【連載小説】死の灰被り姫 第11話

料理バトル「スープ」

kaneshiro金城孝祐
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【連載小説】死の灰被り姫 第1話

【連載小説】死の灰被り姫 第1話

金城孝祐金城孝祐

 「では、続いて二皿め『スープ』料理! はじめ!」

 ・王女 暗黒のスープ にんじん入り

 ・王様 牛テールスープ

 ギャラリー「な……なんだありゃあ~~~~ッ!! 真っ黒いスープだッ!! (ざっざざわざわ!)」
 ギャラリー「ふざけんな! こんなの料理じゃねえ! (ざわほまれ)」
 「す、すごい色だね……」王子もさすがに腰が引けてる。
 だが料理を出した王女本人は、そんな反応をされるのは分かりきっていて、それよりも王様の料理が気になっていた。牛のテールスープだと!? 牛なんて、このあたりで手に入るのか!? 牧場なんてなかったぞ?
 まさか……

 「それでは王子、試食を」大臣が促した。
 王子の手は、自然にテールスープの方に伸びた。牛テールが浮かぶ、澄んだスープをスプーンが掬い、口に運ぶ。
 「おお……これは、なんと透き通った味だ。全く雑味がなく、それでいて肉や骨のエキスが十分に染み出ているようだな。喉を通った後に柔らかい香りだけが残り、暖かい気持ちにさせてくれる。こういうスープを飲んでいると、すごくほっとする。まさに人を安心させる、恋人や母親のような料理だ」
 ギャラリー「決まったな(ざわ)」
 ギャラリー(ざわ)
 ギャラリー「もう帰るか(ざわ)」
 「ギャラリーが帰りそうです!」大臣が慌てた。「王女のスープも飲んでください!」

 「マジかよ……」王子は眉をしかめながら、どす黒いスープをすくった。何か細かい黒いカスみたいなのが浮いているし、見れば見るほど汚い。ドブだ。ドブみたいなスープだ。なんで王子のぼくが、こんなスープに口をつけなきゃいけないのか……
 が、鼻先までもっていって、その気持ちが変わった。そのスープからは、えもいえぬ豊かな香りが沸き立っているのだった。それは今までに体験した事のない種類のものだった。どんな香りとも異なっていた。
 「こ……これは一体……?」
 きょどりはじめた王子を見て、帰りかけていたギャラリーの動きが止まった。
 王子は意を決したように、スープを一口飲んだ。
 「んほあああああああああああああああああああっっ!!」王子は叫んだ。「何だ! この味はあああああああああ!!」
 王子はもうひと掬いして口に運び、またひと掬いして口に運んだ。「う、うまい! うますぎるうううううううん!!」
 「ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ!!」
 「ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ!!」
 「ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ!!」
 王子は浮かんでいた人参をも飲むように食うと、器を持ち上げ、直接口をつけてグビグビと飲み干してしまった。「げはあああああ!! うはああああああ!! いったいこれはなんなんだ! どういう料理なんだ! 王女! 説明してくれえエエエエ!」

 「どうやら、上品な宮廷料理では、このような見た目の悪い料理は出る機会がなかったようですね」王女は微笑んで言った。「この黒い色の正体……それは、『イカスミ』です!!」
 「イカスミ……!!」
 「ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ!!」
 「ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ!!」
 「ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ!!」
 「そうです。一番コクがあるといわれるスルメイカのイカスミを用いて、それにニンニクをすり下ろして混ぜ、こんぶで作っただし汁でスープにしました」王女は言った。
 「この半日の間に近くの海の存在を知り、スルメイカを捕獲し、昆布を採り、ニンニクまで手に入れたというのか!?」大臣が言った。
 「ええ……かなり大変でしたけれどね」王女は言った。

 「うむ、あっぱれだ!」王子は黒くなった唇をゆがめて笑った。「『スープ』勝負、文句なしに、王女の勝ちだ!」
 ギャラリーは沸き立った。
 「王女ちゃん! 信じてたぜー! (ざわざわ)」
 「結婚してくれー! (ざわざわ)」
 「後二勝! (ざざびー)」
 「フン……スープ勝負など、くれてやるわ」王様は言った。「もとよりそのつもり……あなたの絶望を見るためには、もう少し勝負を進めなきゃね」

【連載小説】死の灰被り姫 第12話

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金城孝祐

小説家。「ネオ癒し派宣言 劇団無敵」主宰。油絵も描いてる。

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都内在住。コーヒーとサンドイッチが大好きで1日1カフェ生活を送っている。夏の定番はレモネード、冬の定番はホットチョコレート。オシャレやヘルシーという言葉に敏感なミーハー系女子。

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