【連載小説】死の灰被り姫 第12話

料理バトル「魚料理」

kaneshiro金城孝祐
  • 2,722views
  • B!
【連載小説】死の灰被り姫 第1話

【連載小説】死の灰被り姫 第1話

金城孝祐金城孝祐

 「では、次の料理を!」大臣が言った。「『魚料理』! 両者、はじめ!」

 ・王女 ヤマメのムニエル レモン添え

 ・王様 アサリとシャコのテリーヌ

 王女は、王様の料理を危機的な眼差しで見つめていた。アサリとシャコのテリーヌ……これで、昼に私が見た、彼女の持っている食材を、彼女は使い切った……あとは、私の未知の食材を使っている……
 それはいったいなんなのか!? アサリとシャコだけでは、テリーヌにはならない! 自給勝負ではゼラチンが使えないから、型にはめて、煮こごり状に固めるには、コラーゲンを沢山含む材料を使うしかないんだ! アサリとシャコでは無理なんだ! いったい、他に何が入っている!? というかだいたい、下層階級出身の私が、どうしてテリーヌについての知識を持っているのだ!? どうしてこうなった!?

 「さて……」王子がヤマメのムニエルにナイフを入れ、フォークで刺して口に運んだ。「おおっ、レモンが効いている。皮もサクサクしているし、身もホクホクだ。まさに釣りたての魚という感じかな。濃厚なスープの後にこういう魚料理は嬉しいね」
 ここまでは計算通りだ……一点勝って、だめ押しの二点めを入れる! そのつもりだった、だが、それが簡単に通じる相手ではないことは、もう分かってる! このヤマメ料理では、攻撃力が足りない! あの正体不明のテリーヌに、はたして太刀打ちできるのか? あと一敗で、私は終わりだ! うかつだった!
 「こっちのテリーヌはどうかな……」王子はテリーヌの一角をフォークで崩して掬い、口に運んだ。それからしばらく黙って、咀嚼した。
 「うん……うん、まあ……」王子はくちごもった。「貝やシャコは味がしみてて、噛むほどによく味わいが深く出てきて、いいと思うんだよ。口当たりも悪くない。でもねえ……」

 王子の曇った顔に、王女は心臓が高鳴った。あいつ、失敗しやがった! まさかの!
 ざまあみやがれ! 妙に凝った料理作ったせいで、うまくいかなかったんだ!
 「なにかご不満でも?」王様はしれっとしている。
 「うーん……どうも、ゼラチンがね、無味なうえにぐにぐにして、邪魔な存在でしかないんだよ。これなら単純に、貝とシャコの炒め物のほうがなんぼかましかなあ」
 「それでは……」しかしなお、彼女は余裕の表情だった。「これならどうでしょう?」
 王様はガスバーナーとグラニュー糖を取り出し、テリーヌにグラニュー糖をたっぷりとまぶして、バーナーに火をつけてあぶりだした。

 「これは、カラメリゼ!」大臣は言った。「グラニュー糖をバーナーで炙る事で溶かし、同時にテリーヌにも軽く火を通す技法! 甘みとともに香ばしさを加え、さらに見た目も飴色に輝き美しくなる! 焦げ目も食欲をそそる! こればかりは、普段から高等な料理に触れ、慣れ親しんだ者にしかできない発想!」
 「ぐ……!」王女は苦虫を噛み潰すようにそれを眺める事しか出来なかった。
 「それでは、いま一度ご賞味いただけますでしょうか?」王様は言った。
 「う、うむ……」王様は完成形となったテリーヌを口に運び、もぐもぐと噛んだ。
 「おっぱああああああアァアアアアアアアアアアァァアァァーーーーーー!!」王子は絶叫した。「こっ! これはどういう事だぁァーーーーーーーーー!!」
 「うふふ……ご満足いただけたでしょうか?」王様は不敵に笑った。
 「ああ! 素晴らしい! うまい! うますぎるぞおおおおおおおお!!」王様は犬のようにテリーヌにがっつき、瞬く間に平らげてしまった。
 「王様……よろしければ、種明かしを」大臣が言った。「砂糖だけの力ではありますまい……」
 「フフ……見ての通り、『温度』です」王様は言った。
 「ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ!!」
 「私の作ったテリーヌはすべて動物性タンパク質でできている! タンパク質は42度でまず変性し、60度前後で固まり始める! だけれど味は、それ以上に敏感に変動する! 温度が五度変わっただけで、別の食べ物になるのよ!」
 「ああ、そうだ……テリーヌはほんのりと暖まった程度だった」王子は言った。「だが、そのほんのちょっとした温度の差が、ゼラチンの味を大きく変えた! 無味無臭だったゼラチンの香りが一気に開き、どっしりとした旨味ととコクに変貌した! それはアサリとシャコを固めていたつなぎ材から、お互いを引き立てあう調味料へと変わったのだ!」

