【連載小説】死の灰被り姫 第10話
料理バトル「前菜」
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大臣「では、まずは一皿め! 『前菜』!!!」
・王女 わさび菜とイタドリのバルサミコ酢和え
・王様 季節のキノコのソテー クレソンを添えて
「うーむ、王様の料理はキノコとバターの混淆としたいい香りが立っていて、彩りもいい。一方王女のは、見た目がなんとも地味だな。盛りつけも汚い」王子は二つの皿を見比べて唸った。
ギャラリー「どうやら食べる前から勝負がついてるようだな(ざわ)」
「どれどれ……」王子は王様のキノコから先に口に運んだ。
「こ、これは!」王様は目玉をむいた。「う、うまい! ちょうど今の時期が旬のポルチーニの香りを損ねぬままバターと引き立て合っている! マッシュルームもそれに劣らず、キノコらしい豊潤な味と香りだ! そしてともすれば、主張しがちなキノコの味を、クレソンがさっぱりとさせてくれる! すばらしい!」
「なるほど……ポルチーニと言えば普通チーズと合わせるが、さすがに自給でチーズは入手できない事からバターで合わせたということですかな」大臣は言った。「しかし、とはいえバターはどこで……?」
「くっ……」王女は歯がみした。「王子様! 私の料理も食べてみてください!」
「ああ、そうだね、どれどれ……」王子はわさび菜とイタドリをつまんで、口に運び、咀嚼した。
「うっ!」王子は目を瞑り、口を押さえた。「くうっ! こ、これは効く! 辛い!」目に涙を浮かべながら、王子はしばらく悶絶していた。「すごい香りだ。まるで気付け薬だ。わさびの鮮烈な辛みと、イタドリの酸味が鼻に抜けていく。バルサミコの酸っぱさもあいまって……これはどうも……」
ギャラリー「あーあ、王女、さっそく一敗だな(ざわ)」
ギャラリー「もう後がないぜ(ざ)」
「いや……しかし……なんだろうな、これは……」王子はまだ評定を下さなかった。「強い刺激が抜けた後に、甘さがやってくる……。これはいったい?」再び、王子は箸をつけ、口に運んだ。
ギャラリー「二口めいったああああああ! (ざわざわ)」
「くふううううううっ! 辛い! 鼻がやばい! だが、二口めとなると慣れて、そうでもない! それに、さっきより甘さが感じられるようになったぞ。バルサミコ酢だけではこの甘みは出ない。これは……」
「そうです」王女は言った。「テンサイ糖です」
ギャラリー「甜菜糖!? ざわー」
大臣「そうか! 強い刺激で一度味覚を麻痺させ、分子量の大きい甘い砂糖を隠し味にする事で、甘みが尾を引き、いっそう引き立つようにしたのか! それも使ったのは甜菜糖! ミネラルが多く、味が複雑だ! 単一的な甘ったるさでなく、包み込むような暖かい甘み! この選択は完璧!」
「うーむ、よく出来た料理だ」王子は言った。「しかし……これはちょっと、お酒を飲む人向けのものだね」
「なっ……!」王女は真っ青になった。
「酒のつまみとしては非常に優秀だと思うよ。でも僕は、まだお酒はあまり飲まないからなあ」
「(しまった……! 王子を満足させるための料理勝負というのがことの根幹にあるのだった! 私、いじわる継母のために酒の肴ばっかり作らされていたんだ……あのアル中め!!)」
「では王子、ご判定をば」大臣が言った。
「うむ」王子は、キノコソテーを指した。「この勝負、ぼくは王様に軍牌を上げる!」
ギャラリーは沸き立った。
「うおおーーーーー! マジで負けちゃったよ王女ちゃん! どうすんだよ! (ざわー)」
「王女ちゃん、振られたらオレと結婚して! (ザワークラフト)」
王様は王女を見下すように目線をやった。王女は拳を握りしめ、地に目を落とした。
「(大丈夫だ……こんなのは前菜だけ……あとはたぶん、若い王子にも受けるはずの料理なんだ)」
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この記事のライター
小説家。「ネオ癒し派宣言 劇団無敵」主宰。油絵も描いてる。