【カタチの不思議】20世紀陶芸の変革者ハンス・コパーの世界

陶芸というとちょっと年配向けというイメージがありますが、現代陶芸はそんなイメージを覆す色彩的にも造形的にも刺激的な作品がたくさんあります。その中でも20世紀陶芸を変革したと言われるハンスコパーをご紹介したいと思います。

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【造形のマジシャン】ハンスコパーとは?

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20世紀を代表する陶芸家ハンス・コパー。まずは独自の作品世界を作り上げた彼の半生を概観していきたいと思います。

ルーシー・リーとの出会い

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20世紀を代表する陶芸家ハンス・コパーは、1920年ドイツに生まれました。ユダヤ人であった彼は第二次世界大戦の戦禍を逃れるために、祖国ドイツを離れイギリスへ渡ります。そこでのちのパートナーとなるルーシー・リーと運命の出会いを果たします。ルーシー・リーは彼の陶芸の師であり、生涯の盟友でした。
当初はルーシー・リーがハンス・コパーに陶芸の手ほどきをしていたのですが、ハンス・コパーの造形的創造性とろくろ回しの才能はルーシー・リーをはるかに凌駕する才能を持っていたと言われています。それを象徴するかのように、ルーシー・リーが他の陶工のところへハンス・コパーを研修に行かせたら、なんと数日でおおよその技術を習得して戻ってきたという逸話も残っています。そんなハンス・コパーの急成長もあり、二人は制作パートナーとして、デザインと色付けをルーシー・リーが担当し、ろくろをハンス・コパーが回すという、まさに二人三脚で陶芸作品を作ることになります。

独立から晩年期

そんな制作環境の中で二人は互いが互いに影響を与え合い、ルーシー・リーは渡英後、批判的に評価された自身の作風を洗練させ、高い評価を得ることになり、ハンス・コパーはその後独立して作品制作を行います。そして二人は20世紀最大の陶芸家と称され、その作品は陶芸界に大きな変革をもたらしたのです。
しかしそんなハンス・コパーも晩年には「筋萎縮性側索硬化症」という難病に冒され、体の自由を徐々に奪われていきます。そんな状況でも彼は作品制作に妥協をせず、気に入らない作品は割ってしまったので、作品は多くは残されていません。しかし、そんな彼の姿勢が、独自の作風をさらに昇華させた造形美を作り上げました。

死後〜なぜハンス・コパーは有名ではないのか?

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現代陶芸に興味がある方ならばルーシー・リーという名は一度は聞いたことがあるでしょう。ルーシー・リーは日本における民藝運動(※)を牽引した柳宗悦などとも交流があり、日本でも有名だからです。一方でハンス・コパーも柳宗悦などと交流はあったにもかかわらず、日本ではほとんどその名を知る人はいませんでした。その理由は彼の遺言にあります。彼は死後、作品以外に自分の生をこの世に遺すことを嫌い、すべて焼却するようにと妻に遺言を残したのです。したがって、当然自著などは存在せず、また彼の思想やコンセプトを読み取ることのできるテクストもなかったため、作品でしかハンス・コパーに触れ合うことができなかった、というのが20世紀最大の陶芸家でありながら、あまり有名ではない理由なのです。

※民藝運動とは?
「民藝」とは民衆的工芸の略語で、名もなき職人が制作する日常使用品を意味します。そんな民藝は美術品にも劣らない美しさがあると唱え、生活の中に美があることを再発見する運動を民藝運動と呼びます。

ハンス・コパー作品の特徴と魅力

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ハンス・コパーの作品はその特徴によって4つの時期に分類されます。アルビオン・ミューズ期、ディグズウェル期、ロンドン期、フルーム期、それぞれに特徴がありますが、その全ての根底に流れるのは静謐さと彼と彼が生きた時代を内包し映し出しているかのような力強さにあります。

アルビオン・ミューズ(1946-1958)

ルーシー・リーと共作していた時代です。この時はハンス・コパーの代名詞とも言える彫刻的造形の作品は見られず、コーヒーカップやポットなど実用品も多く見られるのが特徴です。しかし、彼のろくろ技術の高さをうかがわせる非常に薄く軽やかな作り、モノトーンの色付けなど、非常にモダンな作品が多いです。

ディグズウェル(1959- 1963)

この時期、ハンス・コパーは便器や外装タイル、レンガなどを手がけており、陶芸家というよりはインダストリアルデザイナーとしての活動が顕著だった時期でもあります。そのため一般的な陶芸作品というのは多くありませんが、芸術と社会をつなげる役割を果たしており、生活の中に美を取り入れるとはどういことかを考えさせられます。

ロンドン(1963-1967)

いよいよ彼の真骨頂とも言える彫刻的造形を持った作品の数々が生み出されます。これらの作品はハンス・コパーが1960年頃から多用した「合接」という技法で作られます。その結果、砂時計型、玉ねぎ型などハンス・コパー独特の洗練された造形美をたたえた作品が生まれるのです。

フルーム(1967-1981)

晩年のハンス・コパーの作品は少し変化が見られます。今まで独特な造形でありながら「うつわ」であり続けた彼の作品群。それゆえ独特であっても生活の中に溶け込む不思議な優しさがありました。しかし、この時期の彼の作品の中には「うつわ」ではないものもあります。造形のバランスをより追求し美を追い求めた彼の姿勢がうかがい知ることができます。

もっとも独創的でもっとも美しい

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彼の作品は非常に洗練され、非常に繊細でありながらどこかにプリミティブな力強さを感じます。その独特のバランス感覚が私たちを魅了してやまないのではないでしょうか。なかなか目にすることはないハンス・コパーの作品ですが、展覧会などでぜひ鑑賞してみてください。

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