 どっしり……? コク……?
 王女はテーブルにかけより、指で皿に残っていたテリーヌの断片を掬って舐めた。
 「王女! 無礼ですぞ」大臣が叱った。
 「ごめんなさい。でも、今味を見て確信したわ。王様、やはりあなた、このゼラチンを何かの肉から取っているわね!」
 ギャラリー「に……肉から取っただって!?(ざわざわ)」
 ギャラリー「そんな……反則じゃねーか!(ざわざわ)」
 ギャラリー「あの魚介類とゼラチンの比率じゃ、添え物レベルじゃ済まないぜ!(ざわーるど)」
 ギャラリー「反則だ!(わざわざ)」
 「だまらんかい!」大臣が一括した。「判定は王子に一任されているのだ! 下賎の者がざわざわするな! 帰れ! 文句がある奴は帰れ! 帰れ帰れ!」

 「いえ、いいのよ」王様は言った。「この勝負、反則負けを認めるわ」
 「えっ……」大臣は青々となった。「ど……どうして?」
 「むしろ、肉の使用に誰も気づかなかったらどうしようと思ってたのよ。あれは、動物の皮を煮込んで取ったコラーゲン。そういうこと。……そして、本当の勝負は次の『肉料理』よ。この最後の勝負で、王女、あなたを完膚無きままに叩き殺し、今度は四肢をばらばらにして捨ててあげるから!」
 動物の皮……王女は真っ青になった。さっきの牛テールスープといい、やはりこいつ……
 となれば、次の「肉料理」も……
 まずい……

【連載小説】死の灰被り姫 第13話

【連載小説】死の灰被り姫 第13話

金城孝祐金城孝祐

この記事のキーワード

この記事のライター

金城孝祐

小説家。「ネオ癒し派宣言 劇団無敵」主宰。油絵も描いてる。

関連する記事

あわせて読みたい

kaneshiro
金城孝祐

小説家。「ネオ癒し派宣言 劇団無敵」主宰。油絵も描いてる。

feature

ranking

new

partners

星野リゾート(公式)

星野リゾート(公式)

星野リゾートの公式アカウントです。星野リゾートでは、自然や文化、食など、その地域の魅力に触れる様々な体験をご用意しております。すべてのお客様に「ここに来てよかった」と感じていただきたいという気持...

TATRAS & STRADAEST(公式)

TATRAS & STRADAEST(公式)

TATRAS&STRADA ESTはビジネスもホリデーも同じく楽しむ大人にファッションを通じて新しい喜びを発見して頂ける様に目指しているセレクトショップです。“Hi Quality”“S...

writers

eri11151

eri1115

旅行と食べること、ファッションが好き。インドア派でアウトドア派のフリーライターです。生まれは四国、大学で東京へ行き就職で大阪へ。転々とする放浪癖を生かして様々な地域の記事を書いています。

VOKKA編集部グルメ班2

VOKKA編集部グルメ班

VOKKA編集部グルメ班です。本当に美味しい名店だけをご紹介できるよう日々リサーチいたします。

ハングリィ3

ハングリィ

広告代理店勤務。基本的に好奇心旺盛。筋トレや美容、ヘアスタイルなどメンズビューティーに凝っています。

kumakumaillust4

kumakumaillust

イラストも文章も手掛けるフリーのイラストレーター。

斉藤情報事務5

斉藤情報事務

信州の曲者が集まるCLUB Autistaに所属する道楽者。車と酒と湯を愛し、ひと時を執筆に捧げる。

05micco6

05micco

都内在住。コーヒーとサンドイッチが大好きで1日1カフェ生活を送っている。夏の定番はレモネード、冬の定番はホットチョコレート。オシャレやヘルシーという言葉に敏感なミーハー系女子。

>>ライター紹介