、新たな価値を創造する。ビジネスにおいても新たなものもを創造するときのヒントとなる捉え方です。しかし実際にそれを行おうと思うと「言うは易く行うは難」ということもあるかもしれません。

長年、慣れ親しんだ評価から脱却するということは、既存の価値や捉え方との間に摩擦が生まれることもありそうです。新たな価値を加えることができても、それを納得させていく必要もあります。

また、革新的なとらえ方をしたとしても、それを世に出すタイミングというものもあるかもしれません。今回、奇しくも同じような切り口の美術展が並んだことは、単なる偶然だったのか、あるいは期が熟したという判断が美術界にあったのでしょうか・・・・

学芸員さんに伺ってみました

最後の取材となったポーラ美術館の東海林洋学芸員にお聞きしました。

海外では1980年頃から評価の見直しが見られ、1990年代に高まったそうです。そして最近になって、日本にも入ってきました。これまでのマンネリ感に飽きていたことも重なり、新たな価値を与えるというコンセプトが並んだのかもしれません。

そして「自分はこう感じた」と言っていいという風潮が高まってきたことも大きいというお話を興味深く伺いました。社会的な背景も大きく影響をしているというのは、興味深いお話でした。

美術作品が社会の影響を受けて生み出されるのと同じように、展覧会の企画というのも、時代の背景が影響していること。それを受けとめる私たちの習熟度などのニーズによって、タイミングもあるということが見えてきました。

美術展の企画は何年も前からスタートします。今、行われている展示は、数年前に、今のトレンドをキャッチして進められているということを考えると、先見性というのは、その先の先を見ていないといけないことが判ります。

ファッション業界も前倒しでトレンドが語られます。トレンドを語るさらに前に、流行色カラーや素材の選定に始まり、生地の発注など、相当、前倒しで準備が進められています。

女性の美容化粧品なども、今年のトレンドは・・・・ とキャッチコピーが並びます。しかしその商品の研究は10年前からスタートしています。先の先を見越した仕込みをしながら、変化をどう読み商品に落とし込むか・・・・

先の先を常に想定して未来のトレンドを予測しながら動くビジネス。美術展の企画の中にもビジネスに共通しているヒントが潜んでいそうです。


3つの美術展に通底していると感じたこと

出典:www.photo-ac.com

これらの3つの美術展を見て共通していると感じられたことは、「見る」ということをその時代でどうとらえているかということでした。

縄文時代の「見る」は、五感の一つで、生きていくために一番重要な感覚だったのではないでしょうか?その見るということを担う「目」という感覚器の重要性を「遮光器土偶」で表したのではないかと思いました。

そして、ルドンの目を見た時も、縄文人と同じなのではと思いました。原始の視覚をルドンも見ています。時代を経ていますが、「目」という器官に着目して表現しているのではと思われました。目の前に映し出される世界。その世界を映し出す「目玉」をルドンは一杯、描いています。

縄文人とルドン、表現しようとするものの根底にあるものは同じだったのではないでしょうか?


そしてルドンと同時代のモネ。モネの目については、セザンヌの言葉が代表的です。「モネは一つの目に過ぎない。しかし何という目だろう!」

これはモネの目について語った言葉です。しかし同時に、セザンヌ自身がどのように見ているかも語った言葉という解釈もあります。

縄文から現代の美術をたった3展ですが同時に見ると、そこに通底しているものが見えるように感じられました。それは「いかに見るか」ということです。美術というのは、「いかに見るか」それに尽きると思いました。そこに大きく立ちはだかっているのが、人間の器官「目」 古代から人は目というものを意識し、どうやって見るのか、どうして見えるのか・・・・ そんなことを考え続けてきたのではないでしょうか?

そして人体は、感覚の最重要器官と思われる目を失ったとしても、その他の器官が代行して補って補完機能を備えています。そうしたすばらしい人体の仕組みを、モネが身をもって実証してくれました。

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ライター 著書は10冊以上。VOKKAでは専門を離れ、趣味の美術鑑賞から得られた学びや発見、生きるためのヒントを掘り起こしていきたいと思います。美術鑑賞から得られることで注目しているのが、いかに違う視点に触れるか、自分でも加えることができるか。そこから得られる想像力や発想力が、様々な場面で生きると感じています。元医療従事者だった経験を通して、ちょっと違うモノの見方を提示しながら、様々な人たちのモノの見方を紹介していきたいと思います。美術鑑賞から得られることは、多様性を認め合うことだと考えています。

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