【連載小説】死の灰被り姫 第8話
王女と王様の、王子を賭けた戦いが今、始まる!
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「私の存在を忘れて、結婚話ですか!?」王女は義足でぴょんぴょん跳ねた。
「王女! 生きていたのか!」王子はガラスで全身切り傷まみれ、血まみれの王女に恐れおののきながら言った。
「王子様! 昨日、ちゃっかり私の唇を奪ったわね……」そう言って、王女はガラスで切れて血を吹き出している唇をなめた。「責任とって、全部奪って! 私の肉体、私の魂、私の生、私の理由も原因も、今ここに立っている、私の世界!!」
「わ、わかったよ……」王子は気迫負けし、しどろもどろに言った。
「ひどい!」王様は泣き崩れた。「私、とっても勇気出してカミングアウトしたのに! 胸まで晒したのに! もっと服をずりおろさないとあなたの心は動かないっていうの? この助平! ひとでなし!」
「い、いえ! いいもの見させていただきました!」王子は言った。
「ちょっとぉ、王子、なに他の女に気を使ってるの? あなたは私の旦那なのよ?」王女が王子の腕を抱き寄せる。王子の高そうな衣服が血でべちゃべちゃになる。
「待て! 待ってくれ王女! この人は、君の義理の父、いや母になる可能性もあるから!」王子は言う。
「父になる可能性だと! そんな可能性は皆無だと教えてやる!」王様はパンティを脱いだ。「やめろ!」王子はアッパー気味にパンティをずりあげる。
「こうなっては埒があきませんな」大臣は言った。「ここはひとつ、どちらが王妃に相応しいか、二人を競わせたらどうでしょうか?」
騒がしかった室内が静まった。
「私は先代の王の頃からこの城を切り盛りしている大臣です。大臣はオレだ! だから私が決めます! 二人は課題に従って、競い合う事! その勝者こそが、王子を勝ち取るのです!」
王子は自分の人生を勝手に、しかも勝負事で決める事にさせられて内心穏やかではなかったが、そうとなったのも自分で決断できず混乱を招いてしまったからに他ならないのは明白な事実だった。だから王子はただ、大臣の言う事を黙って聞いていた。女二人もそうだった。水掛け論を続けるより、勝敗を求めていた。
「では、勝負の内容! 今日の夕食までに、ディナーを作る事! キッチンと調味料は城のものを使って結構! ただし食材は、自力で調達! つまり、何を採ってきて、何を作るか! そしておいしく作れるか! もちろん、料理の優劣の判定は、王子!!」
「料理勝負……!!」王様に電撃が走った。
「自力調達……!!」王女に電撃が走った。
「ディナー……!!」牛に電撃が走った。
「終了時間は午後五時五十分! 六時に王子がすぐ食事できるように! さあ、始め!」大臣はホイッスルを吹いた。
「ふーむ……まずはこの辺で取れそうなものと、レシピのあたりを付けなきゃね」王様は言った。
「こう言うのは出たとこ勝負よ! 負けないからね!」王女は義足でぴょんぴょん跳ねながら飛び出していった。
王様はニヤリ、と不敵な笑みを浮かべた。
「(まったく名案だわ、大臣……)」
「(もちろんでございます……)」
「(この城の周りの風土、城で調理可能な味、王子の好み……一方的に把握しているのは、この私!)」
「(はい……王様が王子とのご結婚に本気となったのであれば、この私、応援しないわけがございません)」
「(フフ……あなたにも食べさせてあげるから、期待しててね……)」
「(お気をつけて……)」
一足先に城の外に出た王女は、まずは前菜に使う野草を探していた。ノビル、オオバコなどが生えている。
「うーん……これで王子に舌鼓を打たせる事ができるのかな……」思索に暮れる王女のその横をのしのし歩き、ノビルとオオバコをむしゃむしゃ食べる牛。
「なにするんだよおおおおお!」
「なにって食事よ。体力を付けとかないと料理は出来ないからね」
「なぜ、料理の事を!?」
「話は全て聞いた。私も飛び入り参加する。王妃になるのは、この私だ!」
「狂牛病にかかったか! 牛を妻にする王子などいるか!」
「ふん、時差負け惜しみだな。あとでほえ面かくなよー」牛はのしのし歩いていく。
王女は苛立ち、じたんだを踏んだ。くそ牛め。死ねばいい。私を城まで運んできてくれた奴はもう死んだ。あいつは変わってしまった。何かの拍子に、へんになっちゃったんだ。もういい、牛の事なんて考えるのはよそう。
気分を静めるために、王女はこんどは城から釣り竿を借りて、堀で釣りをした。ヤマメが2匹釣れた。気づくともう、夕暮れになっていた。
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この記事のライター
小説家。「ネオ癒し派宣言 劇団無敵」主宰。油絵も描いてる。